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サウジアラビアはバイデンより習近平を歓迎か?
2017年、北京を訪問したサウジアラビア国王と習近平国家主席(写真:代表撮影/ロイター/アフロ)
2017年、北京を訪問したサウジアラビア国王と習近平国家主席(写真:代表撮影/ロイター/アフロ)

先月のバイデン訪問に冷淡だったサウジアラビアは今、コロナ発生以来、初めて国外に出る習近平の訪問に熱狂しているという。中東における米中覇権の火花を利用したサウジの外交。軍配は誰に上がるのか?

◆ガーディアンが伝えるサウジアラビアの熱狂的な習近平歓迎ムード

8月11日のイギリスのガーディアンは、<中国の習近平国家主席は来週サウジアラビアを訪問する予定>というタイトルで、サウジアラビアにおける習近平訪問の熱狂的な準備作業を伝えている。

それによれば、中国の習近平国家主席は来週サウジアラビアを訪問する予定で、2017年5月にドナルド・トランプが大統領として初めての海外出張でサウジアラビアを訪問した時に匹敵する盛大なレセプションの計画が進行中とのこと。

今年7月15日にバイデン大統領がサウジアラビアを訪問した時とは比較にならない盛大さで、なんでも首都リヤドなどの主要都市では、何千もの中国の紅い国旗を掲げ、何百人もの高官が習近平を受け入れる計画が進行中のようだ。

バイデン大統領がサウジアラビアを訪問した時などは、事実上のサウジアラビア王国の指導者ムハンマド・ビン・サルマン皇太子との間の個人的な嫌悪感を反映して、険悪なムードが漂っていた。しかし習近平は北京とリヤドの絆を強化し、ワシントンとの関係が漂流し続ける中、サウジアラビアの同盟国としての中国のイメージを強化することを意図した破格の歓迎を受けることが期待されるという。

◆サウジアラビアが習近平に訪問を依頼したのは今年3月

一方、アメリカのメディアPOLITICOは8月16日、The Jerusalem Postの報道を引用しながら<習近平のサウジアラビア訪問はリヤド-ワシントンの緊張を利用しようとしている>というタイトルで、習近平のサウジアラビア訪問予定を分析している。

その中で興味深いのは、サウジアラビアは今年3月に習近平がサウジアラビアを訪問するよう招聘状を出していることに注目している分析だ。

アメリカのメディアTHE WALL STREET JOURNALは今年3月14日、<サウジアラビアは、米国との関係が緊張する中、中国の習近平を王国訪問に招待>というタイトルで習近平のサウジアラビア訪問要請を伝えている。

習近平がすぐには応じていないのを見て、少しでも先んじてと動いたのがバイデンだとPOLITICOは分析している。しかしバイデンは「招かざる客」。石油の増産を頼みに行ったが、断られている。

それどころか、8月3日には、サウジアラビアの国営石油会社アラムコは、中国の国営大手シノペック(中国石油化工集団公司)と広範な石油関連協力事業に関する覚書を交わしている。まるで、「われわれには中国という大国が付いているんだぞ」と、バイデンに見せつけているようだ。

このような流れの中での習近平のサウジアラビア訪問。

中国はギリギリまで日程を明かさないので、何とも言えないが、近日中に習近平がサウジアラビアを訪問する可能性は非常に高いと言っていいだろう。

◆最後に笑うのは誰か?

さて、サウジアラビアを巡るこの訪問劇。最後に笑うのは誰なのだろうか?

アメリカのエネルギー情報局(EIA)の2020年データによると、下図のごとく、サウジアラビアの輸出原油の26%が中国への輸出となっている。

アメリカのエネルギー情報局のデータに基づき筆者作成

アメリカのエネルギー情報局のデータに基づき筆者作成

つまり、サウジアラビアにとって、中国は最大の石油輸出相手国なのである。

習近平政権になってから、サウジアラビアと中国との結びつきは強化され、2016年には「安定した長期エネルギー協力」に基づき、「戦略的パートナーシップ協定」を締結し、今では中国にとって最大の石油輸入相手国はサウジアラビアで、2020年における二国間貿易は652億ドルとなっている。それに比べてアメリカとサウジアラビアとの二国間貿易は197億ドルだったとのこと。

習近平はまた2021年、サウジアラビアを中国とロシアが主導する地域安全保障および開発の枠組みである上海協力機構の対話パートナーとなるよう誘っている。

拙著『ウクライナ戦争における中国の対ロシア戦略』の「第二章四【経熱】――対露SWIFT制裁は脱ドルとデジタル人民元を促進する」でも詳述したように、中東諸国と中国の接近は熱く、サウジアラビアがこのような方向で動くということは、他の中東諸国も米中との間で類似の方向に動くことを示唆しており、バイデン政権はその方向への傾注を加速させているように思われる。

もっとも、イランなど極端な反米諸国を除いて、サウジアラビアなどが完全にアメリカから離反するかというと必ずしもそうではなく、漁夫の利を得るべく、「人民元による石油取引をする」と声高に言いつつも、そのスローガンを、自国を利するための手段としているという側面も完全には拭えない。

少なくともバイデンの大統領としての支持率は低迷しており、そもそも11月のアメリカにおける中間選挙で政権与党の民主党は負けるだろうという観測が多い。トランプ前大統領はFBIにより家宅捜索を受けている。アメリカは分裂してしまいそうで、気がかりだ。

トランプが持ち出した機密資料の中には、金正恩やプーチンへの「熱い思い」を込めた会話や通信の記録があると一部で言われているが、トランプが大統領を継続していれば、少なくともウクライナ戦争は起きなかっただろうから、世界はここまで「アメリカの戦争ビジネス」のために消耗しなくて済んだだろう。アメリカ・ファーストでも、アメリカが強ければ、「習近平は最後には笑えない」。

しかし、トランプはもう戻ってこられそうにもないし、バイデンが狂わせた世界の時計の針を逆戻しすることもできない。

となると、やはり最後に笑うのは習近平か、それともサウジアラビアに代表される中東諸国なのか・・・。

いずれにせよ、近い内に実現するであろう習近平のサウジアラビア訪問のゆくえを注視したい。

1941年中国生まれ。中国革命戦を経験し1953年に日本帰国。「中国問題グローバル研究所」所長。筑波大学名誉教授、理学博士。中国社会科学院社会学研究所客員研究員・教授などを歴任。日本文藝家協会会員。著書に『習近平三期目の狙いと新チャイナ・セブン』(PHP新書)、『もうひとつのジェノサイド 長春の惨劇「チャーズ」』(実業之日本社)、『ウクライナ戦争における中国の対ロシア戦略 世界はどう変わるのか』(PHP)、『裏切りと陰謀の中国共産党建党100年秘史 習近平 父を破滅させた鄧小平への復讐』(ビジネス社)、『ポストコロナの米中覇権とデジタル人民元』(遠藤 誉 (著), 白井 一成 (著), 中国問題グローバル研究所 (編集)、実業之日本社)、『米中貿易戦争の裏側 東アジアの地殻変動を読み解く』(毎日新聞出版)、『「中国製造2025」の衝撃 習近平はいま何を目論んでいるのか』、『毛沢東 日本軍と共謀した男』(中文版・韓国語版もあり)、『チャイナ・セブン <紅い皇帝>習近平』、『チャイナ・ナイン 中国を動かす9人の男たち』、『ネット大国中国 言論をめぐる攻防』、『中国動漫新人類 日本のアニメと漫画が中国を動かす』『中国がシリコンバレーとつながるとき』など多数。7月初旬に『習近平が狙う「米一極から多極化へ」 台湾有事を創り出すのはCIAだ!』(ビジネス社)を出版予定。 // Born in 1941 in China. After surviving the Chinese Revolutionary War, she moved to Japan in 1953. Director of Global Research Institute on Chinese Issues, Professor Emeritus at the University of Tsukuba, Doctor of Science. Member of the Japan Writers Association. She successively fulfilled the posts of guest researcher and professor at the Institute of Sociology, Chinese Academy of Social Sciences. Her publications include “Inside US-China Trade War” (Mainichi Shimbun Publishing), “’Chugoku Seizo 2025’ no Shogeki, Shukinpei ha Ima Nani o Mokurondeirunoka (Impact of “Made in China 2025” What is Xi Jinping aiming at Now?), “Motakuto Nihongun to Kyoboshita Otoko (Mao Zedong: The Man Who Conspired with the Japanese Army),” “Japanese Girl at the Siege of Changchun (including Chinese versions),” “Net Taikoku Chugogu, Genron o Meguru Koubou (Net Superpower China: Battle over Speech),” “Chugoku Doman Shinjinrui: Nihon no Anime to Manga ga Chugoku o Ugokasu (The New Breed of Chinese “Dongman”: Japanese Cartoons and Comics Animate China),” “Chugogu ga Shirikonbare to Tsunagarutoki (When China Gets Connected with Silicon Valley),” and many other books.

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