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「ミュンヘン安全保障指数2024」 日本以外の国は「中露は大きな脅威ではない」と回答
ミュンヘン安全保障会議(写真:ロイター/アフロ)
ミュンヘン安全保障会議(写真:ロイター/アフロ)

2月16日から18日にかけて開催される「ミュンヘン安全保障会議(MSC)」に先立ち、一般国民の感情を調査した「ミュンヘン安全保障指数(MSI)2024」が2月12日に公表された。それによれば日本以外は中露に対して「大きな脅威を感じていない」という回答が出ている。正確には日英だけが「ロシアを最大の脅威」と感じ、日加(カナダ)を除いた調査対象国の一般市民は「中国にそれほど大きな脅威を感じていない」という結果が出ている。日英にしても日加にしても、共通項は「日本」。日本だけが独り、中露を大きな脅威と感じ嫌悪感を抱いている。

注目すべきは、日本は「対露感情」も「対中感情」も、ともにアメリカより悪いということだ。アメリカに追随するあまり、ここでも梯子を外されるのは日本だけかもしれない。

◆「ミュンヘン安全保障指数2024」が示すデータ

2月12日に「ミュンヘン安全保障指数2024」(Munich Security Index 2024)(以後、MSI2024)が公開された。調査対象国はG7諸国と、BRICSの中から選んだ「ブラジル、インド、中国、南アフリカ」で、総計1万2000人の一般市民を対象にしている。MSCがKekst(ケクスト) CNCと協力して実施したものだ

調査結果の詳細なデータが「MSI2024のPDF」で紹介されている。そこには日本にとって非常に興味深い(あるいは危険な)図表がある。

それはp.21に掲載されている図表1.9で、その図表を少しアレンジして(国名を日本語訳した上で、日本人にとって分かりやすいように筆者なりに工夫して)作成したものを以下に示す。

MSI2024の図表1.9の和訳:他国に対する国民の認識。「プラスの数値」はその国が同盟国的(友好国)であると認識するパーセンテージを示し、「マイナスの数値」は、その国が脅威であると認識するパーセンテージを示す。調査期間は2023 年 10 月‐11 月。

 

MSI2024の図表1.9を基に筆者作成

MSI2024の図表1.9を基に筆者作成

 

分かりにくいかもしれないので、念のため図表の読み方の説明をさせていただきたい。

左端に国名が並んでいるが、これは調査対象国の国名である。

上の方に並んでいるのは、左側に書いてある国が、「他の国をどう思っているか」という「他の国」の国名である。

左端の国名の中の注目すべき国を、上から順にいくつかピックアップして、ご説明する。

●イギリス:イギリスを細い横線に沿ってご覧いただくと、右から4番目と右端に、「中国」と「ロシア」がある。それぞれを太い赤線で囲った。「イギリスの対中感情」は「-36」と、36%もの国民が中国を好ましくなく(脅威的だと)思っており、「イギリスの対露感情」は「-48」と、48%もの国民がロシアに悪感情を抱いていることが分かる。

●日本:さて、わが国、日本。イギリス同様に細い赤横線に沿ってご覧いただくと、太い赤線で囲った「対中感情」が「-58」と、調査対象国の中で「対中感情」が最も悪い。58%もの日本国民が中国に悪感情を持っていて警戒していることになる。ちなみに上から2番目にあるアメリカの「対中感情」は「-34」なので、日本よりは中国に好意的だ。これは「世界で最も中国を嫌っている国は日本である」ということを意味し、「アメリカが中国を嫌っているので、日本も中国を大嫌いにならないと、日本はアメリカに嫌われるから大変!」という強迫観念、対米追随の強さの表れであるとみなしていいだろう。

その証拠に、対米追随度が強いイギリスとカナダの「対中感情」が、アメリカの「対中感情」より悪い。中でも日本だけが際立っている。

従って、日本の安全保障対策などというものは、いつアメリカに梯子を外されるか分からない、危なっかしいところを右往左往していることを示唆していることにもなる。

●中国:左端にある「中国」という国名のところを細い赤線に沿ってご覧いただきたい。中国の他国への感情は、太い赤線で囲った「日本」と「アメリカ」に関してのみ「マイナス」で、中国国民の「対日感情」が「-2%」で、「対米感情」が「-1%」という、相当に恐るべきデータを示している。

何が「恐るべき」かというと、アメリカは中国を潰そうとして、あらゆる方面から制裁をかけ、中国が発展できないように雁字搦(がんじがら)めにしている。中国にとって、世界中で最も憎むべき国はアメリカのはずだ。その嫌い度が「-1%」で、日本はアメリカより悪い「-2%」なのだ。驚かないか?

しかもそれは、「中国が世界中で最も嫌いな国はアメリカではなく、日本だ!」という事実を突きつけていることになる。

逆に、日本に戻って日本を赤い横線に沿って見ていくと、「日本が最も嫌いな国は中国ではなくて、ロシアだ」ということが見て取れる。

それなら、肝心かなめのアメリカはロシアをどれくらい嫌っているかというと、「-37%」でしかない。「日本よりもずっと、ロシアに好意的なアメリカ人の割合の方が大きい」ということだ。ということは、ロシアに関しても、「アメリカさまの意向に添って、ロシア大嫌い!」になっている日本人は、アメリカから梯子を外される危険性を大いに秘めていることになる。特に、万一にも今年11月の米大統領選でドナルド・トランプ氏が当選したりなどしたら、世界で最も激しく梯子を外され「ずっこけてしまう」のは日本だということになろう。

あな、恐ろしや…。

何という「恐るべき」データか…。

●カナダ:最後にカナダを見てみよう。太い赤線で囲った「対中感情」をご覧いただきたい。「-40」と、なかなかに「中国大嫌い度」が大きい。G7の中では、日本とカナダが「中国大嫌い度」の上位2位を占めている。他の「アメリカ、イギリス、フランス、イタリア、ドイツ」というG7国は、それほど「中国大嫌い」ではなく、「-34、-36、-23、-17、-31」と、案外に中国に好意的な国民が多いということになる。

◆世界を俯瞰できない日本の安全保障論議

このような状況の中で日本が論じている東アジア安全保障問題は信用に足るのだろうか?

 日本が独自に軍事力を強化することは悪いことではない。

 しかし、アメリカ脳化された思考の中で、アメリカ指導部に言われるがままに台湾有事を後生大事に唱える安全保障論議は危険だ。真正面から世界を俯瞰した真相を述べると、「陰謀論」というレッテル貼りをして真相を直視することから逃げる日本人が多いのは日本の国益に適っていない。

 その原因の一つは、少なからぬ日本政界人や大手メディアのアメリカ追随と、少なからぬ日本人の思考停止がもたらす同調圧力にあるのではないだろうか。

 日本政界の主流をなす自民党の国会議員は、自分が選挙で当選するか否かにしか関心がなく、当選すれば昇進できそうな党内派閥を死守するのに必死だ。裏金作りに血道をあげ、統一教会だろうと「票」さえ頂けるのなら何でもする。

 頭の中には毅然たる国家観もなければ、政策も戦略もない。

 それでも当選するためには一般国民による肯定も必要なので、大手メディアが流す日本人にだけ通じる中国観、ロシア観に染まった民意に迎合する。まるで日本全体が小さなコップの中の閉じられた世界観の中でうごめいているようで、不気味でさえある。

 その一端が「MSI2024」のデータに表れているのだ。

 ガザ紛争の影響から日本は遠いというファクターも多少影響はしているだろうが、それでもなお、結果としての相対的な「対中露感情」を客観的に直視すべきではないだろうか。

 自民党の中に中国に対する「贖罪意識」を強く持ち、中国に非常に好意的な一派もいるが、これも戦後のGHQによって植え付けられたものだ。日本が悪いことをしたからこそアメリカは日本に原爆を落としたのだから、アメリカを恨んではならないという認識を日本人に深く自覚させるために、結果として「中国に対しても日本人は悪いことをした」という「贖罪意識」を埋め込み、対米追随と共に一部の媚中外交をも同時に生んでいる。それが如何に歪んでいるかは『毛沢東 日本軍と共謀した男』で詳述した。

 アメリカ脳化され対米追随していることさえ自覚できなくなってしまった日本人の危険性に関しては拙著『習近平が狙う「米一極から多極化へ」 台湾有事を創り出すのはCIAだ!』で述べた。

この論考はYahooから転載しました。

1941年中国生まれ。中国革命戦を経験し1953年に日本帰国。「中国問題グローバル研究所」所長。筑波大学名誉教授、理学博士。中国社会科学院社会学研究所客員研究員・教授などを歴任。日本文藝家協会会員。著書に『習近平三期目の狙いと新チャイナ・セブン』(PHP新書)、『もうひとつのジェノサイド 長春の惨劇「チャーズ」』(実業之日本社)、『ウクライナ戦争における中国の対ロシア戦略 世界はどう変わるのか』(PHP)、『裏切りと陰謀の中国共産党建党100年秘史 習近平 父を破滅させた鄧小平への復讐』(ビジネス社)、『ポストコロナの米中覇権とデジタル人民元』(遠藤 誉 (著), 白井 一成 (著), 中国問題グローバル研究所 (編集)、実業之日本社)、『米中貿易戦争の裏側 東アジアの地殻変動を読み解く』(毎日新聞出版)、『「中国製造2025」の衝撃 習近平はいま何を目論んでいるのか』、『毛沢東 日本軍と共謀した男』(中文版・韓国語版もあり)、『チャイナ・セブン <紅い皇帝>習近平』、『チャイナ・ナイン 中国を動かす9人の男たち』、『ネット大国中国 言論をめぐる攻防』、『中国動漫新人類 日本のアニメと漫画が中国を動かす』『中国がシリコンバレーとつながるとき』など多数。7月初旬に『習近平が狙う「米一極から多極化へ」 台湾有事を創り出すのはCIAだ!』(ビジネス社)を出版予定。 // Born in 1941 in China. After surviving the Chinese Revolutionary War, she moved to Japan in 1953. Director of Global Research Institute on Chinese Issues, Professor Emeritus at the University of Tsukuba, Doctor of Science. Member of the Japan Writers Association. She successively fulfilled the posts of guest researcher and professor at the Institute of Sociology, Chinese Academy of Social Sciences. Her publications include “Inside US-China Trade War” (Mainichi Shimbun Publishing), “’Chugoku Seizo 2025’ no Shogeki, Shukinpei ha Ima Nani o Mokurondeirunoka (Impact of “Made in China 2025” What is Xi Jinping aiming at Now?), “Motakuto Nihongun to Kyoboshita Otoko (Mao Zedong: The Man Who Conspired with the Japanese Army),” “Japanese Girl at the Siege of Changchun (including Chinese versions),” “Net Taikoku Chugogu, Genron o Meguru Koubou (Net Superpower China: Battle over Speech),” “Chugoku Doman Shinjinrui: Nihon no Anime to Manga ga Chugoku o Ugokasu (The New Breed of Chinese “Dongman”: Japanese Cartoons and Comics Animate China),” “Chugogu ga Shirikonbare to Tsunagarutoki (When China Gets Connected with Silicon Valley),” and many other books.

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