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ロシアが「新世界G8」を提唱_日本人には見えてない世界
地球(提供:アフロ)
地球(提供:アフロ)

制裁下のロシアで開催された国際経済フォーラムに127ヵ国が参加。一方、ロシアは非西側世界から成るG8を提唱している。人類の85%が非西側諸国側にいる。アメリカが支配している世界しか日本人は見ていない。

◆例年より約13ヵ国しか参加国が減っていないロシアの国際経済フォーラム

6月15日から18日にかけて、ロシアのサンクトペテルブルクで第25回サンクトペテルブルク国際経済フォーラムが開催された。例年は140ヵ国ほどが参加しているが、今年はウクライナ侵攻などを断行したため、アメリカの呼び掛けに応じて多くの国が対露制裁をしているので、さぞかし閑散としているものと思ったところ、なんと「127ヵ国も!」参加していることに驚いた。

17日夜のNHKのニュースでは「例年は多くの国で賑わいますが、今年はこの通り・・・」と言って、過去と今年の会場通路の人通りの映像を比較して見せ、よほど閑散としているのかと思ったら、例年通りの「賑わい」なので「あれ?」と思ったところ、「多いように見えますが、(行きかっているのは)実はほとんどがロシア人ばかりで・・・」という感じの説明をしていた(「こういう感じ」であって、一言一句正確ではない)。

「なんだ、ロシアはサクラを使って偽装工作をしているのか・・・」と興味を持ったので調べてみたところ、ロシアのタス通信や他の英文情報だけでなく、6月15日の日本の日経新聞でも<ロシアで経済フォーラム開幕、参加国1割減>と書いているところを見ると、やはり「(平均として)13ヵ国しか減っていない」。

例年の参加国が概ね140ヵ国であるとするなら、その1割は14ヵ国。「1割減」は常識の範囲内だろう。

おそらくこの13ヵ国の中には対露制裁をした国が入っており、プーチンによって「非友好国」に指定された国々だろう。そのリストは以下に示す48の国と地域だ

アメリカ、カナダ、EU全加盟国(27ヵ国)、イギリス、ウクライナ、 

モンテネグロ、スイス、アルバニア、アンドラ、アイスランド、

リヒテンシュタイン、モナコ、ノルウェー、サンマリノ、

北マケドニア、日本、韓国、オーストラリア、ミクロネシア、

ニュージーランド、シンガポール、台湾

これだけ非難を浴びているロシアでのフォーラム参加者が、13ヵ国ほどしか減っていない事実は、考察に値する。

◆プーチンのスピーチ

6月17日にはプーチン大統領のスピーチがあった。

全文はクレムリン発の情報に載っており肉声も聞くことができる。やたら長いので、もう少し省略したものだと、こちらにある。この情報のタイトルが「旧世界は去りぬ」なので、こちらの方が全体をザックリ把握することができる。

プーチンの主張と弁明は誰も聞きたくないだろうから、今後の世界に影響を与える可能性のある見出しを一つだけ引用すると、「The old world order is gone with the wind(旧世界秩序は風と共に去りぬ)」だろうか。プーチンが盛んに「旧世界、旧秩序」と「新世界、新秩序」を主張していることが際立っていた。これこそが後述する新世界「G8」につながる基本姿勢だからだ。

◆習近平のビデオ演説

同様に6月17日には習近平国家主席からのビデオ・メッセージも会場で公開された

出典:中国外交部のウェブサイト

習近平の言葉も常套句は省くとして、注目されるのは

  • 新興国と発展途上国の声を広め、その発展を促進する必要がある。
  • ディカップリング(経済の切り離し)、供給削減、一方的な制裁、極度の圧力を放棄し、貿易障壁を取り除き、世界の産業とサプライチェーンの安定を維持し、協力して対処する必要がある。

という2点か。後者はアメリカが世界に呼び掛けて強化している対露制裁を指していることは明らかで、プーチンへのエールを送ったものと解釈できる。中国自身もアメリカからさまざまな制裁を受けており、中国には日頃から「なぜアメリカにだけ他国を一方的に制裁する権限があるのか、なぜ西側諸国はそれに追随するのか」という不満があり、習近平は外交戦略スローガンとして「人類運命共同体」を掲げている。

筆者が特に注目したのは前者の「新興国と発展途上国の声を広め、その発展を促進する必要がある」という言葉だ。これに関しては後述する。

◆「新世界G8」の提唱

実は6月11日、ロシア下院のヴォロディン議長は、ロシアに対し友好的な国による「新G8」を提唱している。そのアイディアはUS policies led to ‘new G8’(アメリカの政策が新G8を導いた)に詳述されている。要するに「アメリカが対露制裁などによって新G8結成のための条件を自ら作り出した」というもので、その新G8として「中国、インド、ロシア、インドネシア、ブラジル、トルコ、メキシコ、イラン」を挙げ、「日本を含む現在のG7の経済は、対露制裁の負荷(フィードバック)によって崩壊に瀕している」と主張している。

それに比べて、「ロシアと、対露制裁に参加していない中国、インド、インドネシア、ブラジル、メキシコ、イラン、トルコ」の8カ国の実質GDP(購買力平価PPPを加味した補正値)の合計は、G7のそれを24.4パーセント上回っていると例示し、アメリカは自らの経済力を背景に世界の緊張を高めていると批判した。

あれだけ残虐なウクライナ侵略をやりながら、「盗人たけだけしい」と思われる方が多いかもしれないが、ここでは差し当たって、プーチンが言うところの「新世界」とヴォロディンの「新G8」を組み合わせて、これを「新世界G8」と称することにした。

では実際にこの「新世界G8」と、これまでのG7の購買力平価PPPやGDPの値はどうなっているのかを見てみよう。その目的で下図を作成してみた。

IMFデータを基に筆者作成

赤で示したのが「新世界G8」で、水色で示したのは既存のG7である。

たしかに購買力平価GDPで示した金額は、中国がトップで、G7のメンバー国である「アメリカ、日本、ドイツ」を除けば、中国の次に来るのは「インド、ロシア、インドネシア、ブラジル」だ。対露制裁をしていない国を拾えば「トルコ、メキシコ、イラン」となるので、この8ヵ国を「新世界G8」としたのだろう。

計算してみると、たしかにヴォロディンが言うように、「新世界G8のGDP合計55,964.09(10億ドル)」は「旧世界G7の合計44,993.48(10億ドル)」を24.4%上回っている。ヴォロディンは「ワシントンとその同盟諸国による既存の経済関係の破綻は、世界における新たな成長点の形成につながっている」と主張している。

一方、6月10日、アメリカ国務次官補エリック・ウッドハウスは、「ワシントンとその同盟諸国は、反ロシア経済制裁が自国経済に波及することに気付いた」と述べ、アメリカ財務長官ジャネット・イエレンは9日、「記録的なインフレの中で、ロシア経済制裁が”食料とエネルギー価格に大きな違い”をもたらしたこと」を認めたとヴォロディンは言及している。

◆世界の15%しか見ていない日本

習近平のスピーチに「新興国と発展途上国の声を広め、その発展を促進する必要がある」という言葉があることを前述したが、これこそは正に「新世界G8」をサポートするための伏線と解釈することができる。

図の右側をご覧いただきたい。

現存のG7の中に、「中国とインド」が大きく食い込んでいる。

このランキングにおける「中国」がやがて「アメリカ」を抜くのはほぼ明らかなことだろう。それをさせないためにアメリカは様々な策略を練っている。

しかし、バイデンが仕掛けたウクライナ戦争が、結局は中国を中心とした新たな経済圏を形成させるのを促すだろうということは、拙著『ウクライナ戦争における中国の対ロシア戦略』でしつこいほど書いてきた。特に第六章で「中露印」を中心とした「非ドル」の「アジア・ユーラシア経済圏」を形成することを何度も指摘した。図から見ても中国とインドの経済体の大きさは群を抜いており、そこにロシアの好戦性が加わると、結果的に「新世界G8」につながっていくのだろう。

トルコはNATO加盟国でありながら親露であり親中だ。

インドネシアも先般のG20関連の会議で「ロシアを排除せず」を貫いた。

イランは言うに及ばず、アメリカを中心として対露制裁を行った国々にはない「視点」を、非西側諸国は持っている。

国連加盟国は現在193ヵ国だが、193-48=145(ヵ国)は、対露制裁をしていないのだ。

この世界の約75%の国々の「視点」を日本は知っているだろうか?

彼らはアメリカがどれだけ残忍な形で捏造事実(例えばベトナム戦争ではトンキン湾事件、イラク戦争では「大量破壊兵器」)をでっちあげて他国を侵略したか、ベトナムでは1000万人以上の、幼児や胎児を含めた一般庶民が残虐無比な形で殺され、イラクでも他の地域でも同様のことをアメリカが繰り返してきたかを知っている。そして、それを堂々と報道し情報を共有している。

なぜアメリカだけは他国をいきなり攻撃しても許されるのか、どんなに残虐な形で他国の一般庶民を殺してもアメリカだけは非難されないのか、こういった対露制裁をしていない75%の国々は「アメリカへの怒り」を共有しているのである。

それは日本では絶対に見えない世界だ。しかし人類は、アメリカに追随する西側諸国だけで成り立っているわけではない。

ロシアの侵略行動を誰も許してはいないが、アメリカだけは何をやっても許される理不尽さを共有している国々が、人口数的に計算すれば、人類の約85%(84.82%)もいるという事実を日本人は知らない。見ようともしない。

逆に言えば、人類の15%だけを「世界」と思っているのが日本なのだ。

それは必ず人類からしっぺ返しを受けることにつながるだろう。

筆者自身は中国の国共内戦でこの世にあってはならない経験をしてきた。中国共産党軍によって餓死に追い込まれた数十万におよぶ犠牲者はゴミのように捨てられたままだ。そのことは『もうひとつのジェノサイド 長春の惨劇「チャーズ」』に魂の軌跡として刻み込んだ。

これが筆者の原点である。

1941年中国生まれ。中国革命戦を経験し1953年に日本帰国。「中国問題グローバル研究所」所長。筑波大学名誉教授、理学博士。中国社会科学院社会学研究所客員研究員・教授、北京大学アジア・アフリカ研究所特約研究員、上海交通大学客員教授などを歴任。著書に『もうひとつのジェノサイド 長春の惨劇「チャーズ」』(7月初旬出版予定、実業之日本社)、『ウクライナ戦争における中国の対ロシア戦略 世界はどう変わるのか』(PHP)、『裏切りと陰謀の中国共産党建党100年秘史 習近平 父を破滅させた鄧小平への復讐』(ビジネス社)、『ポストコロナの米中覇権とデジタル人民元』(遠藤 誉 (著), 白井 一成 (著), 中国問題グローバル研究所 (編集)、実業之日本社)、『激突!遠藤vs田原 日中と習近平国賓』(遠藤誉・田原総一朗、実業之日本社)、『米中貿易戦争の裏側 東アジアの地殻変動を読み解く』(毎日新聞出版)、『「中国製造2025」の衝撃 習近平はいま何を目論んでいるのか』、『毛沢東 日本軍と共謀した男』(中文版・韓国語版もあり)、『チャイナ・セブン <紅い皇帝>習近平』、『卡子(チャーズ) 中国建国の残火』(中文版・英文版もあり)、『チャイナ・ジャッジ 毛沢東になれなかった男』、『チャイナ・ナイン 中国を動かす9人の男たち』、『ネット大国中国 言論をめぐる攻防』、『中国動漫新人類 日本のアニメと漫画が中国を動かす』『中国がシリコンバレーとつながるとき』など多数。 // Born in 1941 in China. After surviving the Chinese Revolutionary War, she moved to Japan in 1953. Director of Chinese Issue Global Research Institute, Professor Emeritus, Doctor of Science at the University of Tsukuba. Member of the Japan Writers Association. She successively fulfilled the posts of guest researcher and professor at the Chinese Academy of Social Sciences. Her publications include “Inside US-China Trade War” (Mainichi Shimbun Publishing), “’Chugoku Seizo 2025’ no Shogeki, Shukinpei ha Ima Nani o Mokurondeirunoka (Impact of “Made in China 2025” What is Xi Jinping aiming at Now?), “Motakuto Nihongun to Kyoboshita Otoko (Mao Zedong: The Man Who Conspired with the Japanese Army),” “Chazu Chugoku Kenkoku no Zanka (Japanese Girl at the Siege of Changchun) (including Chinese and English versions),” “Net Taikoku Chugogu, Genron o Meguru Koubou (Net Superpower China: Battle over Speech),” “Chaina jajji — Motakuto ni narenakatta otoko (China Judge: The Man Who Couldn’t Become Mao Zedong),” “Chugoku Doman Shinjinrui: Nihon no Anime to Manga ga Chugoku o Ugokasu (The New Breed of Chinese “Dongman”: Japanese Cartoons and Comics Animate China),” “Chugogu ga Shirikonbare to Tsunagarutoki (When China Gets Connected with Silicon Valley),” and many other books.

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