ロシアが「アジア・シフト」政策を打ち出してから7年が経った今、地政学的な情勢は一方にロシアと中国、もう一方に米国が主導する西側という新たな二極化秩序が形成され始めている。ロシアと中国の二国間には多くの問題があるものの、「結束した西側」との対立があるため、両国は接近し、二国間の問題からは当面目をそらしている。しかし、だからといって両国関係に存在する問題がそのまま立ち消えになるわけではない。
中露関係の基盤
中国とロシアのパートナーシップ発展の根本に米国との対立があると見るのは単純過ぎるだろう。実際、中国とロシアには良好な関係を維持しなければならない基礎的な要素が存在する。
ロシアの中国専門家の1人であるアレクサンドル・ガブ-エフ氏が指摘するように、両国関係を支える柱が少なくとも3つある。国境の安定、2つの国体の経済的な両立、そして政治的な両立である。
第一に、中国とロシアは世界有数の長さの陸上国境を共有しており、その安定と安全を望んでいる。両国には国境の武力衝突の歴史もあり、領土紛争が解決したのは2000年代初頭になってからだ。
第2の柱は経済協力である。ロシアと中国の経済は補完的な構造にあり、接近は宿命のように見える。ロシアは世界最大の天然資源輸出国であり、中国はその最大の輸入国である。
第3の柱は、両国政権の権威主義的アプローチである。ロシアと中国はそれぞれ異なるタイプの専制的ハイブリッド体制で、西側の古典的な統治モデルとは相反している。
すなわち、これらの柱が友好関係を強化する客観的な理由である。そして西側との対立が、これに加えて両国を接近させるもう一つの柱の基部になりつつある。ロシアのプーチン大統領と中国の習近平国家主席が最近会談したことは、この流れを裏付ける新たな動きの1つにすぎない。
7月16日は中露の二国間関係にとって重要な日である。20年前のこの日、ロシアのプーチン大統領と、当時の江沢民中国国家主席は、 善隣友好協力条約に調印した。この文書はその後の中露関係の発展を可能にした基盤となるものであり、その重要性は軽視できない。
2021年6月下旬、プーチン大統領と習近平国家主席はオンラインで会談し、形式的にはその必要はなかったものの、同条約を延長することで合意した。同条約の第25条は、「いずれの締約国も、本条約の期限が切れる1年前に他方の締約国に対し条約の終結を望む旨を書面で通告しない場合には、本条約は自動的にさらに5年間延長され、その後は本規定に従って効力が継続するものとする」と定めている。
しかし、これにそのまま従うことは、現在の中露パートナーシップの精神からみて物足りない。ロシアと中国は、両国の相互理解がいかに強いものであるかをあらためて世界に示す好機を逃すわけにはいかなかった。特に、プーチン大統領が6月にジュネーブでバイデン米大統領と対面の首脳会談を行ったばかりであることを考慮すればなおさらである。
成功そして課題
このオンライン会談で、プーチン大統領と習主席は両国がここ数十年で成し遂げた実績について話し合った。しかし、会談で何がどのように語られたかをよくみてみると、両国の関係が非対称であり、ロシアの方が中国をより強く必要としていることが分かる。
2人の指導者の発言を例にとってみよう。習主席の発言はわずか3分間だったが、プーチン大統領の発言は7分間以上に及び、中露の友好関係を裏付ける数多くの事例を挙げた。両首脳とも中国共産党創立100周年について言及したが、習主席は創立にソビエト連邦が果たした役割については触れなかった。理論上はソ連の法的な継承国であるロシアにとっては、そうした内容の発言を聞ければ満足したことだろう。
会談の重要な成果は両国の共同声明である。17ページに及ぶ声明(ロシア語)は、教育や観光から軍事協力に至るまで、両国関係の発展の主な方向性を全て示している。この文書からは、両国の関係の説明に中国が主導的役割を果たしていることがうかがえる。例えば、ロシアは習近平氏の理論から取り入れた「運命共同体」や「中露関係の新時代」といった中国側の概念を採用している。
このほか声明では、近年のロシアと中国の主な成果が強調されている。中国はロシアにとってアジア太平洋地域全体で最も緊密なパートナーとなった。政治レベルでは両国関係は歴史的なピークにある。
首脳同士の非常に良好な個人的な信頼関係は、現在の関係の推進力の一つである。ウラジーミル・プーチン氏と習近平氏は、互いを友人と呼び、誕生日を一緒に祝い、お互いに勲章のメダルを授与し合い、ウォッカをともに飲む。中国は、プーチン大統領が頻繁に訪問する国であり(これまでに16回訪問)、ロシアは習主席にとって訪問回数が最も多い国である(これまでに8回訪問)。2人の指導者はお互いをよく理解しており、ともに自らを力強い統治者として位置付け、それぞれの国の歴史に名を残そうという野心を持っている。
この個人的な関係が政府間の政治に加味される。ロシアは中国のミサイル発射探知システム構築を支援し、両国軍はソ連時代以来最大規模の合同軍事演習に参加、また両国の長距離爆撃機による共同パトロールも実施している。
政治面および戦略面の協力関係はこのように非常に緊密だとしても、経済面のパートナーシップはそれほど目を引くものではない。両国の年間貿易総額は過去最高に増えたものの、首脳らが過去数回にわたって発表した数字には遠く及ばない。2019年の貿易総額は1,107億ドルと過去最高を記録している(2020年はパンデミックにより1,077億ドルに減少)。しかし7年前には、2020年までに2,000億ドルに到達させる計画が立てられていた。現在、この計画は2024年までに延期されている。
両国の共同声明で投資分野の成果には言及がなかった。ロシア中央銀行のデータによると、中国からロシアへの対外直接投資(FDI)は2014年以降あまり変化していない(20億〜30億ドル近辺で推移)。一方、中国商務省のデータによると、2014年から2019年にかけて、中国からロシアへの直接投資残高は87億ドルから128億ドルに増加している。厳しい制裁下にあっても、ロシア経済は依然として西側諸国からの投資流入に依存しており、2021年初めの時点で、ドイツからのFDI残高は180億ドル、オランダからは380億ドル、英国から320億ドルとなっている。こうした数字には、オフショアの仕組みを反映していないロシアの統計上の問題もあり、実際には中国からの投資であっても公式の統計上はバハマやキプロスの投資とされているものがある。
中国によるロシアへの主要な投資を見ると、二国間の旗艦的なプロジェクトは、戦略的な配慮に基づいた政治による最高レベルの支援があることが明白である。そのほとんどはエネルギー分野に集中しており、中国石油天然気集団(CNPC)や、中国石油化工(シノペック)、シルクロード基金など国有の大組織によって行われている。これには例外もあるが、独立系の資金源から流入する投資額は、国が支援するものとは規模が比較にならない。
両国の企業間関係も問題だらけである。ロシアの企業は、中国の保護貿易政策のためにその製品の多くを中国に輸出することが認められておらず、中国市場への事業拡大にも難題がある。同じように、中国企業もロシア市場に参入する際、抵抗と怒りに直面する。例えば、パンデミックの前には、中国のライバル企業によるロシア人パイロットのヘッドハンティングに、ロシアの航空会社が激怒していた。ロシア企業の中には、中国企業との競争に耐えられない場合に政府に苦情を訴える者さえいる。テック業界やタクシー業界でそうした例があった。
ユーラシアの二大政治パートナーである両国間に存在する問題は、これだけにとどまらない。とはいえ、さまざまな問題があったとしても、ロシアと中国の接近を妨げるような大きな障害にはなっていないようだ。2014年のウクライナ危機や新型コロナのパンデミックのような地政学的な大事件でさえ、両国内のさまざまな動きや意欲を加速させるように働き、このユーラシアの二大国が相互に引き寄せ合うのを促した。
西側に対する結束したアプローチ
ロシアと中国を結び付けるもう一つの要因は、米国の長期的な意図に対するそれぞれの疑念である。米国は、中国とロシアをともに地政学的競争相手と公式にみなしており、両国が米国に内政干渉していると非難している。
米国とロシアの関係はこれまで安定して良好だったことがない。ソ連の崩壊後、ロシアは地政学的に西側諸国の一員になろうとしていたが、うまくいかなかった。ロシアは、現在の政治体制とその超大国的野心のおかげで、米国主導の民主主義国クラブに仲間入りするのはほぼ不可能になっている。
一方で、中国も遅かれ早かれ民主主義国クラブに加わることを米国は期待していた。米国政府の発想は、中国では新たな経済的自由に続いて政治的自由が生まれ、そして中国の経済成長は西側諸国と同じ基盤の上に築かれなければならないというものだった。しかし、そのようなことは起こらず、今我々の目に映る中国は西側の統治モデルに従うつもりがないだけでなく、独自の統治モデルを作り出している。
中国とロシアは、世界的な民主化の流れに自分たちが逆行していることをともに認識しているため、特別な絆が生まれている。そして西側からの圧力は、両国が関係を強化するもっともな理由となる。
両国関係についての公式の説明はここ数年の間で変化している。ロシアと中国は互いに 「同盟」 という言葉を使うことを最近まで長い間避けていた。しかし、2019年10月、ロシアのプーチン大統領はヴァルダイ国際討論クラブで、中露関係を初めて次のような特別な言葉で表現した。「これは多面的な戦略的パートナーシップという意味での同盟関係である」。
一方、中国はこうした言葉遣いは引き続き避け、「包括的なパートナーシップと戦略的相互作用」というような表現を好んだ。しかし、このほど発表された共同声明では、両国関係が単なる時代遅れの同盟ではなく、それ以上のものであることを強調している。「中露関係は冷戦時代に形成されたような軍事政治同盟ではなく、そうした国家間の相互作用の形態を超越している。それは便宜主義的なものではなく、イデオロギーにとらわれず、パートナーの利益を包括的に考慮し、相互の内政に干渉せず、自立し、第三国に向けられたものではない、新しいタイプの国際関係を示すものである。」
これらは単なる言葉ではなく、実際に発現している。ロシアと中国は両国関係がイデオロギーに支配されないとしており、これによって関係がより実利的なものになっている。ロシア外交政策に精通しているドミトリー・トレーニン氏は、現在の中ロ関係の原則について次のように述べている。「決して対立はしないが、常に一緒にいる必要はない」。つまり、ロシアと中国は国際関係でいくつか共通の利益を共有してはいるものの、ハイレベルのパートナーシップがあるからといって特定の方法で行動する義務は負わないことを意味している。
こうした実利主義の実例は多い。例えば、中国は、ウクライナやクリミアに対するロシアの政策を支持も批判もしていない。中国政府は2014年以降、クリミアの地位について沈黙を続けており、中国企業はクリミアに代表団の派遣を続けている。一方、ロシアは南シナ海での中国の領有権争いに巻き込まれるのを望んでいない。ベトナムは、ロシアが主導する自由貿易圏であるユーラシア経済連合に旧ソ連以外で初めて参加した国であり、中国かベトナムかの選択をロシアは避けたいのだ。同様に、ロシアはインドを武器と軍事機械の最大の輸出国の一つとして重視しており、中国とインドとの国境紛争には加担していない。
互いから学ぶ
中国とロシアの関係のもう一つの重要な面は、両国がさまざまな問題について互いから積極的に学んでいることである。国内政策では、NGOを統制するロシアのノウハウに中国は関心を払っており、逆にロシアは中国がインターネットの全面的な統制に成功していることに注目している。
外交分野では、主権および内政干渉の制限を中心に据えた国際秩序を形成したいという欲求を両国は共有している。このことは、サイバー空間における規範やインターネットの統制など、グローバル・ガバナンスのさまざまな分野の議論に表れている。
中国とロシアは、国際秩序を変えたいという欲求も共有している。現在の秩序は、20世紀半ばにソビエト連邦や中国の積極的な関与なしに米国とその他の西側諸国が作ったものだ、というのがロシアや中国の指導者の考えである。そして今、ロシアにとって、とりわけ中国にとっては、ほぼ1世紀前に西側民主主義が考え出したルールに基づいて国際社会全体が存続しているのはフェアではないと映っている。
ロシアと中国は、国際舞台で同じような行動を取ることがある。趙立堅氏のような「戦狼」と呼ばれる中国外交官の激しい口調は、ロシア外務省のマリア・ザハロワ報道官を思い起こさせる。彼女は少なくとも過去6年間にわたり、数多の外交スキャンダルの中心に登場した。
中国メディアはまた、「ロシア・トゥデイ」や 「スプートニク」 などのロシアのメディア企業がどのように運営され、特定の話題を世界に広めているかについても注目している。中国とロシアのアプローチの類似点は、デジタルの領域にも見られる。中国の当局者たちは、ロシア政府のオンライン・トロールや偽情報キャンペーンなどデジタル・プロパガンダのツールを丹念に研究している。
中国とロシアの間には、より古典的な協力形態もある。例えば、国連安全保障理事会の常任理事国である両国は、投票や議題設定の際に互いに支持し合っている。ただ、これはすべて別個に行われており、両国の行動は直観的に生まれているものであって、調整されてはいない。
西側との対立に関することになると、中国とロシアは結束し、両国間の問題は脇に置く。しかし、両国関係にはいくつかの誤解が存在する。ある分野では、中国はロシアにとって比類のない経済パートナーになりつつある。加えて、拡大する中国の勢力は中央アジア諸国への影響力を高めている。この地域はロシアが自らの 「裏庭」 と見なしているが、特にパンデミック中は投資に充てる十分な資金がロシアにはない。中国がこの地域への支援の主要な資金源となり、現地のエリート層が中国資金への依存度を高めていることもあって、中央アジアの微妙なバランスは中国側に傾いていており、これはモスクワとの摩擦につながりかねない。
ロシアと中国は、現下の国際環境によって、双方の国や社会が心穏やかでいられるよりもかなり速いスピードで接近している。両国関係には依然として高いレベルの相互不信が存在し、ロシア側に多くの選択肢がない中で、状況はさらに複雑なものになるだろう。
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