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安倍元首相銃撃事件、中国で「SPは何してるのか?」
安倍元首相の訃報(写真:つのだよしお/アフロ)
安倍元首相の訃報(写真:つのだよしお/アフロ)

安倍元首相が撃たれて亡くなられた。怒りが込み上げ、無念でならない。全世界が悲しんでいるが、中国のネットは特に「SPは何してるのか?」というコメントに満ち満ちている。平和ボケ日本が安倍氏の命を奪った。

◆あってはならない蛮行

あってはならない蛮行だ。全世界が悲しんでいる。ワシントンやニューヨークあるいはモスクワや北京にいる友人からも哀悼の意を表するメールが数多く来ている。

あの中国の国営放送や外交部でさえ、安倍元首相は日中友好に貢献したと讃え、最初のころは「回復を祈る」と発信していたが、訃報に変わってからも、哀悼の意を表し、礼節を重んじている。

中国のネットは安倍元首相が銃撃された瞬間から速報が飛び交い、安倍一色に満ちていた。特に「SPは何をしているのか」ということに話題が集中している。

なぜなら中国では「保安」に関しては非常に厳しく、カメラは銃になり得るという観点も強いからだ。犯人がカメラに似ているような銃を持っており、それをSPが何もしないで放置するのは何ごとか。

筆者自身もそう思っていたので、中国のネットに溢れるSPに対する膨大なコメントに注意が行った。

◆中国のネットに溢れるSPへの怒り

数秒に一つくらいの割合で溢れ出てくるので、それらのコメントを全てご紹介するのはもちろんできないが、まず、中国の若者たちが怒っている動画の一つをご覧いただきたい。これが拡散してさまざまなURLに変換されているが、どうやら源の情報はこれらしい。

実はこの動画は犯行後の写真だと、のちに分かったが、中国ではこの動画に基づいて多くのコメントが寄せられている。これは中国の事情なので、そのままご紹介する。ほんのいくつかしか列挙できないが、ご参考までにネット民たちの書き込みを列挙してみよう。なお、中国語では習近平にも敬称を付けずに呼び捨てなので、「安倍」と書いてあっても、軽蔑して書いているわけではない。

  • 安倍のSPって、何やってんの?わざと手を抜いているんじゃないよね?
  • やっぱり、金の力がものを言うんじゃない?トランプが無事なのは、彼自身の金で雇ったSPだからだよ。金払いが良くないとね。
  • 政治的な立場は別として、日本人のSPはクソみたい。一発目は致命傷にならず、実際に安倍に重傷を与えたのは二発目だよ!あり得る?今日の動画は世界中のSPにとって、いい勉強になるんじゃない?
  • 今日、金曜日、安倍のSPはサボってるけど、みんなも週末だと思ってサボったりしてないよね?
  • 検索してたら、安倍が暗殺された別角度の動画を見つけた。この「勇士」は、安倍に近づき過ぎてるんじゃない?5メートルほどの距離まで近づいてるじゃない?しかも堂々と銃を持ってるというのに、SPは何もしてない。一発目を発砲したあとだって、SPは何も反応してないよ。二発目が命中してから、SPはやっと反応した。
  • だからSPなんてあってもしょうがないでしょ?まったく役に立たないんだから。
  • よくわかんないんだけど、日本の保安って、どうなってるの?
    そもそも銃など、持ってはいけないんじゃないの?緩い日本!

ただし、実際に被弾した時の動画はこちらのようだ。それにしても、犯人が第一発目を発砲した後にSPは瞬発的には動かず、安倍元首相が被弾し倒れた後になって初めてSPが動いたことが、見て取れる。

おまけに安倍元首相の背後は警備ゼロで、SPは本来なら要人の周り360度方向を守備していなければならないはず。SPの抜かりであることに変わりはない。

その意味で、珍しく中国のネット民たちと意見が合う。

中国共産党機関紙「人民日報」姉妹版の「環球時報」電子版も7月8日15:29の時点で、<(中国の)外交部は安倍が銃撃を受けたことにショックを受け、安倍元首相が少しでも早く危険から脱することを望んでいる>というタイトルの報道をしていた。

◆平和ボケ日本が安倍元首相の命を奪った

中国には激しい監視社会があり、目つきが何かおかしいというだけで、挙動不審として目を付けられ、街中に張り巡らされている監視カメラが注意信号を発する。

アメリカは銃社会。ポケットからハンカチを取り出すだけで、銃を抜き取るのかと警戒し発砲することさえある。銃乱射事件は日常茶飯事化している。

だからわずかな不審な動きに対して、間髪入れずに反応する。

もし、これがアメリカなら、犯人が第一発目を発射した瞬間に、SPはパッと要人(このたびなら安倍元総理)を地面に倒して自分がその上を覆い、犯人から守るだろうし、一方では他のSPは犯人に飛び掛かって押さえつけ、その場で逮捕しているはずだ。

だというのに、「犯人は背後から襲った」と報道しながら、安倍元総理の傷は「背中」にはなく、「首の喉元の方にしかない」と医者が何度も証言している。

ということは、背後で第一発目が発砲された後、安倍元総理は振り返って、しばらくそのまま立っていたということになる。だからこそ、二発目が真正面の喉元にしか当たってないのだ。「背後」には一発も当たってない。

そのことが、どれだけ「平和ボケ日本」を象徴しているか考えるべきだ。

最初の発砲音があったというのに、SPは安倍元総理に突進して地面に伏せさせることもしていなければ、瞬発的に犯人に突進して犯人を押さえつけることもなかった。それは10分の1秒以下の勝負だったはずだ。警備の緩さが全体にある。

安倍元総理の命を奪ったのは、この「平和ボケ日本」だ!

安倍元総理は、そのことに警告を与え、憲法改正を訴え、防衛費の増額を主張してきた。その必要性を、自分の命を犠牲にして証明したのに等しい。

◆心からご冥福を祈る

誰もが銃撃を知ってからは、「どうか助かりますように!」と祈ったはずだ。

筆者も必死でお祈りしていた。その分だけ、訃報に接したときには、受け止めきれないくらいの、言い知れぬ哀しみを覚えた。

実は筆者は来月か、それ以降に月刊誌Hanadaで安倍元首相と対談することになっていた。今月は選挙があるので、来月以降で調整していたところだった。

そのため7月6日のコラム<「サハリン2」、プーチン大統領令と習近平の狙い>の最後の部分でわざわざ安倍元首相のことに触れたのである。安倍元総理をモスクワに派遣してプーチン大統領を説得してもらうべきだと書いたのだ。こういったことを足場にして議論を展開しようと準備していた。

事実、プーチンは安倍元総理の訃報を受け、<真の愛国者だった>と哀悼の意を表している。安倍元総理とプーチン大統領の仲の良さをプラスに持っていき、一刻も早い停戦を促すべきだという話を、月刊誌Hanadaで安倍元総理にしようと思っていた。

だというのに、このようなことになり、いきなり梯子を外されてしまったほど、ショックを受けている。

これまで外部に漏らしたことはないが、安倍元首相とは、個人的に何度かお会いしている。そういった場面における「安倍さん」の笑顔は、たとえようもないほど優しく温かかった。

習近平の国賓招聘に関しては今でも意見を異にするが、しかし個人的にはこの上なく「安倍さん」を尊敬し、親しい気持ちを持っている。

心からのご冥福を祈りたい。

お詫び:最初にこのコラムを公開した時は、その時点における中国の情報に基づいて書いていたが、のちに日本の情報を精査することにより、中国で初期段階で拡散していた動画は犯行後のものであることがわかった。中国でも新しい情報に基づいて新たにコメントが出ているが、趣旨は同じなので、本コラムはそれに基づいて、リンク先の動画を新たに加えて修正した。そのことをお詫びしたい。

1941年中国生まれ。中国革命戦を経験し1953年に日本帰国。「中国問題グローバル研究所」所長。筑波大学名誉教授、理学博士。中国社会科学院社会学研究所客員研究員・教授などを歴任。日本文藝家協会会員。著書に『習近平が狙う「米一極から多極化へ」 台湾有事を創り出すのはCIAだ!』(ビジネス社)、『習近平三期目の狙いと新チャイナ・セブン』(PHP新書)、『もうひとつのジェノサイド 長春の惨劇「チャーズ」』(実業之日本社)、『ウクライナ戦争における中国の対ロシア戦略 世界はどう変わるのか』(PHP)、『裏切りと陰謀の中国共産党建党100年秘史 習近平 父を破滅させた鄧小平への復讐』(ビジネス社)、『ポストコロナの米中覇権とデジタル人民元』(遠藤 誉 (著), 白井 一成 (著), 中国問題グローバル研究所 (編集)、実業之日本社)、『米中貿易戦争の裏側 東アジアの地殻変動を読み解く』(毎日新聞出版)、『「中国製造2025」の衝撃 習近平はいま何を目論んでいるのか』、『毛沢東 日本軍と共謀した男』(中文版・韓国語版もあり)、『チャイナ・セブン <紅い皇帝>習近平』、『チャイナ・ナイン 中国を動かす9人の男たち』、『ネット大国中国 言論をめぐる攻防』、『中国動漫新人類 日本のアニメと漫画が中国を動かす』『中国がシリコンバレーとつながるとき』など多数。2024年6月初旬に『嗤(わら)う習近平の白い牙』(ビジネス社)を出版予定。 // Born in 1941 in China. After surviving the Chinese Revolutionary War, she moved to Japan in 1953. Director of Global Research Institute on Chinese Issues, Professor Emeritus at the University of Tsukuba, Doctor of Science. Member of the Japan Writers Association. She successively fulfilled the posts of guest researcher and professor at the Institute of Sociology, Chinese Academy of Social Sciences. Her publications include “Inside US-China Trade War” (Mainichi Shimbun Publishing), “’Chugoku Seizo 2025’ no Shogeki, Shukinpei ha Ima Nani o Mokurondeirunoka (Impact of “Made in China 2025” What is Xi Jinping aiming at Now?), “Motakuto Nihongun to Kyoboshita Otoko (Mao Zedong: The Man Who Conspired with the Japanese Army),” “Japanese Girl at the Siege of Changchun (including Chinese versions),” “Net Taikoku Chugogu, Genron o Meguru Koubou (Net Superpower China: Battle over Speech),” “Chugoku Doman Shinjinrui: Nihon no Anime to Manga ga Chugoku o Ugokasu (The New Breed of Chinese “Dongman”: Japanese Cartoons and Comics Animate China),” “Chugogu ga Shirikonbare to Tsunagarutoki (When China Gets Connected with Silicon Valley),” and many other books.

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