一、ブロックチェーンの研究開発と応用は、社会のニーズから生まれる
あらゆる技術の研究開発とその応用の普及は、社会の強いニーズから始まる。ブロックチェーンの概念が提唱され、その後の研究の盛り上がりは、2008年リーマン・ショックからの、金融危機の根源的原因に対する世界各国の政府高官と専門家の探求に由来する。なぜ一つの銀行が破綻すると、世界各国の銀行がドミノ倒しのように倒産するのか? なぜ各国における銀行の潜在的な債務危機要因をリアルタイムで人々に呈示できないのか? なぜリーマン・ブラザーズのような100年以上の歴史を持つ銀行でも信頼に値せず、あっけなく破綻してしまうのか? 世界の金融システムがこれほど脆弱である原因は、単一の主権国家が主導する国際通貨体系メカニズムの不透明さと、そのプロセスが操作されることに対する不信にあることを、人々が徐々に認識し始めた。そのため、透明で操作されていない、それでいて各通貨のミクロな利用主体が平等に参入・撤退できる国際通貨体系メカニズムが社会から強く必要とされた。またそれは、世界各国の目標となり、各国の科学技術研究者が追い求める対象となっている。おそらく謎の人物サトシ・ナカモト本人も、自身が提唱したビットコインとブロックチェーンの概念がこれほどブームとなり、新たな投資のトレンドになることを、予想していなかっただろう。これはすべて社会的ニーズから生じたものだ。ビットコインは実体のある通貨ではなく、その本質は暗号化されたデータに過ぎない。しかし、その基礎となるブロックチェーン技術と組み合わせると、これまでの物理的通貨と比べて、人々が望む未来の世界通貨の基本的な要素を持つだけでなく、その拡張性もとてつもない。しかもまだ可能性を秘めているのだ。シリコンバレーの預言者マーク・アンドリーセンが「20年後には、いまインターネットのことを語るような感じでブロックチェーンのことを語っているでしょう」と語っているが、この言葉は今のブロックチェーンを追い求める人々の熱狂ぶりを表している。中国は1994年インターネットに接続してから25年しか経っていないが、インターネットが中国にもたらした影響、変革、利益の大きさは世界の注目を集めている。それは即ち、ブロックチェーン技術の開発と応用をいち早く検討し、着手し、加速する必要があるということを示している。20年後ブロックチェーンが中国と世界にもたらす影響、変革と利益は人々の想像をはるかに超えるものであろう。
二、ブロックチェーンの社会経済におけるコア機能
ブロックチェーンの機能は、技術的な観点からすると、ただの分散型台帳、p2pのネットワーク、共有可能なコンセンサス、そして暗号化アルゴリズムに過ぎない。しかし経済への応用の観点からすると、その本質は、デジタルデータの利便性と信頼性にあり、即ち信頼できるデジタルデータから、堅牢な信用社会を生み出すことである。別の言い方をすると、ブロックチェーンは信頼できるデジタル方式を利用し、複雑な経済関係をインターネットに持ち込むことができる。この経済活動が社会をより便利、より真実、より透明、より平等にし、その取引コストを削減させることができる。
デジタル通貨の基礎たるブロックチェーン技術は、まだ初期研究開発の段階の未成熟な技術であり、その応用も細部まで完璧ではないため、様々な分野から賛否両論の評価を受けているが、ブロックチェーンそのものが提示した論理から考えると、以下の3つのコア機能は、経済の各分野で注目され、その将来性は無限大である。
まずは、様々な経済活動をデジタル化し、その利便性と信頼性を高まる。ブロックチェーンは、企業のビジネスプロセス、組織活動、ビジネスモデルを体系的かつ徹底的にデジタル化し、企業経営におけるデジタル・コンピテンシーを向上させる。現在、中国の社会信用システムの構築において、パートナー間の信頼醸成の速度は遅く、様々な信用情報へのアクセスは困難で、中小企業は金融機関から信用融資を得るのは難しい。ブロックチェーンを通じ、各当事者は、簡単に相手の正確な信用情報履歴を照会でき、より迅速に協力メカニズムを確立させることができる。銀行も取引記録に基づき、より安全に企業に対して信用供与ができ、中小企業の信用融資の困難を解決できる。
次に、社会経済のミクロ主体の主張を正しく提示することができる。データの集まりはトップダウンではなく、ボトム アップのため、自然と平等と民主の属性を帯びることとなり、市場メカニズムの需要を反映でき、市場メカニズムの欠陥を発見し、補うことも容易だろう。
さらに、ブロックチェーンは産業チェーンの連携効率を強化できる。産業間の協同発展を促進することは、中国製造がハイエンドへ向かう重要な手段であり、例えば2019 フィンワイズ サミット マカオはでは、地元の経済産業と提携し、マジックチェーン財布(利用者に便利なデジタル資産管理サービスを提供するブロックチェーンソフトウェア)を支払手段とし、ブロックチェーン資産を運用と普及による産業チェーンの提携効率向上が提唱された。
最後に、ブロックチェーンによって、インテリジェントでトレーサビリティ、そして検証可能な改ざんができない企業契約を結ぶことができる。企業は一連の契約の集まりである。企業契約の出資者、経営者と労働者は事前にすべての要素および当事者全員の権利と義務を完全に規定することができないが、ブロックチェーンは三者の真の意図を最大限に記録・伝達でき、そして三者の要求を知能的に整合し、自動に契約を結ぶことができる。そして真の意図の表現および契約を結び、履行する過程はトレーサビリティであり、検証可能かつ改ざん不可だ。ブロックチェーンは、契約をインテリジェント化させることができ、デフォルトや詐欺のリスクを最小限に抑え、誠実な企業と産業環境を構築できる。
上記の4つのポイントにより、社会経済活動の限界費用を大幅に削減し、効率を向上させることができる。だからこそブロックチェーンは注目を集め、評価され、社会経済分野で大いに流行することになった。
三、現時点中国におけるブロックチェーンの主な応用分野
ブロックチェーンの応用の幅は非常に広く、既にデジタル金融、モノのインターネット、スマートマニュファクチャリング、サプライチェーン管理、デジタル資産取引など、様々な分野に参入している。今後、さらに我々は「ブロックチェーン+」の生活分野での応用を探り、教育、就労、養老、貧困支援、医療健康、食品安全、公共福祉、社会支援などで技術応用を促進させ、もっと便利な、良質な公共サービスを提供する必要がある。さらに、ブロックチェーンと新型スマートシティの構築を組み合わせ、情報インフラ、スマート交通、エネルギーなど分野での応用を促進し、都市管理の知能化、正確性を向上させる。ここでは紙幅が限られているため、以下、製品のトレーサビリティ、デジタル領収書、デジタル証明書、デジタル身分証明の4つの分野について簡単に述べる。
1、製品のトレーサビリティ
トレーサビリティが最も困難な農産品を例に取ると、ブロックチェーンの非中央集権的、透明、改ざん不可、データ共有、P2P伝送などの技術的特徴を利用し、農場、農家、認証機関、食品加工企業、販売企業、物流倉庫企業などをアライアンスブロックチェーンに加盟させ、すべての重要なノードの情報と価値を共有し、それによってトレースバックとトレースフォワード、そして責任の所在の明確化を実現できる。この手法で、従来のトレーサビリティプラットフォームの情報が不透明、データが容易に改ざんできる、セキュリティが低い、比較的閉鎖的であるなどの欠点を解決できる。これにより、生産者が力を尽くし、売り手が安心し、消費者が安心であることを確保できる。ブロックチェーンによる農産物のトレーサビリティは今の中国にとって国民生活における重大な課題である。
2、デジタル領収書
ブロックチェーン領収書は中国で最初に実用化されたブロックチェーン技術の一つである。国税庁深セン税務局が主導し、テンセントが独自に開発したブロックチェーン技術に基づく、ブロックチェーンデジタル領収書「税務チェーン」は既に実用化されている。2018年8月、中国初のブロックチェーン領収書は深センの国際貿易回転レストランで発行された。ブロックチェーンデジタル領収書は、税務当局、発行者、および受領者という三者の参加によって実現される。税務当局は、ブロックチェーンデジタル請求書「税務チェーン」プラットフォームを導入し、税務当局、発行者、受領者が唯一無二なデジタル識別子により「税務チェーン」に参加し、まさに「取引すれば領収書が発行される」、「領収書が発行されれば清算される」という、秒単位の領収書の発行と分単位の清算という目標を実現した。ブロックチェーンデジタル領収書「税務チェーン」プラットフォームにより、税金徴収のコストが大幅に削減され、データの改ざん、領収書の重複清算、脱税などの問題を有効に解決できる。
3、デジタル証明書
デジタル証明書は司法証拠、商業証拠と著作権保護などの分野がある。司法証拠を例にとると、ブロックチェーンとデジタルデータ証明書の組み合わせは、デジタルデータの保存コストを削減でき、証拠保存の効率を向上し、司法証拠の保存、知的財産、デジタル契約などの業務にデータベースを提供できる。2018年9月7日、中国最高人民法院がインターネット事件におけるブロックチェーン証拠の法的効力を認める「インターネット裁判所におけるいくつかの問題に関する規定」を公表した。現時点、北京、杭州、広州などを含む少なくとも7つの省と地方の裁判所がブロックチェーンデジタル証拠プラットフォームを構築した。2019年8月、中国最高人民法院は、人民法院司法ブロックチェーン統一プラットフォームの構築を宣言し、現時点で既に最高人民法院、高級人民法院、中級人民法院、基層人民法院の4つの階層、21つの省と市をカバーできる。同時に国家タイムサービスセンター、多元的紛争調停プラットフォーム、公証役場、司法鑑定センターなど27のノードを設置し、現時点4階層の法院は既に1億8000万以上の証拠データをブロックチェーンに保存、固定するタスクを完了している。最高人民法院が主導し、『司法ブロックチェーンの技術要件』『司法ブロックチェーン管理規範』などのドキュメント策定し、全国各階層の法院のデータにおけるブロックチェーンの適用を標準化した。
4、デジタル身分証明
デジタル個人情報は断片化、漏洩しやすい、制御が難しいなどの特徴があり、世界各国の政府は個人情報の管理に困っている。しかしブロックチェーン技術はその非中央集権的、暗号化、改ざん不可などの特性により、デジタル身分証明の信頼性検証と権限付与に対して、可能性のあるソリューションを提供する。2018年12月、中国移動通信傘下の中国移動IoT社がHuobi中国などの会社と提携し、「聯核クラウド」プロジェクトの共同開発を始めた。現時点は既にホテル業、配達業、エンタテインメント業などの分野の実名認証とクラウドサービスを提供している。これは中国初のブロックチェーンとIoT技術に基づく身分証明共有検証プラットフォームであり、宅配便、賃貸、旅行業の実名化などの分野に広く応用検証価値を持っている。
ブロックチェーン技術は様々な産業で異なる方法で応用され、計り知れないブルーオーシャン市場になるであろう。今後はますます多くの企業がブロックチェーンに参入すると筆者が信じている。将来のビジョンを持つ経営者なら、ブロックチェーン発展のトレンドを正確に把握し、新しい科学技術革命と産業変革がもたらす挑戦に積極的に対処し、今の潮流を直視すべきである。
(次回に続く)
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