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米中「悪魔の契約」――ウイグル人権問題
2021年4月30日
東トルキスタンを象徴する旗(写真:ロイター/アフロ)
東トルキスタンを象徴する旗(写真:ロイター/アフロ)

中国が堂々とウイグル人弾圧を強化できたのは、2002年にアメリカが中国にイラク制裁を認めさせる代わりに、ウイグル人を弾圧するための東トルキスタン・イスラム組織の存在をアメリカに認めさせるという契約を交わしたからだ。

◆「9・11事件」で接近した米中

2001年9月11日にニューヨークで同時多発テロ事件(9・11事件)が発生すると、紆余曲折を経ながらアメリカはテロ事件の首謀組織であるアルカイダとイラク政府がつながっているとみなすようになった。アメリカのブッシュ大統領は2002年初頭の一般教書演説で「イラク、イラン、北朝鮮」を「悪の枢軸国」と定義して「大量破壊兵器を保有するテロ支援国家」であると非難している。

特にイラクに関しては早期攻撃を求める開戦支持派の声が大きくなり、ブッシュ大統領はイラク戦争開戦への準備を始めた。

中国との関連のみに目を移せば、当時の国家主席(&中共中央総書記&中央軍事員会主席)だった江沢民は、中国国内におけるさまざまな抗議活動を抑え込む目的からも、「9・11事件」に同情を示し、「反テロ」姿勢を明確にした。

2001年10月19日(「9・11事件」の翌月)、江沢民は上海で開催されたASEAN首脳会談においてブッシュと会談し、二人は「反テロ」などに関して「建設的な協力関係の発展」を約束した

ブッシュはこの会談で、概ね以下のように述べている。

――私はずっと江沢民主席と会えるのを楽しみにしていました。アメリカは中国との関係を非常に重視しています。中国は偉大な国家です。中国はアメリカの敵ではなく、アメリカの友人だと位置づけています。私は中国がWTOに加盟することを強烈に支持してきました。私は中国が「9・11事件」に対して迅速に反応し、鮮明にアメリカの「反テロ」を支持して下さったことと、中国が「反テロ」においてアメリカと協力すると表明してくれたことに心から感謝しています。

◆アメリカがイラク戦争を起こすために中国と交わした交換条件

これを皮切りに、米中両国は妖しいまでに接近し始める。

先ず2002年2月21日、ブッシュは北京を訪問し、人民大会堂で江沢民と会談した

江沢民はブッシュに熱烈な歓迎を表し「4ヵ月前に会ったばっかりですが、あれからの4ヵ月間、米中は各方面において、実に目覚ましい友好的な関係と発展を遂げてきた」と述べた。

それに対してブッシュは心からの謝意を表するとした上で、「中国人民が9・11事件後、アメリカ国民に慰問の意を表し、反テロ闘争を支持してくれていることに、もう一度感謝の意を表したい」と返した。両者は「米中両国が中長期的に反テロ交流と協力機構を充実させていくこと」に合意した。

何よりも注目したいのは2002年8月26日に、当時のアーミテージ国務副長官が訪中し中国と交換条件を約束したことだ

この記事によると、アーミテージは当時の国家副主席・胡錦涛、国務院副総理・銭其琛、外交部長・唐家セン、外交副部長・李肇星、中国人民解放軍副総参謀長・熊光楷、駐米大使・楊潔チ等、非常に幅広い人たちと会っている。特筆すべきは、唐家センがアーミテージとの対談で、以下のように言っていることである。

――中国は、アメリカが「東トルキスタン・イスラム運動」という組織を「テロ組織」のリストに加えると決定したことを高く評価します。米中双方が、互いに互恵的にテロ対策に関する協力を強化することを希望しています。

すなわち、アメリカがイラク制裁を断行することに中国が反対しないならば、アメリカは中国が「新疆ウイグル自治区におけるウイグル人の抗議活動を、東トルキスタン・イスラム運動を組織するテロ組織とみなすこと」を認め、「テロ組織のリスト」に加えると約束したことになる。

これを私は米中「悪魔の契約」と名付けたい。

なぜなら中国は「アメリカの承認」を得て、その後は堂々と「反テロ政策」の名の下にウイグル人の人権弾圧を強化する行動に出ることができるようになったからである。

◆中国のアメリカへの返礼――イラクに対する国連安保理決議を支持

2002年10月25日、今度は江沢民が訪米し、テキサス州クロフォードにあるブッシュの自宅で会談した。1年以内に3回も米中首脳会談が行われるというのは異例の事態だ。両者ともそのことに言及して高揚し、「双方向性の互利互恵の精神に基づいて、反テロ交流と協力を強化していこう」ということで一致した。この時「人権や宗教」の問題に関しても討議し、互いに助け合っていこうとしたことは注目に値する。

決定的だったのは、国連安保理におけるイラクの完全な武装解除要求などを中心とした制裁決議に関してブッシュが中国に協力を求め、江沢民がそれを承諾したことである。アメリカが欲しいのは、そのことだった。

その2週間ほどあとの2002年11月8日、国連安保理は中国を含む全会一致でイラクへの制裁を決議させた(1441号決議)。この審議過程と決議内容は、ここで確認することができる。

これによりアメリカはイラク戦争へと突入する大義名分を得、中国はウイグル人弾圧のお墨付きをアメリカから得たことになる。

中国としては、中国政府にとって危険だと思われるウイグル人を「テロ民族」として殺害する正当性を得て、弾圧はますますエスカレートしていくのである。

◆ウイグル人への弾圧は中国建国から続いている

今ではまるで、習近平政権になってから急にウイグル人への弾圧が強化されるようになったかのごとく認識され報道されているが、とんでもない話だ。

中国は建国以来、途絶えることなくウイグル人への武力弾圧を続けてきた。

拙著『習近平 父を破滅させた鄧小平への復讐』に詳述したが、建国当初、王震(1908年‐1993年)がウイグル人を武力により大量虐殺したことで有名で、それに反対したのは習近平の父・習仲勲(1913年- 2002年)だった。少数民族地域に囲まれた陝西省生まれの習仲勲は、少数民族を愛し、死ぬまで少数民族との融和策を信念として主張し続けた。

その父の理念に背いて習近平が少数民族弾圧をしているのは、中国共産党という一党支配体制を維持するには少数民族弾圧が不可欠であることを示している。そのことを認識しなければならない。これは「中国共産党建党100年秘史」を深く正確に考察して、初めて出てくる回答である。

その考察を深めなければ、現在の「強制収容所」などによるウイグル人への弾圧が習近平政権の特異な状況のように誤解して、習近平が下野して他のトップに入れ替わればウイグル人への弾圧がなくなるのではないかという誤解を招く危険性がある。

中国は建国当初から一貫して少数民族、特にウイグル人への弾圧を行っており、今日に至るも、それを緩めたことはない。

中国政府の規定に従えば、ここで「ウイグル人」と書くこと自体、私が中国に入れば逮捕されるかもしれない話で、本来ならば、「ウイグル族」と書かなければならない。

しかし人権弾圧とウイグル地区への侵略をしてきたことに対して抗議運動を続けている「ウイグル人」の名誉と尊厳のために、ここでは敢えて「ウイグル人」という言葉を用いている。

ウイグル人たちは中国がウイグル(東トルキスタン共和国)に「侵略」して、軍事力により「自治区」に組み込んだのであって、ウイグル人問題は「中国の内政問題」ではなく、「中国による侵略問題」だと主張している。

◆アメリカが「東トルキスタン・イスラム運動」組織をテロリストから削除

2020年11月6日、トランプ政権は中国がウイグル人への弾圧を正当化してきた「東トルキスタン・イスラム運動」組織の存在を否定すると発表した。「そのような組織が存続している確証が10年以上前から得られていないからだ」というのがその理由。

これに関して長年取材に応じてくれている日本ウイグル連盟会長のトゥール・ムハメットさん(日本在住)は「そもそも東トルキスタン・イスラム運動などという組織は存在していません。中国がウイグル人弾圧を正当化するために創り出した架空の組織に過ぎません。それを2002年にアメリカが利用しただけなのです」と断言する。

ポンペオ前国務長官は、2021年1月19日、現役最後の日に「中国政府による新疆ウイグル自治区のウイグル族ら少数派の迫害は、ジェノサイド(集団虐殺)である」という声明を発表した。翌日に正式に誕生したバイデン政権への置き土産の一つとみなすことができる。

そこには恐るべき執念を覚える。これによりバイデン政権を呪縛し、そこから逸脱したらアメリカ国民の「民意の鉄拳」が下ると宣言しているかのようだ。

2021年4月29日(日本時間)、大統領就任100日目の演説でバイデンは施政方針演説を行い、習近平を「専制主義者」と呼び、「民主主義の優位を示して中国との競争に勝つ」との決意を示した。その本気度を祈りたい。

と同時に、中国がもし民主主義国家をその支配下に置いた時に、どのようなことが起きるかを、ウイグル人弾圧が示していることに注目したい。

(本論はYahooニュース個人からの転載である)

1941年中国生まれ。中国革命戦を経験し1953年に日本帰国。「中国問題グローバル研究所」所長。筑波大学名誉教授、理学博士。中国社会科学院社会学研究所客員研究員・教授、北京大学アジア・アフリカ研究所特約研究員、上海交通大学客員教授などを歴任。著書に『裏切りと陰謀の中国共産党建党100年秘史 習近平 父を破滅させた鄧小平への復讐』(ビジネス社)、『ポストコロナの米中覇権とデジタル人民元』(遠藤 誉 (著), 白井 一成 (著), 中国問題グローバル研究所 (編集)、実業之日本社)、『激突!遠藤vs田原 日中と習近平国賓』(遠藤誉・田原総一朗 1月末出版、実業之日本社)、『米中貿易戦争の裏側 東アジアの地殻変動を読み解く』(毎日新聞出版)、『「中国製造2025」の衝撃 習近平はいま何を目論んでいるのか』、『毛沢東 日本軍と共謀した男』(中文版・韓国語版もあり)、『チャイナ・セブン <紅い皇帝>習近平』、『卡子(チャーズ) 中国建国の残火』(中文版・英文版もあり)、『チャイナ・ジャッジ 毛沢東になれなかった男』、『チャイナ・ナイン 中国を動かす9人の男たち』、『ネット大国中国 言論をめぐる攻防』、『中国動漫新人類 日本のアニメと漫画が中国を動かす』『中国がシリコンバレーとつながるとき』など多数。 // Born in 1941 in China. After surviving the Chinese Revolutionary War, she moved to Japan in 1953. Director of Chinese Issue Global Research Institute, Professor Emeritus, Doctor of Science at the University of Tsukuba. Member of the Japan Writers Association. She successively fulfilled the posts of guest researcher and professor at the Chinese Academy of Social Sciences. Her publications include “Inside US-China Trade War” (Mainichi Shimbun Publishing), “’Chugoku Seizo 2025’ no Shogeki, Shukinpei ha Ima Nani o Mokurondeirunoka (Impact of “Made in China 2025” What is Xi Jinping aiming at Now?), “Motakuto Nihongun to Kyoboshita Otoko (Mao Zedong: The Man Who Conspired with the Japanese Army),” “Chazu Chugoku Kenkoku no Zanka (Japanese Girl at the Siege of Changchun) (including Chinese and English versions),” “Net Taikoku Chugogu, Genron o Meguru Koubou (Net Superpower China: Battle over Speech),” “Chaina jajji — Motakuto ni narenakatta otoko (China Judge: The Man Who Couldn’t Become Mao Zedong),” “Chugoku Doman Shinjinrui: Nihon no Anime to Manga ga Chugoku o Ugokasu (The New Breed of Chinese “Dongman”: Japanese Cartoons and Comics Animate China),” “Chugogu ga Shirikonbare to Tsunagarutoki (When China Gets Connected with Silicon Valley),” and many other books.

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