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貿易戦争、トランプ、ファーウェイ、今後の中国の関わり方
2019年G20大阪サミットにおける米中首脳会談(提供:アフロ)

フレイザー・ハウイー

Red Capitalism,The Fragile Financial Foundations of China’s Extraordinary Rise(「赤い資本主義、中国の目覚ましい発展を支える脆弱な金融システム」) 共著者

 

  トランプ氏が二党の支持を得ていると主張できる分野はほぼ存在しないが、対中国の政策は、二党および世界中の多くの有権者に活力を与えた分野といえる。トランプ氏に中国政策はあるのか。これは多くの場合明確ではない。政策とは、いくつかの特定の目標を達成するための明確で一貫性があり、包括的な一連の措置および法律を意味する。トランプ氏の政策や目標を明確に説明できる人はほぼ存在しないが、彼が中国、そして中国の多くの国際規範への違反、貿易や商慣行の濫用に対し堂々と発言する意思や中国からの輸入品に関税を課す姿勢は、何十年にもわたって中国が関与するすべての分野で最も率直でダイナミックな議論を引き起こすきっかけとなった。

  トランプ氏は、任期が一期であろうと二期であろうと、自身の政権よりも相当長く続くであろう中国問題のパンドラの箱を開けたのである。中国と直接取引したことのある多くの人々にとって、トランプ氏の不満は納得のいくものである。何十年もの間、ビジネスマンたちは、中国市場の将来の成長を公に称賛し、中国の指導者たちに優遇されようとへつらう一方、中国でビジネスを展開することの難しさを内々に訴えてきた。中国が友好と平和の言葉を口にしながらも、南シナ海のほぼすべての権利を主張し、人工島を建設し、約束を破ってそれらの島を即座に軍事拠点としていることに、隣国は警戒感を抱いている。中華人民共和国が自ら制定した憲法に従うことのみを主張してきた弁護士や反体制派のように、チベットや新疆の民族も長年にわたり迫害を受けてきた。

  豊かで繁栄した中国が自然に政治改革をもたらすという潜在的な希望に支えられた長年の関係に、トランプ氏が待ったをかけた。天安門事件後の関係維持モデルは、次に何が起こるかを想定する物差しとしては役不足だ。

 

  選挙前、トランプ氏は貿易問題で中国に厳しく対処するとの公約を掲げた。2017年までは従来通りであったが、2018年には争いが露呈し始め、トランプ氏は中国だけでなく、EU、日本、韓国という米国の最も強力な同盟国に対しても、太陽光発電製品、鉄鋼、洗濯機、その他の商品に一連の関税を課し始めた。トランプ氏は、当初は500億ドル相当、その後2,000億ドル相当というこれまでにないほどの広範な品目に対し、関税を10%から25%に引き上げることを明らかにした。数字的な面もトランプ氏に味方した。赤字があまりにも大きかったため、中国の率直な反応として、同一の条件でトランプ氏に合わせることはできなかった。しかし、二国間貿易赤字に固執することは、一点のみに集中して全体を読み取ろうとするようなものだ。それは単に一つの側面であり、二国間の経済関係においては極めて限定的な側面だからである。中国が米国からより多くの農産物やエネルギーを購入するという対話は、二国間の貿易赤字を調整することにはなるが、米国や他の外国企業が中国との間に抱えている真の問題に対処することにはならない。市場へのアクセス、中国国内の競争条件の不均衡、膨大な知的財産の盗用、強制的な技術移転は不満のほんの一部だ。これらはいずれも貿易の赤字を見るだけで理解することはできないし、サービスの貿易や資本移動をこのような狭い視野で捉えることは難しい。

  しかし、トランプ氏の単刀直入なアプローチは、他の人々が一歩踏み出して議論を広げることを可能にした。貿易戦争は、単に貿易赤字に関するもの、もしくは中国が大豆を何トン購入するまたはしないかに係る問題であると考えている人物はいないと願いたい。しかし、貿易協定に対する期待には致命的な欠陥が存在する。トランプ流の「取引」は、あのパンドラの箱から飛び出した問題すべてに対処することはできない。

  2018年初めにこれらの初期の動きが始まって以降、貿易戦争はニュースの見出しを飾っている。過去一年間、交渉は進展したり、暗礁に乗り上げたりの連続だった。期待は高まり、そしてまた裏切られる。トランプ大統領と習近平主席との短い会談は、数日間にわたる休戦とも言える事態をもたらすが、すぐさま双方の公式または非公式のチャネルで、相手側の不誠実なアプローチや深刻な意見の相違について主張し合い始める。

  ファーウェイの取引は貿易交渉の一部なのだろうか。孟晩舟氏は、罪を摘発され、正当な制裁のために拘束されたのだろうか。それとも、より大きな議論を進めるためだけの人質として拘束されたのだろうか。世界最大の経済二大国の関係が崩れ、その相互関係を再調整していく状況では、なにが起きてもおかしくはないように思える。以前の破壊的打撃を受けた制限が一部緩和されたことで、ファーウェイは今回の停戦における最新の受益者となったが、これにより、非常に混乱を招くメッセージが国内外に発信された。トランプ氏の中国政策とは、具体的には何なのか。中国は、政治的説得にもかかわらず、米国の予測可能な政権に慣れ、その安定性を自らの利益のために利用し乱用してきた。トランプ氏は戦いを仕掛ける無限の力を有しているが、その戦いを終わらせる、または戦いに勝利することにおいてはそこまでの印象はなく、今の中国は混乱状態に陥っている。

 

  しかし、現実には、米中間に「取引」は存在せず、二国間に存在する無数の問題に対処できる包括的な取引もあるはずはない。貿易と執行のメカニズムの特定の側面をカバーする合意はあるかもしれないが、その基盤となる国の経済インフラは根本的に異なる。その合意でさえ、名称が変わったこと以外特に変更された点はなく、まだ発効していないNAFTAの再交渉の結果とほぼ変わらないかもしれない。

 

  すでに起こっていることと言えば、世界のサプライチェーンの再編と世界の工場としての中国の役割の変化である。ここ数年、中国の製造コストは上昇しており、一部の産業においては最も安い生産国ではなくなっている。製造業者はすでに生産拠点を中国から移しており、移転先が米国であることは少ないが、東南アジア、または韓国や日本に戻すといった動きがみられている。自動化とロボット工学は、熟練度の低い多くの労働者への依存を減らした。米国で販売する「中国製」の商品には、利点はほとんどなく、懸念される事柄が数えきれないほど存在するため、中国で製造される製品は中国市場向けになっていくことが予想される。

  こうした中国市場に集中することへの危機感から、中国への投資は縮小するだろう。今目立った投資をする必要はあるのか。半年またはそれ以上待ったうえで、状況がどのように変化するかを確認するのが得策だろう。中国が金融セクターの外資参入の基準を引き下げたとしても、中国経済が減速し、国内企業が確固たる地位を築いている現在、本当に中国にチャンスがあると言えるのだろうか。

  ビジネス環境が厳しくなるにつれ、外国人人材は中国から出ていくだろう。これは、安全に対する懸念もあるが、スタッフを自国に固定させたいという願望と、より経験豊富なスタッフを必要とするビジネスの可能性が中国には存在しないという単純な現実によるものである。

  中国との関係が変化すれば、中国で直面している不均等な競争条件や圧力について、積極的に発言するより大胆で率直な経済界を見ることができるだろう。商工会議所は、メンバーが直面している困難を示すために声を上げており、こうした動きはすでに始まっている。

  もちろん、米国の政治分野での反中国的なレトリックも反発につながっている。時に人種差別主義に近い、はるかに厳しい目が向けられることもあり、これを中国生まれの研究者、エンジニア、学生、ビジネスマンに対する病的な偏見(パラノイア)が広がっていると言う人もいる。長期ビザの取り消しや全般的に厳しい入国要件によって、すでに犠牲者が出ている。こうした反発は、中国側からの開放の確約や十分な確認をしないまま、基本的な互恵関係を無視して中国への門戸を急速に開放しようとした初期の浅はかな政策によるものである。中国の多くの地域における米国の政策は、中国の姿勢がもたらす真の課題から意図的に目を背けてきた。中国はその意図をおおむね明確にしていたが、政策立案者は短期的なリターンを達成するため、中国の長期的な野望に気づかぬふりをしたのだ。何十年にもわたる多岐にわたる関わりの後、バランスを取り戻そうとし、一部の分野では関係性の完全再調整しようとすることは、間違い、行き過ぎ、そして苦痛を伴うことは言うまでもない。

 

  一貫した対中政策とはどのようなものなのか。トランプ氏には他にどのような戦略があるのか。「貿易戦争」は勝てる戦いなのか。

  第一に、貿易戦争の対話とは取引であり、トランプ氏はおそらく、これを他の不動産取引やテレビのリアリティ・ビジネス番組と同類とみているのだろう。しかし、これは単一の契約ではない。中国との取引は分野ごとに大きく異なるのだ。気候変動や海洋汚染のような地球規模の問題には、あらゆる側面での協力が必要だが、その他の分野では、二国間で折り合うことなく、場合によっては対立さえ生じることになる。

  トランプ氏は、米国の長年の同盟国との同盟関係を再確認すべきだ。ほぼすべての同盟国が中国に対して同様の不満と懸念を抱いているのだから、すべての国と戦うのは得策ではない。トランプ氏のスタイル、態度および発言すべては、EUを遠ざけ、日本とは良好な関係を維持しながらも、戦後の安全保障同盟に疑問を投げかけている。しかし、米国、EU、日本が一体となり中国に働きかけるという構図は、中国は何としても避けたいだろう。無敵の集団とも言えるからだ。中国は、分断と支配というゲームの中で自らが利益を得る状況を望んでいる。EU中央当局がより強固な中国政策を形成しようとしている中、EUの脆弱性を利用して東欧諸国やイタリアの支持を得ることに中国は大きな成功を収めている。

  そこから発展していくのがTPPの再評価である。トランプ氏が大統領就任初日に離脱を表明したこの多国間協定は、中国がこれらの国々との取引を望むのであれば、中国が変わらなければならないという圧力をかけることに焦点が当てられていた。オーストラリア、日本、そして太平洋のその他の地域を閉ざすことは、アメリカにとって非常に好都合である。多国間主義を拒否することは、中国との部分的かつ場当たり的な取り決めを行うことにつながり、これを中国は最大限活用しようとするだろう。

  欧米は、中国が合意された規範や自らの約束に違反するならば、その行動を非難するべきである。許しがたい人権侵害や地政学上の野望に対して、中国を怒らせないように、私的な場で控えめに発言されたり、指摘されたりすることがあまりに多い。これは止めなければならない。中国に対し、新疆、南および東シナ海、あるいは経済分野における状況を公に説明するよう求めることは、健全で誠実な交流のために不可欠である。これは、深夜の突然のツイッター投稿ではなく、政府全体としての適切な公開討論、声明および行動を意味する。米国を批判しても誰も気にしないが、ほぼすべての人は中国に対して、そして中国のことを率直に話すことを避けている。

 

  貿易関税以外にも、米国は中国に対して大きな影響力を持っている。世界で最も深く広範な資本市場を有する国として、資本戦争の可能性は極めて現実的である。マルコ・ルビオ上院議員は、より高い開示基準を求める最近の法律に基づき、米国で上場している中国企業に対して、既に初期攻撃を実施した。これは、米国がすべてのシステムを使って中国のアクセスを制限しようとした場合に与え得る圧力のほんの一部にすぎない。

  技術、特にチップ設計についても同様のことが言えるだろう。最近の中国の技術の進歩や追い上げに多くの人々は驚嘆しているが、その一方で、中国はインテルのチップと米国の知的財産を使用していることを忘れてはならない。ファーウェイはその議論の中心に存在していたため、貿易戦争によって提起された多くの問題の象徴でもあった。

  トランプ氏は中国と米国の関係をリセットした。過去の失敗した政策に逆戻りすることはないが、彼の無遠慮なアプローチと関税や赤字に対する執着は、現実的な関係を構築するための基盤とはならない。部外者が、中国共産党をどれほど不快であると感じていようとも、中国経済は崩壊寸前ではないし、中国はベネズエラでもなければ、共産党が解体すると考える理由もない。中国の権威主義的支配は、一朝一夕に消滅するとは思えないほど深く根付いている。

  米国と中国の全面的な経済戦争は、既存している対立関係の望ましい終わり方ではない。両国共に打撃を受け、それが世界経済にも波及するだろう。しかし、中国との付き合い方には、中国がどういう国で、何をしているのかという現実に基づいて行う必要がある。過去30年間、米国をはじめとする国々は、中国が彼らの望むべき姿になるという考えに基づき中国と交渉してきたが、今では、その期待通りに中国が発展しなかったことに衝撃を受けている。こうした状況は変わりつつある。

 

(この評論は7月20日に執筆)

フレイザー・ハウイー
フレイザー・ハウイー(Howie, Fraser)|アナリスト。ケンブリッジ大学で物理を専攻し、北京語言文化大学で中国語を学んだのち、20年以上にわたりアジア株を中心に取引と分析、執筆活動を行う。この間、香港、北京、シンガポールでベアリングス銀行、バンカース・トラスト、モルガン・スタンレー、中国国際金融(CICC)に勤務。2003年から2012年まではフランス系証券会社のCLSAアジア・パシフィック・マーケッツ(シンガポール)で上場派生商品と疑似ストックオプション担当の代表取締役を務めた。「エコノミスト」誌2011年ブック・オブ・ザ・イヤーを受賞し、ブルームバーグのビジネス書トップ10に選ばれた“Red Capitalism : The Fragile Financial Foundations of China's Extraordinary Rise”(赤い資本主義:中国の並外れた成長と脆弱な金融基盤)をはじめ、3冊の共著書がある。「ウォール・ストリート・ジャーナル」、「フォーリン・ポリシー」、「チャイナ・エコノミック・クォータリー」、「日経アジアレビュー」に定期的に寄稿するほか、CNBC、ブルームバーグ、BBCにコメンテーターとして頻繫に登場している。 // Fraser Howie is co-author of three books on the Chinese financial system, Red Capitalism: The Fragile Financial Foundations of China’s Extraordinary Rise (named a Book of the Year 2011 by The Economist magazine and one of the top ten business books of the year by Bloomberg), Privatizing China: Inside China’s Stock Markets and “To Get Rich is Glorious” China’s Stock Market in the ‘80s and ‘90s. He studied Natural Sciences (Physics) at Cambridge University and Chinese at Beijing Language and Culture University and for over twenty years has been trading, analyzing and writing about Asian stock markets. During that time he has worked in Hong Kong Beijing and Singapore. He has worked for Baring Securities, Bankers Trust, Morgan Stanley, CICC and from 2003 to 2012 he worked at CLSA as a Managing Director in the Listed Derivatives and Synthetic Equity department. His work has been published in the Wall Street Journal, Foreign Policy, China Economic Quarterly and the Nikkei Asian Review, and is a regular commentator on CNBC, Bloomberg and the BBC.