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中国の若者はトランプが大好き?
米大統領選挙で演説するトランプ(後ろ姿)と熱狂する支持者(写真:ロイター/アフロ)
米大統領選挙で演説するトランプ(後ろ姿)と熱狂する支持者(写真:ロイター/アフロ)

政治とは関係なく、中国の若者はトランプ(前大統領)を一種のアイドルのように見ており、トランプが好きだ。若者に人気がある動画サイト「ビリビリ(bilibili)」には「川宝日記」というチャンネルがあって、トランプを劇画化したりトランプのスピーチ場面を編集して楽しんでいる。 

「川」は「川普(トランプ)」の意味で、「宝」は「可愛い宝物」のニュアンス。

バイデンのことは大嫌いだが、後継候補のハリスは「名前も知らない」と言って「ハハハ」と呼ばれるくらいで、「大笑い」を揃えている動画がある程度だ。何か政治的主張のある人とも思ってないし、ギャグにする魅力もないので動画を楽しむという雰囲気は、今のところない。

 

◆ビリビリ動画「川宝日記」チャンネル

トランプは中国語では発音の「音」から「川普(ツワァン・プー)と書いたり、「特朗普(Te Lang Pu)と書いたりする。「特」の発音はカナ化するのは困難なのでピンインで書いた。ビリビリ動画には「川宝日記」というチャンネルがあって、トランプのスピーチやしぐさ、あるいは出来事など、何でも特集しては楽しんでいる。

「宝(バオ)」は「宝貝(バオ・ベイ)」(可愛い子)という言葉があるように、主として「可愛い宝物」という意味だが、時として「変わり者、変人」の意味もあり、「変なおじさん」というニュアンスがないわけではない。

それでも中国の若者にとってトランプは「アイドル」であり、「スター」だ。

どんな場面でもおもしろおかしくアレンジして、噴き出さずにはおられない場面展開を短時間で見せてくれるので、ついクリックしてしまう。

読者の方も、ぜひとも「川宝日記」をクリックして、実際にリズムや展開を実感していただきたい。そのいくつかのタイトル画面を示すと図表1のようになる。

 

図表1:ビリビリ動画にある「川宝日記」チャンネルのタイトル画像の一部

出典:ビリビリ動画

出典:ビリビリ動画


 

中でも人気があるのが2023年9月8日の「王者帰来(王者が戻ってきた)」だ。タイトルは<トランプトークショー 9月8日: 刑務所問題後初のショー、王者の帰還!MAGA!>で、クリックしてご覧になると、YMCAの軽快なリズムに乗ってトランプが現れ、「USA!USA!USA!・・・」の大歓呼の中で「トランプ踊り」をしているのが見てとれる。

トランプがいつも赤いネクタイをしているので、動画の画面には視聴者が書いた「红领巾(紅いピオネール=中国共産党員の少年少女版)」という文字まで現れている。会場も熱気に包まれているが、ビリビリ動画も賑やかに熱い。

 

コメントには、以下のようなものがある。

 ●私は本当にドナルド・トランプが2024年の選挙で成功することを心から願っている。この77歳の老人は、今後4年先までは待てないだろう。でも今なら、彼は80歳近くになっているというのに、こんなに言葉も滑らかで理論的に話せるなんて信じられないくらいだ。彼が言っているように、彼はもうたくさんのお金を稼いだのだから静かに老後を楽しむことだってできるんだけど、あえてそうしないでこんなに大変な道を自ら選んだのだから、彼は絶対に最高の大統領だと思う。

 ●トランプって、おもしろいよね!おまけにバイデンより信頼できるし。私はアメリカ人じゃないけど、トランプを応援している!

 ●トランプのスピーチは本当に素晴らしい!言葉がシンプルで分かりやすく、意図は高尚で、いたるところで「あなたたちのために」って言ってて、聴衆の心をつかむよね。

 ●ほんと、トランプの英語って、字幕なしでも私にも聞き取れる。実は英語のリスニングの訓練にもなるから、トランプのスピーチだったら、いつでも聞きたいくらい。

 ●トランプって、言ったことは必ず実行するし、言わなかったことだって実行するし、すごいよね!

 ●こんなに誠実な大統領って、今まであまりいなかったんじゃない?

 ●トランプって素晴らしいよね!バイデンのように狡賢くないし、戦争をけしかけてばっかりしたりしないし、トランプ政権のときは戦争が一つも起きなかったじゃない?

 ●それにさ、トランプって台本なしでスピーチするし、いつも「私は」とは言わないで「私たちは」って言ってるじゃない?「私があなたがたを偉大な方向に導く」とは言わないで、「私たちが一緒になってアメリカを偉大にさせよう」って言ってるのは、バイデンなんかとは全く違う!バイデンは軍事で他国をけしかけてばかりいるし、ほんとにトランプのような人は滅多にいない。

 ●トランプの性格が好きなんだ!もちろんトランプだって中国に対しては良いことはしないけどね。どっちみちアメリカは中国をやっつけたいんだというのは分かってるけど、でもトランプは戦争をけしかけて他国の人の命を虫けらのように扱うようなことはしないから、トランプの方がいいよね。

 ●トランプって、すごく率直で、底辺で生きてる人たちが彼を好むのも分かる気がする。彼は偽善的じゃないから。

 ●トランプって、まるで共産党員みたいじゃない?「人民を中心として」というのが軸にあってさ…。

 ●ああ、私がもしアメリカ人だったら、絶対に川宝(可愛いトランプ)を選ぶんだけどなぁ…。もっとも、彼は中国には冷酷なんだけど、でも同盟国に対してだって容赦しないから、ある意味、アメリカを偉大にさせるためには、どの国に対しても平等っていう感じで、やっぱり感覚的にはトランプが好きだな…。

 ●要するにトランプはもう十分に金儲けをしたので余生を楽しんでればいいのに大統領に立候補したということは、本気でアメリカに奉仕してアメリカを偉大にさせたいと思っている証拠で、尊敬に値する。でもバイデンら民主党の奴らは、エリート集団で自分たちの利益を守ろうとする利権集団でしかなく、そのために軍事産業を重んじて戦争ばかりしてるんだから、同じように中国を敵対視したとしても、トランプとは動機が違う。トランプにはMake America Great Again!しかない。動機が純粋なんだよ!やっぱりトランプが好きだ!(コメントの列挙は以上)

 

◆ハリス副大統領に関しては「ハハハ、ハリス」ばかり・・・

次期大統領選候補になったハリス副大統領に関しては、ビリビリ動画で最も再生された動画として<ハリス、3分間大笑い特集>がある。その中から何枚か、ハリスが大笑いしている写真を切り取ると、図表2のようになる。

 

図表2:ビリビリ動画の中のハリスの大笑い写真

出典:ビリビリ動画

出典:ビリビリ動画


 

「ハリスは何を聞かれても、ただ『ハハハ』と笑うだけで、不適切な笑いや理解できないジョークを交えた政治的対応は稚拙だ」と書いているのは、中国共産党機関紙「人民日報」傘下の「環球人物」だ

ビリビリ動画では他にも、記者会見で記者の「ウクライナ難民に対して、どのように対応するか」という質問に対して、ハリスが結局のところ「哈哈哈哈哈…(ハハハハハ…)」と笑ってごまかしたことを切り取って報道している 。

このように、ハリスは不適切な場面でも「ハハハ」と笑うため、中国では「ハハハ、ハリス」と呼ばれるようになった。次期大統領に適しているか否かに関する議論は、今のところない。

そういう対象だとも思っていないほど、まだ名前が知られていないということもあるのかもしれない。中国のネットや直接の取材からは、「中国の若者はトランプが大好きだ!」という印象しか、伝わってこない。

だからといって、それが米大統領選に影響をもたらすわけではないのは確かだが、今後の米中関係を考察する上では、参考になるかもしれないので、考察を試みた次第だ。

この論考はYahoo!ニュース エキスパートより転載しました。

1941年中国生まれ。中国革命戦を経験し1953年に日本帰国。「中国問題グローバル研究所」所長。筑波大学名誉教授、理学博士。中国社会科学院社会学研究所客員研究員・教授などを歴任。日本文藝家協会会員。著書に『習近平が狙う「米一極から多極化へ」 台湾有事を創り出すのはCIAだ!』(ビジネス社)、『習近平三期目の狙いと新チャイナ・セブン』(PHP新書)、『もうひとつのジェノサイド 長春の惨劇「チャーズ」』(実業之日本社)、『ウクライナ戦争における中国の対ロシア戦略 世界はどう変わるのか』(PHP)、『裏切りと陰謀の中国共産党建党100年秘史 習近平 父を破滅させた鄧小平への復讐』(ビジネス社)、『ポストコロナの米中覇権とデジタル人民元』(遠藤 誉 (著), 白井 一成 (著), 中国問題グローバル研究所 (編集)、実業之日本社)、『米中貿易戦争の裏側 東アジアの地殻変動を読み解く』(毎日新聞出版)、『「中国製造2025」の衝撃 習近平はいま何を目論んでいるのか』、『毛沢東 日本軍と共謀した男』(中文版・韓国語版もあり)、『チャイナ・セブン <紅い皇帝>習近平』、『チャイナ・ナイン 中国を動かす9人の男たち』、『ネット大国中国 言論をめぐる攻防』、『中国動漫新人類 日本のアニメと漫画が中国を動かす』『中国がシリコンバレーとつながるとき』など多数。2024年6月初旬に『嗤(わら)う習近平の白い牙』(ビジネス社)を出版予定。 // Born in 1941 in China. After surviving the Chinese Revolutionary War, she moved to Japan in 1953. Director of Global Research Institute on Chinese Issues, Professor Emeritus at the University of Tsukuba, Doctor of Science. Member of the Japan Writers Association. She successively fulfilled the posts of guest researcher and professor at the Institute of Sociology, Chinese Academy of Social Sciences. Her publications include “Inside US-China Trade War” (Mainichi Shimbun Publishing), “’Chugoku Seizo 2025’ no Shogeki, Shukinpei ha Ima Nani o Mokurondeirunoka (Impact of “Made in China 2025” What is Xi Jinping aiming at Now?), “Motakuto Nihongun to Kyoboshita Otoko (Mao Zedong: The Man Who Conspired with the Japanese Army),” “Japanese Girl at the Siege of Changchun (including Chinese versions),” “Net Taikoku Chugogu, Genron o Meguru Koubou (Net Superpower China: Battle over Speech),” “Chugoku Doman Shinjinrui: Nihon no Anime to Manga ga Chugoku o Ugokasu (The New Breed of Chinese “Dongman”: Japanese Cartoons and Comics Animate China),” “Chugogu ga Shirikonbare to Tsunagarutoki (When China Gets Connected with Silicon Valley),” and many other books.

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