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「中国気球」の軍事目的を挙げるなら…
「中国気球」を米軍戦闘機が撃墜(写真:ロイター/アフロ)
「中国気球」を米軍戦闘機が撃墜(写真:ロイター/アフロ)

もし、「中国気球」に軍事目的があるとすれば、それは今のところでは「大量に放つことによる陽動作戦の実験」くらいのものだろう。大量に気球を放って敵の出方を見る以外は、「外国から学ぼう」という論文がある程度だ。

◆中国は大量の気球を飛ばして敵を攪乱する陽動作戦を考えている

このたび撃墜された中国製の高高度気球(以後「中国気球」)自身に偵察機能があるとは思えない。なぜなら、どこに向けて飛ばすかに関して操業能力がないからだ。

そのことは<プロペラが付いている「中国気球」に操縦能力はあるか?>で書いた通りだ。

しかし、中国が「気球と軍事」の関連付けに関して無関心かというとそうではない。

たとえば、2022年『艦船電子対抗』の第2期には<軍事対抗中の空飄球の運用>という論文が載っている。「空飄球(くうひょうきゅう)」というのは「空中に飄々(ひょうひょう)と浮遊する気球」の意味で、気球自身に偵察機能などの軍事目的があるわけでなく、大量に気球を飛ばすことによって、敵の軍事配備を攪乱(かくらん)させるという、陽動作戦のことを指す。

これに関して論文冒頭では以下のようなことが書かれている。

――空飄球は、「軽便で低リスク、低コスト、(定点)滞空時間が長い」などの特徴がある。軍事上では、敵の航路妨害、攪乱、偵察監視などの作戦で使用される。この論文では空飄球の原理と特性を分析し、これまでの(海外の)適用事例を要約し、国内外での異なる戦闘スタイルでの軍事的応用における空飄球の対抗モデルを要約し、空漂球が将来の軍事領域での応用の可能性と発展趨勢を提示した。

◆海外から気球の軍事利用技術を学ぼう!

多くの論文があるが、そのほとんどが「海外から気球の軍事利用を学ぼう」というものばかりで、アメリカや日本あるいはドイツが過去において、どのような気球の軍事利用をしてきたかということばかりが書いてある。

たとえば<海外の係留気球装置の開発と普及啓蒙>という論文では、「アメリカやロシアあるいはイスラエルなどの海軍が最先端の開発をしているので、わが国(中国)も少し取り入れてはどうだろうか?」といった提案がなされている(筆者注:係留式気球というのは「ロープでつなぎ留めて、任意の高さの空中に浮遊させる気球」のこと)。

また、2022年2月11日には、「解放軍報」に掲載された記事<軍用気球:戦場の狭間に漂う>が、「人民日報」の電子版「人民網」に転載されているが、これも2021年に展開された米軍軍事演習「雷雲(Thunder Cloud)」が詳細に紹介されており、過去に関しては第二次世界大戦における日本やドイツの気球作戦の失敗などが紹介されている。

◆覚えていますか?あの気球はどこに行ってしまったのでしょう?

2017年10月9日には<どこかに飛んで行ってしまった中国科学院のあの気球を覚えていますか?>という報道があった。

当時、中国科学院大気物理学研究所の気球が大きなニュースとなったことがある。中国科学院大気物理学研究所の研究者が山東省済南の章丘気象局の宇宙観測所で実験を行ったところ、気球のロープが切れて、風と共に漂っていってしまったというニュースだ。中国科学院はその後、懸賞金を出し、気球を回収した者には4000元の賞金を提供するとしたのだが、結局気球は戻ってこなかった。

この気球は長さ約2メートル、幅約1メートルで、主として気象観測に使用された。気球には5つの機器がぶら下がっていて、「観測点の空気ガス組成、汚染物質エアロゾルの検出、従来の気象パラメータの測定」などのために飛ばされていたのだという。

「あの気球、どこに行ったのかしら…」というのが、情緒豊かに綴られている記事が一時期散見された。

それくらい、「気球はどこかに飛んでいなくなる」という感覚が中国にはある。 

◆中国科学院気球研究センター

中国科学院には「気球飛行器研究中心(センター)」という研究センターがある。

拙著『習近平三期目の狙いと新チャイナ・セブン』の【第四章 決戦場は宇宙に】で書いたように、中国は宇宙開発に関してはアメリカを凌ぐ勢いの発展を達成しているが、高高度という空域における開発に関しては相当に遅れていて、この研究センターも、なんと、2009年になって稼働している。

中国科学院浮空器システム研究発展センターも、2011年10月に設立されている。

したがって今から大々的に発展させなければならないと考えてはいるだろうが、今はむしろアメリカなどの先進的な国が「どのようにして軍事利用しているのか」を必死になって学ぼうとしている段階だ。

◆気球を大量に放つ陽動作戦で敵の出方を観察

少なくとも現段階では、中国の気球には、まだ「スパイ行動」などの偵察能力が備わっているわけではなく、むしろ「大量の気球を放つことにより敵の攪乱ができるか否か」を考察している段階だ。敵の防衛システムを如何に攪乱できるかを知ることが目的の一つであるとも言える。

実際に今般の「中国気球」のように、アメリカが「風に乗って漂う民間の気象観測用気球」さえをも、1億5000万ドルもするF-22戦闘機から発射した空対空ミサイルで撃墜したのを考察することができたことは、中国にとっては「大きな学習成果」の一つとして「収穫」であったのかもしれない。

◆「安価な中国気球を高額の米軍戦闘機で撃墜」を喜ぶ中国のネット民

中国のネット民の中には、むしろ「ネット販売でも購入できるような気球を、米軍が戦闘機やミサイルという高額な武器で撃墜するというのは、中国ってすごい!」とか「アメリカが中国のこんな安物にあれだけの高額の武器を使うんなら、もっと大量に気球を放てば?そしたら又アメリカに流れ着くんじゃない?」的な反応をする者もいて、それが現在の中国の気球状況をよく表しているようにも思われる。

中には、「中国の気球って、ずいぶん威力があるんだね!アメリカの国防総省(Department of Defense)がビビってる!」と喜ぶコメントもあり、以下のような画像が、あちこちに貼り付けられ喜ばれている。

出典:DogeDesignerのTwitter

1941年中国生まれ。中国革命戦を経験し1953年に日本帰国。「中国問題グローバル研究所」所長。筑波大学名誉教授、理学博士。中国社会科学院社会学研究所客員研究員・教授などを歴任。日本文藝家協会会員。著書に『習近平が狙う「米一極から多極化へ」 台湾有事を創り出すのはCIAだ!』(ビジネス社)、『習近平三期目の狙いと新チャイナ・セブン』(PHP新書)、『もうひとつのジェノサイド 長春の惨劇「チャーズ」』(実業之日本社)、『ウクライナ戦争における中国の対ロシア戦略 世界はどう変わるのか』(PHP)、『裏切りと陰謀の中国共産党建党100年秘史 習近平 父を破滅させた鄧小平への復讐』(ビジネス社)、『ポストコロナの米中覇権とデジタル人民元』(遠藤 誉 (著), 白井 一成 (著), 中国問題グローバル研究所 (編集)、実業之日本社)、『米中貿易戦争の裏側 東アジアの地殻変動を読み解く』(毎日新聞出版)、『「中国製造2025」の衝撃 習近平はいま何を目論んでいるのか』、『毛沢東 日本軍と共謀した男』(中文版・韓国語版もあり)、『チャイナ・セブン <紅い皇帝>習近平』、『チャイナ・ナイン 中国を動かす9人の男たち』、『ネット大国中国 言論をめぐる攻防』、『中国動漫新人類 日本のアニメと漫画が中国を動かす』『中国がシリコンバレーとつながるとき』など多数。2024年6月初旬に『嗤(わら)う習近平の白い牙』(ビジネス社)を出版予定。 // Born in 1941 in China. After surviving the Chinese Revolutionary War, she moved to Japan in 1953. Director of Global Research Institute on Chinese Issues, Professor Emeritus at the University of Tsukuba, Doctor of Science. Member of the Japan Writers Association. She successively fulfilled the posts of guest researcher and professor at the Institute of Sociology, Chinese Academy of Social Sciences. Her publications include “Inside US-China Trade War” (Mainichi Shimbun Publishing), “’Chugoku Seizo 2025’ no Shogeki, Shukinpei ha Ima Nani o Mokurondeirunoka (Impact of “Made in China 2025” What is Xi Jinping aiming at Now?), “Motakuto Nihongun to Kyoboshita Otoko (Mao Zedong: The Man Who Conspired with the Japanese Army),” “Japanese Girl at the Siege of Changchun (including Chinese versions),” “Net Taikoku Chugogu, Genron o Meguru Koubou (Net Superpower China: Battle over Speech),” “Chugoku Doman Shinjinrui: Nihon no Anime to Manga ga Chugoku o Ugokasu (The New Breed of Chinese “Dongman”: Japanese Cartoons and Comics Animate China),” “Chugogu ga Shirikonbare to Tsunagarutoki (When China Gets Connected with Silicon Valley),” and many other books.

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