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行く手には困難な年月が待ち受けるのみ
2019年12月31日
霧の中の上海超高層ビル 上海タワー(左)、ジンマオタワー(上)、上海ワールドファイナンシャルセンター(右)
霧の中の上海超高層ビル 上海タワー(左)、ジンマオタワー(上)、上海ワールドファイナンシャルセンター(右)(提供: ロイター/アフロ)

2019年は、米中関係にとって極めて重要な年として幕を下ろしそうである。年末が近づき、香港では比較的穏やかな数週間が続いており、米中両国は貿易協議の第1段階の合意に達したと主張しているが、詳細が述べられた文書はいまだに公表されていない。しかしこの年末の静けさを広範な米中衝突終結の兆候であると考えるべきではない。それは、せいぜい短い休戦にすぎないのだから。解決されたものは何もなく、2020年代始まりの年は、いまよりもずっと不安定なものとなる可能性が高い。

中国にとっては、今年は輝かしい年であり、中国国家活性化に関する習近平国家主席の壮大な計画も実に順調に進んだといえる。しかし1年が経過するにつれ、習近平国家主席にとって特に4つの分野が暗礁に乗り上げた。国内経済は引き続き減速しており、2019年の株式市場は世界でも最高レベルのパフォーマンスを見せたものの、債務不履行の増加が大幅なコスト負担をもたらし、中国は抑制できない信用拡大によって長年にわたって支払いを行うこととなった。米国との貿易や経済関係の悪化、また中国の不公正な慣行に疲弊した他の国々との関係悪化が、一層明確となってきた。香港の容疑者引き渡し条例に対する抗議活動は、その継続期間と激しさで人々を驚かせた。また重要なこととして、中国が百万人を超えるウイグル人を不法に収監している新疆ウイグル自治区の収容所が、新聞の一面を飾るニュースとなり始めている。中国は、あらゆる面で劣勢となっていた。

同国経済は2019年に6%強程度成長するだろうと、中国政府が発表している。こうした数値を信じる人は少なく、実質成長率はこれを下回っており、しかも中国国内の成長率は省によって極めて不均衡に分かれている。中国にとって重要なことは、過去10年間の大半において、成長が信用の大幅な拡大によって支えられてきたことである。習近平国家主席は、ようやく信用拡大を抑制する必要性を認識したが、その裏側では債務不履行が増加している。同国経済のさまざまな部分で資金が枯渇しているためだ。民間部門は信用による資金の枯渇によって大きな打撃を受けているが、この1年は豊かであるはずの天津市の国有企業の債務不履行とともに終わることとなった。天津は、中国の中でも富裕な都市と思われているが、最大の債務負担を抱えている都市の1つでもある。政府系の商品取引事業者である天津物産の破綻は、アジア通貨危機の頃の広東国際信託投資公司(GITIC)以来の国有企業による債務不履行であった。この破綻は、最も楽観的な投資家たちにさえ、中国における債務状況がいかに厳しいものであるかを思い知らせたにちがいない。簡単な、またはより優れた選択はなく、痛みを伴わない解決法も存在しない。返済能力のないプロジェクトや企業にあまりに多額の資金が貸し出されてきた。多くのセクターで、債務不履行が引き続き起ころうとしている。せいぜいできることといえば巧妙な会計や財務の粉飾だが、それにも限度がある。中国における過去の不況時とは違い、現在の金融システムならびに相互保証とローンとが互いに絡み合った複雑な状況においては、ある企業の破綻が多くの一見関連がないように思える他の企業やセクターに影響を与える連鎖反応へとつながる可能性がある。

仮に債務不履行が大した懸念でないとしても、豚肉価格の大幅な上昇は見過ごせない。中国は、アフリカ豚コレラによって養豚数のおそらく半分以上を殺処分している。劣悪な畜産環境、否認と腐敗の文化が、豚コレラが政府報告書よりも急速により広範囲に広がっているという状況を招いている。この脅威は、中国が健康への打撃についていかに脆弱かを示唆している。人や動物を問わず同国の医療制度は過剰拡大しており、迅速かつ明確な情報が問題解決に不可欠なときであっても、現実否認のシステムのなかで運用されている。1990年代の汚染血液による献血や2003年のSARSで見られたような否認や隠蔽が、2019年の豚コレラでもすっかりお馴染みとなっているようである。

貿易戦争はどうやら休戦中であり、今週には、中国が米国からの大豆購入を再開した。第1段階で合意された項目は、農産物購入の拡大、市場アクセスに関する追加の取決めおよび一部の関税の引き下げなど非常に限定されている。交渉の取り組みに見合ったものとは到底思えない。やらなくてはならないことは依然として多くあり、貿易戦争は貿易よりもはるかに大きな問題になり始めている。米国の集票組織全体が反中に変わっており、すべての分野に拡大するのではないかとの懸念が高まっている。実際、第1段階の合意について、一部の民主党議員と共和党議員は中国へのおもねりだとして非難している。反中感情は依然として根強い。

この数か月間、世界の関心は、外部の人間を畏怖させ驚嘆させた香港の抗議活動に向けられていた。百万人が通りに集まって平和的抗議活動を行い、翌日には戻ってゴミを片づけたが、香港政府が民衆の要求に目を向けず耳を傾けずであったため、数週間以内に、暴動、催涙ガスや大規模な混乱が常態化し始めた。警察による残忍な行為が世界中に生中継で配信されたが、香港政府は、明らかに行き過ぎた行為に関して独自調査を検討することさえ拒否した。

抗議活動開始から6か月が過ぎ、不満が収まる気配はみられない。11月に起こった大学への包囲攻撃から1週間後に区議会議員選挙が実施されたが、抗議活動派や野党に地滑り的勝利をもたらした。選挙後には抗議活動は自然に休止したが、闘争は今後数年間続くであろう。こうした最近の抗議デモは端的に、中国政府による香港の自由への介入の高まりに対する過去15年間にわたる抗議活動の最新版であるといえる。抗議活動、多数の不必要な暴力、区議会議員選挙結果の成功、米国議会による香港人権・民主主義法案の可決およびトランプ大統領の署名による香港人権法の成立がみられた数か月間が過ぎて、香港はかつてないほど世界の注目を集め、中国政府の対応はすべての国にとって関心事となっている。中国政府は、いつものように、香港の問題は完全に国内の出来事であると主張するだろう。しかし、中英連合声明は国連への登録で発効した条約であり、香港が中国とは別個に自立して貿易を行う地位を維持できるようにするために中国自身が請願したものであるという事実がある。中国政府がいかに嫌がろうと、香港は世界的な関心事である。

新疆ウイグル自治区における180万人にのぼるイスラム教徒のウイグル人に対する不法拘束が世界的に知られることとなり、緩やかに抗議の声が高まっていることで、中国共産党支配の負の側面やインターネットを使った監視への懸念が浮き彫りになった。中国共産党は、モスクの破壊ならびに言語や宗教的自由に制約を設けて、長年ウイグルの文化を根絶してきたが、収容所を設立し、子どもたちやその親たちの姿が消えてしまったことで、いったい何が起きているのかと世界中の注目を集めることとなった。中国政府は、新疆ウイグル自治区における方針は、テロと急進主義を撲滅するために策定されており、ウイグル人による数件の攻撃があったと主張しているが、ウイグル自治区内の圧政の高まりという観点で語る必要がある。中国政府は当初、収容所の存在すら否定していたが、後に、それらは人々に有益な生活スキルを教えるための職業訓練校であると主張を改めた。しかしそれらの施設は、有刺鉄線のフェンスに囲まれ、周囲をパトロールする武装した警備員がいて、ハイテク技術の顔認識があり、外部の家族、友人あるいは弁護士とも交流できない収容所である。

中国政府は依然としてその行動を正当化しているが、何が起きているのかということについての認識や、中国共産党が自国民をどのように扱い、どのように統制しているかについての理解が高まっている。香港の抗議活動家たちは、中国政府による香港への介入に抗議する際、しばしば新疆ウイグル自治区で見られる国家による監視について提起している。こうした比較は無理なこじつけにみえるかもしれないが、状況を見極めようとする人たちにとっては、新疆ウイグル自治区で行われている大規模な人権侵害について疑う余地もない。

これらの問題が消え去ることも、またすぐに解決されることもないだろう。貿易戦争は基本的に、2つの異なる体制による対立である。中国政府は、自国の有利となるように、不当かつ大規模に世界的貿易ゲームに興じている。補助金によってすべての業界を構築しており、そのために国外の競合企業を阻害している。中国政府は外国企業の買収に手を伸ばしているが、外国企業に対しては中国での買収は制限するか、または市場アクセスを完全に規制している。こうした不均衡な交流が、かなり長い間経済関係にきしみをもたらしてきた。しかし貿易戦争もまた、貿易を超えた中国に関するさらなる問題を提起している。資本戦争と、企業を買収するために使われる米国の資金が新疆ウイグル自治区における抑圧を可能にしていることに対する米国内での懸念が、来たる年にますます焦点となりそうである。

新疆ウイグル自治区と香港、ひいては台湾にとっては、これらの問題の解決には、中国共産党支配の性質を全面的に変更することが必要となるようだ。中国共産党は、統制、党への忠誠、党が適切と考える行動への同調を重視している。新疆ウイグル自治区も香港も、中国共産党の枠組に合致していない。これらの社会では異なった運営がなされており、中国共産党が評価するものとは異なる価値観が存在する。中国共産党がすぐにでもその根本的性質を変えるであろうと考えるに足る根拠はない。実際、習近平国家主席は、その全面的な支配の方法において完全な中核となる強い国家を構築するという名目の下に、党への忠誠を求めている。

では、各国はどのように中国に対応すべきであろうか。中国とのデカップリングおよび完全な離脱は、実行可能な選択肢なのか、または望ましい選択肢なのか。端的に言えばノーである。中国は要するに無視するには大きすぎる国であり、無視することによって問題や悪習が消え去るわけでもない。むしろ、先進国と途上国が必要であれば中国を非難するとともに、実情を反映した現実的な方法で中国と関わることが重要である。習近平国家主席は、日本、米国または欧州各国でファンファーレと国賓待遇によって歓迎されるべきだろうか。「すべきでない」が答えである。数百万人が不当に収監されているこの時期に習近平国家主席を歓迎すれば、我々自身の価値を犠牲にすることになる。中国との紛争は望ましいものではいが、強固で誠実な対話は望むべきだ。あまりに長い間、実業家、政治家、大学総長およびその他のお偉方は、中国に対して、彼らの聴きたい話ばかりをして、彼らが聴くべきことについては語ることはなかった。そんな時代はそろそろ終わりにすべきである。

新たな10年間が始まり、中国は、経済と社会のすべての側面で良くない状態にある。以前よりもはるかに大きく、豊かで、自信に満ちていることは疑いないが、実際の弱さを隠している。人口統計でみると、中国は酷い状況にある。就労人口の減少を伴う急速な高齢化によって、中国は世界最大の高齢者介護国となるだろう。日本は高齢化以前に豊かさを獲得していたかもしれないが、中国にはそのような余裕はない。中国の経済規模の大きさは、この10年間における債務の莫大な増加がもたらしたものである。今年は、国有企業1社の債務不履行だけでなく、銀行3行が国の直接支援と再編を必要とした。1980年代初頭、1990年代、2000年代および2010年代においても、中国は、経済の活性化を可能にする経済的切り札を有していた。最初に農業セクターの改革開放、その後1990年代に製造への開放、10年後にWTO加盟および10年前には大規模な融資拡大を行ったが、現在はそのような容易な選択肢は存在しない。外部の切り札がなくなり、現在の信用状況においては、以前にみられたような刺激策の類いを行使できなくなっている。

潜在的に、最大の課題は、対外関係と地政学的出来事の対応となろう。中国は、その貿易相手国と同じように豊かに成長しているが、友人(友好国)はおらず、多くの国と疎遠になっている。中国はすでに困難な国内状況を抱えているが、一方で、中国に好き勝手に行動することを許そうとしない世界にも対応しなければならない。中国の安楽な歳月は終わってしまった。中国の政治体制は柔軟さに乏しく、中国はすべての関係をゼロサムゲームとみていることから、他国と積極的に協働することもできない。2019年は中国にとって厳しい年であったが、来年も同様であるとみられる。1979年の改革開放以降最も困難な10年間の始まりになるだろう。

フレイザー・ハウイー
フレイザー・ハウイー(Howie, Fraser)|アナリスト。ケンブリッジ大学で物理を専攻し、北京語言文化大学で中国語を学んだのち、20年以上にわたりアジア株を中心に取引と分析、執筆活動を行う。この間、香港、北京、シンガポールでベアリングス銀行、バンカース・トラスト、モルガン・スタンレー、中国国際金融(CICC)に勤務。2003年から2012年まではフランス系証券会社のCLSAアジア・パシフィック・マーケッツ(シンガポール)で上場派生商品と疑似ストックオプション担当の代表取締役を務めた。「エコノミスト」誌2011年ブック・オブ・ザ・イヤーを受賞し、ブルームバーグのビジネス書トップ10に選ばれた“Red Capitalism : The Fragile Financial Foundations of China's Extraordinary Rise”(赤い資本主義:中国の並外れた成長と脆弱な金融基盤)をはじめ、3冊の共著書がある。「ウォール・ストリート・ジャーナル」、「フォーリン・ポリシー」、「チャイナ・エコノミック・クォータリー」、「日経アジアレビュー」に定期的に寄稿するほか、CNBC、ブルームバーグ、BBCにコメンテーターとして頻繫に登場している。 // Fraser Howie is co-author of three books on the Chinese financial system, Red Capitalism: The Fragile Financial Foundations of China’s Extraordinary Rise (named a Book of the Year 2011 by The Economist magazine and one of the top ten business books of the year by Bloomberg), Privatizing China: Inside China’s Stock Markets and “To Get Rich is Glorious” China’s Stock Market in the ‘80s and ‘90s. He studied Natural Sciences (Physics) at Cambridge University and Chinese at Beijing Language and Culture University and for over twenty years has been trading, analyzing and writing about Asian stock markets. During that time he has worked in Hong Kong Beijing and Singapore. He has worked for Baring Securities, Bankers Trust, Morgan Stanley, CICC and from 2003 to 2012 he worked at CLSA as a Managing Director in the Listed Derivatives and Synthetic Equity department. His work has been published in the Wall Street Journal, Foreign Policy, China Economic Quarterly and the Nikkei Asian Review, and is a regular commentator on CNBC, Bloomberg and the BBC.