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習近平が狙う「米一極から多極化へ」の実現に一歩近づいたBRICS加盟国拡大
2023年BRICS首脳会議(写真:代表撮影/ロイター/アフロ)
2023年BRICS首脳会議(写真:代表撮影/ロイター/アフロ)

8月24日、南アフリカで開催されたBRICS(5ヵ国)首脳会議最終日で、新たに6ヵ国が正式メンバー国として加盟することが決議された。習近平が狙う「米一極から多極化へ」の地殻変動が、実現に向けて一歩深まったことになる。

 

◆6カ国が新加盟したBRICSと習近平の多極化構想の相関図

8月22日から24日にかけて南アフリカのヨハネスブルグでBRICS5ヵ国の首脳会談が開催された。BRICSはブラジル(Brazil)、ロシア( Russia)、インド(India)、中国(China)、南アフリカ(South Africa)の頭文字を取ったものだ。

中国の習近平国家主席は、習近平政権が始まってから間もなく、「BRICSプラス」を唱え、BRICS加盟国を拡大していくべきだと主張していた。

その願いが今年のBRICS首脳会議でようやく正式に決議され、申請した20ヵ国(以上)の国の中から、「アルゼンチン、エジプト、エチオピア、イラン、サウジアラビア、アラブ首長国連邦(UAE)」の6ヵ国が正式メンバー国になることが承認された。来年の1月から発効される。

拙著『習近平が狙う「米一極から多極化へ」 台湾有事を創り出すのはCIAだ!』の【第二章 中国が招いた中東和平外交が地殻変動を起こす】のp.80-p.81に掲載した図表2-5を基本にして、習近平が描く「グローバル・サウスを巻き込んだ地殻変動」の相関図に、今般の新規加盟国を加えて作図すると、以下のようになる。

 

図表1:新BRICS加盟国を入れた「OPECプラス+上海協力機構+BRICS」相関図

『習近平が狙う「米一極から多極化へ」』の図表2-5を基に筆者作成

『習近平が狙う「米一極から多極化へ」』の図表2-5を基に筆者作成


 

今年3月10日、習近平が三期目の国家主席に当選したその日に、サウジアラビアとイランとの間の奇跡的な和解が中国の仲介により北京で発表され、それからというもの、まるで雪崩現象のように中東諸国が和解に向かって突き進んだ。その原因と経過と習近平が描く未来図を詳述したのが、前掲の『習近平が狙う「米一極から多極化へ」 台湾有事を創り出すのはCIAだ!』の第二章だ。

OPEC(石油輸出国機構)を率いているのは中東の盟主であるようなサウジアラビアで、習近平はサウジアラビアのムハンマド皇太子と仲がいい。その分だけムハンマドはアメリカのバイデン大統領とは仲が悪く、石油を増産してくれと頼みに行ったバイデンを邪険に扱い、逆に減産をしてロシアを助けている。

OPECプラスには、そのロシアが入っており、中国はロシアと共に上海協力機構でもBRICSでも牽引役を果たしているので、そこにOPEC系列の中東が入るだけでなく、BRICSにまで加盟したいと積極的に手を挙げてくるのだから、拙著で考察した通り、習近平が仕掛けた「サウジアラビア・イラン」仲介は、まさに雪崩を打って「非米陣営における地殻変動」をもたらそうとしているのである。

上海協力機構だけでも全人類の人口の約半分を占めるが、BRICSの方もほぼ全人類の半分を占めており(図表3を参照)、人口比でグローバル・サウスを含めた人類約85%の「非米陣営」を「多極化」へと導こうとしているのが、習近平の戦略だ。

上海協力機構同様、BRICSも相手国の内政干渉をしないという価値観の対等化を基本としているので、集まりやすい。

中東がアメリカから離れた最大の理由は、「米陣営」は「アメリカ流民主主義の価値観」を強要してくるからであり、NED(全米民主主義基金)がかつて仕掛けてきた「アラブの春」などのカラー革命がもたらした混乱と紛争に、二度と巻き込まれたくないという強い思いがあるからだ。

 

◆脱米ドル傾向

それは米ドル覇権からの脱却傾向をも招いており、図表2に示した国々が「脱米ドル現象」を起こしている。図表2は、『習近平が狙う「米一極から多極化へ」 台湾有事を創り出すのはCIAだ!』の第二章の図表2‐4(p.75)を基本としながら、本の執筆を終えた5月17日以降の情報(7月15日や7月25日情報)を加筆し、さらに新BRICS=現時点のBRICSプラス(5ヵ国+6ヵ国)の何れかと関係する国の欄を黄色で示した。

 

図表2:新BRICS諸国と脱米ドル現象(黄色が新BRICS関連)

『習近平が狙う「米一極から多極化へ」』の図表2‐4を基に筆者作成

『習近平が狙う「米一極から多極化へ」』の図表2‐4を基に筆者作成


 

脱米ドルの勢いが止まらないのは、ウクライナ戦争によりアメリカがロシアに対してSWIFTが使えなくなるような「米ドル制裁」をしているからだ。ひとり「制裁外交」が許されるとして一極覇権を持続させるアメリカが、自分が気に入らない国に対しては、その制裁を「米ドル」にまで及ぶ手段を選ぶという事実は、「非米陣営」にとっては大きな恐怖で、できるだけ米ドルで決済しなくても済むような経済圏を構築したいと警戒するようになった。

貿易における米ドル覇権を非常に嫌っているブラジルのルーラ大統領などは、今年4月14日に訪中して習近平と会談した際、BRICS諸国内で通用する、米ドルに代わるBRICS通貨の導入を提案したほどだ。今般のBRICS首脳会議でも脱米ドルに関する話し合いはなされたが、しかしBRICS通貨に対する賛同は得られていない(今年6月1日に開催されたBRICS外相会談の段階で、BRICS通貨に関しては意見が一致しなかった)。

なぜなら中国にとって、もしBRICS通貨が制定されたら、BRICS諸国の中のどこかの国が経済的危機に見舞われた時に、中国がそのリスクを阻止するために相当な負担を求められることになるので、積極的ではないのである。

ちなみに、新BRICSのGDPを、人口とともに示すと図表3のようになる。

 

図表3:新BRICS11ヵ国のGDPと人口

出典:IMF

出典:IMF


 

◆習近平がBRICSビジネスフォーラムを欠席したのはなぜか?

これだけBRICSに重点を置いている習近平が、なぜか8月22日の午後に開催されたBRICSのビジネスフォーラムには出席しなかった。ロシアのプーチン大統領は指名手配されているので出国せずオンラインで出席したのはわかるが、その形も含めてBRICS首脳(5ヵ国)全員が出席する中、習近平だけは姿を現さず、代わりに王文濤商務部長が閉幕式の(習近平の名における)スピーチを代読した。

習近平のスピーチが書かれていたということは、最初から出席するつもりだったはずで、事実、これまでは毎年出席し、開幕式などでスピーチをしている。

日本の一部のメディアでは、中国の経済状況が悪いので突如欠席することにしたのではないかといった類の憶測までが飛び出しているが、「状況が悪い」のは、どうやら「体調」だったのではないかと言われている。

台湾のネットTVやYouTubeのような動画は、右も左もなくいつも賑々しく、まるで掛け合い漫才のようなトーンで派手に演出しておもしろいが、その中の一つ、【關鍵時刻】が<習近平がタラップを降りるとき、ゆうらゆうらと異様に揺れ動いた 健康に赤信号が灯ったか?>という趣旨のタイトルで報道した動画は、抱腹絶倒と言ってもいいほど、誠に笑いが止まらない。

動画が示す通り、21日の夜、習近平を乗せた飛行機がヨハネスブルグにある国際空港に着陸し、タラップに現れた習近平は、足元に気遣いながら下を向いて一歩一歩タラップを降り始めたが、体があちらに行ったり、こちらに行ったりと揺れ動いているのだ。中国の国営テレビであるCCTVでは、この「ゆうらりゆらり」とタラップを降りる画面は完全カット。次の場面は地面に降り立って、空港にまで迎えに来てくれた南アフリカのシリル・ラマポーザ大統領と握手する場面に移っている。

明けて22日の午前中にはラマポーザと首脳会談を行っているが、その時には回復したのだろう。会談後に両国共同記者会見をしたところまでは体力が維持されたようだが、引き続き行われたラマポーザから南アフリカ最高の栄誉賞を授与された受勲式になると、終わり辺りには体力が尽きたのか、勲章を首に掛けられた時の表情に晴れやかさがない。台湾の動画は、面白おかしく他の年の習近平のにこやかさと比較しながら説明している(大笑いしている?)。その時の表情を、動画の一部をキャプチャーして以下に示す。

 

図表4:最高栄誉勲章を与えられた時の習近平の晴れやかでない表情



CCTVの動画から一場面をキャプチャー


CCTVの動画から一場面をキャプチャー


 

ビジネスフォーラムを突如欠席したのは、まさにこの午後のことだ。他の人で代替できるものは代替してもらって、その間に随行の医者が、ありとあらゆる手段で緊急回復措置などをしたのではないかと推測される。それにより回復したのか、22日の夜に開催された大統領主催の夕食会には出席している。

 

◆習近平は何を話したのか?

それ以降は体調不良が改善されたのか、普通に会議に出席し、たとえば8月23日に開催された首脳会議で、中国が言うところの「重要講話」を発表したりしており、全体を通して概ね以下のようなことを述べている。

●自国の規則を他国にも押し付け、それを国際規範化してはならない(=アメリカ流民主主義を唯一の価値観として他国に押し付けてはならない=カラー革命など、全米民主主義基金NEDの非米側陣営国における活動を批判)。

●国際規範は国連憲章の趣旨と原則に基づき、人類全体が共同で作り、守っていくべきであり、腕っぷしが強く、声の大きい者が決めてはならない(=アメリカの利害のみで他国を制裁したり、NATOのアジア版形成などをしたりなどしてはならない)。

●徒党を組み、「小さなグループ」「小集団」作りに反対しなければならない(=日米豪印クワッドなど)。

●他の国が自国より発展しそうなのを見ると、直ちにその国の成長を阻止しようとするようなことをしてはならない(=アメリカが中国の成長を阻止しようとあらゆる制裁をかけてきているが、そういうことをしてはならない)。世界のどの国も、互いにウィンウィンになるように経済繁栄を助け合っていかなければならない(→習近平の外交スローガン「人類運命共同体」を用い)。

 

概ね以上だが、日米豪印クワッドにはインドが入っており、インドは図表1からも明らかなように上海協力機構でもBRICSでも主要メンバーだ。おまけにインドのモディ首相はプーチンと仲がいい。それでいてモディはバイデンの招待を受けて悪くない態度を見せている。

中立というのがインドの基本姿勢だが、このインドの存在によって「非米陣営」がバランスを保っているという側面は興味深い。習近平が狙う「米一極から多極化へ」の地殻変動がインドの存在によってどこに落ち着くのか、そのなりゆきを慎重に観察していきたい。

この論考はYahooから転載しました。
1941年中国生まれ。中国革命戦を経験し1953年に日本帰国。「中国問題グローバル研究所」所長。筑波大学名誉教授、理学博士。中国社会科学院社会学研究所客員研究員・教授などを歴任。日本文藝家協会会員。著書に『習近平が狙う「米一極から多極化へ」 台湾有事を創り出すのはCIAだ!』(ビジネス社)、『習近平三期目の狙いと新チャイナ・セブン』(PHP新書)、『もうひとつのジェノサイド 長春の惨劇「チャーズ」』(実業之日本社)、『ウクライナ戦争における中国の対ロシア戦略 世界はどう変わるのか』(PHP)、『裏切りと陰謀の中国共産党建党100年秘史 習近平 父を破滅させた鄧小平への復讐』(ビジネス社)、『ポストコロナの米中覇権とデジタル人民元』(遠藤 誉 (著), 白井 一成 (著), 中国問題グローバル研究所 (編集)、実業之日本社)、『米中貿易戦争の裏側 東アジアの地殻変動を読み解く』(毎日新聞出版)、『「中国製造2025」の衝撃 習近平はいま何を目論んでいるのか』、『毛沢東 日本軍と共謀した男』(中文版・韓国語版もあり)、『チャイナ・セブン <紅い皇帝>習近平』、『チャイナ・ナイン 中国を動かす9人の男たち』、『ネット大国中国 言論をめぐる攻防』、『中国動漫新人類 日本のアニメと漫画が中国を動かす』『中国がシリコンバレーとつながるとき』など多数。2024年6月初旬に『嗤(わら)う習近平の白い牙』(ビジネス社)を出版予定。 // Born in 1941 in China. After surviving the Chinese Revolutionary War, she moved to Japan in 1953. Director of Global Research Institute on Chinese Issues, Professor Emeritus at the University of Tsukuba, Doctor of Science. Member of the Japan Writers Association. She successively fulfilled the posts of guest researcher and professor at the Institute of Sociology, Chinese Academy of Social Sciences. Her publications include “Inside US-China Trade War” (Mainichi Shimbun Publishing), “’Chugoku Seizo 2025’ no Shogeki, Shukinpei ha Ima Nani o Mokurondeirunoka (Impact of “Made in China 2025” What is Xi Jinping aiming at Now?), “Motakuto Nihongun to Kyoboshita Otoko (Mao Zedong: The Man Who Conspired with the Japanese Army),” “Japanese Girl at the Siege of Changchun (including Chinese versions),” “Net Taikoku Chugogu, Genron o Meguru Koubou (Net Superpower China: Battle over Speech),” “Chugoku Doman Shinjinrui: Nihon no Anime to Manga ga Chugoku o Ugokasu (The New Breed of Chinese “Dongman”: Japanese Cartoons and Comics Animate China),” “Chugogu ga Shirikonbare to Tsunagarutoki (When China Gets Connected with Silicon Valley),” and many other books.

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