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全人代、中国の中小零細企業の危機あらわに
2021年3月8日
中国当局、アリババを調査(写真:Featurechina/アフロ)

3月5日の全人代政府活動報告は、中国企業雇用の80%を担う中小零細企業の危機をあらわにした。報告が反省の念をくり返すのも珍しい。この問題を緊急に解決しなければ政府転覆にもつながりかねないからだろう。

◆中国の中小零細企業が置かれている現状

まず中国の中小零細企業が中国経済に対して貢献している要素を、いくつか列挙してみる(2020年段階)。

  • 中小零細企業は中国企業の雇用の約80%を担っている。
  • 中小零細企業は特許発明の70%を占めている。
  • 中小零細企業は中国のGDPの60%に貢献している。
  • 中国の税収の50%以上は中小零細企業による寄与である。

これに対して中小零細企業が置かれている過酷な現実は以下のようになる。

  • 融資をなかなか受けられないため、企業寿命が短い。
  • 米中貿易戦争により輸出不況をまともに受けダメージが大きい。
  • コロナにより生産中止に追い込まれ、サービス業は客の減少で倒産。
  • 小売業など個人経営者はアリババなど大手IT企業に食われ消滅の危機にある(これに関しては本稿最後に分析を加える)。

一方、中国の国家統計局が2019年末に行った全国経済国勢調査によれば、 2018年末で中国の中小零細企業は1,807万社で、全企業の99.8%を占めている。中型企業は23.9万社で1.3%、小型企業は239.2万社で13.2%、零細企業は1543.9万社で85.3%を占めていることがわかった。同調査は、2018年末における中小零細企業の雇用者数は2億3,304万人で、全企業の雇用者の79.4%を占めることを示している。

もしこれら中小零細企業に従事する労働者が揃って不満を訴えれば、政府転覆につながり兼ねない。中国政府が焦るのも当然のことだろう。

◆政府活動報告で危機感あらわに

3月5日の全人代(全国人民代表大会)における李克強国務院総理による政府活動報告では、中小零細企業の調整に対する謝罪にも似た中国政府の反省が吐露されるという、実に珍しい現象が起きた。それくらい事態が深刻であることが窺(うかが)われる。

その上で以下のような問題点の指摘と今後の政策が披露された。

1.昨年実施した政策について

経済安定策としては、改革とイノベーションに焦点を当てて活力を喚起すると同時に、最も直接的なダメージを受けている中小零細企業や個人経営者が苦境を乗り越えるための支援を行った。また中小零細企業への融資の元利償還を猶予し、融資を増やして金利を下げるように支援した。大手商業銀行は中小零細企業への融資を50%以上増やし、金融システムは15兆元の実体経済への利益を提供した。

技術革新については、科学技術成果の転換と応用を支援し、大中小企業の統合とイノベーションに関連する取り組みを推進した。

2.問題点

コロナのコントロールがまだ脆弱で、景気回復の基盤がまだ不十分だ。未だ消費が制約されており、投資の伸びも十分でなく、中小企業や個人経営者はより多くの困難を抱えており、雇用の安定化が満たされていない。

特に重要分野におけるイノベーションの能力は強くない。いくつかの地方政府では財政収支の矛盾が顕著であり、金融リスクを未然に防止することに成功していない。政府の業務には欠点があり、形式主義と官僚主義は程度の差こそあれ存在し続けており、一部の幹部は責任を取らず不作為が目立つ。一部の領域では未だに汚職が発生してる。政府はこれらの問題を直視して全力で改善に取り組み、国民の期待に応えていかなければならない!

3.これからの政策について

「中小零細企業や個人経営者の年間課税所得が100万元以下のものに対しては、従来の優遇策に加えて、さらに所得税を半減させる」という優遇策を実施する。

特に融資困難な企業に対しては「中小零細企業向け融資の元利償還猶予政策や中小零細企業融資保証の手数料・補助金の削減政策を延長する。大手商業銀行の中小零細企業向け融資を3割以上増やし、実体経済に利益を与えるよう金融システムを誘導し続ける」などの支援を強化する。今年は、中小企業・零細企業への融資をより便利にし、総合的な融資コストを着実に削減することが急務だ。

4.その他、賃貸料の減免などを通した「経営コストの削減」、「サプライチェーンの安定化」、「輸出の安定化」などを推進する。

この度の政府活動報告には10ヵ所以上「中小零細企業」という言葉が出て来るが、詳細は省く。なお、第十四次五ヵ年計画には「イノベーション型中小零細企業が新しい技術の発祥地になることをサポートする」といった主旨の目標が掲げられている。

◆アリババなど大手ネット通販が凶器

習近平政権になると、中国は世界の工場から脱する時期に入り、「中国製造2025」ハイテク国家戦略を進めるとともに、都会にいる農民工たちの故郷への回帰を図る「新型城鎮化計画」が2014年から始まった。しかし農村に雇用を生み出す魅力がなければ誰も農村に戻ろうとはしない。そのため農村の観光地化や都会生活を支える生花産業などを勧めるとともに、2015年からは「インターネット+(プラス)」産業を奨励して、田舎でもネット販売のステーションを持つことなどが奨励された。

もちろん多少の効果を出しはしたが、比較にならないほど発展したのがBAT(Baidu、Alibaba、Tencent)などの巨大ネット通販企業である。

以下に示す「中国のジニ係数の推移」をご覧いただきたい(拙著『習近平 父を破滅させた鄧小平への復讐』のp.340から引用)。

改革開放以来、貧富の格差が埋めようもなく大きくなってきたのは別問題として、ここでは習近平政権になった後の「2012年~2019年」の間のジニ係数の変化に注目してみたい。

今年は中国共産党建党100周年記念なので、この年までに貧困人口を無くすというのが習近平の国家戦略の一つで、たしかに貧困人口は2012年の1.2億人から2019年の551万人にまで減少した。

ところがジニ係数となると、習近平政権に入った2013年から減少し始めたのに、2015年を境に増加し始めている。

この原因に関して中国問題グローバル研究所の中国代表である孫啓明教授と長時間にわたって議論したのだが、さまざまな理由があるものの、最も大きな要因としてBATの一人勝ちにあるという結論に至った。ネット通販などにおいて富を独占しているBAT、特にアリババは、他の小売業の生存空間を潰していき、中小零細企業が銀行からの融資を獲得しようとしてもできず、結局BATの傘下に入るしかなくなっている。巨大企業が居座れば技術革新さえもなくなり、中国経済は破滅に向かうことになる。

だから昨年、中国政府は独占禁止法でBAT、特にアリババに抑制をかけた。

日本ではジャック・マー(馬雲)が習近平を批判するようなことを言ったからとか、中国政府が遂に民間企業にまで介入してきたとか、的外れなことを言っているが、もし仮にジャック・マーが習近平を褒めたたえる言葉を発し続けていたとしても、独占禁止法による処罰を与えなければ中国経済は崩壊するのである。それどころか政府転覆の動きさえ出かねない。

証拠となるデータは揃えにくいが、たとえば《汕頭(スワトウ)大学学報(人文社会科学版)》(2017年第3期)の研究によれば、BATの市場価値の集中度はアメリカのGAFAを遥かに超えて、2017年でこの領域の産業市場の80%をBAT三社だけで占有しているとのことだ。

この危惧が、今般の全人代における政府活動報告に現れたものと解釈することができる。

なお、なぜ習近平が貧困撲滅に邁進しているかに関しては、前掲の拙著『習近平 父を破滅させた鄧小平への復讐』で詳述した。

遠藤 誉
1941年中国生まれ。中国革命戦を経験し1953年に日本帰国。「中国問題グローバル研究所」所長。筑波大学名誉教授、理学博士。中国社会科学院社会学研究所客員研究員・教授、北京大学アジア・アフリカ研究所特約研究員、上海交通大学客員教授などを歴任。著書に『ポストコロナの米中覇権とデジタル人民元』(遠藤 誉 (著), 白井 一成 (著), 中国問題グローバル研究所 (編集)、実業之日本社)、『激突!遠藤vs田原 日中と習近平国賓』(遠藤誉・田原総一朗 1月末出版、実業之日本社)、『米中貿易戦争の裏側 東アジアの地殻変動を読み解く』(毎日新聞出版)、『「中国製造2025」の衝撃 習近平はいま何を目論んでいるのか』、『毛沢東 日本軍と共謀した男』(中文版・韓国語版もあり)、『チャイナ・セブン <紅い皇帝>習近平』、『卡子(チャーズ) 中国建国の残火』(中文版・英文版もあり)、『チャイナ・ジャッジ 毛沢東になれなかった男』、『チャイナ・ナイン 中国を動かす9人の男たち』、『ネット大国中国 言論をめぐる攻防』、『中国動漫新人類 日本のアニメと漫画が中国を動かす』『中国がシリコンバレーとつながるとき』など多数。 // Born in 1941 in China. After surviving the Chinese Revolutionary War, she moved to Japan in 1953. Director of Chinese Issue Global Research Institute, Professor Emeritus, Doctor of Science at the University of Tsukuba. Member of the Japan Writers Association. She successively fulfilled the posts of guest researcher and professor at the Chinese Academy of Social Sciences. Her publications include “Inside US-China Trade War” (Mainichi Shimbun Publishing), “’Chugoku Seizo 2025’ no Shogeki, Shukinpei ha Ima Nani o Mokurondeirunoka (Impact of “Made in China 2025” What is Xi Jinping aiming at Now?), “Motakuto Nihongun to Kyoboshita Otoko (Mao Zedong: The Man Who Conspired with the Japanese Army),” “Chazu Chugoku Kenkoku no Zanka (Japanese Girl at the Siege of Changchun) (including Chinese and English versions),” “Net Taikoku Chugogu, Genron o Meguru Koubou (Net Superpower China: Battle over Speech),” “Chaina jajji — Motakuto ni narenakatta otoko (China Judge: The Man Who Couldn’t Become Mao Zedong),” “Chugoku Doman Shinjinrui: Nihon no Anime to Manga ga Chugoku o Ugokasu (The New Breed of Chinese “Dongman”: Japanese Cartoons and Comics Animate China),” “Chugogu ga Shirikonbare to Tsunagarutoki (When China Gets Connected with Silicon Valley),” and many other books.