中国人民解放軍東部戦区が先ごろ、台湾周辺で2日間にわたり軍事演習を行った。それを受け、台湾の頼清徳総統は5月26日、台湾自治島周辺で軍事演習があったとはいえ、依然として中国と協力する気概があると述べた。頼総統は交流と協力を通じて台中間で相互理解と寛容さ、融和を促進し、双方にとって有益な状況を作り出し、共に平和と繁栄に向かうことを期待している。
軍事演習の背後にある思惑
中国人民解放軍の「連合利剣」演習は2022年に比べ規模が縮小され、期間も短縮された。その最大の理由は、2022年の軍事演習の範囲があまりにも広すぎたため、すでに緊張状態にあった日中関係をさらに悪化させるなど、国際社会の関心を広く集めてしまったことにある。中国共産党(CCP)も、演習活動がフィリピン北部にある米軍レーダー基地に察知されれば、戦略的展開に影響を及ぼすことを危惧した。
その前回の演習ではCCPの発射したミサイルが仮想敵となり、第一列島線にある米国、台湾、フィリピン、日本のレーダー基地の共同戦闘能力を試すことになった。この演習を通じ、関係者はCCPが発射した11発のミサイルの位置とパラメータに関する貴重なインテリジェンス情報を収集し、今後の防衛・対応措置の参考となる貴重なデータを得た。
国際社会の反応
中国の軍事演習を受けて、国際社会は台湾海峡の状況に懸念と支持を表明した。米国は5月20日時点で航空母艦4隻を海外に展開し、中東、日本、シンガポールにそれぞれアイゼンハワー、レーガン、ルーズベルトを駐留させるとともに、リンカーンを東太平洋地域に向かわせていた。他にもUSSアメリカ(LHA-6)が佐世保に配備されている。これらの展開・配備はアジア太平洋地域における米国の強力な軍事プレゼンスと同地域の安全保障状況に対する強い関心を如実に物語っている。
この間、バイデン米大統領はウェストポイント陸軍士官学校で演説を行い、同盟国の利益と地域の安全保障に対する揺るぎないコミットメントを強調し、米国は引き続き同盟国およびパートナー国と協力してインド太平洋地域の平和と安定を確保すると述べた。これは台湾を強く支持するだけでなく、地域の安全保障体制全体を再確認する発言である。
頼清徳総統は演説の中で、バイデン米大統領と米国政府・議会、そして世界各国による、台湾海峡での平和と安定に対する確固たる支持に感謝の意を表明した。同総統は5月20日の就任演説において、台湾海峡の平和と安定は世界の安全保障と繁栄に不可欠な要素であると述べた。台湾海峡に波風を立て、地域の安定に影響を及ぼすいかなる国も、国際社会の抵抗と反発を受けるだろう。同総統は「台湾は国際社会の支援、特に米国の断固たる姿勢に感謝する。我々は進んで地域の安定を維持する責任を共同で担い、地域の平和に取り組むすべての国々と協力する」と強調した。
両岸間の交流と協力の可能性
台中の間には政治的・経済的・軍事的違いがあるとはいえ、交流と協力を通じて相互理解と寛容さを深めることが平和と繁栄の実現への重要な道筋であることに変わりはない。頼清徳総統は、平等と相互利益の原則の下で中国本土と交流・協力し、地域の安定と発展に貢献する用意があることを強調した。これは台中両国の国民の共通の利益にかなうだけでなく、アジア太平洋地域の平和と安定の維持にも寄与する。
頼総統はまた、中国本土と台湾が地域の安定を維持する重責を共同で担うことも呼びかけた。同総統は、両岸間の交流と協力を通じて両国が理解を深め、相互信頼を高め、双方にとって有益な状況を醸成し、平和と繁栄に向かって共に歩むことを期待している。
中国の「小粉紅」の反応
今回の軍事演習は、いわゆる「統一」スピーチをネット上で精力的に展開してきた中国の一部ナショナリスト(通称「小粉紅」)の理性的とは言いがたい反応を国内で引き起こしているとはいえ、演習の終了が中国による台湾占領を意味するものではないことを明確に述べておかなければならない。台湾は依然として自由と自治を維持している。
さらに、台湾のアーティストに対して、統一への支持を明確に示し台湾の独立に反対するよう求めるネット上の圧力には、常に分別と寛大さをもって対応していかなければならない。台湾人には、たとえ相手が統一に支持を表明したり、中国籍であったりしても、そのアーティストを応援し、好きになる権利がある。台湾は自由国家であるため、こうしたアーティストが自らの発言を理由に台湾で権利の行使を禁じられることはない。これとは対照的に、中国ではアーティストが統一に支持を表明しないと弾圧を受けることが多い。このような差は、言論の自由とアーティストの権利の保護における両岸間の考えの違いを示している。
平和的協力の呼びかけに対して予想される中国の反応
頼総統からの平和的協力の呼びかけを受けて、中国は外交的措置や経済的措置を含めたさまざまな非軍事的措置を講じる可能性がある。外交面では、中国は台湾との市民交流や民間のコミュニケーションルートを強化し、ソフトパワーを通じて台湾世論に影響を与えようとするかもしれない。加えて、より多くの両岸経済協力プロジェクトを進め、台中間の緊張緩和と経済相互依存の強化を図る可能性もある。
経済分野では、中国は台湾企業・製品による市場アクセスを緩和し、台中間の貿易と投資を促進し、経済的利益を接点として両岸関係の改善を推し進めるかもしれない。同時に、RCEPなど地域経済協力の枠組みを利用して、より多くの協力機会を提供し、台湾を引き込み、地域経済統合のプロセスに参加させることも考えられる。
だが、それでも将来の両岸関係は非軍事的衝突のリスクに直面するおそれがある。中国は、台湾が海峡両岸経済協力枠組取り決め(ECFA)の精神に反し、中国製品に貿易障壁を設けているとして、世界貿易機関(WTO)に提訴するかもしれない。こうした経済対立が国際貿易の場での台中間の緊張を高め、両岸関係の不確実性が増す可能性がある。
まとめ
絶えず変化する複雑な国際情勢に直面する今、台湾と中国は、平和的共存を基本とし、対話と協力を通じて互いの相違を解決し、相互信頼を高め、平和と繁栄に向かって共に歩むべきである。定期的に接触をするための外交ルートの確立や両岸協議の再開、信頼醸成策の着手などを具体的に進めることで、建設的な対話の道を開くことができるだろう。貿易協定や投資パートナーシップ、共同開発プロジェクトなどの経済連携イニシアチブは、経済成長や雇用創出、技術の進歩の面で相互の利益となる。さらに、文化交流や教育プログラム、人と人との交流で、台中間の理解と友好を育むことができる。
対話と協力を促進することで、台湾と中国は共通の課題に対処し、発展機会をつかむことができる。経済成長や文化交流、地域の安定など、連携がもたらす潜在的メリットを強調することが不可欠である。経済協力が繁栄の共有につながり、また文化交流が両国の社会の多様性を高めることが期待できる。さらに、交流と相互理解の深まりは、地域の紛争の平和的な解決と衝突の防止に寄与しうる。
頼総統の演説は、台湾が抱く平和への期待を表すだけでなく、両岸関係の今後の動向に関する新たな考え方と方向性も示している。相互尊重と平等、相互利益を原則とすることで、台湾と中国はアジア太平洋地域にとどまらない永続的な平和と繁栄の土台を築くことができる。協力と連携なくして、両国が違いを乗り越え、安定と繁栄という共有ビジョンに向けて取り組むことはできない。
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