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《Computex 2024》グローバルなテクノロジーエコシステムの要石、台湾
台湾 台北国際コンピュータ見本市でファン氏が基調演説(写真:ロイター/アフロ)
Nvidia CEO Jensen Huang台湾 台北国際コンピュータ見本市でファン氏が基調演説(写真:ロイター/アフロ)

はじめに

グローバルなハイテク業界において台湾の半導体産業は単に一翼を担うだけの存在にとどまらず、むしろ要とも言える存在であり、イノベーションの推進と経済圏の形成に加え、地政学にも影響を及ぼしている。本論では、台湾の半導体産業が持つ多面的な意義を掘り下げ、その優れた技術力、戦略的パートナーシップ、地政学的な意味を探る。鍵となる出来事、講演、投資などを包括的に分析することで、ますます加速する世界のハイテク競争において台湾が果たしている重要な役割を明らかにする。台北国際コンピュータ見本市《Computex 2024》は、台湾の半導体業界の実力を知らしめる重要なプラットフォームとして、日本やEUなど世界の主要プレイヤーから強い関心を集めた。さまざまな国際的視点からの関わりや手応えを得た同イベントは、世界のITエコシステムにおける台湾の役割の重要性を際立たせるものとなった。

台湾大学でのNVIDIA社CEO講演 ― テクノロジーにおける台湾の価値

国立台湾大学(NTU)での基調講演においてNVIDIA社のジェンスン・フアン(Jensen Huang、黃仁勳)CEOは、台湾がNVIDIA社さらにはハイテク産業の成功のために決定的な役割を果たしてきたと断言した。その発言は台湾全土に響き渡るとともに世界的にも反響を呼び、テクノロジーの世界における台湾の貢献度の高さを改めて知らしめた。台湾を「私の故郷であり、パートナー」と呼び、「世界で最も重要な国の一つ」と述べることで、同氏は台湾の半導体エコシステムとNVIDIA社の技術革新との深いつながりを示して見せた。

フアンCEOはまた、人工知能(AI)の将来についても言及し、医療から自動運転まで、AI技術がさまざまな分野で革命をもたらす可能性を語った。NVIDIA社がAI分野で掲げる野心的目標は、台湾の強固な半導体産業という強力なバックボーンがあってこそだとして、「台湾の高度な半導体技術のおかげで、NVIDIAは信頼性が高く効率的なAIサプライチェーンを構築できた」と述べている。高度なデータセンターからスマートシティまで、あらゆる分野の発展を促進するAIソリューションの開発と展開にとって、こうしたサプライチェーンは不可欠な存在だ。NVIDIAのAIプラットフォームに台湾製の最先端チップをシームレスに組み込むことで、未来のAIに求められる優れた性能と信頼性を確保できる。

ジェンスン・フアン氏の講演からは、世界のサプライチェーンにおいて台湾の半導体産業が中心的な位置を占めていることが明白に見て取れた。台湾ハイテクセクターの中核であるTSMC(台湾積体電路製造)は、世界最大の半導体製造工場として、膨大な数の技術機器に欠かせない高度なチップを幅広く製造している。スマートフォンやノートパソコンからデータセンター、自動車システムに至るまで、TSMCが誇る最先端の製造技術は無数のイノベーションを生み出す基盤となっている。

ここで、iPhone、iPad、MacBookで知られるハイテク巨大企業、Apple社のケースに目を向けよう。Appleは同社の主力デバイスを支えるAシリーズプロセッサの製造にあたって、TSMCの高度なチップ製造能力に大きく依存している。チップ製造におけるTSMCの専門技術を活かすことで、Appleは性能、電力効率、技術革新の面で常に時代の先端を牽引してきた。AppleとTSMCのこの共生関係は、世界的な技術進歩を促すために台湾の半導体産業が果たしている役割がいかに重要かを示すものだ。

台湾の半導体産業の戦略的重要性は、Appleのような巨大ハードウェア企業にとどまらず、電気自動車と自動運転分野の先駆者であるTesla社のような最先端技術企業にまで及んでいる。自動運転という野心的なビジョンを支えるTeslaのオートパイロットと「フルセルフドライビング(FSD)」機能は、TSMCの半導体ソリューションに大きく依存している。Teslaの車載コンピュータを支えるカスタム設計のチップから、リアルタイムのデータ処理を可能にする高度なセンサーやプロセッサに至るまで、TSMCの半導体技術は「持続可能な自動運転が当たり前になる未来」というTeslaのビジョンを実現する上で、極めて重要な役割を果たしている。

巨大テクノロジー企業による戦略的投資

台湾の半導体のレベルの高さを受けて、NVIDIA、AMD、Intelなど世界的なハイテク企業は同国に大規模な投資を行うことを選択し、台湾の技術力への信頼とイノベーション育成に対する本気度を示している。台北国際コンピュータ見本市《Computex 2024》でこれら企業は、台湾の技術エコシステムにおける存在感を高め、現地パートナーとの連携を深めることを狙った大規模な投資計画を発表している。

RyzenプロセッサやRadeonグラフィックスカードで知られる半導体大手、AMDのケースを見てみよう。AMDが台湾に構える研究開発センターの拡張を決定したことは、半導体業界の技術革新を推進する上で台湾が重要な役割を担っていることの表れである。台湾の豊富な人材、研究インフラ、ハイテク企業からなるエコシステムを活用することで、AMDは次世代コンピューティング技術の開発を加速させ、競争の激しい半導体市場でライバル企業に先んじようとしている。

同様に、イノベーションと卓越したコンピューティング能力の代名詞ともされる、アメリカを代表する半導体メーカーIntelは、台湾に新たな製造・研究開発施設を設立する計画を発表した。半導体製造と技術革新における台湾のリーダーシップを利用することで、Intelは競争力を強化し、半導体業界のグローバルリーダーとしての地位を維持することを目指している。今回発表となった戦略的投資は、Intelと台湾の関係強化にとどまらず、最先端の半導体研究開発拠点としての台湾の地位をさらに高めるものとなる。

技術的成果もさることながら、米中間の緊張が高まる状況においては、地政学の視点から見た台湾の重要性も軽視できない。技術とイノベーションのグローバルなつながりを維持するためにも、世界のハイテク・サプライチェーンにとって重要な結節点である台湾の安定と安全は至上命題である。軍事演習や外交的関与の増加をはじめとする昨今の地政学的動向から見ても、アジア太平洋地域における台湾の戦略的地位が重要であることは明らかだ。

これに加えて台湾の半導体産業は、重要なサプライチェーンやテクノロジーに対する影響力と支配力とをめぐって米中両大国が覇権を争う大規模な地政学的対立の場ともなっている。米国は台湾の戦略的重要性を認めており、「台湾関係法」や武器販売の増加などを通じて台湾との関係強化を図ってきた。これとは対照的に、中国は台湾の大陸への経済的依存を利用する一方で、政治的目的を達成するべく圧力をかけるという、アメとムチによる二重の戦略を続けてきた。

日本とEU ―テクノロジー分野の戦略的パートナーシップを強化

日本の視点から見ると、《Computex 2024》はIT産業と半導体サプライチェーンにおいて台湾が果たしている極めて重要な役割を際立たせるものであった。技術革新で名を馳せる日本は、半導体製造と技術的進歩を側面から支える台湾の強みに一目置いている。ソニー、パナソニック、東芝をはじめとする日本のIT企業は、同イベントで台湾の関係者と積極的に交流し、協力と技術交流の道を探っていた。そこでの議論の中心となっていたのが、共同研究開発ベンチャー、サプライチェーン最適化、次世代半導体技術の開発といったテーマである。こうした交流は台日技術提携の重要性を際立たせただけでなく、技術革新の推進とサプライチェーンのレジリエンス維持に向け、より深い協力関係の土台を築くものでもあった。

EUは、IT分野における台湾とのパートナーシップ強化に戦略的な重点を置いて《Computex 2024》に臨んだ。デジタル変革を成功裡に推し進めるための具体的な目標を示した政策文書、いわゆる「デジタルコンパス」の指針に則った取り組みの一環として、EUは技術力の強化とサプライチェーンの多様化を目指している。Siemens、SAP、Ericssonといった欧州の大手IT企業は同イベントに積極的に参加し、人工知能、5Gインフラ、IoTソリューションなどの分野で台湾企業との連携機会を模索していた。そこでの議論は主に、共同研究プロジェクト、技術移転メカニズム、シームレスな協力を促進するための規制枠組みをめぐって展開された。EUは、半導体製造とイノベーションに関する台湾の専門知識を活用することで、世界のIT業界における競争力を強化し、テクノロジーでの主導権確保を目指している。

《Computex 2024》閉幕を迎えるにあたり、NVIDIAのジェンスン・フアンCEOは、「台湾Taiwan」という名に埋め込まれた「AI」の2文字について印象深い見解を述べている。それは、人工知能の未来を形作る上で台湾が極めて重要な役割を担っていることを強調するものだった。台湾がAI技術の進化に尽力していることは、技術革新という面での台湾の卓越性を物語るだけでなく、世界の発展に向けてより広範に取り組んでいることをも意味している。同氏は台湾がAI分野における重要なプレイヤーとして台頭し、世界的なAIインフラ整備に大きく貢献しうる態勢にある、とも述べている。こうした所見は、台湾の業績に対するより広範な認識と呼応するものであり、卓越性に向けた台湾の揺るぎない努力と、世界を舞台に多大な影響力を持つことに対する同国の誇りの表れでもある。

 

アジアの巨人、SamsungとHuaweiが迎える苦境

SamsungやHuaweiといったアジアのハイテク大手が直面している危機は、半導体産業における台湾の重要性をさらに際立たせている。AI技術の開発と実装をめぐる複雑な状況で舵取りをするなか、両社は重大な課題に取り組んでいる。例えばSamsungは、急速に進化するAI市場において競争力を維持できるか深い懸念を抱いている。同社の認識では、AI技術で遅れを取ってしまえば、世界的な市場シェアとイノベーション能力にまで影響を及ぼしかねない。それゆえ、SamsungはAIの進歩に不可欠な最新のチップ技術に確実にアクセスできるよう、台湾の半導体企業との提携に向けた取り組みを強化している。

一方、Huaweiは地政学的緊張と米国の制裁によって悪化した多面的な危機に直面している。かつては電気通信業界とAI開発のリーダーであった同社であるが、現在は不安定な立場を余儀なくされている。貿易制限ゆえに最先端のチップを調達できないことが、AIに関する同社の野心に深刻な影響を及ぼしている。ハイエンド半導体の製造においてHuaweiが台湾TSMCに依存している点から見ても、両者の関係は重要である。TSMC製最先端チップの入手が叶わなければ、HuaweiはAIその他の先端技術で競争力を失い、世界の技術競争から取り残されるおそれがある。

こうした苦況は、AI技術開発の持続可能性をめぐってアジアのハイテク大手企業に広がる懸念を浮き彫りにしている。単なる戦略的選択の枠を超え、技術的リーダーシップを維持するためにも、台湾の半導体能力に依存せざるを得ないのが現状だ。SamsungとHuaweiが直面した危機は、世界のハイテクエコシステム、特にAIと最先端の半導体技術において台湾が必要不可欠な役割を果たしていることをまざまざと見せつけている。

まとめ

台湾の半導体産業は、そのイノベーション、サプライチェーン、地政学的ダイナミクスにより世界のテクノロジーを支える礎となっている。NVIDIA社のジェンスン・フアン社長兼CEOの発言は、台湾TSMCが最先端チップ製造の先導役となっているなど、半導体技術の進歩において台湾が極めて重要な役割を果たしていることを改めて強調するものだった。また、AMDやIntelのようなハイテク分野の世界的リーダーが台湾への大規模な投資計画を発表したことで、台湾の影響力が国境を越え大きく広がっていることが明らかとなった。

世界のIT業界の中心的存在という地位は、イノベーション、サプライチェーンの強靭さ、国際協力に対する台湾の真摯な姿勢の賜物でもある。台湾テックアリーナ(TTA=Taiwan Tech Arena、臺灣科技新創基地)や「グローバル協力訓練枠組み」(GCTF=Global Cooperation and Training Framework)のようなイニシアチブを通じて、台湾はイノベーションを促進し、専門知識を共有し、世界の繁栄に貢献している。その一方で、米中関係が緊張する状況において台湾が置かれた立場は、経済的利益と地政学的現実との間の微妙なバランスの上に成り立っており、安定と対話の必要性を浮き彫りにしている。

今後の展望に目を向けると、台湾の半導体産業は引き続き技術革新を推進し、グローバルなパートナーシップを育み、地政学的な複雑さをも乗り越えていくだろう。人材育成、持続可能な慣行、国際協力に投資することで、台湾はデジタル革命の最前線に立ち続け、ハイテク産業の未来を形成し、世界経済の成長と安定に貢献できる態勢を整えている。

陳建甫博士、淡江大学中国大陸研究所所長(2020年~)(副教授)、新南向及び一帯一路研究センター所長(2018年~)。 研究テーマは、中国の一帯一路インフラ建設、中国のシャープパワー、中国社会問題、ASEAN諸国・南アジア研究、新南向政策、アジア選挙・議会研究など。オハイオ州立大学で博士号を取得し、2006年から2008年まで淡江大学未来学研究所所長を務めた。 台湾アジア自由選挙観測協会(TANFREL)の創設者及び名誉会長であり、2010年フィリピン(ANFREL)、2011年タイ(ANFREL)、2012年モンゴル(Women for Social Progress WSP)、2013年マレーシア(Bersih)、2013年カンボジア(COMFREL)、2013年ネパール(ANFREL)、2015年スリランカ、2016年香港、2017年東ティモール、2018年マレーシア(TANFREL)、2019年インドネシア(TANFREL)、2019年フィリピン(TANFREL)など数多くのアジア諸国の選挙観測任務に参加した。 台湾の市民社会問題に積極的に関与し、公民監督国会連盟の常務理事(2007年~2012年)、議会のインターネットビデオ中継チャネルを提唱するグループ(VOD)の招集者(2012年~)、台湾平和草の根連合の理事長(2008年~2013年)、台湾世代教育基金会の理事(2014年~2019年)などを歴任した。現在は、台湾民主化基金会理事(2018年~)、台湾2050教育基金会理事(2020年~)、台湾中国一帯一路研究会理事長(2020年~)、『淡江国際・地域研究季刊』共同発行人などを務めている。 // Chien-Fu Chen(陳建甫) is an associate professor, currently serves as the Chair, Graduate Institute of China Studies, Tamkang University, TAIWAN (2020-). Dr. Chen has worked the Director, the Center of New Southbound Policy and Belt Road Initiative (NSPBRI) since 2018. Dr. Chen focuses on China’s RRI infrastructure construction, sharp power, and social problems, Indo-Pacific strategies, and Asian election and parliamentary studies. Prior to that, Dr. Chen served as the Chair, Graduate Institute of Future Studies, Tamkang University (2006-2008) and earned the Ph.D. from the Ohio State University, USA. Parallel to his academic works, Dr. Chen has been actively involved in many civil society organizations and activities. He has been as the co-founder, president, Honorary president, Taiwan Asian Network for Free Elections(TANFREL) and attended many elections observation mission in Asia countries, including Philippine (2010), Thailand (2011), Mongolian (2012), Malaysia (2013 and 2018), Cambodian (2013), Nepal (2013), Sri Lanka (2015), Hong Kong (2016), Timor-Leste (2017), Indonesia (2019) and Philippine (2019). Prior to election mission, Dr. Chen served as the Standing Director of the Citizen Congress Watch (2007-2012) and the President of Taiwan Grassroots Alliance for Peace (2008-2013) and Taiwan Next Generation Educational Foundation (2014-2019). Dr. Chen works for the co-founders, president of China Belt Road Studies Association(CBRSA) and co-publisher Tamkang Journal of International and Regional Studies Quarterly (Chinese Journal). He also serves as the trustee board of Taiwan Foundation for Democracy(TFD) and Taiwan 2050 Educational Foundation.