合わせて「両会」と呼ばれる全国人民代表大会(NPC)と中国人民政治協商会議(CPPCC)が2024年3月4日と5日に、それぞれ北京で開幕する。両会では李強首相が就任後初めて行う「政府活動報告」から、2024年の中国の政策の方向性を垣間見ることができる。中国の憲法によると、NPCは国の最高権力機関であり、各省・自治区・直轄市・特別行政区や人民解放軍から選出された代表で構成される。代表の任期は5年で、現在は計2,977名いる。
CPPCCは、中国共産党(CCP)や各民主党派、無党派人士、人民団体、各少数民族の代表、香港特別行政区同胞、マカオ特別行政区同胞、台湾同胞、帰国同胞の代表および特別招待者2,172名から成る。CPPCCは、中国の民間起業家が政治の世界に入る場を提供しており、テンセント創業者の馬化騰や恒大集団創業者の許家印、CATL創業者の曾毓群もCPPCCのメンバーを務めているか、務めていた。
李強首相は、2023年の業績を振り返るほか、新しい年の目標と目的を概説する活動報告を発表する。特に関心を集めているのが、中国共産党の最高指導部「中国共産党中央政治局常務委員会」7名が主導し、地方や業界の代表と意見を交換する協議や審議である。彼らが選んだトピックと対話の内容は、その年の政策の方向性を示す指標とみなされることが少なくない。
本記事では、この点に的を絞り、参考となる見通しを示す。それにより、両会で発せられる政策シグナルを深堀りでき、中国の今年の方向性に関する貴重な見識を読者に提供できると考える。
経済目標は2024年も5%
両会で中国の経済環境を掘り下げることで、課題が変化するなかでも成長を維持するための、多面的なアプローチが明らかになる。北京や上海、広州などの主要都市はすでに、GDP成長率目標を5%に設定すると発表しているが、両会では2024年の幅広い経済戦略が最大の焦点となる。
慎重ながらも楽観的な姿勢を反映して、2024年の経済成長率目標は2023年と同じ「5%」前後」になるとアナリストらは予想している。世界経済環境の不確実性が解消されないなか、安定的な成長軌道の維持は中国にとって極めて重要となっている。両会での微妙な意味合いを持つ協議や審議は、数値目標だけでなく、それを下支えする包括的な戦略も精査する場となる。
半数以上の省や市が前年より経済成長目標を引き下げており、成長実現と持続可能性確保の間で難しい綱渡りを迫られている。李強首相の政府活動報告を精査することで、経済レジリエンスを高め、地域格差に対処することを目的とした政策措置についての見識を得ることができる。
両会は中国の証券市場を救うことができるのか
中国の株式市場の複雑さへの対応が必要な今、両会は、金融安定に向けた政府の政策を明らかにする戦略的な場として浮上している。今年初めから株式市場が直面している課題はなかなか解消されず、そのため当面の安定策にとどまらず、財政政策や産業政策を深く掘り下げることを余儀なくしている。
類似の基金が他国市場で成功したことを受けて、「株式安定化基金」の設立を求める声が強まってきた。この基金案は、「中国版国保障安基金」のようなもので、市場ダイナミクスに対する積極的な姿勢を表している。その設立と運営の可能性については、両会で綿密に検討されるため、レジリエンスが高く、投資家にやさしい金融エコシステム構築に向けた中国の取り組みについての見識を得ることができるであろう。
中国国際金融(CICC)は先頃発表した報告書のなかで、市場を全面的に好転させるには、「強力かつ的を絞った財政支援策」が不可欠だと強調している。李強首相の政府活動報告の財政に関する部分は、こうした支援策の具体的な内容を明らかにする重要な契機になると注目される。焦点は、市場の安定化にとどまらず、イノベーションの促進と市場透明性の確保、規制の枠組みの強化による、長期的な投資家の信認の向上にも及ぶ。
2024年の両会における防衛予算
地政学的緊張が世界的に高まっていることを背景に、両会では、中国の防衛予算に大きな注目が集まる。防衛費のGDP比はこの10年間、2%前後で安定して推移しているが、2035年までの防衛と軍の近代化という意欲的な目標が、議論を未踏の領域へと進ませている。
過去2年間で7%を超える大幅な増額により、中国は軍事費ランキングで米国に次ぐ世界第2位となった。最大の疑問は、景気低迷時に高額な防衛費を維持する能力が果たして中国にあるのかである。両会での複雑な審議では、配分額を明らかにするだけでなく、各軍種間での防衛予算の配分の指針となる戦略的考慮事項にも深く切り込むと思われる。
こうしたなか、中国人民解放軍ロケット軍高官の解任と法的措置が最近注目を集め、状況がさらに複雑化している。両会は、中国が戦略的にどのように防衛予算を近代化目標に沿ったものにし、軍組織内の課題に対応するのかを理解するうえで重要な場として注目を集めている。
両会での微妙な意味合いを持つ審議で、単なる配分額としてだけでなく、複雑な地政学のチェス盤上の戦略的な駒としての、防衛予算が持つ幅広い意味が明らかになる。観測筋の間では、中国の地政学的立ち位置と、世界の安全保障面の課題に対するアプローチについての見識が得られるとの期待が高まっている。
定年退職年齢の引き上げが発表される可能性も
人口動態のシフトと雇用環境の変化を背景に、両会では中国の定年退職政策に関する重大な発表があるかもしれない。現在の法定定年退職年齢は男性が60歳、女性幹部職・管理職が55歳、女性一般労働者が50歳だが、平均寿命の延伸と経済的配慮に照らし、この見直しがなされている。
中国は高齢化と、将来不足する可能性がある社会保障基金の問題に対処しており、定年退職年齢を段階的に引き上げる提案は注目を集めている。李強首相の政府活動報告の発表は、革新を起こす可能性のある政策のシフトを明らかにする場となる。両会では、人口動態の課題への対処と世代間の公平性の確保、社会的安定性の維持の間の微妙なバランスについて複雑な話し合いが持たれると観測筋は予想している。
先頃発表された「中国年金発展報告2023」は、法定定年退職年齢の引き上げが間もなく発表され、最終的に65歳で調整される可能性を示唆している。しかし、その社会的意味合いから、また両会で発表される可能性があることで、世間の受け止めと、高齢化問題の複雑さに対応する政府の取り組みに疑問が投げかけられている。
新たな布陣
2024年は中国政府の「指導部が交代」する年ではないが、両会では、わずかではあるが、布陣の重要な変更に光が当てられるかもしれない。秦剛前外相と李尚福前国防相が昨年解任され、主要な国務委員のポストが空席であることから、両会で新たな国務委員が任命されるのではないかとの観測が流れている。
王毅外相は中国共産党中央外事工作委員会弁公室主任も兼務しており、外相に長くとどまることに疑問が呈されており、交代があると考えられる。有力候補は現共産党中央対外連絡部部長の劉建超であり、その任命も両会で行われると予想される。
軍事面では、昨年末に董軍海軍司令官が国防相に任命され、リーダーシップダイナミクスのシフトを印象づけた。だが、慣習となっている国務委員の同時任命はまだ確認されておらず、軍の人事環境に関心が集まる材料が新たに加わった。予想されるこうした人事の変更はヘッドラインを飾るほどのニュースではないが、そこから、世界の力学が変化するなかでの指導部の戦略的ビジョンと安定化へのアプローチをうかがい知ることができる。
このように両会は、政策を審議するだけでなく、リーダーシップダイナミクスが持つニュアンスを理解し、内外の複雑な課題に直面するなかでの安定化と適応化に向けた中国の取り組みに関する見識を得る場ともなっている。国際社会が見守るなか、両会は中国のこれから1年間の方向性を決め、変化し続ける世界の複雑さにうまく対応する態勢を整えていく。
台湾政策の不透明感:両会の行方待ち
両会の開催が近づくなか、中国の対台湾政策に変化があるのではないかと注視されている。台湾海峡での地政学的動きは常に世界の注目を集めてきた。2015年と2016年、2019年の両会で行ったスピーチで、習近平主席は中台関係の今後について極めて重要な見方を示した。台湾で先頃行われた総統選の結果を受けて、国際社会では、習近平主席が台湾関連の工作の今後について重大な指針を示すのではないかとの期待が高まっている。
さらに、中国人民政治協商会議(CPPCC)の王岐山議長が、台湾の外事の監視で役割を担うのではないかとの推測も聞かれる。中国本土在住の台湾人で構成される全国人民代表大会台湾代表団の協議に彼が参加したことは、重要な意味を持つ。観測筋が特に注視しているのは、そのスピーチの内容である。今後1年間の台湾に対する中国のアプローチを明らかにするものになるかもしれない。
加えて、李強首相の政府活動報告の台湾問題に関する部分も、微妙で複雑な見方を示すものになると予想される。首相の記者会見では、台湾関連の問題に触れる質問が出る可能性が高く、そうなれば、説明や、場合によっては発表がなされる可能性もある。今年は、台湾で民進党政権が3期目を迎えたことから、国際社会が警戒を強め、中国が超えてはならない一線を引き直し、台湾に対する姿勢を明確に示すのではないかと今後の行方を注意深く見守っている。
台湾問題を法制化する可能性:法律闘争が勃発か?
統一に対する中国の姿勢を反映した台湾に関する新たな法律が両会で発表されるのかどうか、注目が高まっている。王毅外相が先日、台湾独立は、「歴史と法の両面から確実に厳しい処罰」を受けることになると発言したことで、法律面に影響が及ぶ可能性があるとの観測が強まった。一方で、新たな疑問が浮かぶ。この「法の処罰」とは、どのような形を取るのか。
精査中のシナリオの1つが、全国人民代表大会の場における、反国家分裂法の詳細な施行規則の制定である。2005年に制定された同法は、台湾で独立に向けた正式な動きがあった場合に、軍事行動を起こすことを認めている。緊張状態が続くなか、同法の執行を強化するための改正や補完法の制定の可能性があるのか、その行方を国際社会は注意深く見守っている。こうした法律上の駆け引きは、中国が一貫して推し進めてきた「独立反対・統一賛成」戦略を強化させかねない。
もう1つ予想されているのが、中台統一を促すことを目的とした新しい法律の制定である。中台関係のダイナミクスが変化しており、中国は平和な統一という目標を推進するための立法措置を探求するかもしれない。こうした立法措置が実際に両会か、その後に取られるのか否かによって中台関係の今後の情勢は大きく変わってくるだろう。法律闘争の勃発は、この地域のすでに複雑な地政学的シナリオをさらに複雑化させる。両会が台湾関連問題への対処の行方を左右する極めて重要な場となるなか、地域の安定と国際的な外交関係に影響が及ぶ可能性もあると観測筋は見ている。
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