言語別アーカイブ
基本操作
中国は日本の自民党総裁選をどう報道しているか?
自民党総裁選2024(写真:代表撮影/ロイター/アフロ)
自民党総裁選2024(写真:代表撮影/ロイター/アフロ)

中国が日本の自民党総裁選をどう思っているかに関する情報は絶対に公開しないし、ネット民にも公開させない。しかし、多くの日本メディアの情報の中で、どの部分を抽出して中国の公的メディアが報道しているかを見ることによって、中国がどう受けとめているかに関して多少の感触を得ることができる。そこで、中国共産党機関紙「人民日報」姉妹版「環球時報」と、中国政府通信社「新華社」の報道を基に中央テレビ局CCTVが報道した内容を見てみよう。

◆環球時報の報道

9月13日、環球時報は<日本自民党総裁選挙公示発布、9人の立候補者が共同で発布会に出席し講演>というタイトルで報道しているので、その内容を見てみたい。

以下、概要を示す。

 (1)9月12日、日本の共同通信が、このたびは9人が立候補し、史上最多の人数を記録したと報じた。報道によると、裏金問題で自民党は逆風にさらされており、そのため立候補者は9月27日の選挙開票前に地方レベルで演説や討論を行うことによって宣伝の機会を増やし、国民の心をつかもうとしている。そのため15日間という選挙期間は、1995年に現在の総裁選規則が制定されて以来、最長のものとなった。

 (2)9月12日の日本テレビの報道によると、岸田文雄首相が下野することになった最大の理由は「裏金問題」であり、今回の総裁選では国民の信頼をいかに回復し、どのような経済政策を展開するかが主な争点になるという。

 (3)高市早苗経済安全保障担当大臣は演説で「まずやるべきことは、国民から信頼される自民党に生まれ変わることだ」と述べた。

 (4)石破茂元幹事長は「もし私が総裁になったら、国民が満足するまで全力で職務を全うする。国民を信じる自由民主党、国民から信頼される自由民主党、未来を創る自由民主党を創る」と表明した。

 (5)多くの候補者は演説の中で、日本を「変える」という意思を示唆した。小泉進次郎元環境大臣は「今、私がここに立っているのは、危機感が高まっているからであり、政治の意思決定の強度とスピードを圧倒的に増やさなければ手遅れになる。首相になって、時代の変化から取り残された日本の政治を変えたい」と表明した。

 (6)小林鷹之元経済安全保障大臣は、「国民が夢や希望を感じられる日本、世界をリードする日本を創る。他国の動きに左右されない、真に自立した日本を創る」と表明した。

 (7)上川陽子外務大臣は、「もし私が首相になれば、総裁として難問から逃げず、日本の人々と共に新しい日本を築き、新しい日本の景色を共に築いていこう」と述べた。

 (8)自らの決意を新たにするために、9人の候補者はそれぞれの形で祈願をした。12日の日本の時事通信社の報道によると、

  ●小泉進次郎はその日の朝、国会近くの日枝(ひえ)神社に参拝し、「選挙必勝」を祈願した。

  ●高市早苗も同じ神社を参拝し、前回の自民党総裁選挙で彼女を支えてくれた故安倍晋三元首相について、「彼は私に多くのことを教えてくれたが、戦い方も教えてくれた」と語った。

  ●加藤勝信元官房長官は、東京で義父の加藤六月元農林水産大臣の墓参りをし、「総裁選で最後まで戦う決意を伝え、(亡き義父が)私を導いてくれることを祈願した」と述べた。

  ●白い上着に身を包んだ上川陽子は、「この日は白い服を着て、国会議員や党員、国民の思いや願いを白いキャンバスに描きたい」と語った。

  ●林芳正官房長官は「風林火山の心構えで選挙に出馬する」というスローガンを掲げ、「私たちはいつも森のように静かだったが、これからは風のように速く、火のように激しく、山のように揺るぎなく、ぶれない心構えで頑張りたい」と述べた。

 (9)共同通信社は「経済政策をめぐり、国民が物価上昇に苦しんでいる状況下で、多くの候補者が経済成長を重視している。また、財政規律に関しても回答を出す必要に迫られている。解雇制限を緩和し、労働市場の流動性を促進するか否かも争点になる可能性がある」と書いている。(環球時報の抜粋は以上)

興味深いのは、立候補者のどの人名が、どういう順番で出てくるかだ。

たとえば、上記の、(3)~(7)をご覧いただくと、「高市、石破、小泉、小林、上川」の順になっている。

実際の自民党本部における届け出は「高市、小林、林、小泉、上川、加藤、河野、石破、茂木」の順だ。「高市」が最初なのはわかるが、環球時報では次は「石破」になっているのが興味深い。

◆新華社報道に基づく中央テレビ局CCTVの報道

では次に中共中央宣伝部の管轄下にある中央テレビ局CCTVの9月12日の報道<観天下・日本政局 自民党総裁選がスタート9人の参選は空前の規模>を見てみよう。リンク先にあるように、情報源は中国政府の通信社である新華社だ。

この報道では、以下のようなことが書いてある。

 ●世論調査によると、新党首選の有力候補は、石破茂元防衛大臣、小泉進次郎元環境大臣、高市早苗現経済安全保障大臣、河野太郎現デジタル大臣などだ。 日本の首相は、政党によって指名され、衆議院と参議院の議員によって選出され、一般的には衆議院の過半数の議席を持つ政党の党首が占める。

 ●石破茂は67歳。 今回が5回目の党首選である。 初期の頃は銀行に勤務し、政界での38年間で農業、安全保障、地方創生など様々な分野に携わってきた。 日本放送協会(NHK)テレビは9日、世論調査の結果を発表し、国民の28%が石破茂氏を自民党総裁として支持している。 これまでの党首選では、石破茂氏は自民党議員からほとんど支持を受けていない。

 ●小泉進次郎(43歳)は政治家一家の出身で、父は小泉純一郎元首相だった。 父と同じく「改革」の旗を掲げ、日本政治の様相を変え、長年抱えてきた一連の問題を解決すると語っている。日本メディアの論評では、小泉進次郎は若者や女性に人気があり、自民党支持者は彼に対して最も楽観的であると指摘した。最新のNHK世論調査では、小泉進次郎が23%の支持で2位だった。当選すれば、日本最年少の首相となる。しかし、日本のメディアは彼の最大の欠点は、ガバナンスの経験が相対的に不足していることであると指摘している。

 ●高市早苗(63歳)は、日本の右派政治家を代表する一人だ。今回が2度目の党首選で、日本初の女性首相を目指す。 故安倍晋三元首相の弟子として、安倍政権時代に重用された。高市早苗は、日本の平和憲法の改正を提唱し、靖国神社を頻繁に訪れている。(以上、CCTVより抜粋)

こうして最初に掲載しているのがいかに示す高市早苗氏の写真だ。

 

出典:新華社(CCTVより)

出典:新華社(CCTVより)

 

次に掲載しているのが以下に示す石破茂氏の写真である。

 

出典:新華社(CCTVより)

出典:新華社(CCTVより)

 

リンク先をご覧になれば明らかなように、個人の写真として掲載しているのは、この二人の写真だけだ。

中国のネットにおける他の関連情報も、高市氏と石破氏の写真を掲載しているところが多い。

高市氏は届け出順が一番だったからというのは納得がいくようで、少し違う感触を持つ。9人の中では彼女が最も右寄りと中国の目には映っているからではないかという印象を抱かせるのである。

石破氏の写真を掲載するのは、日本での世論調査で一位であることが多いからという理由かもしれないが、他のさまざまな中国のネットの情報を見ると別の理由があるような気がする。それは中国のネットでは石破氏が台湾を訪問した時の写真が出回っているからだ。訪問したのは超党派の国会議員でつくる「日本の安全保障を考える議員の会」で、石破氏は共同団長を務めるだけだが、頼清徳総統や蔡英文前総統との会談写真が広く出回っている。

だから高市氏と石破氏の写真だけが、このように大きくクローズアップされているような気がしてならない。もちろん、官側のメディアなので、そのようなことは一言も書かない。内政干渉になるからだ。それでも、文字にはしなくとも、その思惑が、そこはかとなくにじみ出ているように感ぜられるのである。

追記(2024-09-14):昨日(9月13日)に本コラムをアップロードした時には、石破氏の台湾訪問に関して中国のネットで出回っている写真を貼り付けることに(サイズの関係上)失敗した。本日新たに文字まで入れてスクリーンショットを試みたところアップロードできたので、以下に貼り付ける。今年8月13日に台湾で頼清徳総統や蔡英文前総統と会談した時の写真である。

追加写真:中国のネットで出回っている石破氏訪台の時の写真

出典:中国のネット

出典:中国のネット

この論考はYahoo!ニュース エキスパートより転載しました。

1941年中国生まれ。中国革命戦を経験し1953年に日本帰国。「中国問題グローバル研究所」所長。筑波大学名誉教授、理学博士。中国社会科学院社会学研究所客員研究員・教授などを歴任。日本文藝家協会会員。著書に『習近平が狙う「米一極から多極化へ」 台湾有事を創り出すのはCIAだ!』(ビジネス社)、『習近平三期目の狙いと新チャイナ・セブン』(PHP新書)、『もうひとつのジェノサイド 長春の惨劇「チャーズ」』(実業之日本社)、『ウクライナ戦争における中国の対ロシア戦略 世界はどう変わるのか』(PHP)、『裏切りと陰謀の中国共産党建党100年秘史 習近平 父を破滅させた鄧小平への復讐』(ビジネス社)、『ポストコロナの米中覇権とデジタル人民元』(遠藤 誉 (著), 白井 一成 (著), 中国問題グローバル研究所 (編集)、実業之日本社)、『米中貿易戦争の裏側 東アジアの地殻変動を読み解く』(毎日新聞出版)、『「中国製造2025」の衝撃 習近平はいま何を目論んでいるのか』、『毛沢東 日本軍と共謀した男』(中文版・韓国語版もあり)、『チャイナ・セブン <紅い皇帝>習近平』、『チャイナ・ナイン 中国を動かす9人の男たち』、『ネット大国中国 言論をめぐる攻防』、『中国動漫新人類 日本のアニメと漫画が中国を動かす』『中国がシリコンバレーとつながるとき』など多数。2024年6月初旬に『嗤(わら)う習近平の白い牙』(ビジネス社)を出版予定。 // Born in 1941 in China. After surviving the Chinese Revolutionary War, she moved to Japan in 1953. Director of Global Research Institute on Chinese Issues, Professor Emeritus at the University of Tsukuba, Doctor of Science. Member of the Japan Writers Association. She successively fulfilled the posts of guest researcher and professor at the Institute of Sociology, Chinese Academy of Social Sciences. Her publications include “Inside US-China Trade War” (Mainichi Shimbun Publishing), “’Chugoku Seizo 2025’ no Shogeki, Shukinpei ha Ima Nani o Mokurondeirunoka (Impact of “Made in China 2025” What is Xi Jinping aiming at Now?), “Motakuto Nihongun to Kyoboshita Otoko (Mao Zedong: The Man Who Conspired with the Japanese Army),” “Japanese Girl at the Siege of Changchun (including Chinese versions),” “Net Taikoku Chugogu, Genron o Meguru Koubou (Net Superpower China: Battle over Speech),” “Chugoku Doman Shinjinrui: Nihon no Anime to Manga ga Chugoku o Ugokasu (The New Breed of Chinese “Dongman”: Japanese Cartoons and Comics Animate China),” “Chugogu ga Shirikonbare to Tsunagarutoki (When China Gets Connected with Silicon Valley),” and many other books.

カテゴリー

最近の投稿

RSS