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習近平緊急会議の背後に「武漢赤十字会の金銭癒着」
2020年2月4日
武漢協和病院の医療スタッフ
武漢協和病院の医療スタッフ(提供:新華社/アフロ)

武漢赤十字会が、新型肺炎患者が最も多い武漢の指定病院・協和医院に全国から集まった物資や献金を渡していなかったことが判明。背後に金銭癒着がありネットが炎上。習近平を緊急会議開催へと追い込んだ。

日本の「習近平指導部、対応の誤り認める 新型肺炎で初動に遅れ」という報道は不正確。

◆武漢赤十字会(紅十字会)で何が起きたのか

武漢赤十字会(中国語では紅十字会)には各地からマスクなどの医療物資や献金が集まっているが、医師や看護婦などを含めて8000人もの従業員がいる協和医院には3000枚しか配布されておらず、肺炎患者治療に関して指定されていない小さな特定の二つの私立病院に3万6000枚のマスクが配られていた。このことを知った中国のネットユーザーは激しく炎上。

まず何が起きたのかを見てみよう。

1月23日に武漢が封鎖されると、武漢市のいくつかの医院が新型コロナウイルス肺炎患者を治療するための医院に指定された。その中で最大の医院が協和医院(正式名:華中科技大学同済医学院付属協和医院)である。700ベッドあり、医者や看護婦を含めて8000人ほどの従業員が患者の緊急治療に当たっている。

ところが23日から29日にかけて協和医院が医院や医者個人の名義で、朋友圈、Wechat、Douban、学習強国など様々なところにマスクや医療用防護服などの物資不足を訴えたり、寄付を求めたりする声を発信してきた。

実はこの日までに中国国内外から多くの支援があり、海外の華人華僑からだけでも5622.8万個のマスク、73.8万着の医療用防護服が届いており、そのほとんどは湖北省、特に武漢に集中的に送られている。

それなのになぜ医療物資が不足しているのか不思議だと、中国共産党機関紙「人民日報」のウェイボーも1月30日17:28に武漢協和医院の訴えを転載している。転載された元の訴えはここにある。これは1月30日12:29に武漢協和医院神経科の医師「Do先生」が発信したものだが、それが削除されたので、ダウンロードしてあった訴えを再掲載したものである。大至急、「防護服3000着、医療用95型マスク5000個、外科用マスク8000個…」などが必要で、協和医院にはもう防護服もマスクもなく、一刻の猶予もないので緊急に助けて欲しいと書いてある。

事態の展開に慌てた湖北省赤十字会(紅十字会)は1月30日、新型肺炎発症後第1回の支援物資や支援金に関する使用状況を発表した。

それによれば、なんと、指定病院の協和医院は新型肺炎発症以来、3000個のマスクの配給と1万2千元(1元 = 15.46円)の献金しか受けておらず、武漢市の仁愛医院と天佑医院にのみ、それぞれN95型マスク1.6万個と36万元を寄付したとのこと(後に1.6万個ではなく1.8万個であったと訂正。したがって合計3万6千個のマスク)。仁愛医院の従業員は協和医院の従業員の10分の1にも満たず、また美容整形とか婦人科、不妊治療あるいは性病関係などを扱うことで名が知れた病院であって、新型肺炎治療とは何の関係もない民間病院でしかない。

しかも協和医院に送られたマスクと献金は、武漢赤十字会からではなく、陝西省の韓という女性からの寄付であった。

1月31日になると武漢赤十字会が新型肺炎発症以来、第1回の援助物資に関する明細を発表した。武漢市には合計61の病院が指定医院になっているのだが、1月30日までに支援物資を配布した病院数は13であるとのこと。

中国政府の通信社である新華社通信によれば、30日までに武漢赤十字会はすでに「6.0808億元、9,316箱のマスク、74,522着の防護服、80,456個の医療用ゴーグルおよびその他の薬品や医療器械」などを受け取っているという。

その金と物資はどこに行ったのか?

協和医院の関係者によれば、武漢赤十字会の援助物資や献金などの配布先一覧表の中に、そもそも協和医院の名前がないという。

以上の情報の主たる内容は比較的リベラルな(習近平政権以前は非常にリベラルだった)「南方人物週刊」に書いてある。

また2月1日16:18には、協和医院の看護師が鳳凰網新聞センターの「正面FACE」に語った音声がウェイボー(微博、weibo)で発信された。鳳凰網による看護師への取材動画はこちらでも観ることができる。削除される可能性があるので、念のため複数ご紹介しておく。

看護師が何を訴えたのかに関して、以下に概略を記す。

  • 協和病院には医療用防護服が、もう1着もないのです。
  • ニュースを見て、数万のN95マスクが武漢紅十字会(赤十字会)に届いていることを知りましたが、私たちのところ(協和病院)に届いたのは3000枚の普通のマスクでした。協和病院には8000人の職員がいるのに、3000個のマスクで足りるはずがありません。
  • 看護師長によると、紅十字会に物資を取りに行くときは、協和病院だと言わないようにしないとなりません。協和医院だと言ったら、物資をくれないのです。なぜなのか、理由は分かりません。
  • 協和病院は武漢で最初にコロナウイルス患者を受け入れる病院として指定されました。それなのに防護服がないので、協和病院西院ではゴミ袋で防護服を作って働く写真を見たということです。それが本当かどうかは分かりませんが。

これ以降、中国大陸のネットは炎上したのである。

◆なぜこのようなことが起きているのか?

協和医院の看護師長でさえ、なぜだか分からないと言っているので、ここからは推測的な考察となる。

まず考えられるのは、1月24日付のコラム「新型コロナウイルス肺炎、習近平の指示はなぜ遅れたのか?」で以下のように書いた。

――1月19日に中国政府のシンクタンクの一つ中国工程院院士(博士の上のアカデミックな称号)である鐘南山氏率いる「国家ハイレベル専門家グループ」が武漢市の現状視察にやって来た。そこで現状を把握した一行は、その日の内に北京に引き返し、中央に報告したという。こうして習近平の知るところとなり、20日に習近平が「重要指示」をやっと発布することになったわけだ。

この時に鐘南山院士が視察した先が武漢一の病院である協和医院だった。

そこで「人‐人」感染があることを知ったのだ。

実は協和医院の脳神経外科が1月7日に趙軍実という患者の外科手術をした。このとき趙軍実氏は新型コロナウイルスに感染していたらしい。しかし武漢市はまだ新型コロナウイルス肺炎の事実を公けにしていないので、脳神経外科の医者たちは認識していなかったようだ。ところが1月11日になって、患者が原因不明の肺炎に罹り、15日になると、その病原菌が新型コロナウイルスだと診断された。この患者によって、手術や治療に当たった14人の医者・看護師が新型コロナウイルス肺炎に罹ってしまったという。

趙軍実の感染源は武漢市の海鮮市場である可能性が高いが、手術や治療に当たった医者や看護師たちは誰一人海鮮市場には行っていない。つまり野生動物に直接接触はしていないのである。全員、患者である趙軍実から感染したことになる。

医者たちなので、新型コロナウイルスは「人‐人」感染することを自ら確認した。

鐘南山はこの協和医院に視察に行ったのだから、武漢で流行している肺炎は「人‐人」感染をする重要な証拠をつかんで、「これはまずい!」というので北京にとんぼ返りし、習近平に重大事態だと報告したわけだ。

これにより習近平が「重要指示」を全国に出したので、武漢市政府と湖北省政府は、「協和医院」を恨んだということになる。これは勝手な推測ではなく、武漢市の周先旺市長自身が、協和医院の14名の医療関係者が感染したことに言及しているし、また大陸の少なからぬサイトがこのことを取り上げている。

たとえば1月21日に中央テレビ局CCTVの取材を受けた時に武漢市長はこのことに触れているし、また「財新」というサイトも、このことに触れている。

特に武漢市の市長がCCTVの取材の際に「協和病院の脳外科がこの患者に対して入院前に新型コロナウイルスに感染しているか否かを確認しなかったのがいけないのだ」と言っている。つまり、協和病院の脳神経外科の不注意がこの一連の感染の原因だと批判しているわけだ。武漢政府はそれまで「人‐人」感染はないとして、「十分にコントロールはできている」と偽装工作していたため、それがばれたので、協和医院のせいにしようとしているのである。

しかしCCTVの記者はひるまず、「それならあなたはなぜ1月19日に万家宴などという大宴会をやったのですか?」としつこく追い込んでいる。それに対して武漢市市長は、「いや、あれは、昔からある庶民の習慣なので…」などと弁解しているのである。

◆仁愛医院と湖北省政府幹部との金銭的癒着

さらに一党支配体制を揺るがすようなことが起きていた。

いつものことながら、ここまでの事態に立ってもなお、金銭癒着が背後でうごめいていたのである。

2月1日、独立真相調査報告「黒夜研究室」なるものが武漢赤十字会に関してさらなる真相を暴いた。その結果が多維新聞に出ている。

それによれば「仁愛医院の大株主は湖北省政治協商会議の委員だ」ということである。

また仁愛医院は湖北省赤十字会や武漢赤十字会と2012年から2019年の間に何度も協力イベントを開催したことがある。

北京の新京報網によれば、このイベントは「不妊治療」に関するもので、湖北省赤十字会と、このたびマスク1.6万個(のちに1.8万個と訂正)が配られた武漢の仁愛医院および天祐医院は、湖北省の不妊治療イベントで多くの資金を提供したという。

おまけに湖北省赤十字会の会長は湖北省の副省長で、金にまみれた背後関係がうごめいている。湖北省政府と武漢政府は赤十字会を通して美容整形や不妊治療あるいは性病治療などの分野で仁愛医院と天祐医院の二つの民間医院と金でつながった関係にあった。そこにはさらに別のマスク製造民間企業との持ち株などに関する利害関係が複雑に絡んでいる。

◆習近平が緊急会議!

武漢赤十字会の、あまりに驚くべき実態にネットが炎上しているため、北京にある中国赤十字会の代表団が2月1日、武漢を視察した。人民網やその傘下の環球時報の電子版である環球網などが伝えている。

しかし、そのようなことで事態が収まるはずがない。

2月3日、習近平・中共中央総書記をトップとする「チャイナ・セブン」(中共中央政治局常務委員会委員7人)は会議を開催し、新型コロナウイルス肺炎に対する中央の領導小組(指導グループ)から事情を聴取し、現況に関する討議を行った。

その結果、習近平は厳しく現状を批判し、概ね次のように述べている。

――このたびの感染は我が国の統治システムと能力に対する大きな試練だ。対応策の中で露呈した数々の弱点を改善しなければならない。経験から教訓を学び、一層の検証を行い改善せよ!*注記(文末)

これに関して例えば「北京共同」が「初動対応の遅れに対する国民の強い不満を無視できなくなったとみられる」と書いているためなのか、日本メディアは一斉に、あたかも「習近平が謝罪した」ようなことを報道しているが、原文のどこに「初動の遅れ」や「謝罪」などと書いているだろうか。

この緊急会議は武漢赤十字会のスキャンダルに対して緊急開催されたものである。

だから日本の報道は「なぜか、突如」と、その理由が分からず「きっと初動対応が遅れたからなのだろう」と推測しているだけで、一つ一つのファクトの検証を行っていないように思われる。

そのようなことをしていたら、「習近平を国賓として招聘すること」同様、それが如何に間違った選択であるかを判断する力をも鈍化させる。注意を喚起したい。

*注記:長すぎるので控えたが、習近平は特に「中でも湖北省と武漢は重点中の重点だ」とも述べ、「医療防護物資の供給を保障せよ」と強調している。さらにまったく「謝罪」とは無関係である証拠に「今年の経済社会発展の目標達成に努力せよ」とも檄を飛ばしている。日本は一律「自分が見たい方向」にニュアンスを勝手に変えて報道している。「希望的観測」という主観で客観的事実を捻じ曲げると真実は見えなくなる。それは結果的に日本の国益を損ねる。

(本論はYahooニュース個人からの転載である)

遠藤 誉
1941年中国生まれ。中国革命戦を経験し1953年に日本帰国。「中国問題グローバル研究所」所長。筑波大学名誉教授、理学博士。中国社会科学院社会学研究所客員研究員・教授、北京大学アジア・アフリカ研究所特約研究員、上海交通大学客員教授などを歴任。著書に『ポストコロナの米中覇権とデジタル人民元』(遠藤 誉 (著), 白井 一成 (著), 中国問題グローバル研究所 (編集)、実業之日本社)、『激突!遠藤vs田原 日中と習近平国賓』(遠藤誉・田原総一朗 1月末出版、実業之日本社)、『米中貿易戦争の裏側 東アジアの地殻変動を読み解く』(毎日新聞出版)、『「中国製造2025」の衝撃 習近平はいま何を目論んでいるのか』、『毛沢東 日本軍と共謀した男』(中文版・韓国語版もあり)、『チャイナ・セブン <紅い皇帝>習近平』、『卡子(チャーズ) 中国建国の残火』(中文版・英文版もあり)、『チャイナ・ジャッジ 毛沢東になれなかった男』、『チャイナ・ナイン 中国を動かす9人の男たち』、『ネット大国中国 言論をめぐる攻防』、『中国動漫新人類 日本のアニメと漫画が中国を動かす』『中国がシリコンバレーとつながるとき』など多数。 // Born in 1941 in China. After surviving the Chinese Revolutionary War, she moved to Japan in 1953. Director of Chinese Issue Global Research Institute, Professor Emeritus, Doctor of Science at the University of Tsukuba. Member of the Japan Writers Association. She successively fulfilled the posts of guest researcher and professor at the Chinese Academy of Social Sciences. Her publications include “Inside US-China Trade War” (Mainichi Shimbun Publishing), “’Chugoku Seizo 2025’ no Shogeki, Shukinpei ha Ima Nani o Mokurondeirunoka (Impact of “Made in China 2025” What is Xi Jinping aiming at Now?), “Motakuto Nihongun to Kyoboshita Otoko (Mao Zedong: The Man Who Conspired with the Japanese Army),” “Chazu Chugoku Kenkoku no Zanka (Japanese Girl at the Siege of Changchun) (including Chinese and English versions),” “Net Taikoku Chugogu, Genron o Meguru Koubou (Net Superpower China: Battle over Speech),” “Chaina jajji — Motakuto ni narenakatta otoko (China Judge: The Man Who Couldn’t Become Mao Zedong),” “Chugoku Doman Shinjinrui: Nihon no Anime to Manga ga Chugoku o Ugokasu (The New Breed of Chinese “Dongman”: Japanese Cartoons and Comics Animate China),” “Chugogu ga Shirikonbare to Tsunagarutoki (When China Gets Connected with Silicon Valley),” and many other books.