一、中国のデジタル人民元は、世界の通貨システムの革新をリードし、困難を打ち破りながら発展する
2020年4月16日、長らく計画されていた中国中央銀行のデジタル人民元は、ついに前例のない実現と進展を迎えた。これは、主権国家の通貨をベースとした世界初のデジタル通貨となる。最初の試験地域として蘇州が選ばれた。工商銀行、農業銀行、中国銀行、建設銀行の四大国有銀行は、デジタル通貨の方式で、政府職員の給与の一部を支払うことになる。すでに中央銀行デジタル通貨(DC/EP、Digital Currency / Electronic Payment)のデジタルウォレットをインストールし、テスト完了した。予定では、5月の給与の通勤手当の50%は、デジタル人民元という方式で、デジタルウォレットに支払うことになる。今後2~3年で、中国で流通しているM0(現金)の30%から50%は、中央銀行のデジタル通貨に置き替えられ全国での普及が期待されている。
2020年4月3日、全国通貨金銀及び安全保障業務テレビ会議において、トップダウンの設計を強化し、法定デジタル通貨の研究開発を着実に推進することが提案された。現時点で中国人民銀行は、すでに中央銀行が設計・保証・署名し、完全な暗号通貨を確立した。そして、デジタル通貨発行プールとデジタル通貨商業銀行プールという2つプールを設立し、通貨発行の認証、登録、そしてビッグデータ分析と3つのセンターを設立した。これらのプールとセンターが中央銀行暗号デジタル通貨の発行管理とサービスを担当している。中央銀行の長期的戦略目標としての人民元のデジタル法定通貨の研究開発は、重大な意義がある。中国の学者の多くは、中国人民銀行が発行するデジタル法定通貨は、民間企業のデジタル通貨、例えばFacebook社のリブラより発展の余地があり、世界の通貨システムに広範囲かつ革命的な影響を与える、と考えている。
二、人民元法定デジタル通貨の導入は、世界の通貨システムの変革に対して、画期的な意義と長期的な影響を与える
表面的に見ると、デジタル人民元の発行は、そこまで驚くべきものではなく、ただ紙幣の発行をデジタル通貨に置き替え、紙幣(M0)を発行、印刷、保管、流通するコストを節約することだけに過ぎない。しかし、人民元のデジタル法定通貨を発行する戦略的意義は、決してこれだけではないことは、明らかである。
1. バタフライ効果
周知の事実として、現在の世界通貨体系は、ドルが覇権を握っている。近年では、世界の中央銀行が保有する外貨準備におけるドルのシェアが減少し続けているが、依然として62%のシェアを占めており、独占している。歴史的に見ると、ドル覇権に挑んできた円とユーロは、ドルに完膚なきまでに叩きのめされた。旧ソ連は冷戦終結の後、民営化が始まり、ドル/ルーブルのレートは1991年の1ドル0.9ルーブルから、2000年の1ドル28000ルーブルに暴落し、そして1992年ロシアの年間インフレ率が2,000%に達した。石油のためにアメリカと対立したベネズエラは、2018年のインフレ率は80,000%を超え、物価は1ヶ月ごとに倍増し、自国通貨ボリバル・ソベラノも96%値下げする羽目になった。世界は長い間ドル覇権に苦しめられている。
世界諸国における中央銀行が保有する外貨準備の人民元の割合は2%しかない。人民元という小さなさなぎは、デジタル化によって蝶となる。そして、もし世界諸国はこれを機に独自のデジタル通貨を導入し、そのか弱い翅を羽ばたかせれば、それがもたらす「バタフライ効果」は必ず世界の通貨システムにハリケーンのような衝撃的影響を与えることになるだろう。
来るべきデジタル通貨戦争に備えるために、世界中の国々がブロックチェーン技術を積極的に研究している。2017年9月、日本ソフトバンクグループとアメリカの通信業者が、キャリア・ブロックチェーン・スタディー・グループ(CBSG)を設立した。同じ2017年9月、スイスのスイスコム社もブロックチェーン技術サービスを主要業務とする子会社Swisscom Blockchain AGを設立した。2019年5月、インドのバーティ・エアテル社はIBMと提携し、ブロックチェーンベースのインドネットワークを建設した。2019年9月、アメリカのベライゾン社がブロックチェーンの上で仮想SIMカードを作成する特許を取得した。2019年10月、B2BブロックチェーンプロバイダーClear社がドイツテレコム社、ボーダフォン社、テレフォニカ社と提携し、ブロックチェーンに基づくデータローミング実験を行った。2020年1月、スペインのテレフォニカ社が現地のハイテクパーク協会(APTE)と協力し、スペインの約8,000社に対してブロックチェーン接続サービスを提供し始めた。2020年2月、ドイツテレコムが米T-Mobile US社、テレフォニカ社、Orange S.A.社、GSMアソシエーションと協力し、ブロックチェーン技術を通信業者間の通信プロトコルに応用する試験を行った。韓国KT社はクラウドに基づくBAASプラットフォームを開発した。もっともデジタル人民元に迫っているのはFacebookで、2020年4月16日、中国がデジタル法定通貨を発行するとほぼ同時に、リブラがスイス金融市場監督局(FINMA)に決済システムのライセンスを申請した。実際、多くの国と企業が、ブロックチェーン技術のエコロジー発展を探求し、促進し、ブロックチェーンの基盤となるプラットフォームを構築しているのは、デジタル通貨戦争に参加するためだ。
2、SWIFT決済システムへの影響
国際銀行間通信協会(SWIFT)は、金融機関同士のセキュリティ通信サービスとプロトコルを提供する決済システムである。すでに世界206ヶ国と地域の8,000以上の金融機関が加盟し、80以上の国と地域のリアルタイム決済システムをサポートし、あらゆる国際決済はSWIFTを通じて行われている。中国銀行は1983年にSWIFTに参加した。SWIFT決済システムはドル覇権を維持するための重要なツールであり、世界中の通貨流通と国際金融決済の中心である。しかしデジタル人民元の根底にあるブロックチェーン技術は、非中央集権型(分散型)を特徴とし、この決済システムをバイパスし、アメリカ主導の金融システムの束縛から脱却する可能性を秘めている。デジタル人民元に触発され、各国通貨のデジタル化は、次々と行われるであろう。
一方では、デジタル通貨の新しいルートを作り、人民元グローバル化の飛躍的な発展を実現できる。中国はその国際政治・経済影響力を利用し、国際組織と他の国の中央銀行と協力し、デジタル人民元と他の国のデジタル法定通貨をもとに、統一価格と取り引きを行うことができる。デジタル人民元の国内の3つのセンターの他に、もう一つ海外決済センターを設立し、オフショア人民元の清算とサービスを提供し、積極的に国際準備通貨と決済通貨の重要な役割を担い、国際経済の活性化に一役買うことができる。
もう一方では、デジタル人民元は、他の主権国家のデジタル通貨とともに、デジタル人民元を中心とし、「一帯一路」諸国のデジタル通貨を主体とする国際準備通貨と決済の周辺システムを構築することができる。さらにドル中心の伝統的なSWIFT決済システムと、人民元中心とし、「一帯一路」諸国を主体とする周辺決済システムが両立する国際通貨体制を確立するための条件を提供する。
もちろん現時点でドルは国際貨幣システムの主要な準備通貨であるが、金融危機の後、特に今回の新型コロナウイルス流行の後、FRBが導入した無制限量的緩和は、世界中の流動性過剰をもたらし、各国の利益を損なうのみならず、ドルの信用を著しく損なうことになった。これは、客観的に他の主権国家のデジタル通貨の発行を促進し、アメリカ以外の主権国家がドル覇権に対抗するために団結するのを助長している。千里の道も一歩からという言葉があるが、現在のデジタル人民元は、まだちっぽけな力でしかないが、もしたくさんの国の弱い法定通貨が団結し、脱ドル化の流行に順応すれば、まさに世界通貨に大きな変革をもたらすことすらできるであろう。
デジタル人民元の発行は、人民元グローバル化と世界通貨の大きな変革の始まりであり、長い道のりの始まりに過ぎない。「合抱之木、生於毫末、九層之臺、起於累土(大きな木も小さな若枝から成長する。九重の塔も一つの小さなかたまりからつくられ始める。)」(老子道徳経第64章より)。デジタル人民元はすでに船出をしているので、グローバル化の目標にたどり着くのも時間の問題であろう。21世紀のグローバル金融エコシステムは、従来の量的変化を質的変化へと切り替え、その勢いを止めることはできない。
3、世界の通貨の「三つ鼎」体制は不可能ではない
上の図は、国際決済における主要通貨のシェアである。現時点国際決済はドルが4割、ユーロが3割で、2つの通貨が7割を占めている。それに対して、人民元決済の割合は2%未満でしかない。一方、これはドルとユーロの強い地位を示しているが、他方で、人民元の地位は、世界第2位の経済大国に極めて不釣り合いであり、人民元のグローバル化はまだ長い道のりが残っていることを示している。上の図が示すように、ドルとユーロ以外の、他の国際決済通貨が連合すれば、ちょうど「三つ鼎」の世界通貨体系を形成できる。現時点、ドルとユーロは強大な実力と揺るぎない地位を持っている。中国がデジタル人民元グローバル化を推進する具体的な道筋は、ASEAN、アフリカからはじめ、「一帯一路」の全ての国に拡大し、最終的にユーロと連合して、ドルの覇権を徐々に揺るがすことになるのではないか。もちろん現時点では、様々な困難が立ちはだかっており、まだ可能性は低いが、不可能なことではない。中国の努力の精神は、1%の可能性さえあれば、100%の努力をすることにある。それはまさに「路は漫々として其れ修遠なり 吾将に上下して求め索ねんとす(道は遠くてつらいものだが、できる限りの努力で道を模索していく)」(屈原『離騒』より)の精神である。
三、「新型コロナウイルス肺炎流行」による影響の分析
新型コロナウイルス肺炎の流行は、中国にデジタル通貨導入の必要性を強く自覚させ、一刻も早く実現させなければならないという思いを強化したが、しかしその実現のための実践に関しては、皮肉なことに誰もが仕事をすることができなかったため、逆に時間的にはやや遅くなるのを余儀なくされた。
中国人民銀行のデジタル通貨ウォレット試験は、バーコード決済、振り込み、決済、タッチ決済という4つの一般的な機能を搭載している。理論的に、デジタルウォレットはNFC(Near field communication)、すなわち近距離無線通信に基づいている。つまり2人の携帯電話にDC/EPのデジタルウォレットをインストールしていれば、ネットワークにつながる必要はなく、2つの携帯電話がタッチすれば、デジタル通貨を片方のデジタルウォレットからもう片方のデジタルウォレットに転送することができる。それに対して、AlipayとWeChat Payはインターネットと銀行カードに基づいているので、ネットが繋がらない、もしくは銀行の許可がないと取り引きができなくなる。そういう意味では、第三者の介入が必要ないデジタル通貨のデジタルウォレットに軍配があがるであろう。しかしながら、すでに人々が慣れ親しんでいるAlipayとWeChat Payと比べると、デジタルウォレットは新しいものであり、その普及には時間が必要だろう。さらに今回のコロナウイルスの流行により、都市を封鎖し、道路を遮断し、中小企業、特にサービス業が全て休業になり、試験期間の延期と試験範囲の縮小をせざるを得なかった。それに対して、デジタルウォレットと競争関係にあるAlipayとWeChat Payの利用率は、コロナウイルスの期間大幅に上昇し、デジタル通貨の実施を妨げていたといえる。
次に、今回中国が最初にコロナウイルスの流行に遭い、そして最初に流行を脱却したことは、利用できる物資、コロナウイルス対策のノウハウを「一帯一路」の他の国に提供することになり、デジタル人民元のグローバル化に有利な機会と条件を作りだしている。
今回のコロナウイルスの流行を、デジタル人民元のグローバル化への新しい道筋とチャンスに変えることができる。これまでの人民元グローバル化は、主に資本市場を発展させ、人民元資本プロジェクトを開放することによって、オフショア人民元市場を拡大し、シルクロード基金とAIIBの力を借りて、オフショア人民元の流通規模の拡大を後押しする方法を取っていた。中国銀行を例に挙げると、中国銀行はすでに海外57ヶ国・地域に支店を構え、人民元のクロスボーダー決済も、初期の細々とした国境貿易決済から今では全面的な展開へと大幅に発展している。経常収支から資本プロジェクトまで、貿易投資から金融取引まで、銀行の法人事業から個人事業まで、簡単な業務から複雑な業務まで発展し、人民元のグローバル化に大きく貢献してきた。
「一帯一路」諸国との緊密な協力関係を築くことを機にデジタル人民元を発行することは、「一帯一路」諸国の、平等で、相互協力であるウインウインな世界通貨清算システムを作ることを可能ならしめる。中国は、対外投資を担当する「一帯一路」デジタル中央銀行を設立することができるのだ。そしてこのシステムの中核である中国は、国家信用に基づいたデジタル人民元の価値を安定させるとともに、デジタル通貨の資本供給と「一帯一路」諸国の経済発展を支援するという責任を負わなければならない。
将来的に、「一帯一路」沿線国は、「決済→投資→蓄蔵」というステップを踏んで発展することができる。まずはデジタル人民元を使って価格設定と決済を行い、次にデジタル人民元の資本供給と通貨スワップを増やし、最終的にデジタル人民元を資産・価値貯蔵の手段として利用する。「一帯一路」がカバーする範囲内で、デジタル人民元の通貨流通と慣習を形成し、「一帯一路」諸国の新しい国際通貨の需要を満たし、彼らの経済発展を促すことになると結論付けることができる。
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