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習近平の新年の挨拶「祖国統一は歴史的必然」は毛沢東時代から
新年の挨拶をする習近平国家主席(CCTVより)
新年の挨拶をする習近平国家主席(CCTVより)

昨年末に習近平国家主席は、中央テレビ局CCTVを通して「二〇二四年新年の挨拶」を表明した。その中で台湾問題に関して「祖国統一是歴史必然」(祖国統一は歴史的必然である)と述べている。日本のメディアはこれを以て、習近平は野心家なので台湾統一をしようとしているというニュアンスで「台湾有事」を警戒しているが、「台湾統一」は1950年代に毛沢東が「祖国の使命」として強調したもの。新中国(中華人民共和国)誕生以来のスローガンだ。台湾は国共内戦で後回しにされた一部分に過ぎない。

1月13日にはその分岐点となる台湾総統選挙もあるので、「歴史的必然性」の経緯を考察してみよう。

◆習近平の2024年新年の挨拶

習近平は2023年12月31日夕方(北京時間19:28)、「二〇二四年新年賀詞」を、CCTVやラジオあるいはインターネットを通して発表した。その文字版は、2024年1月1日の中国共産党機関紙「人民日報」(電子版)に掲載された(リンク先は中国共産党新聞網)。

12月31日に翌年の新年の挨拶をする習慣はかなり前からあって、最初は毛沢東がまだ新中国誕生を宣言する前の1949年1月1日の挨拶を、1948年12月31日にラジオを通して放送し、翌日の1949年1月1日の「人民日報」に全文が掲載されたことから始まる。その年の10月1日に新中国「中華人民共和国」の誕生が宣言されるので、毛沢東としては「革命の成功まで、あともう一歩だ!頑張ろう!」と全国人民に呼びかけたかったものと思う。

当時はまだ同時放送はラジオしかなく、元旦の人民日報に間に合わせるには、前日の夜に放送するしかなかったことが原因だったが、その後、天安門事件があった1989年の12月31日に江沢民(当時、中共中央総書記&中央軍事委員会主席)がCCTVのインタビューを受けて新年の祝辞を述べ、1990年12月31日に楊尚昆(当時、国家主席)が新年の挨拶をして以来、中国の指導者は毎年12月31日に新年の挨拶を行う慣わしになっている。

「二〇二四年新年賀詞」約1600文字のうち9文字の「祖国統一是歴史必然」が西側諸国に注目され、あたかも習近平だけが「台湾統一」を強行しようとしているかのごとく、日本でも報道されている。

しかし古くは毛沢東をはじめ、鄧小平や江沢民あるいは胡錦涛も同様の言葉を使っていた。それは党大会や新年の挨拶など、さまざまなケースで常套句化している。

特に注目すべきは、毛沢東は1950年代に2回も「台湾の平和統一」を呼びかける「台湾同胞に告ぐ書」を発表し、鄧小平もそれを基本として1979年1月1日に「台湾同胞に告ぐ書」を発表しており、習近平が2019年1月2日に「台湾同胞に告ぐ書」を発表したのは、あくまでも鄧小平の同書の40周年記念として繰り返したということである。

◆毛沢東は何度も台湾の平和統一を提案している

では、毛沢東がなぜ台湾の平和統一を提唱し、「台湾同胞に告ぐ書」を発表するに至ったのかを考察してみよう。

毛沢東が1949年10月1日に新中国「中華人民共和国」の誕生を宣言したとき、台湾の解放はまだ成されていなかった。「解放」というのは中国共産党の軍隊である中国人民解放軍が国共内戦(=解放戦争=革命戦争)において、その地における国民党による支配を打倒し、勝利した解放軍側の共産党が統治することを言う。

国共内戦で大陸において敗北した国民党軍を率いる蒋介石は、1949年12月に大陸をあとにして台湾に逃れ、台北を「中華民国」の臨時首都(国共内戦中の戦時首都)とした。

台湾は海路か空路でないと攻撃できないので、海軍も空軍も弱かった中国人民解放軍は、旧ソ連のスターリンに依頼し、新中国誕生を宣言した後にすぐ、ソ連から海軍や空軍の支援を得て台湾解放を実現させる約束を取り付けていた。

ところが北朝鮮の金日成(キム・イルソン)が南北朝鮮を統一するため朝鮮戦争をスターリンと結託して1950年6月に起こしたため、台湾解放のためのソ連の支援は実現されなかった。

新中国誕生を宣言したのは、中国大陸を次々に解放していったので、まだ残されている海南島や台湾は宣言後に一気に解放していこうと、毛沢東は計画していた。しかし朝鮮戦争で中国人民志願軍が全力投入してアメリカの北上を食い止めたため消耗していた上に、アメリカが第七艦隊を台湾海峡に付けていたため、海南島などは宣言後に解放しているが、国共内戦をそのまま継続させることが困難になってしまった。

そこで毛沢東は「平和統一」を模索し始めたのである。

詳細は2009年8月13日の中国新聞網に新華網からの転載として<毛沢東はかつて武力で台湾を解放しようとしていたが、なぜ実現できなかったのか?>という見出しで書いてある。

一方、2021年3月9日の「中国台湾網」は、その昔の新華網の情報として1956年における<毛主席の和平統一思想> を公開している。それによると、1956年1月、毛沢東は「国共(国民党と共産党)はすでに二回合作している。いま我々は第三回目の合作を準備している」とスピーチし、平和統一の条件などを述べている。

 ●台湾に行ったままの軍人や政治家には、本土(大陸)に残した親戚や友人が多いだろう。自由に行き来して互いに会うといい。如何なる制限も設けず、便宜と支援を提供する。

 ●台湾がアメリカとの関係を断絶しさえすれば、台湾は北京中央で開催している全国人民代表大会や中国人民政治協商会議全国委員会に参加するための代表(議員)を送り込むこともできる。但し、外国軍(米軍)は台湾から撤退しなければならない。(以上、中国台湾網よりの引用)

ほかにも多くの文献があるが、1957年以降のことは前掲の中国新聞網の情報がわかりやすい。ただ長文なので、要点だけを拾うと以下のようになろうか。

1.1956年7月、毛沢東は「台湾平和解放工作強化に関する中共中央の指示」を発布し、蒋介石の息子・蒋経国と仲が良かった曹聚仁という学者を(香港から)招き和平工作に関して話し合った。そこで第三回国共合作という毛沢東側の意図を、曹聚仁を通して蒋経国に伝えてもらった。しかし台湾側は肯定的な反応を示さなかった。

2. 1957年4月、「人民日報」は初めて、毛沢東には第三回国共合作をする用意があることを公表した。

3. 新中国誕生後、毛沢東は本来、台湾を解放するに当たり金門と馬祖を解放して、次に台湾解放につなげようとしていたのだが、1958年、金門・馬祖解放を当面は実行しないと表明した。

すると、「中華民国」の領土として「大陸奪還」のチャンスを狙っていた台湾の蒋介石は中国大陸の沿岸部を爆撃し始めた。しかも米軍に支援を求めたのだ。そこで同年7月、毛沢東は金門への砲撃準備を指示した。

ところが米軍は、最初は強硬姿勢を示していたが、実際は国民党の船団を金門から3海里のみ護衛するに留め、「国共内戦」に巻き込まれることを避けた。アメリカは「大陸と台湾」が一つになることを嫌い、「二つの中国」あるいは「一つの中国と一つの台湾」となること(=台湾が独立すること)を望み、蒋介石に「大陸奪還」を諦めさせようとした。しかし蒋介石は断固として拒否!(筆者注:拙著『毛沢東 日本軍と共謀した男』のp.255前後にも書いたが、実は台湾に逃れた蒋介石は、何としても大陸を奪還しようとして、日中戦争で戦った相手の旧日本軍の岡村寧次大将に依頼し、元日本陸軍参謀から成る「白団」という軍事顧問団を1950年2月、秘密裡に台湾に招聘した。ところがアメリカに気づかれ、アメリカに猛反対されて「白団」は消滅している。それくらいアメリカは蒋介石が「大陸奪還」のために戦うことを阻止した。)

4. しかし、毛沢東にとっても蒋介石にとっても「一つの中国」しかあり得ず、革命戦争前の「中華民国」を「毛沢東が取るか、蒋介石が取るか」の二者択一しかなかった。

つまり、毛沢東と蒋介石の考え方が一致していて、毛沢東は「蒋介石がアメリカの考え方を拒否している事実」に目を付けたのである。そこで毛沢東は金門攻撃を突如停止させた。金門と馬祖を蒋介石に渡しておく方が、「一つの中国」という、毛沢東(共産党)と蒋介石(国民党)の共通の利益に合致すると判断した。金門と馬祖を蒋介石が領有していれば、蒋介石はそれを足掛かりに「大陸奪還」の夢を捨てないだろうから「一つの中国」という概念が持続するからだ。そのため毛沢東はわざと時々小規模な攻撃を行って、今はまだ国共内戦中で、「一つの中国しかない」という認識を蒋介石と共有した(筆者注:これは現在の大陸による軍事演習に相当する)。

5. 1958年10月6日、毛沢東は「台湾同胞に告ぐ書」を発表。「台湾、澎湖島、金門、馬祖は中国の領土の一部であり、世界には“一つの中国”しか存在しない」、「われわれ(共産党と国民党)の共通の敵はアメリカ帝国主義である」とした上で、統一後の台湾の状況に関して「蒋介石は彼の軍隊を維持していい」および「蒋介石には軍隊と政治経済システムと権力構造の保持を認める」と表明した。(筆者注:そのため、現在も台湾平和統一後は、台湾は軍をそのまま維持していいことになっている。)

6. 1958年10月25日、毛沢東は「台湾同胞に再び告ぐ書」を発表。アメリカが台湾に内政干渉してくる目的を明らかにし、アメリカは台湾を利用して自らの覇権を維持しようとしているだけなので「アメリカの有毒な計画に注意せよ」と警告した。

以上が毛沢東の台湾平和統一構想の経緯と「台湾同胞に告ぐ書」の流れである。

なお長男・毛岸英を朝鮮戦争で失った毛沢東は、「台湾は百年かかっても解放する(統一する)」と誓っている。その言葉は、たとえば<毛沢東は晩年、中米関係をどのように処理しようとしていたか>や、『毛沢東年譜』に書いてある1973年11月17日における<毛沢東とキッシンジャーとの会話>などにも表れている。

◆祖国統一は歴史的必然

中国は、毛沢東が「いざとなったら武力的手段によって台湾を解放することを否定はしないが、基本的には何としても政治外交的に(=平和的に=話し合いによって)台湾問題を解決したい」と主張し、「第三次国共合作があってもいい」と言い続けていたことを基本として国家運営をしてきた。それはあくまでも「国共内戦をどういう形で終わらせるか」という中国国内の問題であり、そこにアメリカが内政干渉してくるのはおかしいと主張し続けてきているのだ。これは1950年に朝鮮戦争が起きたために中断された国共内戦の問題なので、「祖国統一は歴史的必然性」であるという位置づけを貫いている。

以上より、習近平だけが台湾統一を主張しているのではなく、毛沢東以来の国家的課題であることが明らかになったのではないかと期待する。

もちろん、あまりに長い時間が経ちすぎ、国共内戦を知らない世代が多くなり、台湾人としてのアイデンティティも芽生えてきたので、静かに1月13日の台湾総統選の結果を待ちたい。

この論考はYahooから転載しました。

1941年中国生まれ。中国革命戦を経験し1953年に日本帰国。「中国問題グローバル研究所」所長。筑波大学名誉教授、理学博士。中国社会科学院社会学研究所客員研究員・教授などを歴任。日本文藝家協会会員。著書に『習近平三期目の狙いと新チャイナ・セブン』(PHP新書)、『もうひとつのジェノサイド 長春の惨劇「チャーズ」』(実業之日本社)、『ウクライナ戦争における中国の対ロシア戦略 世界はどう変わるのか』(PHP)、『裏切りと陰謀の中国共産党建党100年秘史 習近平 父を破滅させた鄧小平への復讐』(ビジネス社)、『ポストコロナの米中覇権とデジタル人民元』(遠藤 誉 (著), 白井 一成 (著), 中国問題グローバル研究所 (編集)、実業之日本社)、『米中貿易戦争の裏側 東アジアの地殻変動を読み解く』(毎日新聞出版)、『「中国製造2025」の衝撃 習近平はいま何を目論んでいるのか』、『毛沢東 日本軍と共謀した男』(中文版・韓国語版もあり)、『チャイナ・セブン <紅い皇帝>習近平』、『チャイナ・ナイン 中国を動かす9人の男たち』、『ネット大国中国 言論をめぐる攻防』、『中国動漫新人類 日本のアニメと漫画が中国を動かす』『中国がシリコンバレーとつながるとき』など多数。7月初旬に『習近平が狙う「米一極から多極化へ」 台湾有事を創り出すのはCIAだ!』(ビジネス社)を出版予定。 // Born in 1941 in China. After surviving the Chinese Revolutionary War, she moved to Japan in 1953. Director of Global Research Institute on Chinese Issues, Professor Emeritus at the University of Tsukuba, Doctor of Science. Member of the Japan Writers Association. She successively fulfilled the posts of guest researcher and professor at the Institute of Sociology, Chinese Academy of Social Sciences. Her publications include “Inside US-China Trade War” (Mainichi Shimbun Publishing), “’Chugoku Seizo 2025’ no Shogeki, Shukinpei ha Ima Nani o Mokurondeirunoka (Impact of “Made in China 2025” What is Xi Jinping aiming at Now?), “Motakuto Nihongun to Kyoboshita Otoko (Mao Zedong: The Man Who Conspired with the Japanese Army),” “Japanese Girl at the Siege of Changchun (including Chinese versions),” “Net Taikoku Chugogu, Genron o Meguru Koubou (Net Superpower China: Battle over Speech),” “Chugoku Doman Shinjinrui: Nihon no Anime to Manga ga Chugoku o Ugokasu (The New Breed of Chinese “Dongman”: Japanese Cartoons and Comics Animate China),” “Chugogu ga Shirikonbare to Tsunagarutoki (When China Gets Connected with Silicon Valley),” and many other books.

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