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「交流」は罠ではなく戦略の舞台:安全保障の懸念や政策の空白を超えて、両岸問題における台湾のジレンマを再考する
中国国民党党首鄭麗文氏が中国訪問を前に、台北にある国民党本部で演説(写真:AP/アフロ)

※この論考は4月7日の<Engagement Is Not a Trap but a Strategic Arena: Rethinking Taiwan’s Cross-Strait Dilemma Beyond Security Anxiety and Policy Vacuum>の翻訳です。

台湾ではここ数週間、国民党(KMT)の鄭麗文主席による中国訪問が大きな物議を醸している。世論は敏感に反応して二極化しており、党派間の対立だけでなく、海峡両岸の交流が意味するところとその帰結に対する不安の高まりを映し出している。その背景には台湾の戦略的議論における根源的な対立軸がある。中国との交流を必要な政策手段と見るべきか、それとも台湾の政治的自律性を損ないうる本質的な脆弱性と見るべきかという点だ。

台湾を独立した政治主体と強く意識する中で、ある見解が浮上し定着しつつある。それは、極度に非対称な力関係の下では、交流は単にリスクを伴うだけでなく、構造からして自滅的だというものだ。この見方によれば、いかなる形の政治交流も中国政府に統一戦線戦略の一環として利用され、対話は影響力行使へ、接触は内部浸透へと変容してしまう。この枠組みでは、交流は政策上の選択肢ではなく、象徴的・制度的な浸透を通じて台湾の主権を徐々に蝕む戦略的な罠と言える。

この懸念は誇張されたものでもイデオロギーに駆られたものでもない。影響工作、ナラティブ形成、エリート層の取り込みなど、中国の政治戦略を長期的に観察してきた経験に基づいている。また、外部から圧力を受けても民主的な制度を守り、政治的自律性を維持しようとする台湾社会に深く根付いた決意を反映している。しかし、この主張に説得力があるからこそ、より綿密な検証が求められる。交流が常に罠であるならば、台湾にはどのような戦略的余地が(もしあるとすれば)残されているだろうか?そしてさらに重要な問題として、政策の選択肢から交流を完全に排除した場合、どのような結果になるだろうか?

安全保障化がもたらす戦略的想像力の低下

国際関係論の視点で見ると、交流を本質的な脅威と捉えることは、安全保障化のプロセスと考えることができる。このプロセスでは、政策手段が存亡に関わる危険として再定義され、戦略的に議論すべき領域から議論の余地がない領域へと移される。安全保障化は、国民の警戒心を煽り政策の対立軸を明確にする上で効果的だが、大きな代償も伴う。政策を構想する余地、つまり政策の想像力を狭めてしまうのだ。

交流が安全保障化されると、戦略的選択肢は二項対立に収束する。交流を拒絶するか、取り込まれるリスクを取るかだ。この種の思考様式は、戦略的分析を構造的決定論に置き換えてしまう。前提にあるのは、非対称な力関係が必然的に支配を生み、交流がもれなく脆弱性につながるという考え方だ。このような前提は直感的には説得力があるが、国際政治の重要な側面、すなわち非対称な力関係にあっても国家が交流のあり方を形成し、調整し、方向転換させる力を持ちうるという点を覆い隠してしまう。

したがって、問題は交流にリスクが伴うかどうかではなく(明らかに伴う)、そのリスクを確定的な結果と見なすか、それとも設計・管理可能な変数と見なすかという点にある。

交流を設計・調整されたプロセスへ

交流は結果そのものではなく政策手段であり、他のあらゆる政策手段と同様、その効果はどのように設計され、制約され、戦略的に展開されるかによって決まる。非対称な力関係では交流が中立であることは稀であり、制度的枠組み、政治的ナラティブ、外部との同盟関係に左右される。

他国の例を見ればよく分かるだろう。ベトナムは歴史的に中国と複雑な関係にあるが、広範な経済関係を維持しつつ、政治的境界と安全保障の自律性を強化している。シンガポールは徹底した制度化と世界経済との融合を通じて、対中関与をより広範な国際的パートナーシップのネットワークに組み込むことで、依存を減らしつつ柔軟性を維持している。

これらの事例は、非対称な力関係の下での交流が必ずしも服従を意味するわけではないことを示している。むしろ、制度設計と戦略的意図で制御・調整されたプロセスとして機能しうる。重要な変数となるのは、リスクにさらされること自体ではなく、交流の条件を定義できるかどうかだ。交流が必然的に譲歩につながるとの前提は、交流が影響力、情報、戦略的地位をも生み出せる可能性があることを見落とすことにつながる。

交流しないことの隠れた代償

台湾を巡る現在の議論で見落とされがちなのは、交流しなければリスクがなくなるわけではない点だ。むしろリスクの配分が変わり、浸透のリスクから誤算のリスクに変質する。

台湾は中国との交流が減り、対立が深まる状況になってきている。公式のコミュニケーションルートは弱体化するか消滅し、制度化された対話はほぼ停止している。それに代わって対中関与は現在、軍事的シグナル、メディアのナラティブ、第三国を舞台とした外交競争など、間接的かつしばしば不安定な形で行われている。

このような状況下では、軍事演習、法執行上の事件、政治的発言といった比較的些細な出来事さえも戦略的意図のシグナルとして解釈されかねない。状況説明や対話ができる制度化された仕組みがなければ、誤解が生じる可能性が著しく高まる。国際政治の歴史は、コミュニケーションを欠いた関係が必ずしも安定しているわけではないことを示している。むしろ、相手の行動を解釈するための信頼できるチャネルがないからこそ、エスカレーションしやすい。

皮肉なことに、交流を恐れて拒絶するほど、その結果を管理する能力は低下する。消えるのはリスクそのものではなく、リスクを解釈し、吸収し、封じ込めるために必要な制度的手段だ。

非対称な力関係の下での戦略的主体性の維持

台湾を巡る戦略的議論によく見られる前提は、力の非対称性が主体的行動力を根本的に制約するというものだ。確かに力の格差は否定できないものの、この結論は分析結果として十分ではない。小国理論によれば、非対称性は主体的行動力を排除するのではなく、その形態を変容させるのだ。

構造的な制約がある状況下では、弱い側はしばしば選択的関与、制度的調整、多国間連携といった間接的な戦略に依存する。これらの戦略によって脆弱性がなくなるわけではないが、分散させて緩和することはできる。構造的な弱点に見えるものも、条件次第では戦略的影響力に転換できる。

重要なのは交流が利用されうるかどうかではなく(いかなる交流もその可能性はある)、台湾が結果を左右できるだけの制度的な能力を有しているかどうかにある。そうした能力が不足しているというのなら、問題は交流そのものではなく、その管理と設計のあり方にある。

戦略的資源としての民主的多元主義

中国との交流に対する批判は、しばしば台湾の国内政治における多元主義への懸念にまで及ぶ。政党間で見解が異なると、一貫性のなさや弱さを示すと解釈されることも多い。

こうした懸念は、民主主義の実践と戦略的明確さの間にある根強い葛藤を反映していると言える。多元主義は政策の一貫性を損なう可能性がある一方で、戦略に曖昧さを生み出し、外部アクターが状況判断にかける負担を増やすことにもなる。国際政治では、曖昧さは必ずしも不利な要素ではない。意図を読みにくくすることで、間接的な抑止力として働くこともある。

米国や日本などの主要な民主主義国も同様の傾向を示している。中国政策を巡る国内の議論は、必ずしも両国の戦略的立場を弱めるものではない。むしろ、変化する状況に対応するための柔軟性と適応力をもたらすものだ。その意味で、民主的多様性は単なる制約としてではなく、潜在的な戦略的資源と見るべきである。

真の課題:交流の制度化

したがって、台湾の中心的な課題は、交流が過度なことではなく、制度化されていないことにある。

公式の枠組みがなくなったとしても、交流が途絶えるわけではない。非公式で不透明な、しかも大抵は管理されていない領域に移行するに過ぎない。このように制度化されていない交流は、本質的に監視が難しく、政治的な不信や安全保障上の懸念を生じやすい。

そのため、問題は交流が行われているかどうかではなく、それが管理されているかどうかにある。制度的な制約、透明性、公的な説明責任を伴わない交流は政治的な争点となり、戦略的に不安定な状況を引き起こす。

政策の観点から問い直すべき重要な問題は、台湾が中国と交流すべきかどうかではなく、自律性を守り、透明性を維持し、説明責任を確保した上で、どのように交流を設計するかだ。そのために必要なのは制度設計であって、断固とした拒絶ではない。

リスク回避からリスク管理へ

政治的主体性の確保に重点を置く台湾の姿勢が重要であることに変わりはない。それは構造的脆弱性や外部からの圧力を正しく認識していることの表れである。しかし、この認識が「交流すれば妥協は不可避」という決定論的な前提に発展すると、台湾の戦略的視野を狭める恐れがある。

真の問題は、台湾がリスクを回避できるかどうかではなく、リスクを管理できるかどうかにある。リスクは消えるのではなく変容するものであり、戦略とは、さまざまな領域でその変容を管理することにある。

交流を構造的な罠だと単純化すれば、戦略的想像力を閉ざすことになる。そして交流を完全に放棄することは、戦略を実行に移す舞台を相手に明け渡してしまうことになる。したがって、交流は避けるべき障害ではなく、設計し、管理し、戦略的に活用すべき領域と見なすべきだ。

簡単に受け入れられる見方ではないが、これこそ台湾が直面せざるを得ない戦略的現実だ。

陳建甫博士、淡江大学中国大陸研究所所長(2020年~)(副教授)、新南向及び一帯一路研究センター所長(2018年~)。 研究テーマは、中国の一帯一路インフラ建設、中国のシャープパワー、中国社会問題、ASEAN諸国・南アジア研究、新南向政策、アジア選挙・議会研究など。オハイオ州立大学で博士号を取得し、2006年から2008年まで淡江大学未来学研究所所長を務めた。 台湾アジア自由選挙観測協会(TANFREL)の創設者及び名誉会長であり、2010年フィリピン(ANFREL)、2011年タイ(ANFREL)、2012年モンゴル(Women for Social Progress WSP)、2013年マレーシア(Bersih)、2013年カンボジア(COMFREL)、2013年ネパール(ANFREL)、2015年スリランカ、2016年香港、2017年東ティモール、2018年マレーシア(TANFREL)、2019年インドネシア(TANFREL)、2019年フィリピン(TANFREL)など数多くのアジア諸国の選挙観測任務に参加した。 台湾の市民社会問題に積極的に関与し、公民監督国会連盟の常務理事(2007年~2012年)、議会のインターネットビデオ中継チャネルを提唱するグループ(VOD)の招集者(2012年~)、台湾平和草の根連合の理事長(2008年~2013年)、台湾世代教育基金会の理事(2014年~2019年)などを歴任した。現在は、台湾民主化基金会理事(2018年~)、台湾2050教育基金会理事(2020年~)、台湾中国一帯一路研究会理事長(2020年~)、『淡江国際・地域研究季刊』共同発行人などを務めている。 // Chien-Fu Chen(陳建甫) is an associate professor, currently serves as the Chair, Graduate Institute of China Studies, Tamkang University, TAIWAN (2020-). Dr. Chen has worked the Director, the Center of New Southbound Policy and Belt Road Initiative (NSPBRI) since 2018. Dr. Chen focuses on China’s RRI infrastructure construction, sharp power, and social problems, Indo-Pacific strategies, and Asian election and parliamentary studies. Prior to that, Dr. Chen served as the Chair, Graduate Institute of Future Studies, Tamkang University (2006-2008) and earned the Ph.D. from the Ohio State University, USA. Parallel to his academic works, Dr. Chen has been actively involved in many civil society organizations and activities. He has been as the co-founder, president, Honorary president, Taiwan Asian Network for Free Elections(TANFREL) and attended many elections observation mission in Asia countries, including Philippine (2010), Thailand (2011), Mongolian (2012), Malaysia (2013 and 2018), Cambodian (2013), Nepal (2013), Sri Lanka (2015), Hong Kong (2016), Timor-Leste (2017), Indonesia (2019) and Philippine (2019). Prior to election mission, Dr. Chen served as the Standing Director of the Citizen Congress Watch (2007-2012) and the President of Taiwan Grassroots Alliance for Peace (2008-2013) and Taiwan Next Generation Educational Foundation (2014-2019). Dr. Chen works for the co-founders, president of China Belt Road Studies Association(CBRSA) and co-publisher Tamkang Journal of International and Regional Studies Quarterly (Chinese Journal). He also serves as the trustee board of Taiwan Foundation for Democracy(TFD) and Taiwan 2050 Educational Foundation.