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中国的特徴に満ちた危機の一年
2022年幕開けへ 中国・北京(写真:AP/アフロ)
2022年幕開けへ 中国・北京(写真:AP/アフロ)

2021年は危機の一年か?

2021年が金融危機、そして企業の危機が相次いだ一年であったという主張には正当性がある。経済における過剰なレバレッジ取引の問題は、誰の眼にも明らかであったが、はたしてパニックは、どこで起きていたのだろうか? その結果、世界的な影響がどこかで生じていただろうか? そして、リーマンショックのような瞬間は、存在していただろうか? そうした事態は起きなかったが、代わりに2021年は、中国的特徴に満ちた危機の一年だった。企業そして国有部門が被った一連の打撃は、多大な注目を集めながらも、管理・統制された経済システムの中で、驚くほど見事に封じ込められた。 中国の指導者たちは、自国の経済問題を解決する魔法の杖を手にしているわけではないが、問題の影響や副次的結果を弱める術は持っているのだ。 その最たる手段として、先進国の開かれた市場であれば急性ショックとなるような出来事も、中国では慢性的な長期的問題へと転換されるが、そうした問題は、その後数年間、政策や成長にのしかかり続けることになる。 この副次的な影響についても、より効果的に対処することが可能である。というのも、2021年に注目を集めた株価暴落は、主に香港やニューヨークで起きていたからだ。

2021年はまず、アントフィナンシャル社の超大型IPO(新規株式公開 )中止以来続いていた市場の混乱で幕を開け、次に何が起こるのかと誰もが身構える状況となった。 だが、その時点で策定作業が進行していた大量の規制変更に対し、準備ができている者はほとんどいなかった。 2021年に掲載した本コラムでは、顕著な破綻をいくつか取り上げてきたが、年末にあたり、それらの問題の大きさを把握できるよう、再度それらをリストアップするのは有意義だと思われる。まず中国華融資産管理(華融)については、中国の金融インフラにおける王族というのが、ベストな説明だろう。 ICBC(中国工商銀行)の「バッドバンク」のパートナーである華融資産管理は、放漫貸付政策の必然の結果として生じた不良債権の解決を手助けする管理会社として、20年以上前に設立された。 破綻した融資や事業をさらに引き受けたことで、同社の事業範囲は当初の任務を大幅に超えて拡大したが、それが可能であったのも、国家による保証という暗黙のステータスが信じられていたからだ。 だが最終的に同社は行き詰まり、その債券価格も暴落し、香港の上場株は9ヵ月間停止された。最終的には国が、CITIC(中国中信集団公司)とその他の中央集権的に管理されるSOE(国有企業)が主導するベイルアウト(公的資金注入による救済)を実行し、華融は、金融エリートの内部サークルから効果的に後押しを受けることになったのである。 華融の設立に関わった人々にとって、このような終わりを迎えることは想像もつかなかったであろうが、それが現実だった。 つまり華融も、失墜し規制当局の長年に及ぶ再建プロジェクトの対象となった金融大手のリストに加わったわけであり、このリストは拡大し続けている。

これに劣らず衝撃的なのが、国内最大の不動産開発会社である恒大集団における、現在進行中の経営危機である。 同社の株価は年初来で90%下落しており、負債総額は約3,000億米ドルに達している。すでに一部資産を売却したとはいえ、確実性のある救済計画はまだ存在していない。 恒大集団は、中国本土における大半の建設工事を再開したと発表しているが、政府が国内での大衆への派生的影響に対処していくためには、この再開は不可欠なのである。 住宅所有者たちは恒大集団の未払債務にはほとんど関心がないが、当然ながら、自分たちがすでに支払った不動産の引き渡しを要求している。

そして7月には、国内のテック業界も混乱に陥った。 配車サービス大手の滴滴出行は、規制環境が悪化する中でも、米国での上場を進めてきた。ところが上場後、中国政府は、同社のアプリの国内でのダウンロードを停止させ、アプリを中国サイバースペース管理局(CAC)の審査対象にすると発表した。 CACが発行した海外上場企業のデータセキュリティ保護に関する新規則は、突如として、金融業界にとっての必読文書となった。 滴滴出行はそれ以来、米国における上場廃止を勧告されているが、この状況は、中国企業が被っている情報開示不足と政治的リスクの問題の典型的な例である。 同社が14米ドルで上場した株式は、現在、5米ドル前後で取引されている。 7月にはさらに、オンライン家庭教師業界に対する突然の取り締まりが行われ、海外投資も禁止され、企業は利益を出すことを制限され、事業範囲は大幅に縮小した。 文字通り一夜にして、時価総額にして1,000億米ドルが株式市場から消え、中国の至るところで教室が閉鎖された。

この取締まり、そして企業の崩壊は、その規模と徹底度において、最近の中国の歴史では前例がなく、おそらく最も近いのは1990年代の国有企業数千社の廃止であろうが、ただしその当時の中国経済は、現在とは大きく異なるものであった。 現在中国国内で成長を牽引しているのは、主に不動産、テクノロジー、そして消費である。

しかし企業の破綻は、政府が対処しなければならないストレスのごく一部に過ぎない。 昨年EUと合意した包括的投資協定は、数ヵ月も経たないうちに行き詰った。新疆ウイグル自治区を巡っての対中制裁と報復制裁のあげくに、欧州議会による承認が見送られたからだ。 新疆ウイグル自治区と香港での人権侵害に対する欧州の懸念、レトリック、そして行動は、この1年間弱まっておらず、2022年も弱まる見込みはない。 一方で、国内にはさらに切迫した懸念がある。財新が年末に報じた、中国の「ラストベルト」に該当する黒龍江省の鶴崗市が、財政難を理由に下級公務員の雇用計画を撤回した問題である。 ほんの数年前まで、鶴崗は石炭の町として活況を呈していたが、現在は基本的な公務員を雇う余裕すらなくなったのである。 今後こうした苦境に陥る地方自治体は、他にもあるだろう。恒大集団の破綻危機と本質的に結びついている不動産販売の減速により、多くの市や町のキャッシュフローが大幅に減少しているからだ。

「行く手には困難な年月が待ち受けるのみ」

2年前のコラムで、来たる2020年代に中国がどれほどのことを実現できるか考察した。 そして、経済的なストレスと、地政学的情勢の悪化の両方に直面しているため、中国の行く手には困難な年月が待ち受けるだけだと書いた。 そのコラムから数ヵ月もしないうちに、中国と世界は、中国で最初に確認されたウイルス、COVID-19の流行に巻き込まれた。だが中国は、非常に厳しい規制措置をとり、数ヵ月のうちにほぼ正常な状態に戻りつつあった。 欧州、また特にアメリカと比べると、中国の統治モデルが勝利を収めたように見えたが、それもすべて過去のことだ。 感染者数と関連死を成功の唯一の尺度とするのであれば、中国は依然として他国よりも優位な状況にあると言えるが、ただしパンデミックとは、複雑かつ動的なシステムである。 以前中国が直面していたウイルスはもはや流行しておらず、国民が接種したワクチンの効果も比較的弱くて持続期間も短い。中国型モデルは、世界中でこの感染症がエンデミックとなった状況での生活について、他国の参考にはならないのである。 2020年の中国の成功は、パンデミック後の世界において中国を優位な立場にすることはなかった。そして、国境を超えた移動が事実上存在しないため、中国は、世界から厳重に封鎖された状態を続けている。

新型コロナウイルスだけではなく、中国の経済モデルがほぼ行き詰ってしまったことで、困難な年月が続くことが予想された。 増大する若い労働力を携え、WTO加盟の恩恵を受けながら容易に成長を遂げていた時期は、すでに過ぎ去った。 過去10年以上にわたり、中国は、経済に投入する信用とレバレッジを増やしてきたことで、成長率を次第に低下させてきた。 華融と恒大の失敗は、その明らかな証拠である。リーマンショック後の信用拡大について警告が発せられていたにも関わらず、中国指導部の最上層部は、2016年になるまで、メッセージを真の意味で理解していなかった。 それ以来、一連の信用拡大抑制が試みられてきたが、その結果は玉石混淆となっている。 中国恒大集団の凋落は、政府の「三道紅線」政策によって、多額の負債を抱えた不動産会社の資金調達力が大幅に制限されたことに端を発したと考えて間違いない。そうである以上、政策を変更し、信用拡大を図ればいいはずだ。 だが、指導部はあえてそうしないことを選んでいる。鶴崗のような都市はすでに債務に苦しんでおり、北京中心部、長江デルタ、広東省といった地域の外側においては、さまざまな州が、限られた歳入ではカバーしきれない負債を抱えているのだ。
これほど多くの経済的打撃を受けていながら、中国経済は全般的に順調に見える。それはなぜだろうか? 逸話的なストーリーに目を向ければ、企業に対する締め付けが広く支持されているように思われるだろう。 その一因となっているのが、政府による巧妙なメッセージの発信だ。   習近平氏は、党の覇権の下で中国を再生させるという壮大なビジョンを持っており、民間部門への締め付けを説明し正当化する「共同富裕」というスローガンを打ち出してきた。 国内の大手テック企業による独占または複占に対する取り締まりは、確かに国民の人気を集めた。ギグエコノミーの配達員の賃金と労働条件向上の必要性が認められたことも、同じく好評であった。 実際に先進国においても、そうした施策は、多くの人から歓迎されるはずだ。 テック企業や億万長者が多額の慈善的な寄付を迫られていることも、人気のある施策だが、中国において適切に機能する公平な税制度は導入できておらず、それらを補うものとはならない。

また、オンライン教育の取り締まりについても、教育サービスのプレッシャーとコストを嘆いていた親たちから歓迎されているが、根源的なプレッシャーがまったく変わっていないことについてはそれほど詳しく報道されていない。名門大学への入学試験や公務員試験の受験競争がなくなったわけではなく、一人っ子を成功させなくてはならないという親のプレッシャーも消えてはいない。 習近平氏は、問題そのものに取り組むのではなく、根本的な問題が示す症状を解消することに重点を置いてきたのだ。

そして中国共産党は、一人っ子政策を放棄した現在、低下が続く出生率を増加させるべく、各家庭が2、3人の子を持つことを望んでいる。 「共同富裕」は、家庭の金銭的負担を減らすことを目的としているが、その中身は希薄である。 不動産市場の締め付けについても、多額の支出なしに1部屋か2部屋ベッドルームを追加しようとする家庭にとって合理的な水準まで不動産価格を押し下げることはほとんどない。 アジアには、出生率の低下を覆すことに成功した国はいまだになく、習主席のギミックやスローガンでは、この点において中国に影響を及ぼすことは何も起こらないと思われる。

締め付けがもたらす遺産

現在のところメッセージが機能しているとはいえ、習近平氏による民間セクターの締め付けの影響は、長期的にはあまりポジティブなものにならないだろう。テック業界は、国内で最も優秀な人材を集めており、深圳は、中国全土でおそらく最高の都市となっている。 だが習主席は、インターネットプラットフォームタイプのテクノロジーを評価していないと思われる。世界最先端のチップの設計であれば大いに気に入るであろう彼にとって、オンラインゲームやサービスは、それが適切だと思えば規制できる便利な存在だ。 規制の変更は、現在も相次いでおり、いずれは、このセクターの魅力や国内の若者からの人気を押し下げることになるだろう。外資の反応に関して言えば、今もなお、2021年に被った様々な痛手に動揺している状況だ。外資は、2つの面で打撃を受けてきた。まずは、どのセクターが投資可能かであり、該当セクターの企業をどこで上場できるかという投資規制関連の問題だ。だがそれに続いて、ビジネス規制と言うべき第2の打撃が発生した。すなわち、党が成果を左右したい領域において、企業自体が希望どおりに成長することを、政府がはたして許すだろうかという問題である。

2021年は、中国のリスクプレミアムを有意義な形で是正すべき年であった。 国内企業にとっても、海外投資家にとっても、ゲームの規則が完全に変わってしまった現状では、過去はまったく未来への指針とはならない。 皮肉なことに、中国の株式や債券には、2021年も資金が集まり続けた。 中国の人民元は依然として厳しい資本統制と規制を受けているが、国内証券にアクセスする正式なチャンネルは十分にあるため、多くの投資家が中国への投資を拡大している。 だが、この資金は、入ってきたときと同様に簡単に出ていく可能性があり、中国の指導部には、短期の投資資金の流入が優れたビジネス環境の代わりになると勘違いしないことが望まれる。

そして2022年の焦点は間違いなく、習近平氏が党総書記として3期目を迎えると予想される、第20回党大会にある。 そのためには、あらゆる犠牲を払っても安定が必要であり、中国における安定は、統制によってもたらされる。 習主席が、規制による締め付け、企業への締め付けを緩めるとは絶対に予想すべきではない。 彼は、国家の支配に力を注ぐ人物だ。そして、当面のところは、何が起きようとも彼を止めることはできないと思われる。

フレイザー・ハウイー(Howie, Fraser)|アナリスト。ケンブリッジ大学で物理を専攻し、北京語言文化大学で中国語を学んだのち、20年以上にわたりアジア株を中心に取引と分析、執筆活動を行う。この間、香港、北京、シンガポールでベアリングス銀行、バンカース・トラスト、モルガン・スタンレー、中国国際金融(CICC)に勤務。2003年から2012年まではフランス系証券会社のCLSAアジア・パシフィック・マーケッツ(シンガポール)で上場派生商品と疑似ストックオプション担当の代表取締役を務めた。「エコノミスト」誌2011年ブック・オブ・ザ・イヤーを受賞し、ブルームバーグのビジネス書トップ10に選ばれた“Red Capitalism : The Fragile Financial Foundations of China's Extraordinary Rise”(赤い資本主義:中国の並外れた成長と脆弱な金融基盤)をはじめ、3冊の共著書がある。「ウォール・ストリート・ジャーナル」、「フォーリン・ポリシー」、「チャイナ・エコノミック・クォータリー」、「日経アジアレビュー」に定期的に寄稿するほか、CNBC、ブルームバーグ、BBCにコメンテーターとして頻繫に登場している。 // Fraser Howie is co-author of three books on the Chinese financial system, Red Capitalism: The Fragile Financial Foundations of China’s Extraordinary Rise (named a Book of the Year 2011 by The Economist magazine and one of the top ten business books of the year by Bloomberg), Privatizing China: Inside China’s Stock Markets and “To Get Rich is Glorious” China’s Stock Market in the ‘80s and ‘90s. He studied Natural Sciences (Physics) at Cambridge University and Chinese at Beijing Language and Culture University and for over twenty years has been trading, analyzing and writing about Asian stock markets. During that time he has worked in Hong Kong Beijing and Singapore. He has worked for Baring Securities, Bankers Trust, Morgan Stanley, CICC and from 2003 to 2012 he worked at CLSA as a Managing Director in the Listed Derivatives and Synthetic Equity department. His work has been published in the Wall Street Journal, Foreign Policy, China Economic Quarterly and the Nikkei Asian Review, and is a regular commentator on CNBC, Bloomberg and the BBC.