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ウクライナ戦争で乱舞する中央アジア米中露「三国演義」
スペインの火祭りに登場するバイデン大統領、習近平主席とプーチン大統領(写真:ロイター/アフロ)

王毅外相は6月8日の中央アジア外相会談で中国・キルギス・ウズベキスタン鉄道着工を約束した。その陰にはプーチンの承認があった。アメリカが2015年に設立した中央アジアとの「C5+1」が再び活動し始めたからだ。

ロシア打倒のために暗躍するアメリカの介入を阻止するためなら、ロシアの「縄張り」への中国の投資をプーチンは受け入れた。すべてはウクライナ戦争が巻き起こしたものだ。

◆25年間凍結されていた鉄道建設が動き出した

6月8日、中国の王毅外相はカザフスタンの首都ヌルスルタンで開催された「中国+中央アジア5カ国」外相の第3回会合に出席した。カザフスタンのトレウベルディ副首相兼外相が議長を務め、トルクメニスタンのメレドフ副首相兼外相、キルギスのクルバエフ外相、タジキスタンのイブロヒム交通運輸大臣、ウズベキスタンのノロフ外相が出席した。

中央アジア5ヵ国は1991年12月25日のソ連崩壊によって独立した国々だが、中国はソ連崩壊を待ち構えたようにして1週間ほどで5ヵ国を駆け巡り国交を樹立している。というのも中央アジアに眠る石油などの地下資源を、新疆ウイグル自治区を拠点として全中国に頂くための「宝物」のような地域だからだ。

1996年4月26日にロシア連邦とともに「国境地区における軍事分野の信頼強化に関する協定」(上海協定)の調印を目的に上海で集まった上海ファイブ(中国・ロシア・カザフスタン・キルギス・タジキスタンの5ヵ国首脳会議)を皮切りに、今では上海協力機構(正式メンバー国:中国、ロシア、カザフスタン、キルギス、タジキスタン、ウズベキスタン、インド、パキスタン)として経済、安全など多岐にわたった協力体制が出来上がっている。

それに対して2020年7月に中国単独で(=ロシア抜きに)中央アジア5ヵ国と「外相会談」という枠組みを創り上げているのだから、ここでロシアがどう位置付けられるのかに誰でも関心が行くだろう。そのことは後述するとして、ともかく「中国+中央アジア5ヵ国」外相会談では経済を中心に多くの問題が話し合われた。

その中で最も注目されるのが「中国・キルギス・ウズベキスタン」を貫く鉄道の建設プロジェクトである。

なにしろ、この計画は25年間もの長きにわたって「頓挫」したままになっていて、中国が投資するのかロシアが投資するのか、それによってはウズベキスタンへの橋渡しは南北どちら側に偏った路線になるのか、はたまたキルギスの中心に陣取っている「山」をどのように開拓するのか、そして線路の幅はロシア型にするのか中国型にするのかなど、さまざまな問題が複雑に絡み合って横たわっていたからだ。

習近平政権になってから「一帯一路」構想により中国と欧州をつなぐ「中欧班列(中欧定期列車)」という大動脈のような鉄道路線を建設してきた。それを以下に示す。

中欧鉄路路線計画図

出典:中国班列建設発展計画(2016-2020)(紫の線で囲んだ拡大図の出典はThe Third Pole)

北回りはシベリア鉄道に沿った「シベリア大陸橋」がありロシアを横断している。真ん中にはカザフスタンを横切って欧州に至る鉄道路線があって、両方とも、すでに開通している。南の方の路線の破線部分は、まだ途中までしかできていない。いずれにしても壮大な鉄道路線図がほぼ出来上がっている。

図では、中央アジアに相当する5ヵ国だけ日本語を書き入れ、紫で囲んだ部分を右下に拡大して貼り付けた。「中欧班列」では、キリギスの部分はほぼ空白になっている。

そこを紫の枠で切り取って拡大した図のように、キリギス国内で流通ができるように来年から着工するというのが、今般の「中国+中央アジア5ヵ国」外相会談で決められたのである。

突然ここに来て「着工」という約束が成された裏には、実はウクライナ戦争があることを見逃してはならない。

◆キルギス大統領はプーチンの許可を得た

というのも、この鉄道路線計画がようやく動き始めたきっかけは、5月16日にモスクワで開催された集団安全保障条約機構(CSTO =Collective Security Treaty Organization)首脳会合で、キルギスのザパロフ大統領がプーチン大統領を説得したからだという

CSTOは1992年5月に旧ソ連構成国6ヵ国によって設立した軍事同盟で、現在では「ロシア、アルメニア、ベラルーシ、カザフスタン、キルギス、タジキスタン」の6ヵ国が加盟している。今年5月16日には設立30周年記念ということでプーチンが招集したが、そこではウクライナ問題は出ず、何やらぎこちない雰囲気が漂っていた。

そのような中、キルギスのザパロフはプーチンと30分間ほど単独に話し合う機会に恵まれ、25年間も放置されたままになっている鉄道建設計画を何としても実行したいと、切実な問題としてぶつけたところ、なんとプーチンが(中国の投資で実行することを)「承諾した」というのだ。

この大前提があったからこそ、王毅外相との会談で「来年からの着工」が約束されたわけである。

プーチンとしては、現在ウクライナ戦争があり、とても中央アジアに経費を注ぐゆとりもなければ時間的余裕もないだろう。

キルギスとしてはそのタイミングを見て20年来の念願を叶えるべく動いたわけだが、プーチンにとってもっと切実な理由は、「中央アジアをアメリカに持っていかれたくない」という切羽詰まった状況があったにちがいない。

◆「打倒ロシア」のために2015年に設立した「中央アジア5ヵ国+アメリカ」=「C5+1」

拙著『ウクライナ戦争における中国の対ロシア戦略』第五章の年表でご説明したように、バイデン氏がまだ副大統領だった2013年11月、ウクライナのヤヌコーヴィチ大統領が率いる親露政権を転覆させようと、当時のバイデン副大統領やヌーランド国務次官補などが画策して、多数の死者を出す暴力的なマイダン革命を起こし、遂にヤヌコーヴィチをウクライナから追い出すことに成功した。

こうして2014年6月に、「アメリカの」というより、「バイデン個人の」傀儡政権であるようなポロシェンコ政権を樹立させた。この経緯に関しては筆者のみならず、今では、たとえば5月31日のコラム<スイス平和エネルギー研究所が暴露した「ウクライナ戦争の裏側」の衝撃 世界は真実の半分しか見ていない>に書いたように、世界の多くの良心的な研究者がさまざまな角度から証明している。

斬り込み方が全く異なるのに、結論が全て同じ「事実」に焦点を結ぶのは、それが「真実」だからだと言うことができよう。

ところで、バイデンの陰謀、大きく分ければオバマ政権の陰謀は、実はこれに留まらなかった。その中の一つに、2015年11月に設立された「C5+1」メカニズムがある。

これはアメリカが、最終的にはロシアのプーチン政権を打倒することを目的として、プーチンの「縄張り」である「中央アジア5ヵ国」に入り込んで、「5ヵ国」に飴をしゃぶらせ、「アメリカ寄りにしていこう」という精神に基づいて設立されたもので、「中央アジア5ヵ国+アメリカ」外相会談を意味する。

バイデンとしてはウクライナを我が物顔にコントロールできるようにしたことだけでは気が済まず、プーチンの周りに固まっている「中央アジア5ヵ国」をアメリカ側に付けておかないと、何と言ってもプーチンの周りにはCSTOという軍事同盟もあるので、この陣地を切り崩しておかないと不安だという思いがあったにちがいない。

2015年5月11日、アメリカのシンクタンク戦略国際問題研究センター(CSIS)が報告書「Central Asia in a Reconnecting Eurasia(ユーラシア再接続における中央アジア)」(その全文はこちらのPDF)を発表した。

それも参考にしながら、2015年9月に国連70周年記念サミットで関連国首脳が集まって関連協定に合意し、同年11月1日にウズベキスタンの第二の都市サマルカンドで、第一回目の「中央アジア5ヵ国+アメリカ」外相会談を開催したわけだ。

戦略国際問題研究センターの報告書に“reconnecting”(再接続)とあるのは、かつて9・11事件があった後にアメリカがアフガニスタンに侵攻した際に、中央アジア5ヵ国に接近し、一時は「テロ対策」を口実に、米軍の軍事基地まで作った過去があるが、結局ロシアの影響力が強くて撤退した経緯があるからだ。

そこでウクライナでのマイダン革命と親露政権転覆に成功したバイデンを中心としたオバマ政権は、バイデンの言う通りに動くポロシェンコを大統領に据えて激しい親米政権を樹立させることに成功した。

この勢いで「再接続」の手段として設立されたのが「C5+1」だ。

これも、途中でトランプ政権になり、ロシアを「最大の敵」としてターゲットにすることは無くなり、その代わりに当時のポンペオ国務長官が「中国をターゲット」にした「C5+1」を少し利用する程度で終わっていた。

ところがウクライナ戦争が始まってから、バイデン政権は再び「C5+1」メカニズムの再活用に着手し、今年3月1日(アメリカ時間の2月28日夜半)にブリンケン国務長官がビデオ会談で「C5+1」外相会談を開催した

今年5月23日から27日にかけては、バイデン政権の中央アジア担当のドナルド・ルー国務次官補を代表とする部門横断的な代表団がキルギス、ウズベキスタン、タジキスタンおよびカザフスタンを訪問し、「共通の価値観」に基づいた幅広い分野における協力が約束された。トルクメニスタンが省かれていると思われるかもしれないが、実はトルクメニスタンに関しては5月16日に、別途、バイデン政権の南アジア・中央アジア担当のトンプソン国務次官補が訪問している。

アメリカはこれまでも、90億ドル以上の支援を中央アジア諸国に対して行ってきたし、また世界銀行、国際通貨基金、欧州復興開発銀行、アジア開発銀行などを主導して500億ドル以上の融資と技術支援を行い、アメリカの民間部門は中央アジアの商業企業に310億ドル以上を投資し、数千人の雇用を創出している。また英語の教育や留学生受け入れにも力を注ぎ、さらには「価値観」を植え付ける、いわゆるイデオロギー運動として「中央アジアメディアプログラム(Media CAMP)」を立ち上げている。

また、いつ、「ビロード革命」を扇動するかわからないと、プーチンも習近平も気が気ではないだろう。

◆中央アジアで乱舞する米中露「三国演義」

かくして、中央アジアを舞台として、米中露による「三国演義」が展開されているのだ。

ウクライナ戦争が「三国演義」の舞台を提供しているということができる。

プーチンはウクライナ戦争で手一杯だし、ウクライナ戦争の相手は「アメリカ」であることは十分に承知しているはずだ。この「アメリカ」の存在がなければ、プーチンと習近平の間にも多少の競争心が芽生えるかもしれないが、今はそれどころではない。「戦友」である「習近平」が中央アジアを経済支援するというのであれば、何でも譲ろう。線路の幅だって中国型にしても構わない。

中央アジア5ヵ国の心が「バイデン」になびきさえしなければ、どんなことでも譲歩しよう。きっとプーチンはこのように考えているだろうと、キリギスの大統領が計算したとしても不思議ではない。

日本では、アメリカの野心、野望、いや陰謀とさえ言っていい「C5+1」メカニズムとその再活動をあまり知らないためか、王毅の中央アジア5ヵ国との外相会談と鉄道事業の交渉成功を、「中露対立を招く」と分析しているメディアがあり、驚いている。

そのため、中央アジアで乱舞している米中露「三国演義」を認識していただきたく、その一端をご紹介した。世界を俯瞰した視点を持たないと、「真実の半分しか見えない」。その警鐘を鳴らしたい。

1941年中国生まれ。中国革命戦を経験し1953年に日本帰国。「中国問題グローバル研究所」所長。筑波大学名誉教授、理学博士。中国社会科学院社会学研究所客員研究員・教授、北京大学アジア・アフリカ研究所特約研究員、上海交通大学客員教授などを歴任。著書に『もうひとつのジェノサイド 長春の惨劇「チャーズ」』(7月初旬出版予定、実業之日本社)、『ウクライナ戦争における中国の対ロシア戦略 世界はどう変わるのか』(PHP)、『裏切りと陰謀の中国共産党建党100年秘史 習近平 父を破滅させた鄧小平への復讐』(ビジネス社)、『ポストコロナの米中覇権とデジタル人民元』(遠藤 誉 (著), 白井 一成 (著), 中国問題グローバル研究所 (編集)、実業之日本社)、『激突!遠藤vs田原 日中と習近平国賓』(遠藤誉・田原総一朗、実業之日本社)、『米中貿易戦争の裏側 東アジアの地殻変動を読み解く』(毎日新聞出版)、『「中国製造2025」の衝撃 習近平はいま何を目論んでいるのか』、『毛沢東 日本軍と共謀した男』(中文版・韓国語版もあり)、『チャイナ・セブン <紅い皇帝>習近平』、『卡子(チャーズ) 中国建国の残火』(中文版・英文版もあり)、『チャイナ・ジャッジ 毛沢東になれなかった男』、『チャイナ・ナイン 中国を動かす9人の男たち』、『ネット大国中国 言論をめぐる攻防』、『中国動漫新人類 日本のアニメと漫画が中国を動かす』『中国がシリコンバレーとつながるとき』など多数。 // Born in 1941 in China. After surviving the Chinese Revolutionary War, she moved to Japan in 1953. Director of Chinese Issue Global Research Institute, Professor Emeritus, Doctor of Science at the University of Tsukuba. Member of the Japan Writers Association. She successively fulfilled the posts of guest researcher and professor at the Chinese Academy of Social Sciences. Her publications include “Inside US-China Trade War” (Mainichi Shimbun Publishing), “’Chugoku Seizo 2025’ no Shogeki, Shukinpei ha Ima Nani o Mokurondeirunoka (Impact of “Made in China 2025” What is Xi Jinping aiming at Now?), “Motakuto Nihongun to Kyoboshita Otoko (Mao Zedong: The Man Who Conspired with the Japanese Army),” “Chazu Chugoku Kenkoku no Zanka (Japanese Girl at the Siege of Changchun) (including Chinese and English versions),” “Net Taikoku Chugogu, Genron o Meguru Koubou (Net Superpower China: Battle over Speech),” “Chaina jajji — Motakuto ni narenakatta otoko (China Judge: The Man Who Couldn’t Become Mao Zedong),” “Chugoku Doman Shinjinrui: Nihon no Anime to Manga ga Chugoku o Ugokasu (The New Breed of Chinese “Dongman”: Japanese Cartoons and Comics Animate China),” “Chugogu ga Shirikonbare to Tsunagarutoki (When China Gets Connected with Silicon Valley),” and many other books.

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