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ウクライナ危機を生んだのは誰か?PartⅡ2000-2008 台湾有事を招くNEDの正体を知るために
プーチン大統領にすり寄ったブッシュ大統領(写真:ロイター/アフロ)
プーチン大統領にすり寄ったブッシュ大統領(写真:ロイター/アフロ)

アメリカの軍産複合体を支えるネオコン(新保守主義)指導下で1983年に設立された全米民主主義基金NED(第二のCIA)は、プーチン政権になるとロシア経済が息を吹き返したため、プーチン政権を潰すべく旧ソ連圏諸国におけるカラー革命を加速し始めた。カラー革命は「現政権の選挙不正を口実にして民衆を焚きつける手法」で共通している。その中の一つにウクライナのオレンジ革命がある。

この手法は10月4日のコラム<ウクライナ危機を生んだのは誰か? 露ウに民主化運動を仕掛け続けた全米民主主義基金NED PartⅠ>に書いたブレジンスキー(ソ連崩壊・東欧革命の黒幕)の著書“The Grand Chessboard”の指南によるものだ。その指南は旧ソ連との約束を破らせ、NATOの東方拡大を一層強化させている。

一方、2001年9月11日にアメリカで「9・11」同時多発テロ事件が起きると、当時のブッシュ大統領はチェチェン共和国独立派武装勢力によるテロと戦っていたプーチンに歩み寄り、プーチンもテロ撲滅に関して対米協調を重んじたので、アメリカはブッシュ政権時代、ロシアに対してダブルスタンダードを採っている。

ブッシュ政権は中国の江沢民政権にも歩み寄って、中国のウイグル自治区におけるテロ事件に対する江沢民の姿勢に協調。中露に近づいた目的はアフガンとイラクへの侵攻を黙認させるためだったが、結果、中露ともに経済だけでなく軍事力も成長したので、ユーラシア大陸におけるアメリカの地位を脅かすようになった。

ブレジンスキーは2007年に“Second Choice”(和訳『ブッシュが壊したアメリカ』、2008年)という本まで書いて中露経済を成長させてしまったブッシュ政権を厳しく批判しているが、ブレジンスキーの操り人形だったクリントン政権時代(1993年1月20日-2001年1月20日)に盛んになったNEDの活動は衰えておらず、台湾や香港における民主化デモへの支援は強化されていった。

 

◆ロシア経済と軍事力を成長させたプーチン大統領

10月4日のコラム<ウクライナ危機を生んだのは誰か? 露ウに民主化運動を仕掛け続けた全米民主主義基金NED PartⅠ>の図表3の続きを、本コラムの図表1として以下に示す。最終行にあるMAP計画とはMembership Action Plan(NATO加盟行動計画)の頭文字を取ったものである。

 

図表1:ロシアとウクライナおよび関係諸国の政治外交情勢時系列

        筆者作成

 

2000年5月に大統領に就任したプーチンは、すぐさま崩壊寸前のロシア経済を立て直すための作業に着手した。

まずロシアの国家資源資産のほとんどを私有化し、巨万の富を蓄えて政治介入するだけでなく金融もメディアをも私物化してしまったオリガルヒ(新興財閥)を、一つ一つ片付けていった。

なぜそれができたかと言うと、実はブレジンスキーの戦略に沿ってロシアを崩壊させようとしていたNEDやその他のアメリカ管轄下にあった国際組織は、エリツィン時代に一つだけやり残していたことがあったからである。

それは「司法」系列だ。

ソ連時代の諜報機関KGB出身のプーチンは、司法を動かすことに長けていた。大統領に就任するとすぐに(1ヵ月後の6月に)、ロシア検察当局にオリガルヒの一人でメディア王と呼ばれていたグシンスキーを逮捕させ、プーチンは「オリガルヒの政治介入を容認しない」と宣告した。

メディアから手を付けたというのは、さすがKGBの出身だ。

2003年10月にはロシア最大の民営石油会社ユコスの社長でオリガルヒの一人であるホドルコフスキーを逮捕するなど、ロシア経済を衰亡へと導いたオリガルヒに容赦なかった。と同時に2001年1月には税制改革を行い、法人税と所得税を引き下げるなどして中堅層民間企業の設立を促し、外資投資をしやすい環境も作り出した。そのための外交が凄まじい。

それらを全て書くのは至難の業なので、中国、アメリカ、日本及び「ロシア・ウクライナ間」外交だけを抜き出して、主たる訪問を図表1に青字で示した(手作業なので拾い漏れがあった場合は、どうかお許しいただきたい)。

こうして各国からの投資が増え、ロシア経済は急激に成長し始めた。

同時に軍事力も強化したのは言うまでもない。何と言ってもエリツィン時代にロシア連邦政府の軍事力は、その構成主体の一つであるチェチェンの軍事力に劣るほど、目も当てられない状況まで弱体化していた。だから経済を復活させることによって、何としても軍事力を高める逼迫した事情がプーチンにはあったものと推測される。

それらを示したのが図表2である。

 

図表2:ロシアのGDPと外資投入推移および軍事費推移

IMF、World Bank、SIPRI(ストックホルム国際平和研究所)のデータに基づき筆者作成

IMF、World Bank、SIPRI(ストックホルム国際平和研究所)のデータに基づき筆者作成


 

◆アフガン戦争とイラク戦争のためプーチンにすり寄ったブッシュ大統領

プーチンは1999年8月に首相に任命されたが、ほぼ同時に、首都モスクワなどロシア国内3都市で「ロシア高層アパート連続爆破事件」が発生し、計300人近い死者を出した。

2001年3月になると、チェチェン武装勢力のテロ事件が頻発したため、プーチンはチェチェンの独立派武装勢力を「テロ勢力」とみなし、徹底したテロ取り締まり作戦に出ていた。事実、2000年1月には、アフガニスタンのタリバン政権とチェチェン・イチケリア共和国(チェチェン分離独立派による国際的に未承認の国家または武装勢力)は互いに主権独立国家として相互承認し合い、チェチェン武装勢力はタリバンと提携して過激なテロ行為をエスカレートさせていた。

だからアメリカで「9・11」同時多発テロが起きると、チェチェン武装勢力のテロ行為がタリバンなど他のイスラム武装勢力と連携しながら一層悪化していったので、プーチンはチェチェン武装勢力に72時間以内の投降を呼びかけ厳戒態勢に入った。

10月になるとブッシュ大統領がチェチェンの大統領に「タリバンと断交し、ロシア連邦政府との平和交渉」を要請した。こうしてアメリカは「ロシアを潰そう」とする対露政策を緩和し、相互訪問が盛んになり、ロシア経済を成長させる要因を形成した。

その背景にはブッシュ政権の思惑があり、ブッシュは「9・11」事件後ただちにアフガニスタンへの軍事侵攻を始めている。理由はアフガニスタンのタリバン政府が、「9・11」同時多発テロの主犯とアメリカが見ているオサマ・ビンラディンを庇護しているということだった。タリバン政府はオサマ・ビンラディンが犯人である証拠を出せと主張し、もしそれが正しければビンラディンを第三国に渡すと言ったが、ブッシュはその申し出を拒否し、「不朽の自由作戦」というカッコいい名前を付けてアフガン攻撃を始めた。

2003年にはイラクに大量破壊兵器があるという偽情報に基づいてイラク攻撃を開始。これらの行動をプーチンに批判してほしくなかったのである。そのためにプーチンに迎合したのである。

テロを撲滅させる行動をアメリカが肯定してくれたことになり、プーチンは喜んでブッシュのアプローチを歓迎した。

 

◆江沢民にもすり寄ったブッシュ大統領

2021年4月30日のコラム<米中「悪魔の契約」――ウイグル人権問題>に書いたように、ブッシュ大統領は2001年当時の江沢民国家主席にもすり寄り、ウイグルにおける人権弾圧問題を「テロ撲滅のための運動」と位置付けている江沢民の行動を是認し、その代わりにブッシュ政権によるアフガン侵攻とイラク攻撃を、黙認するという「悪魔の契約」を結んだ。

それは中国経済を押し上げる要因の一つとなり、結果、中国経済はGDPにおいて2010年には日本を抜いて世界第二位にのし上がった。ロシアとの対比をするために、2008年までの中国の「GDPと外資投入の推移」および軍事費の推移を、ロシア同様に並べて図表3に示す。

 

図表3:中国のGDPと外資投入推移および軍事費推移

IMF、中国外資統計公報、SIPRI(ストックホルム国際平和研究所)のデータに基づき、筆者作成

IMF、中国外資統計公報、SIPRI(ストックホルム国際平和研究所)のデータに基づき、筆者作成


 

ブッシュは江沢民に、中国がWTO(世界貿易機関)に加盟することができたことを祝い、アメリカはサポートしたと恩を着せた。

 

◆怒るブレジンスキー:それでも暗躍するNEDがウクライナでオレンジ革命

このような事態を生んだブッシュ政権を、ブレジンスキーは怒りを込めて強く批判している。冒頭に書いた“Second Choice”という原著の和訳名が『ブッシュが壊したアメリカ』というタイトルで出版されたのは、翻訳者および出版社が、ブレジンスキーの怒りを受け止めて『ブッシュが壊したアメリカ』としたものと思う。

要は、ブレジンスキーの「ユーラシア大陸を制する者が世界を制する」という戦略は、ブッシュによって破壊され、ユーラシア大陸で中露を強くさせてしまったことによって、「アメリカの時代は終わった」と激怒しているのである。

それでも10月4日のコラム<ウクライナ危機を生んだのは誰か? 露ウに民主化運動を仕掛け続けた全米民主主義基金NED PartⅠ>に書いたブレジンスキーの「ロシア潰し」戦略は粘り強く暗躍を続け、本コラムの図表1「ウクライナ&関連周辺諸国」欄に赤色で示したように、旧ソ連圏諸国から囲い込むようにカラー革命を起こしては親露の現政権を転覆させ、ウクライナでは2004年11月にオレンジ革命を起こすことに成功している。

ウクライナの親露派のクチマ大統領に代わって、同じく親露派のヤヌコーヴィチ氏が大統領に当選すると、「選挙に不正があった」として民衆を焚きつけ、選挙のやり直しをさせることに成功した。

その結果、欧米寄りのユシチェンコ氏が大統領に当選するのだが、出口調査から開票、報道、民意調査すべてをNEDが支援する団体に行わせているので、「どちらが不正選挙か」と言いたくなるほどだ。

そればかりではない。

プーチンが何度も強く抗議してきた旧ソ連圏諸国のNATO加盟が、2004年3月「ブルガリア、エストニア、ラトビア、リトアニア、ルーマニア、スロバキア、スロベニア」7ヵ国において実現している。ブレジンスキーのNATOの東方拡大を通してロシアを崩壊させる作戦は、ブッシュ政権においても着実に進んでいたことになる。

しかし、強大化した中露がユーラシア大陸に陣取っている状況をアメリカが生んでしまったことは、アメリカが自らの首を絞めた事実として、後戻りはできない状況が出現していた。

残るは「ウクライナ」だ!

そのためにブレジンスキーは自分の操り人形として動けそうなバラク・オバマに白羽の矢を当て、オバマを大統領にすることに全力を投入するようになる。そのウクライナで大活躍したのが当時のバイデン副大統領だった。息子のハンター・バイデンのエネルギー利権までが絡んでいるのだから凄い。

一方、図表1の青文字で書いたプーチンのウクライナ訪問の回数をご覧いただきたい。プーチンは何としても「会話によって問題を解決する」方向に向かって努力していた形跡が窺えるだろう。プーチンは2013年までに21回もウクライナを訪問している

それでもプーチンの強い願いを無視して、アメリカは「NATOの軍事管轄を1インチたりとも東方に拡大しない」というソ連崩壊前の約束を破り、NATOの東方拡大は進むばかりだ。

ウクライナ戦争はしかし、中露の結びつきをこの上なく強化させ、ブレジンスキーの「ユーラシア制覇」の夢は潰えたと言っていいだろう。

今となっては、残るは「台湾」だ――!

台湾有事を起こす以外にアメリカがユーラシア大陸に食い込む道は、もうない。

それを描いたのが『習近平が狙う「米一極から多極化へ」 台湾有事を創り出すのはCIAだ!』である。本当は「台湾有事を創り出すのはNEDだ!」と書きたかったのだが、NEDの知名度が低いので、NEDの別称「第二のCIA」という意味でCIAを用いた次第だ。

 

この論考はYahooから転載しました。

1941年中国生まれ。中国革命戦を経験し1953年に日本帰国。「中国問題グローバル研究所」所長。筑波大学名誉教授、理学博士。中国社会科学院社会学研究所客員研究員・教授などを歴任。日本文藝家協会会員。著書に『習近平が狙う「米一極から多極化へ」 台湾有事を創り出すのはCIAだ!』(ビジネス社)、『習近平三期目の狙いと新チャイナ・セブン』(PHP新書)、『もうひとつのジェノサイド 長春の惨劇「チャーズ」』(実業之日本社)、『ウクライナ戦争における中国の対ロシア戦略 世界はどう変わるのか』(PHP)、『裏切りと陰謀の中国共産党建党100年秘史 習近平 父を破滅させた鄧小平への復讐』(ビジネス社)、『ポストコロナの米中覇権とデジタル人民元』(遠藤 誉 (著), 白井 一成 (著), 中国問題グローバル研究所 (編集)、実業之日本社)、『米中貿易戦争の裏側 東アジアの地殻変動を読み解く』(毎日新聞出版)、『「中国製造2025」の衝撃 習近平はいま何を目論んでいるのか』、『毛沢東 日本軍と共謀した男』(中文版・韓国語版もあり)、『チャイナ・セブン <紅い皇帝>習近平』、『チャイナ・ナイン 中国を動かす9人の男たち』、『ネット大国中国 言論をめぐる攻防』、『中国動漫新人類 日本のアニメと漫画が中国を動かす』『中国がシリコンバレーとつながるとき』など多数。2024年6月初旬に『嗤(わら)う習近平の白い牙』(ビジネス社)を出版予定。 // Born in 1941 in China. After surviving the Chinese Revolutionary War, she moved to Japan in 1953. Director of Global Research Institute on Chinese Issues, Professor Emeritus at the University of Tsukuba, Doctor of Science. Member of the Japan Writers Association. She successively fulfilled the posts of guest researcher and professor at the Institute of Sociology, Chinese Academy of Social Sciences. Her publications include “Inside US-China Trade War” (Mainichi Shimbun Publishing), “’Chugoku Seizo 2025’ no Shogeki, Shukinpei ha Ima Nani o Mokurondeirunoka (Impact of “Made in China 2025” What is Xi Jinping aiming at Now?), “Motakuto Nihongun to Kyoboshita Otoko (Mao Zedong: The Man Who Conspired with the Japanese Army),” “Japanese Girl at the Siege of Changchun (including Chinese versions),” “Net Taikoku Chugogu, Genron o Meguru Koubou (Net Superpower China: Battle over Speech),” “Chugoku Doman Shinjinrui: Nihon no Anime to Manga ga Chugoku o Ugokasu (The New Breed of Chinese “Dongman”: Japanese Cartoons and Comics Animate China),” “Chugogu ga Shirikonbare to Tsunagarutoki (When China Gets Connected with Silicon Valley),” and many other books.

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