江沢民・胡錦涛政権ともに二期目の国家副主席が次の政権の国家主席になるという慣例で動いてきたため政治局常務委員だった。しかし習近平政権では一期目だけでなく二期目の国家副主席も政治局常務委員ではない。
◆江沢民・胡錦涛政権ともに二期目の国家副主席が次期政権の国家主席に
毛沢東や鄧小平時代を別として、鄧小平が指名した江沢民政権以降は、原則、政権二期目の国家副主席(中共中央政治局常務委員)が、次期政権の国家主席になるというルールで動いてきた。
どこかに規則が書いてあるわけでなく、慣例的な暗黙のルールだった。
たとえば、江沢民政権二期目「1998年3月15日 ~2003年3月15日」(第15回党大会)の国家副主席は胡錦涛(中共中央政治局常務委員、党内序列第5位)で、胡錦涛は2002年11月の第16回党大会で中共中央総書記(党内序列第1位)になり、翌年の2003年3月15日の全人代最終日に国家主席になっている。
胡錦涛政権二期目「2008年3月15日~2013年3月14日」に入る第17回党大会(2007年10月)で、習近平が中共中央政治局常務委員(当時は9人だったので筆者は「チャイナ・ナイン」と名付けた)の党内序列7位に入り、2013年3月14日の全人代最終日に習近平は国家主席に選ばれた。
この慣例に従えば、習近平政権二期目「2018年3月17日~2022年」では、誰かが中共中央政治局常務委員の身分で「国家副主席」に入っていなければならない。政治局常務委員でなかったら、その次の政権の国家主席になれない(江沢民の場合は鄧小平個人の指名なので例外だった)。
習近平政権では、中共中央政治局常務委員が7人になったので、筆者は改めて彼らを「チャイナ・セブン」と名付けたが、二期目のチャイナ・セブンの中に「国家副主席」が入っていなければならない。
しかし国家副主席に任命された「王岐山」は、なんと、チャイナ・セブンの中に入ってないのである。というより、年齢的にチャイナ・セブンにはなれないような人物を、国家副主席に持ってきたのだ。
ここまでのプロセスを分かりやすいようにするため、以下のような図表を作成してみた。
◆習近平政権では国家副主席をチャイナ・セブンにしていない
この図表からお分かりいただけるように、第19回党大会におけるチャイナ・セブンに王岐山は入っておらず、それでいながら「国家副主席」の職位だけは与えられた。
政治局常務委員でなかった者が、次期国家主席になるということはないので、王岐山が第20回党大会で総書記になり来年の全人代(全国人民代表大会)で国家主席になるということも絶対にあり得ず、ということは、第20回党大会に相当する2023年からの次期政権には、「習近平以外に国家主席になる者はいない」ということになる。
その予兆は、第18回党大会の時にすでにあった。
このときチャイナ・セブンになると予測されていた李源潮が、なんと、チャイナ・セブンから外された形で国家副主席になっていたのだ。
胡錦涛政権の時には、たとえ第一期目でも、国家副主席・曾慶紅は政治局常務委員(チャイナ・ナイン)の一人だった。
しかし習近平は、国家副主席を、第一期目の李源潮の時からチャイナ・セブンから外していたのだ。
予行演習というか、第一期目の国家副主席に関して、「チャイナ・セブンにはしない」という感覚を慣れさせておいてから、第二期目も同様に「チャイナ・セブンにしなかった」のだ。こうしてショックを和らげておいて、「知らん顔」していたのである。
つまり、2012年の第18回党大会の時点で、すでに「習近平第三期目」路線が決めてあったということになる。
◆習近平はなぜ三期目を狙うのか?
これに関しては9月12日のコラム<第20回党大会 習近平はなぜ三期目を目指すのか>でも書いたように、父親・習仲勲が鄧小平によって失脚させられたことが最大の要因と考えていいだろう。
拙著『習近平 父を破滅させた鄧小平への復讐』で執拗に真相を追いかけたが、習近平の父・習仲勲は、鄧小平の陰謀により1962年に国務院副総理兼国務院秘書長など全ての職を剥奪されて、その後16年間も監獄・軟禁・監視生活を送らされている。なぜそのようなことが起きたかというと、毛沢東が習仲勲を可愛がって、後継者の一人にしようとしていたからだ。
鄧小平の陰謀がなければ、父・習仲勲は毛沢東の後継者として輝かしく活躍していただろう。
1962年から50年後の2012年11月の第18回党大会。
習近平の胸には、半世紀に及んでため込んできたこの無念の思いが沸々と煮えたぎっていたはずだ。父の仇を討つためにも、人の何倍も中国という国家のトップに立っていようと思っていたにちがいない。
だから、図表にあるように「国家副主席」のポストをチャイナ・セブンから外した。
これが見えないと、今後の中国の政治を正しく分析することはできないと確信する。
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