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中国はイラン攻撃を非難し停戦を求め、日本はイラン攻撃を非難せずG7にホルムズ封鎖非難声明を出させる
習近平国家主席(写真:ロイター/アフロ)

「中国がイラン攻撃を非難し停戦を求め、日本はイラン攻撃を非難せずG7にホルムズ封鎖非難声明を出させる」結果が、日本国民に何をもたらすのかを考察する。

高市政権は外交戦略的にどの国のために国家運営をしているのかが見えてくる。

 

◆中国はトランプを名指しせずイラン攻撃を非難し即時停戦を求めている

ジュネーブ現地時間3月27日、イラン、中国、キューバの要請により、国連人権理事会第61回会合において、イランのミナブにある小学校襲撃事件に関する緊急討論会が開催された。ジュネーブの国連事務所およびスイスのその他の国際機関における中国の常駐代表である賈桂德大使が出席し、中国の立場を表明した。

この件に関して3月28日に中共中央管宣伝部が管轄する中央テレビ局CCTVが報道し、また同じく中国政府の通信社である新華社の電子版新華網が報道した。

それによれば、賈桂德大使はおおむね以下のように述べている。

  • 168人の少女の命を奪ったイランのミナブ小学校襲撃事件は、人間の道徳と良心の限界を超えた残虐行為であり、人権侵害の極みであり、国際人道法に対する露骨な無視である。
  • アメリカとイスラエルが国連安全保障理事会の承認を得ずにイランへの攻撃を開始したことが、この悲劇の根本原因だ。
  • アメリカとイスラエルは、イランの指導者を殺害し、イラン国民の人権を著しく侵害しただけでなく、中東における紛争の激化を招き、地域諸国を巻き込む事態を引き起こした。
  • 中国は国際法に違反し、民間人や非軍事目標を無差別に攻撃するすべての行為を強く非難する。(おおむね以上)

 

中国のような国が、「人権」に関して発言する資格があるのかと思われる読者が少なからずおられるのは理解しているが、ここでは、その事はひとまず置いておいて、本稿ではイラン攻撃に対する姿勢だけを論じる。

さて、これ以前にも中国はアメリカとイスラエルによるイランへの奇襲攻撃を、トランプ大統領の名指しを避けて、何度か行なっている。たとえば中国外交部は3月2日の定例記者会見で、毛寧報道官がおおむね以下のように回答している。

  • アメリカとイスラエルは国連安保理の承認なしに、イランに対する軍事攻撃を行い、国際法に違反した。
  • 中国は戦争の波及が隣国に波及することに深い懸念を抱いている。中国は湾岸諸国の主権、安全保障、領土保全も十分に尊重されるべきだと考えている。
  • 戦争のさらなる拡大を防ぐため、すべての関係者に軍事作戦の停止を強く求める。(以上)

 

また、3月13日の新華網は、3月12日に国連で開催された安保理イラン制裁委員会のブリーフィングで、中国の傳聡・国連代表がイラン攻撃に関して「国際法および国連憲章の目的・原則に違反しており、中国はこれを強く非難する」と述べたと報道している。

一方、中国の王毅外相兼中共中央政治局委員は、ひたすら「早期停戦」を関係国に呼びかけている。その例を拾って図表に示した。

図表:王毅による関連国への停戦の呼びかけと共有

公開された情報に基づき筆者作成

図表にある王毅の行動の全ては習近平国家主席からの直接の指示とみなしてよく、習近平がいかに必死で停戦させようとしているかがわかる。すなわち中国は、トランプを名指しせずに

  • アメリカとイスラエルがイランを奇襲攻撃したことを強く非難。
  • 即時停戦を強く求める。

という基本路線で動いているということになる。

 

◆日本は「イラン攻撃は非難せず」、攻撃を受けたイランがホルムズ海峡を封鎖したことのみを非難

日本は、高市総理が「自衛のための措置なのかどうかも含め、詳細な情報を持ち合わせているわけではない。わが国として法的評価をすることは差し控えさせていただく」という、アメリカを擁護する弁明をくり返すために、政府として「イラン攻撃を非難する」という姿勢はない。

むしろ、核開発問題に関して交渉している真っ最中に奇襲攻撃を受けたイラン側を非難することで「かたまろう」とする動きの中心に日本がいる。

攻撃を受けたイランはハメネイ師をはじめ数十名の幹部を次から次へと初期段階で殺害された。軍事力的には「アメリカ+イスラエル」の先鋭部隊に勝てるはずもないので、せめてホルムズ海峡を封鎖することによって、理不尽な殺害に抵抗しようとした。

その抵抗さえ許さないというのが日本の姿勢だ。

高市総理は3月18日~20日に訪米したが、3月19日にトランプ大統領に会う直前というタイミングで、日本は大きな努力を払って、<ホルムズ海峡に関する英・仏・独・伊・蘭・日・加及びその他諸国の首脳による共同声明>というイランに対する非難決議を発出することに成功している。

声明の冒頭には「我々は、ペルシャ湾においてイランが非武装の商業船舶に対して行った最近の攻撃、石油・ガス施設を含む民間インフラへの攻撃、およびイラン軍によるホルムズ海峡の事実上の閉鎖を、最も強い言葉で非難する」と書いてある。

こうすればトランプ大統領に喜ばれる。

トランプに喜んでもらえるか否かだけが、日本の判断基準だ。

 

加えて3月27日には<イランに関するG7外相声明>を出すことに日本の外相は奔走した。そこには、主として以下のような事が書いてある。

  • 我々は、民間人及び民間インフラに対する攻撃の即時停止を求める。武力衝突において民間人を意図的に標的とすること及び外交施設を攻撃することにはいかなる正当化もあり得ない。
  • 我々は、国連安保理決議第2817号及び海洋法に整合的な形で、ホルムズ海峡を安全かつ通航料なく通過する航行の自由を恒久的に回復する絶対的な必要性を改めて表明した。(おおむね以上)

なんということだ。

交渉中の相手国に対して奇襲攻撃を行ない、国家の指導層を数十名以上殺害してしまって、トランプは「もうイラン政府を転覆させたようなものだ。元のイラン政府の指導者は誰一人生き残ってないんだから。全員殺してしまったよ」と笑いながら豪語している。そんな殺戮を非難せず、殺戮に抵抗したイランを非難するとは、どういう道義心なのか。

アメリカとイスラエルの虐殺ぶりに抵抗して海峡を封鎖したことのみを、日本は必死になって非難しているのだ。

ドイツの大統領も、またスペインの首相も、「イラン攻撃は国際法違反だ!」と断言して、アメリカ・イスラエルの蛮行を非難している。

ウクライナ戦争に関してはトランプがウクライナを非難する側に回っているので、結局、ホルムズ海峡に関してのみ、ちぐはぐしながら共同声明を強引に出させたような状況だ。

いったい、誰のために?

 

◆日本国民のためでなくアメリカのために国家運営をしている高市政権

アメリカのニュースサイトであるアクシオス(Axios)は3月26日、<ペンタゴン、イラン戦争の大規模な「最後の一撃」に備えている>というタイトルで、実はアメリカがイランに対して「最後の一撃」を加えるべく準備している選択の可能性を報道している。それは米軍が上陸して、イランに徹底的な打撃を与えるということかもしれない。

トランプにとって、もしG7が「ホルムズ海峡封鎖を解除しろ!」とイランを非難する側に立っていてくれるとすれば、「最後の悪魔の一撃」も正当化されることになる。

さまざまな選択が予測される中、あの「気まぐれトランプ」が何を選ぶかは分からないものの、もし「最後の悪魔の一撃」のためにG7が論理武装をしてくれているとすれば、トランプにとって、こんなありがたいことはないだろう。

上陸すれば、イランへの軍事攻撃は長期化し泥沼化するかもしれない。

そうなればトランプは中間選挙で窮地に立たされる可能性があり、アメリカに追随してきた高市内閣は連鎖反応的に日本国民を道連れにする可能性がゼロではない。

そのとき喜ぶのは誰なのか?

言わずと知れた「習近平」だ。

日中首脳ともに、目的は異なるものの、「トランプの機嫌を損ねたくない」という思惑はあっても、「イラン攻撃に対する姿勢」は全く違う。

「イラン攻撃反対!」と叫んできた習近平が、嗤(わら)って待っている。

日本はトランプとともに心中するのか、それとも「イラン攻撃反対!」と叫んで友人国であるイランを援ける勇気を持ち得るのか?

日本国民に不幸をもたらさないようにするにはどうすればいいかは自明なはずだ。

それができない高市政権は、日本国民をどこに引きずり込もうとしているのだろうか?

これが杞憂に過ぎないことを祈りたい。

 

なお、まさに日米を除くこのG7諸国が、実は「トランプよりも習近平を頼りにしている」というデータを、アメリカのメディアとイギリスの調査会社が共同で出している。それに関してはチャンスがあれば、追って考察したい。

 

この論考はYahoo!ニュース エキスパートより転載しました。

1941年中国生まれ。中国革命戦を経験し1953年に日本帰国。「中国問題グローバル研究所」所長。筑波大学名誉教授、理学博士。内閣府総合科学技術会議専門委員(小泉政権時代)や中国社会科学院社会学研究所客員研究員・教授などを歴任。日本文藝家協会会員。著書に『米中新産業WAR』(ビジネス社)(中国語版『2025 中国凭实力说“不”』)、『嗤(わら)う習近平の白い牙――イーロン・マスクともくろむ中国のパラダイム・チェンジ』(ビジネス社)、『習近平が狙う「米一極から多極化へ」 台湾有事を創り出すのはCIAだ!』(ビジネス社)、『習近平三期目の狙いと新チャイナ・セブン』(PHP新書)、『もうひとつのジェノサイド 長春の惨劇「チャーズ」』(実業之日本社)、『ウクライナ戦争における中国の対ロシア戦略 世界はどう変わるのか』(PHP)、『習近平 父を破滅させた鄧小平への復讐』(ビジネス社)、『ポストコロナの米中覇権とデジタル人民元』(遠藤 誉 (著), 白井 一成 (著), 中国問題グローバル研究所 (編集)、実業之日本社)、『米中貿易戦争の裏側 東アジアの地殻変動を読み解く』(毎日新聞出版)、『「中国製造2025」の衝撃 習近平はいま何を目論んでいるのか』、『毛沢東 日本軍と共謀した男』(中文版・韓国語版もあり)、『チャイナ・セブン <紅い皇帝>習近平』、『チャイナ・ナイン 中国を動かす9人の男たち』、『ネット大国中国 言論をめぐる攻防』、『中国動漫新人類 日本のアニメと漫画が中国を動かす』『中国がシリコンバレーとつながるとき』など多数。 // Born in 1941 in China. After surviving the Chinese Revolutionary War, she moved to Japan in 1953. Director of Global Research Institute on Chinese Issues, Professor Emeritus at the University of Tsukuba, Doctor of Science. Member of the Japan Writers Association. She has served as a specialist member of the Council for Science, Technology, and Innovation at the Cabinet Office (during the Koizumi administration) and as a visiting researcher and professor at the Institute of Sociology, Chinese Academy of Social Sciences. Her publications include “2025 China Restored the Power to Say 'NO!'”, “Inside US-China Trade War” (Mainichi Shimbun Publishing), “’Chugoku Seizo 2025’ no Shogeki, Shukinpei ha Ima Nani o Mokurondeirunoka (Impact of “Made in China 2025” What is Xi Jinping aiming at Now?), “Motakuto Nihongun to Kyoboshita Otoko (Mao Zedong: The Man Who Conspired with the Japanese Army),” “Japanese Girl at the Siege of Changchun (including Chinese versions),” “Net Taikoku Chugogu, Genron o Meguru Koubou (Net Superpower China: Battle over Speech),” “Chugoku Doman Shinjinrui: Nihon no Anime to Manga ga Chugoku o Ugokasu (The New Breed of Chinese “Dongman”: Japanese Cartoons and Comics Animate China),” “Chugogu ga Shirikonbare to Tsunagarutoki (When China Gets Connected with Silicon Valley),” and many other books.
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