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世界食糧危機の中、なぜ中国には潤沢な食糧があるのか?
中国の食糧開発戦略(写真:ロイター/アフロ)
中国の食糧開発戦略(写真:ロイター/アフロ)

世界が食糧危機にさらされている中、中国は世界の穀物を買い占めているのではないかという批判がある。しかし中国政府はマクロ政策により世界最大の穀物生産国になったのだと主張する。中国が食糧問題を最重要視する理由には、中国共産党の根源的問題が潜んでいる。

◆「中国の多すぎる食糧備蓄に対する西側からの批難」に関する中国の見解

5月27日、中国外交部は定例記者会見で、記者から「最近、中国は国際市場からあまりに多くの食糧を買い占めているという批判が西側諸国から出ているが、中国はそれをどう思っているか?」という質問が出た。

それに対して汪文斌報道官は以下のように答えた(番号を付けたのは筆者で、あまりに回答が長いので少しでも見やすくしようと区切りをつけた)。

  1. 中国政府は常に食糧安全問題を非常に重要視してきた。「穀物の自給自足と絶対安全」というのが中国政府の基本だ。2021年までに、中国の穀物生産量は7年連続で0.65兆キログラム以上で、世界最大の穀物生産国であり、世界第3位の穀物輸出国となっている。中国は自給自足に関して自信があり、国際市場に入り込んで「食糧を買い占める」という必要はない。
  2. 中国は世界の土地の9%未満を使用しているだけで、世界の食糧の約4分の1の生産量を実現し、世界人口の5分の1を養っている。この事実を見るだけでも、中国が世界の食糧安全に大きく貢献していることがわかる。同時に、中国は大国の視座に立ち、世界の食糧安全の確保に積極的に貢献してきた。
  3. 中国が提案するグローバル発展イニシアチブは、食糧安全を「八大重点協力分野の一つ」と見なしており、世界中のすべての関係者に力を動員し、利点の補完性を促進し、以て、食糧安全を含むすべての持続可能な発展目標の実現に向けて最大限に力を合わせていくことを目標としている。中国は常に国連食糧農業機関(FAO)の南南協力にとって重要な戦略的パートナーだ。
    近年、中国はFAO南々協力基金に1億3000万米ドルを寄付し、アジア、アフリカ、ラテンアメリカ、カリブ海、太平洋島嶼国に多数の専門家や技術者を派遣した。中国はFAOの中で、最も多くの専門家を派遣し、最も多くの資金援助をし、最も多くのプロジェクトを実行しいる。COVID-19の発生以来、中国はいくつかの国に緊急食糧援助を提供することにより、国連や他の国際機関のイニシアチブに積極的に対応してきた。世界の食糧生産と供給の安定化に対する中国の積極的な貢献は、国際社会から広く認められているところだ。
  4. 中国は食品ロスと廃棄物削減を積極的に提唱している。世界の食糧の1%のロス削減は、2800万トンの損失の削減に相当し、7000万人以上の人々を養うことができる。習近平主席は、食品節約を強化する必要性をくり返し強調してきた。 2021年、中国は食品ロス削減に関する国際会議を主催し、G20のメンバーを含む国際社会から肯定的に受け止められた。
    多くの開発途上国が食糧不足に直面しており、一人分のご飯を二人で分け合う状況があることを残念に思う。先進国の一部では「物を粗末に扱う」ことに慣れてり、一人前のご飯を食べて一人前のご飯を捨てている」。先進国で毎年浪費される食品ロスの量は、サハラ以南のアフリカで生産されるすべての食品の総量に近い。
    アメリカ農務省のデータによると、アメリカの食品の30〜40%が毎年廃棄されており、2018年に廃棄された食品の総量は1億300万トンに達し、1,610億ドルに相当する。
  5. 中国は、関係国に対し、不必要な食品廃棄物を出さないようにし、その正当な国際的義務を果たし、より多くの国際的責任を引き受けることを要請している。頭をひねって他の国(中国)に(お前の国は食糧備蓄が多すぎる)と騒ぎ立てるのではなく、自ら始めて、現実的な方法で食料を節約し、国際的な農業貿易の円滑な運営を維持し、発展途上国の食糧生産能力を向上させるのを助けるべきだ。こうしてこそ世界の食糧安全を効果的に維持できる。
  6. 直面する困難が多ければ多いほど、われわれは互いに助け合うべきだ。国際的な食糧サプライチェーンが衝突している情勢下において、私たちはすべての国に共同責任を負うことを求めたい。食品ロスと廃棄物の観点から、食糧危機を補完し、食糧を節約するというプラスの方向で世界の食糧安全を効果的に維持しなければならない。

◆「中国の食糧価格が安定している理由」に関する中国政府の説明

6月20日、中国の経済を協議する国家発展改革委員会は<我が国の食糧価格はなぜ安定しているのか?>に関する説明を行った。主たる回答内容を以下に示す。

  • 中国の穀物価格が全体的に安定している理由は、最終的には、我が国が強力な穀物供給と価格の安定を確保するための強力なメカニズムと政策措置を確立したからである。穀物の総在庫は十分であり、小麦と米の在庫は1年以上の消費需要を満たすことができる。
  • 2021年の時点で、中国の穀物の播種面積は8年連続で17.4億ムーを超えており、穀物を植える農民の意欲は安定している。2022年に春に植えられる穀物の面積は約9億4000万ムで、昨年の同時期に比べてわずかに増加し、引き続き穀物価格の安定に寄与するだろうと予測される。
  • 生産コストが穀物価格を決定し、穀物の安定供給にも影響を与える。農民の意欲を十分に発揮させるために、わが国は米と小麦の最低購入価格を実施し、穀物生産補助金政策を継続的に改善し、三大主要穀物(米・麦・トウモロコシ)の「完全コスト保険」や「所得保険」を推進し、「農業社会サービスシステム」を発展させて、穀物農家の収入の安定化を図った。
    (筆者注:「完全コスト保険」とは「農作物が自然災害などに遭遇した時に被る損害を含めた、生産コスト全てに対する保険」のことで、「収入保険」とは「農作物の販売価格や生産量の変動に対する保険。生産量が増え過ぎたことによって販売価格が下がる時でも、一定の収入を保障できる保険」のことで、「農業社会サービスシステム」とは「供給、販売、加工および情報サービス」など、農産物を購入者の末端にまで提供するさまざまなサービスのことである。)
  • 農産物価格の高騰に対応して、化学肥料の供給を確保し、価格を安定させるために、たとえばカリウム肥料の備蓄を確保するなどの作業メカニズムの確立が価格安定に寄与している。

◆『中国農業産業発展報告2022』は今年の食糧総生産量は去年を越えると予測

6月21日、『中国農業産業発展報告2022』が発表されたが、報告書は、「中国の農業生産は今年も改善を続け、総穀物生産量は昨年を上回り、0.69兆キログラムに達すると予想され、綿、油、砂糖、果物、野菜の生産は安定して好転しており、畜産物や水産物の供給も安定している」と指摘している。

◆世界食糧危機に対応するには需要と供給の両方から瞬発力を

6月21日の「農民日報」は<世界食糧危機に対応するには需要と供給の両方から瞬発力を発揮しなければならない>として、以下のように書いている。

――総量で見ると、わが国の穀物生産は近年「18回連続の豊作」を達成し、年間の穀物生産量は7年連続で0.65兆キロに達し、中国の穀物の基礎を成している。一人当たりの所有量の観点から見ると、中国の一人当たりの食糧所有量は480キログラムに達し、国際的な食糧安全基準である一人当たり400キログラムをはるかに上回っている。在庫の観点から見ると、わが国の穀物在庫は約40%であり、これも世界平均の17%をはるかに上回っている。穀物という観点から見ると、三大穀物(米・麦・とうもろこし)の自給率は 90%以上に達しており、食糧安全に関しては「絶対的な安全性」を満たしていると言えよう。

◆ロシアからの穀物輸入

6月1日の環球時報は、ロシアからの穀物輸入は非常に少なく1%にも満たないので、大きな変化はないものの、ここ数年、年平均19.1%の貿易増があるので、今後はさらなる増加が期待できると書いている。少なくとも、今年2月4日に中国商務部とロシア経済発展部が農業領域の貿易に関して新たに署名しているので、農産品領域における貿易の伸びが期待できるだろうとのことだ。

◆「中国は大量に食糧を買い占めている」と批判する傾向が西側諸国に

アメリカの農務省には中国に関する統計もあり、今年6月10日に公開されたデータでは、世界の在庫量に占める中国の割合は、トウモロコシ65.78%、米59.42%、小麦53.03%となっている。中国政府の主張がまんざら嘘ではないことが分かる凄まじい通知だ。

これを西側諸国は「中国が買い占めたからだ」と非難する傾向にある。たとえば2021年12月19日の日経新聞<世界の穀物、中国が買いだめ 過半の在庫手中に>は、その代表のようなものと言っていいだろう。

買い占めているか否かは別として、中国共産党が統治する国家「中国」は、どんなことがあっても、まず食糧問題を最優先事項に置く国であることを筆者は実体験を以て知っている。

◆毛沢東「誰が食べさせるかを人民に知らしめよ!」

7月3日に出版予定の『もうひとつのジェノサイド 長春の惨劇「チャーズ」』に書いたように、1947年晩秋から、私が生まれ育った長春(中国吉林省長春市。元「満州国」の「新京」)は中国共産党軍によって食糧封鎖された。1948年9月20日、餓死から逃れるために長春を脱出した私たちを待ち受けていたのは「チャーズ(卡子)」という、国民党軍と共産党軍の中間地帯(真空地帯)だった。共産党軍は長春市を鉄条網で都市ごと包囲したのだ。鉄条網は国民党軍側と共産党軍側の両方に設けられ二重になっていた。その二重になった包囲網である鉄条網の中には餓死体が敷き詰められており、私たち難民はその餓死体の上で野宿することを強いられた。このころ長春に残っていたのはほぼ中国人で、中国人の中には餓死体を食する人もおり、共産党軍はそれを鉄条網越しに直接見ながら、水の一滴も米の一粒も与えなかった。チャーズの外には共産党軍が占拠する「解放区」が広がる。

4日目にようやくチャーズの門を出ることができたのだが、解放区側の土を踏んだ瞬間、お粥がふるまわれた。こんなことをするのなら、なぜチャーズの中で餓死していく人々を助けてくれなかったのか。

あのとき毛沢東はチャーズを囲む共産党軍に「誰がご飯を食べさせてくれるかを思い知らせよ。人民はご飯を食べさせてくれる側に付く」と言っていたことを、何十年もあとになって知った。

習近平も同じように考えているだろう。

人民はご飯を食べさせてくれる側に付く。

いま世界が食糧危機にある中、なぜ中国だけは潤沢な食糧を備蓄しているのか。

それは一党支配体制を維持するためなのである。

80年間の実体験を通して確信する。

1941年中国生まれ。中国革命戦を経験し1953年に日本帰国。「中国問題グローバル研究所」所長。筑波大学名誉教授、理学博士。中国社会科学院社会学研究所客員研究員・教授、北京大学アジア・アフリカ研究所特約研究員、上海交通大学客員教授などを歴任。著書に『もうひとつのジェノサイド 長春の惨劇「チャーズ」』(7月初旬出版予定、実業之日本社)、『ウクライナ戦争における中国の対ロシア戦略 世界はどう変わるのか』(PHP)、『裏切りと陰謀の中国共産党建党100年秘史 習近平 父を破滅させた鄧小平への復讐』(ビジネス社)、『ポストコロナの米中覇権とデジタル人民元』(遠藤 誉 (著), 白井 一成 (著), 中国問題グローバル研究所 (編集)、実業之日本社)、『激突!遠藤vs田原 日中と習近平国賓』(遠藤誉・田原総一朗、実業之日本社)、『米中貿易戦争の裏側 東アジアの地殻変動を読み解く』(毎日新聞出版)、『「中国製造2025」の衝撃 習近平はいま何を目論んでいるのか』、『毛沢東 日本軍と共謀した男』(中文版・韓国語版もあり)、『チャイナ・セブン <紅い皇帝>習近平』、『卡子(チャーズ) 中国建国の残火』(中文版・英文版もあり)、『チャイナ・ジャッジ 毛沢東になれなかった男』、『チャイナ・ナイン 中国を動かす9人の男たち』、『ネット大国中国 言論をめぐる攻防』、『中国動漫新人類 日本のアニメと漫画が中国を動かす』『中国がシリコンバレーとつながるとき』など多数。 // Born in 1941 in China. After surviving the Chinese Revolutionary War, she moved to Japan in 1953. Director of Chinese Issue Global Research Institute, Professor Emeritus, Doctor of Science at the University of Tsukuba. Member of the Japan Writers Association. She successively fulfilled the posts of guest researcher and professor at the Chinese Academy of Social Sciences. Her publications include “Inside US-China Trade War” (Mainichi Shimbun Publishing), “’Chugoku Seizo 2025’ no Shogeki, Shukinpei ha Ima Nani o Mokurondeirunoka (Impact of “Made in China 2025” What is Xi Jinping aiming at Now?), “Motakuto Nihongun to Kyoboshita Otoko (Mao Zedong: The Man Who Conspired with the Japanese Army),” “Chazu Chugoku Kenkoku no Zanka (Japanese Girl at the Siege of Changchun) (including Chinese and English versions),” “Net Taikoku Chugogu, Genron o Meguru Koubou (Net Superpower China: Battle over Speech),” “Chaina jajji — Motakuto ni narenakatta otoko (China Judge: The Man Who Couldn’t Become Mao Zedong),” “Chugoku Doman Shinjinrui: Nihon no Anime to Manga ga Chugoku o Ugokasu (The New Breed of Chinese “Dongman”: Japanese Cartoons and Comics Animate China),” “Chugogu ga Shirikonbare to Tsunagarutoki (When China Gets Connected with Silicon Valley),” and many other books.

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