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国葬に参加した中国代表・万鋼氏は「非共産党員」! 中国の芸当
安倍元総理の国葬(写真:代表撮影/ロイター/アフロ)
安倍元総理の国葬(写真:代表撮影/ロイター/アフロ)

中国は安倍元総理国葬に非共産党員の万鋼氏を代表に選ぶことによって日本との微妙な距離感を演じた。一方、国葬でなければ日本国民の反対者も出てこなかったはずで、菅元総理の胸を打つ弔辞があれば、何も要らない。

◆非共産党員を派遣するという中国の芸当

日本人の多くは気が付いていないと思うが、安倍元総理の国葬に参加した中国の代表・万鋼氏(全国政治協商会議副主席)は、中国共産党員ではない。

中国には長いこと(中国共産党の指導の下における)八大民主党派があるが、その民主党派の中の一つである「致公党」の党員(党主席)だ。

かつて『チャイナ・ナイン 中国の動かす9人の男たち』でも詳述したが、中国で「両会」と呼ばれるものの内の立法権を持っている「全人代(全国人民代表大会)の方は中国共産党員が多い」ものの、その諮問機関のような存在である「全国政治協商会議(政協)の方は非共産党員の方が多い」。

パーセンテージはときどきの情況によって多少変動するが、2021年における中国共産党中央委員会の規定では、政協委員における「非中国共産党員の占める割合は60%」となっており、政協の常務委員会における「非中国共産党員の占める割合は65%」となっている。

たとえば、2018年1月のデータで見るならば、その年の3月に開催される政協代表2158人の割合は、

      中国共産党の代表 : 859人、39.8%

      非中国共産党の代表:1299人、60.2%

となっている。非中国共産党員の中の八大民主党派の人数は

      中国国民党革命委員会 65人

      中国民主同盟 65人

      中国民主建国会 65人

      中国民主促進会 45人

      中国農工民主党 45人

      中国致公党 30人

      九三学社 45人

      台湾民主自治同盟 20人

で、その他無党派代表が65人となっている。それ以外にもさまざまな領域からの代表がおり、各少数民族の代表も非常に多い。要は、中国共産党員は少数派だということだ。

万鋼氏はドイツのクラウスタール工科大学に留学していた工学博士で、致公党と九三学社は科学技術に強い特徴を持っている。

そのような人物を安倍元総理の国葬に「中国代表」として参加させたのは、中国共産党の指導の下にある人物ではあっても、決して中国共産党そのものが安倍元総理の逝去を悼む形で意思表示したのではないという、「中国共産党の権威」を保つ意味で、非常に微妙な人選を行っていたということに、日本人は気が付かなければならない。

本来ならば、中国包囲網であるインド太平洋構想を始めた安倍元総理国葬に参加したくはないが、何と言っても「台湾」が早々に参加の意思を表明していたので、「中国大陸」が代表を送らないわけにはいかないという苦肉の策でもあったということになる。

日中国交正常化50周年記念に一応重きを置いたという見方はできなくはないが、台湾が代表を送って国葬に参加することに対抗したという側面の方が大きいだろう。その証拠に中国外交部は、国葬に参列した「台湾」の代表を「中国台北」と言わずに「台湾」と言ったことに抗議している。

◆中国における安倍元総理国葬に関する報道

したがって中国の安倍元総理国葬に関する報道は、当然のことながら辛口のものとなる。しかし、中国自身がどう思うかということには触れず、もっぱら他国がどう思っているかという紹介が主たる分析として報道されている。

それも、中国共産党系のメディアである「環球時報」だけでも10本近くの報道をしているくらい多く、その一つ一つにリンク先を張って分析するのは、あまりに膨大な文字数を要するので、リンク先を張るのは避ける。

総体的に見るならば、要するに「国論を二分した」という情報が多く、「国葬開催中にも国葬反対者が抗議デモを行っている」という報道が目立つ。

世界の主要国は、どの国も「日本は国論が二分しており、しかも国葬反対者の方が多い中で国葬を実施するというのは、民主主義国家の在り方として正しいのか」という批判が目立っている。その中の気になったものだけでも、いくつか列挙してみよう。

  • 岸田首相は自分の支持率を引き上げたいために国葬を決断したのだろうが、決定の手法が民主国家のルールに相応しくなかったために、かえって支持率を落とした。
  • 決められない首相と批判された岸田氏が、唯一自らの意思で決定したのが国葬で、そのために支持率を落としたのだから、岸田の決断は適切ではないことが証明された。
  • 安倍氏の総理大臣期間が長かったことを国葬開催の理由にしているが、何度も当選できた背景には旧統一教会の支援があったからではないのか。その癒着により狙撃されたのに、安倍氏の統一教会との癒着には目をつぶるということが許されるのが、「日本的民主主義」だ。「儀礼」の衣を着て、「モラル」と「正義」の基準は、トップダウンで決められ、民意を反映させない仕組みになっている。
  • 旧統一教会の反社会性は、国葬により正当化され、偽善的民主主義が残る。

・・・

さまざまあるが、それを列挙すると、不愉快になってくる側面も持っているので、この辺にしておこう。

◆菅元総理の胸を打つ弔辞があれば、何も要らない

以下は筆者自身の感想だが、菅元総理の弔辞が、あまりに見事で、心がこもっており、死者を悼む苦しみと誠意が滲み出ていたので、「欲しかったのは、これだけだ」という思いを強くした。

これさえあれば、何も要らない。

聞いていて、思わずこちらも熱く込み上げてくるものがあり、菅元総理に初めて深い尊敬の念を抱いた。特に、安倍元総理がいつも周りに「笑顔」を絶やさなかったというのは、筆者自身も経験しており、何度か個人的にお会いしたことがあるが、そのときの「こんなに優しい顔ができるのか」と思われるほどの「あの笑顔」には深い感動を覚えたことがある。

故中曽根元総理のときのように、内閣・自民党合同葬にしていれば、葬儀に対する抗議運動をする人は出てこなかったはずで、そうすれば国葬が行われているそばで「国葬反対」という激しいデモが展開されることもなく、各自が静かに故人を素直な気持ちで見送ることができただろう。海外の信用を失うこともなかったと残念に思う。

欲をかいた岸田首相の思い付きは、そのようなことしかできない人の弔辞だけあって、まるで国会答弁を聞いているようで、ただの一言も心に響かなかった。

その意味でも、菅元総理の弔辞ほど心打つものはなく、ほかには何も要らないという思いを強くした。

1941年中国生まれ。中国革命戦を経験し1953年に日本帰国。「中国問題グローバル研究所」所長。筑波大学名誉教授、理学博士。中国社会科学院社会学研究所客員研究員・教授などを歴任。日本文藝家協会会員。著書に『習近平が狙う「米一極から多極化へ」 台湾有事を創り出すのはCIAだ!』(ビジネス社)、『習近平三期目の狙いと新チャイナ・セブン』(PHP新書)、『もうひとつのジェノサイド 長春の惨劇「チャーズ」』(実業之日本社)、『ウクライナ戦争における中国の対ロシア戦略 世界はどう変わるのか』(PHP)、『裏切りと陰謀の中国共産党建党100年秘史 習近平 父を破滅させた鄧小平への復讐』(ビジネス社)、『ポストコロナの米中覇権とデジタル人民元』(遠藤 誉 (著), 白井 一成 (著), 中国問題グローバル研究所 (編集)、実業之日本社)、『米中貿易戦争の裏側 東アジアの地殻変動を読み解く』(毎日新聞出版)、『「中国製造2025」の衝撃 習近平はいま何を目論んでいるのか』、『毛沢東 日本軍と共謀した男』(中文版・韓国語版もあり)、『チャイナ・セブン <紅い皇帝>習近平』、『チャイナ・ナイン 中国を動かす9人の男たち』、『ネット大国中国 言論をめぐる攻防』、『中国動漫新人類 日本のアニメと漫画が中国を動かす』『中国がシリコンバレーとつながるとき』など多数。2024年6月初旬に『嗤(わら)う習近平の白い牙』(ビジネス社)を出版予定。 // Born in 1941 in China. After surviving the Chinese Revolutionary War, she moved to Japan in 1953. Director of Global Research Institute on Chinese Issues, Professor Emeritus at the University of Tsukuba, Doctor of Science. Member of the Japan Writers Association. She successively fulfilled the posts of guest researcher and professor at the Institute of Sociology, Chinese Academy of Social Sciences. Her publications include “Inside US-China Trade War” (Mainichi Shimbun Publishing), “’Chugoku Seizo 2025’ no Shogeki, Shukinpei ha Ima Nani o Mokurondeirunoka (Impact of “Made in China 2025” What is Xi Jinping aiming at Now?), “Motakuto Nihongun to Kyoboshita Otoko (Mao Zedong: The Man Who Conspired with the Japanese Army),” “Japanese Girl at the Siege of Changchun (including Chinese versions),” “Net Taikoku Chugogu, Genron o Meguru Koubou (Net Superpower China: Battle over Speech),” “Chugoku Doman Shinjinrui: Nihon no Anime to Manga ga Chugoku o Ugokasu (The New Breed of Chinese “Dongman”: Japanese Cartoons and Comics Animate China),” “Chugogu ga Shirikonbare to Tsunagarutoki (When China Gets Connected with Silicon Valley),” and many other books.

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