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中国は果たしてウクライナ問題の仲裁役を担うのか
ウクライナ和平会議 サウジで開催
ウクライナ和平会議 サウジで開催

8月に2日間のフォーラムがジッダで開催され、世界40カ国の代表者が参加した。その主な議題はロシアによるウクライナ侵攻をどのように終結させるかである。参加者は特にゼレンスキー大統領の「平和の公式(ピース・フォーミュラ)」として知られるウクライナ側の和平条約案について議論した。 

この議論には中国も加わっており、中国政府が関与することで、ロシア側の立場に影響を与えられる可能性があると期待する声が多かった。結果的に、このフォーラムは相反する成果を生んだように見受けられる。

 

新たな仲裁プラットフォーム

ロシアとウクライナの交渉は2022年春まで続いたが、それ以降ロシア政府とウクライナ政府は交渉の場を設けておらず、ウクライナとその同盟国からの圧力だけではロシア政府に外交努力の再開を強いることができずにいる。こうした状況を変える可能性があるのは、侵攻以降もロシアとの関係を維持してきた国からの働きかけだ。

そのため、ウクライナは西側の同盟国と連携し、ウクライナ侵攻で中立派とされる国を含めた対話のためのグローバルなプラットフォームづくりを進めている。このプラットフォームでは、紛争を徐々に緩和し、場合によってはそれを終結させる可能性のある方法について各国が話し合う。

コペンハーゲンで開かれた第1回目の会議には、このような中立派の国が参加しておらず、李輝氏が特別代表を務める中国も出席していない。その時点では、これはやや不透明な、新しい様式であり、特にNATO加盟国で開催されたことが大きな阻害要因となった。2回目となるジッダ会議は前回と事情が異なり、サウジアラビアのムハンマドビンサルマン皇太子が個人で主導して開催された。中国にとってサウジアラビアの重要性が高まっていることを踏まえると、李輝特別代表のジッダ訪問は、サウジ・中国関係への投資とみることもできる。

中国をはじめとする諸国が、ウクライナやその同盟国と同じテーブルに着くことの意義は、ロシアの政治体制に別の角度から圧力をかけられる可能性を秘めているところにある。理論的には、パートナー国からのこうした圧力で、自国の立場の再検討を実際にロシアに促すことができると考えられる。特に中国は、大規模な制裁下でのロシア経済の崩壊を防ぎ、その技術・軍事機構によるウクライナ侵攻の継続を可能にするうえで極めて重要な役割を担ってきた。ロシアの対中貿易は2022年に30%増えて1,900億米ドルに上り、2023年も7月末時点で36.5%増加し、1,341億米ドルに達した。

その一方で、中国政府は公然かつ無条件にロシア政府を支持しているわけではない。中国は発言の中で、ウクライナに関するロシアの決まり文句を用いておらず、また中国の企業と銀行も制裁措置を順守している。さらに、中国は公然に大量の武器をロシア政府に供与してもいない。

換言すると、中国は中立的立場の維持を試みており、こうした現実的な姿勢は理に適っている。こうした立場をとる国は中国だけではなく、また現在の危機的状況の恩恵を短期的に受けている国も中国だけではない。例えば、インドは、ウクライナ侵攻のおかげで、過去に例を見ない割引幅でロシア産原油を輸入している

このような中立的立場をとるのには、いくつかの理由がある。 

まず、中国など中立派の国にとって、どちらか一方を支持することにメリットはない。そのため、修辞的で外交的、かつ象徴的なツールのみに頼り、ウクライナの領土の保全を支持し、国連憲章の順守を明言し、あるいはロシアによる侵攻を口先だけで非難することすらしている。だが、こうした国々は自らの言葉を実行に移す意欲に乏しい。

次に、プーチン政権が国の命運を賭けてウクライナと戦っていることはどの国も理解するところである。ロシア国内の危機はさておき、ウクライナにおける未来と自国の振る舞いに関するロシア政府の考え方に外部から影響を及ぼす余地はほとんどない。つまり、仮に中国政府やインド政府がウクライナを支持する姿勢を明確に打ち出し、ロシア政府との協力関係を解消したとしても、それによりプーチン大統領が武器を捨て、ウクライナに領土を返還し、大統領を辞任する結果になるとは思えない。

 

地政学的手腕

ロシアによるウクライナ侵攻は、ロシア政府の計画通りに進んでおらず長期化し、外交政策の今後の進め方をめぐって、ロシアには限られた選択肢しか残されていない。これは、経済やテクノロジーなど、国際社会とのつながりに頼る必要のある分野で特に顕著である。

その結果、中国はロシアのテクノロジーや機械工学部品の主たる調達先であり、エネルギー資源の主な市場であり、また金融インフラの主要な供給元となった。ロシアはこうしたリソースに頼り、自国の経済を維持しているのが現状だ。

ロシアの「予算規則」は現在、中国元の売却により履行されている。ロシアの政府系ファンドである「国民福祉基金(National Wealth Fund)」に人民元が占める割合は60%に上り、 以前の30%から倍増した。プーチン大統領によると、中露間の商取引の80%がルーブルと元で行われている。

ロシアが中国をパートナーとしてますます必要としていることは明白だ。だが、中国がなぜロシアを必要としているかについては、疑問が生じる。 

理由の一つは、外交政策問題でロシアを部分的に支持することが、中国の利益に適うことだ。

中ロ関係という文脈においては、中国が現在、米国との対決が間近に迫りつつあるという可能性を認識していることを念頭に置いておくことが重要となる。ここ数年、建設的関与の試みがある程度なされたものの、二超大国間では緊張関係が続いている。中国は現在、米国との対立期間にあり、自国の対応に関係なく今後も米国政府から圧力をかけ続けられると考えているのだ。

例えば、仮に中国がロシア政府に背を向け、制裁措置を科し、ウクライナ侵攻に対する立場を変えたとしても、それが米国との関係改善につながるだろうか。こうした対応を受けて、米国政府と中国政府の間の関係が根本的に変わるだろうか。それはあり得ないと中国首脳陣はみている。

それどころか中国政府はロシア政府という味方を失い、何の見返りも得られないという恐れすらある。むしろロシア問題で一切譲歩しないことが、米国との関係の根本的な改善につながるというのが中国の考えだ。したがって、現在のところ中国にはウクライナ侵攻に対する自らの立場を見直す誘因がない。

中国政府にとって、対欧州関係は優先課題である。同政府は西側世界全体との紛争の回避に努め、米国と欧州連合の分断を図っている。中国政府が目指すのは、欧州理事会が示したように、デカップリング(切り離し)ではなく、デリスキング(リスク削減)に向けて取り組むよう欧州を促すことだ。 

プーチン大統領によるウクライナ侵攻を中国は支持していないと欧州に受け止めてもらうことは中国の利益となる。欧州が中立派の国として中国政府を信用すればするほど、デリスキングに向けた取り組みはスムーズに進む。一方、デリスキングに向けた取り組みの進捗が遅ければ遅いほど、中国は欧州市場と先端技術、そして自由な資金源へのアクセスの確保に時間がかかることになる。

 

責任ある大国

ウクライナで今なお続く紛争により、中国は難しい立場を強いられている。物的損失と評判の下落、その両面で代価を払わされているのだ。物的損失としては、食料品価格とエネルギー価格の高騰などが挙げられる。一方、ロシア政府との関係を改善させているにもかかわらず、中立姿勢であるかのようにみせようとする中国政府の対応が評判に影響を与えている。換言すると、中国はロシアの政治体制を間接的に支えており、そうした対応はなにより国際法に違反し、ウクライナの領土を併合する行為にあたる。このあいまいな立場が欧州諸国から非難を浴びている。

中国政府は自国の優先課題のバランスを取ろうとするあまり、相反する声明を出し、矛盾する措置を講じているのが現状だ。一方でウクライナの領土の保全を認めながら、他方ではNATO拡大を批判する。こうした矛盾は、2023年2月24日に発表され、ほどなくして「中国の和平案」と称されるようになったウクライナ侵攻に関する中国の立場表明にも現れている。李輝特別代表がまずウクライナを訪れ、次にジッダ会議に出席したが、これは戦略的あいまいさというこの方針の一環だ。

一方で、中南米やアフリカ、中央アジア、中東の途上国の間における責任ある大国という中国の評判を過小評価してはならない。ウクライナ侵攻について中立的立場を崩さず、具体的な解決策を欠いていても、平和的解決を唱えることで、中国は影響力を拡大し、途上国との関係を強化できる。それにより、中国は新たな市場と資源へのアクセスだけでなく、外交政策の目的に対する支持を国際舞台で得ることができるようになる。

中国が目指しているのは、ウクライナ紛争に関与する他の諸国とは異なり、建設的な解決策を模索する「責任ある大国」であると途上国世界に実証することだ。だが、中国がそうした方向へと具体的に動き出すとはまず思えない。本来外交政策とは具体性をもつものであるが、責任を伴わないあいまいな文言を好む中国の伝統的外交手法にはそれがない。

このあいまいさにより、中国政府は一貫性のない行動をとることができる。ロシアが排除されたイベントに出席したかと思えば、他方ではアラスカやアリューシャン列島沖においてロシアと過去に例を見ない規模の合同海軍演習を行う。

近い将来に、ウクライナ侵攻に対する姿勢を中国が著しく転換することはまずない。これが中国の外交政策を研究する多くの専門家の見解だ。

テムール・ウマロフ。ウズベキスタン出身。中国と中央アジア問題研究の専門家。カーネギー・ロシア・ユーラシア・センターのフェローでもあります。 カーネギー清華青年大使プログラムおよびカーネギー中央アジア未来プログラムの卒業生。国家経済行政ロシア大統領府アカデミー(RANEPA)で中国研究の学士号を、モスクワ国際関係大学(MGIMO、ロシア外務省付属の公立大学)で国際関係の修士号を、北京対外経済貿易大学(UIBE)で世界経済学の修士号を取得。 Temur Umarov. A native of Uzbekistan, he is an expert on China and Central Asia, and a fellow at Carnegie Russia Eurasia Center. He is an alumnus of the Carnegie-Tsinghua Young Ambassadors and the Carnegie Central Asian Futures programs. Temur holds a BA in China Studies from the Russian Presidential Academy of National Economy and Public Administration (RANEPA), an MA in International Relations from Moscow State Institute of International Relations (MGIMO), and an MA in World Economics from Beijing University of International Business and Economics (UIBE).