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台湾問題と抗日戦争に直結する「歴史歪曲」を習近平が サンフランシスコでの夕食会で
サンフランシスコの夕食会でスピーチする習近平国家主席(写真:代表撮影/ロイター/アフロ)
サンフランシスコの夕食会でスピーチする習近平国家主席(写真:代表撮影/ロイター/アフロ)

11月15日、習近平国家主席はサンフランシスコでの米国友好団体連合歓迎夕食会でスピーチをした。習近平が壇上に上がっただけでスタンディングオベーションが沸いたほどビジネス界では歓迎されたと報道されているが、そのスピーチの中で触れた「抗日戦争」に関する虚偽と歴史歪曲を筆者は見逃さない。この歪曲された内容は、まさに台湾問題と直結する「中共が隠してきた事実」だからだ。筆者が中国共産党を許せない大きな原因の一つでもある。

◆習近平が中共に都合が良いように歪曲した歴史事実

11月15日、APEC首脳会議に参加するためにアメリカのサンフランシスコを訪問した習近平は、その夜、米企業幹部を集めた米国友好団体連合歓迎夕食会でスピーチをした。スピーチの全文が中国外交部のウェブサイトに掲載されている

その中で筆者が注目したのは抗日戦争において「米中が協力した」という件(くだり)だ。習近平はそこで以下のように言っている(概略)。

●78年前、米中はファシズムと軍国主義を打倒するために手を携えて勝利を獲得した。その後、サンフランシスコ憲法制定会議の発起に共同参加し、国連設立を推進し、中国は最初に国連憲章に署名した国の一つだ。

●第二次世界大戦中、米中両国は平和と正義のために共に戦った。シェンノート将軍はアメリカ人志願兵を率いて中国の戦場へと赴き、有名なフライング・タイガース隊(飛虎隊)を結成した。彼らは日本の侵略者と直接戦っただけでなく、緊急に必要な物資を中国に輸送するためのルートも建設し、このルートでは1,000人以上の米中の航空乗組員が死亡した。

●日本が真珠湾を奇襲攻撃したあと、1942年に米空軍B-25爆撃機16 機が日本を爆撃したが、そのとき燃料不足のため、ドゥーリトル中佐と他のパイロットは中国にパラシュートで緊急降下した。中国の兵士と民間人は彼らを救出するために勇敢に戦った。そのため日本軍は25万人の中国民間人を虐殺した。

●血と火で築かれた米中両国民の友情は、世々代々受け継がれると信じる。

                         (当該部分概略は以上)

嘘を言ってはいけない!

歴史歪曲も甚(はなは)だしい!

アメリカと戦ったのは中国共産党の最大の敵である「中華民国」の蒋介石率いる「国民党軍」ではないか。日中戦争中に米軍が支援したのは、中国共産党の最大の敵であった「国民党軍」だ。

あなたがた中国共産党は、そのとき何をしていたのか?

日本軍と共謀して、何とか国民党軍を弱体化させようと、国民党軍の軍事情報を日本側に高値で売っていたではないか!

◆日本外務省出先機関にスパイを派遣し、日本軍と共謀していた毛沢東

拙著『毛沢東 日本軍と共謀した男』で徹底して追跡したように、中国共産党軍を率いる毛沢東は、1936年に周恩来やその部下・藩漢年(はん・かんねん)等を遣わせて蒋介石の腹心であった張学良を篭絡し、張学良に蒋介石を騙させて拉致監禁し、西安事変を起こした。

こうして1937年から第二次国共合作が始まったのだが、1939年に入ると、毛沢東は藩漢年を上海に派遣し、日本外務省の出先機関の一つである「岩井公館」に潜らせて、岩井英一(当時、上海副領事)と接触させ、スパイ活動を行わせたのである。

国共合作により周恩来は共産党軍の代表として当時の首都重慶に常駐していたので、国民党軍の軍事情報を直接手に入れることが出来る。国共合作なので、国民党軍の軍事会議で決定された作戦は、共産党軍の代表であったに周恩来と共有しなければならない。藩漢年は周恩来から得た軍事情報を日本側に高値で売っていた。それにより、日本軍は国民党軍を弱体化させることができると同時に、共産党軍側は手にした資金で着々と国民党軍を倒すための準備をしていた。

毛沢東は藩漢年に命じて、「共産党軍と日本軍の間の停戦」をさえ岩井英一に持ちかけたことがある。岩井英一は回想録で、最も驚いたのは「藩漢年に共産党軍との間のみの停戦を持ちかけられたことだ」と書いている。

念のため、拙著『毛沢東 日本軍と共謀した男』の冒頭に掲載した「中共スパイと日本軍との共謀相関図」を図表1としてご紹介する。

図表1:中共スパイと日本軍との共謀相関図

 

『毛沢東 日本軍と共謀した男』冒頭より 筆者作成

『毛沢東 日本軍と共謀した男』冒頭より 筆者作成

 

日本が降伏宣言をした時など、毛沢東は「なんだ、もう少し(あと1、2年くらいは)戦ってくれていれば良かったのになぁ」と残念がったほどだ。中国で声高に言うところの「南京大虐殺」の日には、毛沢東は「祝杯」を挙げたと、元紅軍として毛沢東の近くにいた将軍が、のちに語っている。

◆一瞬、凍り付いたサンフランシスコの夕食会会場

サンフランシスコにおける夕食会の動画がある。なんと、中国の中央テレビ局CCTV+(海外用)が流したものだ。その場面から、まず習近平を歓迎していた時の会場の雰囲気をキャプチャーして以下に示す。

図表2:習近平のスピーチが始まった時の会場

 

CCTV+の画面を筆者がキャプチャー

CCTV+の画面を筆者がキャプチャー

 

次に習近平が抗日戦争に関して触れた直後の画面を図表3に示そう。字幕と実際のスピーチで話した言葉の間にはタイムラグがあるので字幕の内容とは一致しないが、動画をクリックしていただければ、抗日戦争に関して喋った直後だということを確認することができる。会場が一瞬、凍り付いたように冷めている。

図表3:習近平が抗日戦争に関して話した直後に冷めた会場

 

CCTV+の画面を筆者がキャプチャー

CCTV+の画面を筆者がキャプチャー

 

そりゃそうだろう。

基本的な知識を持っている人なら、現在の中国は、米軍と協力して日本軍と戦った「中華民国」の国民党軍を敗北に追いやって誕生した共産中国「中華人民共和国」であることくらいは誰でも知っているはずだ。

そして戦後のアメリカは日本と日米安保条約を結んで、日本はアメリカの最大にして「最も忠実な」同盟国となっている。アメリカで日本軍の蛮行は、今となっては禁句だ。

おまけにシェンノート中将の名前を出すなど、常識を逸脱しているとしか言いようがない。フライング・タイガースのシェンノート指揮官は、中華民国・国民党軍で航空参謀長を務めたのであって、日本敗戦後、国共内戦に突入したときには、蒋介石・国民党軍側に立って共産党軍を殲滅することに貢献した人物だ。蒋介石が毛沢東に敗れて台湾に渡ったあともなお、アメリカのCIAの支援の下、蒋介石の大陸奪還作戦のために貢献している。

サンフランシスコにおける夕食会スピーチの原稿を書いたのは誰だ?

戦略性の高い中国にしては、大失敗作で、愚作と断言してもいい!

藩漢年は新中国(中華人民共和国)誕生後に「スパイ活動を知り過ぎた男」として、適当な理由を付けて逮捕投獄されて獄死した。習近平の父・習仲勲もほどなく投獄されたのだから(詳細は『習近平 父を破滅させた鄧小平への復讐』)、その辺の事情は、習近平自身、知っているはずだ。誤魔化せるとでも思ったのか?

◆戦後、国連創設に貢献したのは「中華民国」の蒋介石

よくも、恥も外聞もなく「国連設立を推進し、中国は最初に国連憲章に署名した国」などと言えたものだと思う。それは全て「中華民国」蒋介石の功労であって、あなたがた中国共産党軍は蒋介石率いる国民党軍を敗退させて「中華人民共和国」を誕生させたのを忘れたのか?

その「中華民国」を国連から追い出し、「中華民国」国民党軍を敗退させて誕生した「中華人民共和国」が「中国を代表する国」として国連に加盟していること自体が、「盗人猛々しい」としか言いようがない。国連は「戦勝国」が誕生させた組織。その戦勝国を打倒して誕生した国を国連加盟させて安保理常任理事国における「中華民国」のポストをそのまま継がせたこと自体が間違っている。

その間違ったことを先頭に立って実現させたのはアメリカだ。

旧ソ連を打倒したかったからで、あの時は中ソ紛争を利用した。

そうしておきながら、アメリカは今、その共産中国が目障りになってしまったので、台湾有事を起こさせて共産中国を潰そうとしている。

何もかもが、アメリカの一極覇権を維持するために構築された世界秩序だ。それを維持するためなら、どんなに残虐極まりない戦争を世界中で巻き起こしても厭(いと)わないのがアメリカなのである。

筆者が『習近平が狙う「米一極から多極化へ」 台湾有事を創り出すのはCIAだ!』を書いたのも、その戦争に日本が巻き込まれるのを未然に防ぎたいというのが目的だ。

◆台湾は犠牲者

台湾は、アメリカの野望の犠牲者だ。

筆者は蒋介石の足跡と無念の思いを辿るために、サンフランシスコに何度も行き、チャイナタウンで長期間過ごしていた時期がある。スタンフォード大学にあるフーバー研究所にしか所蔵されてない、蒋介石直筆の日記を読み解くためだ。

彼は毛沢東が日本軍と密かに結託していたことを知っていた。その無念の思いが滲み出ていて、日記を写し書く手が震えた。涙なしには読めない、断腸の思いが溢れている。

『毛沢東 日本軍と共謀した男』を執筆するに当たり、台湾にも通い詰めた。国立台湾図書館や軍事関係の資料館にも足を運び、毛沢東がいかにして日本軍と共謀したかの証拠を集めることに力を注いだ。

筆者をワシントンに招待し、記者クラブで講演をするように依頼してくださった人物も台湾問題に詳しい人だったし、のちにトランプ政権時代にホワイトハウス入りもしている。ワシントンの記者クラブで講演したときに知り合った多くの友人たちからナマの情報を得ることもあるし、何よりも台湾には、かつての教え子が数えきれないほどいる。台湾に戻ったあと、国民党に関係する仕事に就いた教え子もいれば、民進党の党員になった教え子もいる。

筆者自身、台湾の大学の教授になった元教え子に協力してもらって、台湾における民意調査を主催したことが何度かある。若者の台湾アイデンティティに関するテーマで調査したこともあるし、台湾の大学生たちと討論会を開いたこともある。

だから台湾の政治の内部事情や民意も、ある程度は掌握しているつもりだ。

大学の教授になった元教え子の学生の中には、民衆党の柯文哲・次期総統候補者の熱烈なファンがいて、もし柯文哲が総統になるために闘うのでなく、「藍白合作」によって国民党の侯友宜候補の下で、「副総統候補」として闘うのなら、「もう柯文哲を応援しない」と涙ながらに訴えている若者がいることも教えてくれた。 

アメリカにいる仲間や台湾にいる元教え子たちとは常に連携を取りながら情況把握をしているつもりだ。

しかしコラムを書くときは「1コラム、1テーマ」が原則で、字数制限もある。 

台湾総統選に関する全ての関連事情を書こうとしたら、一冊の本を出版するしかない。台湾総統選に関しては、かなり熱情を込めている人が多いので、読者の一部には不満が生まれることもあるだろうが、「1コラム、1テーマ」という原則をご理解いただけるとありがたい。

この論考はYahooから転載しました。

1941年中国生まれ。中国革命戦を経験し1953年に日本帰国。「中国問題グローバル研究所」所長。筑波大学名誉教授、理学博士。中国社会科学院社会学研究所客員研究員・教授などを歴任。日本文藝家協会会員。著書に『習近平が狙う「米一極から多極化へ」 台湾有事を創り出すのはCIAだ!』(ビジネス社)、『習近平三期目の狙いと新チャイナ・セブン』(PHP新書)、『もうひとつのジェノサイド 長春の惨劇「チャーズ」』(実業之日本社)、『ウクライナ戦争における中国の対ロシア戦略 世界はどう変わるのか』(PHP)、『裏切りと陰謀の中国共産党建党100年秘史 習近平 父を破滅させた鄧小平への復讐』(ビジネス社)、『ポストコロナの米中覇権とデジタル人民元』(遠藤 誉 (著), 白井 一成 (著), 中国問題グローバル研究所 (編集)、実業之日本社)、『米中貿易戦争の裏側 東アジアの地殻変動を読み解く』(毎日新聞出版)、『「中国製造2025」の衝撃 習近平はいま何を目論んでいるのか』、『毛沢東 日本軍と共謀した男』(中文版・韓国語版もあり)、『チャイナ・セブン <紅い皇帝>習近平』、『チャイナ・ナイン 中国を動かす9人の男たち』、『ネット大国中国 言論をめぐる攻防』、『中国動漫新人類 日本のアニメと漫画が中国を動かす』『中国がシリコンバレーとつながるとき』など多数。2024年6月初旬に『嗤(わら)う習近平の白い牙』(ビジネス社)を出版予定。 // Born in 1941 in China. After surviving the Chinese Revolutionary War, she moved to Japan in 1953. Director of Global Research Institute on Chinese Issues, Professor Emeritus at the University of Tsukuba, Doctor of Science. Member of the Japan Writers Association. She successively fulfilled the posts of guest researcher and professor at the Institute of Sociology, Chinese Academy of Social Sciences. Her publications include “Inside US-China Trade War” (Mainichi Shimbun Publishing), “’Chugoku Seizo 2025’ no Shogeki, Shukinpei ha Ima Nani o Mokurondeirunoka (Impact of “Made in China 2025” What is Xi Jinping aiming at Now?), “Motakuto Nihongun to Kyoboshita Otoko (Mao Zedong: The Man Who Conspired with the Japanese Army),” “Japanese Girl at the Siege of Changchun (including Chinese versions),” “Net Taikoku Chugogu, Genron o Meguru Koubou (Net Superpower China: Battle over Speech),” “Chugoku Doman Shinjinrui: Nihon no Anime to Manga ga Chugoku o Ugokasu (The New Breed of Chinese “Dongman”: Japanese Cartoons and Comics Animate China),” “Chugogu ga Shirikonbare to Tsunagarutoki (When China Gets Connected with Silicon Valley),” and many other books.

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