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中国によるウクライナ「和平」の働きかけ:それは中ロ関係にとって何を意味するのか
習近平国家主席とプーチン大統領(写真:代表撮影/ロイター/アフロ)
習近平国家主席とプーチン大統領(写真:代表撮影/ロイター/アフロ)

中国のユーラシア問題担当特別代表の李輝大使は「和平協議推進」のため、ロシアによる侵攻後初めてウクライナを訪問する。5月15日からの外遊中、同特別代表はポーランド、フランス、ドイツ、ロシアも訪れる予定だ。

ウクライナにおける軍事衝突をめぐり、中国がその存在感の高まりを誇示するの一連の試みの中で、これは最新の動きの1つとなる。ロシアによるウクライナ侵攻開始以降で初となる、習近平国家主席とウォロディミル・ゼレンスキー大統領の会談もやはりその一環だ。

それに先立ち、ロシアがウクライナへの侵攻を本格化させて2年目となる日に、中国は紛争を解決するための「和平」を発表した。さらに3月には、習近平国家主席が3選後初めてロシアを訪問している。だが、中国政府の対応を一義的にとらえてはならない。

 なぜロシアは中国を必要としているのか

ウラジーミル・プーチン大統領から「親愛なる友人」と呼ばれる習近平国家主席は、ロシアを訪れることで、支持を最も必要としている、まさにそのときに、大きな贈り物をしたことになる。現代ロシアが今ほど外交的孤立を深めたことはなく、またプーチン大統領自身も、ハーグの国際刑事裁判所から自らの逮捕状が出されるまで、今日のような有害な政治家ではなかった。

習国家主席のほかにも、中国の高官がさまざまなタイミングでロシアを訪れているが、最も重要なのはやはり主役の訪問だ。

中ロ関係の現状について、習国家主席の訪ロ後に形成された世論は大きく2つある。1つはロシアが中国の子分(ジュニアパートナー)となり、中国はロシアを命令通りに動かすことができるようになったというもの。そしてもう1つは、中ロ間で同盟関係が結ばれ、習国家主席が結局のところ、プーチン大統領によるウクライナ侵攻を支持し、武器供与に同意したというものだ。

だが、言うまでもなく、これもやはり「真実はその中間にこそある」。両サイドに相手から得るものがあるとはいえ、本格的な同盟とは程遠い。

ロシアにとって、中国側がモスクワを訪問することがなぜ重要なのか。その答えは明白だ。軍事衝突の激化と、西側諸国のロシアに対する全面的な経済制裁を受け、中国に対する依存を強める以外、ロシア政府に選択肢はない。2022年のデータを見ると、ロシア経済の中国依存が急速に強まっていると断言できるだけの事例が蓄積されていることが分かる。現在、ロシアの輸入の約40%が中国産で、ロシアの対中国エネルギー資源輸出量は過去最大を記録し、人民元が為替取引の33%、ロシア国内の決済の14%をそれぞれ占める。また一部中国企業は、グローバルブランドが去ったロシア市場でシェアを拡大している。

政治的に見ると、習国家主席の訪ロはプーチン大統領の評判・名声を国内外で高めるためにも非常に重要であった。ロシアの大統領が自らの身の安全や評判・名声を心配せずに訪問できる国がほとんどないのと同様、世界最大の侵略者と笑顔で握手をするのをいとわない指導者も今やほとんどいない。

ここで、より興味深い疑問が浮かぶ。世界第2位の大国の指導者がなぜ、現代ロシアのような国を訪問する必要があったのか。

なぜ中国はロシアを必要としているのか

有害な国であるにもかかわらず、長く国境を接し、両国の経済構造が相互補完される関係にあり、両国の政治体制が本質的に権威主義的であるなどといった客観的理由により、中国政府にとってロシアは重要な国であることに変わりない。とはいえ、重要さを増しているのは第4の要因 — 米国が中心的な役割を果たす国際秩序は不当だとすることについての、両国の見解の一致だ。

ロシア政府と中国政府はいずれも、国際秩序を変えようとしているが、その手法はそれぞれ異なる。ロシアは2008年に起きたジョージアとの紛争やクリミア併合などの紛争により、そして今またウクライナ侵攻により、国際的な注目と尊敬を集めようとしている。

一方、中国政府のアプローチは異なる。中国が飛躍的な発展を遂げることができたのは、主に現在の国際秩序のおかげだ。中国の戦略は、簡単に言うと、国際秩序で不可欠な役割を担い、徐々になくてはならない存在となって、最終的には国際秩序を中国政府のニーズに沿ったものにすることであろう。中国はすでに世界GDPの20%近くを、世界の物品輸出の15%弱を占め、国連の年間予算の分担率も12%に上る。

その一方で、中国政府は「人類運命共同体」というビジョンを共有する支持国も必要としている。

このビジョンにおいて中国政府をロシアのように支持してくれる国をほかに見つけることは難しい。しかもロシアは、政治体制が不安定な発展途上国の一つ(中国の構想の主な信奉者)であるだけではなく、核保有国であり、国連安全保障理事会の常任理事国でもある。その上、西側諸国との対立で、ロシアは中国よりはるかに踏み込んだ行動を取り、自国の経済発展や、場合によっては政治的安定ですら犠牲にすることを厭わない。

戦略的あいまいさ

中国とロシアが等しく、現在と将来の国際秩序を懸念しているのであれば、なぜ米国が何十年間にもわたり西側諸国と築いてきたような、本格的な同盟関係を結ばないのだろうか。

中国政府とロシア政府が両国の関係を、単に西側からの圧力により親交関係の確立を余儀なくされた結果生まれたものではなく、はるかに息が長く、重要なものであると世界に信じ込ませたいと思っていることは間違いない。「同盟」は、その趣旨を考えると適切な言葉なのだろう。だが、同盟を結べば、同盟相手が関与するすべての紛争に、自国の紛争であるかのように加わると約束したとみなされることになる。

中国政府は、ロシア政府による予想外の行動に責任を負うことを望んでいない。その一例が、ロシアによるウクライナ侵攻と、それに対する中国の反応だ。一方、ロシア政府も中国と周辺国の領土紛争に巻き込まれることを望んでいない。

真の同盟国は、自国の行動に対して、同盟相手が少なくとも責任の一端を負わされることを自覚し、自国の意向を互いに通告し合う。ウクライナ侵攻の20日前にプーチン大統領が北京を訪れたが、これを通告と解釈する向きは多い。その際に、両国は二国間関係について「両国の友情に限界はない」とする共同声明に署名した。中国政府がロシアに唯一求めたのは、中国の評判・名声にとって大切な冬季オリンピックが終了するまで侵攻を待ってほしいということだったというのは論理的な推察と言える。

だが、実際にはプーチン大統領が「親愛なる友人」である習国家主席に通告せず、中国は不意打ちを食らったのかもしれない。その根拠は、中国がウクライナ在住の何千人もの自国民を事前に退避させなかったことだ。

同盟とは、2カ国以上が個々の問題について同じような見解を示すだけでなく、外交政策の優先順位について正式な合意を得ていることも示唆している。つまり、ロシアと中国の場合、国際秩序が不当なものであるという共通の考えを持っているだけでは不十分であり、両国の外交政策の優先順位もほぼ完全に合致する必要がある。

ところが、中ロ間でそうした認識はない。仮にあったとしたら、中国政府はプーチン大統領の侵略戦争にすでに加担しているだろう。現在のところ、それを裏付ける証拠はほとんどみられない。二次的制裁が科せられる恐れがあることから、ロシア市場でのプレゼンス縮小、社員のロシアからの移転、ロシアの組織・団体との協力の限定などを図る中国企業も出てきた。例えば、Huawei社はオンライン注文の受付を停止し、社員を中央アジアに移転させた。また、Loongson社製プロセッサのロシアへの輸出を中国政府が禁止したという報道や、中国人民銀行がロシアでの銀聯(UnionPay)決済システムの設置を制限しているとの報道もある。

ウクライナ侵攻開始の初日から、中国政府は厄介な立場に立たされていた。米国の覇権と戦う姿勢ではロシアと一致する一方、ロシア政府の行動は、台湾に対する自らの主張の正当化で中国が持ち出す、領土の一体性という原則と明らかに矛盾する。

そのため、中国は1年以上にわたり、「戦略的あまいさ」の方針を貫いて、中立姿勢を取り、できるだけウクライナ侵攻から距離を置くよう努めてきた。だが、実質的に何もしないことで、中国政府はすでに、ロシアを孤立させ、中国への依存を一段と強めさせただけでなく、米国の関心を自国から、支援するウクライナへと向けさせた。

限界のある友情

ロシア訪問直後、習近平国家主席は、ロシアによる侵攻が始まって以来初となるウクライナのウォロディミル・ゼレンスキー大統領との電話会談を行った。そして今、中華人民共和国の特別代表がウクライナを訪れようとしている。

とはいえ、習国家主席とゼレンスキー大統領との会談や、李輝特別代表のキーウ訪問をめぐっては、大きな期待を抱くまでもない。こうした対応をとることで、中国は座視し続けながら、行動を起こしているかのような体裁を取り繕おうとしているのだ。外から状況を注視し、その時々の状況に合わせて対応することが中国の利益になるのである。

中国が注視するポイントは多い。ウクライナでの戦闘は結局のところ、世界の経済大国の1つに対する西側の制裁戦略を精査する機会を中国政府に与えたことになる。中国政府は、ロシアが最前線で直面しているすべての難題と、一致協力し、世界最大の軍隊の1つに抵抗する西側同盟の能力から学ぶこともできる。中国はロシアの国内情勢にも目を光らせている。ロシアの政策を批判する中国の著名なロシア専門家すら出てきた。批判の対象となっているのは、帝国主義的なアプローチを取るロシア政府の外交政策と、プーチン大統領の保守的イデオロギーに基づく国内政策だ。このイデオロギーは、強固な中核的価値観を基盤としたものではなく、「とりとめのない空想(discursive bubble)」と「空っぽの価値観(empty shell of values)」にのみ根差したものだと専門家らは指摘している。

中国政府はまた、ロシアの宣伝機関がどのようにウクライナ侵攻に対する世論を操作しているか、そして自国のウクライナ戦争を米国政府による他国の不当な扱いの一例として描くか、を注視している。ロシア政府が中国政府に対して大きな影響力を及ぼすことができる唯一の要因はおそらく、これまでのところかなりの程度、ロシアが方向性を決定づけてきた諸事態への対応を同国が迫られていることだろう。

中国が(ソビエト連邦崩壊の歴史をいまだに徹底的に研究しているのと同様に)ロシアの経験を徹底的に研究する中、ロシアの外交政策自体は相変わらず独善的だ。ロシアのシンクタンクや学界には、意思決定に対する影響力が実質的にない。そのため、中国との関係はロシア大統領府が管理する — その役割については、共同声明に別途記載)。

ロシア大統領が述べた「親愛なる友人」を歓迎する言葉は、現代中国に対するプーチン大統領の姿勢を雄弁に物語っている。「近年」とロシア大統領。「中国は目覚ましい発展を遂げてきた。それにより、全世界の真の関心を集めており、我が国は若干、嫉妬すら覚える。」

嫉妬の根源は理解できる。プーチン大統領は、ソビエト連邦崩壊を「最大の地政学的惨事」だと考えている。だからこそ、この現代ロシアのエリートは、ソビエト連邦がなれたはずだと自らが思う国となった中国に称賛の念を抱いているのだ。だが、中国に対するプーチン大統領の認識が、ウクライナや世界史全般に対する認識と同様、偏ったものであることが判明しても、それはさほど驚くにはあたらない。

ウクライナイ侵攻の正当化にあたり、ロシアのプロパガンダ担当者は「ロシアにはほかの選択肢がなかった」と度々述べている。今度は、自国と中国の利害の調整にも同じ言葉を繰り返す必要があるだろう。確かにロシアにはほかの選択肢がない。そして、それを招いたのは、指導者が下した決定だ。これが、中ロ関係における中国の最大の強みとなる。ロシア政府とは異なり、中国政府には将来、さまざまな方向に発展してく可能性があり、どの国が中国のパートナーになるかはそれによって決まる。

プーチン大統領が率いるロシアにとってこのように苦しい時期に、昨年の中国との共同声明に謳われていた「両国の友情に限界はなく、協力に不可侵の聖域はない」という文言が消えたのは象徴的だ。この言葉を、同盟関係を宣言するものだと多くが解釈した。

今回の共同声明では、類似の文章が次のような文言になっている。「代々受け継がれてきた両国民の友情には強固な基盤があり、両国の包括的な協力は極めて幅広い可能性を秘めている。ロシアは安定し、かつ繁栄する中国に関心を持ち、中国は強く、かつ成功を収めるロシアに関心を持っている。」

ロシアと中国の限界のない友情は、わずか1年余りしか続かなかった。

テムール・ウマロフ。ウズベキスタン出身。中国と中央アジア問題研究の専門家。カーネギー・ロシア・ユーラシア・センターのフェローでもあります。 カーネギー清華青年大使プログラムおよびカーネギー中央アジア未来プログラムの卒業生。国家経済行政ロシア大統領府アカデミー(RANEPA)で中国研究の学士号を、モスクワ国際関係大学(MGIMO、ロシア外務省付属の公立大学)で国際関係の修士号を、北京対外経済貿易大学(UIBE)で世界経済学の修士号を取得。 Temur Umarov. A native of Uzbekistan, he is an expert on China and Central Asia, and a fellow at Carnegie Russia Eurasia Center. He is an alumnus of the Carnegie-Tsinghua Young Ambassadors and the Carnegie Central Asian Futures programs. Temur holds a BA in China Studies from the Russian Presidential Academy of National Economy and Public Administration (RANEPA), an MA in International Relations from Moscow State Institute of International Relations (MGIMO), and an MA in World Economics from Beijing University of International Business and Economics (UIBE).