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トランプ氏の政策を抹消すること
バイデン米新大統領就任式 トランプ氏、ホワイトハウスに別れ(写真:AP/アフロ)
バイデン米新大統領就任式 トランプ氏、ホワイトハウスに別れ(写真:AP/アフロ)

バイデン氏は、記録的なスピードでトランプ氏が行ったあらゆることを取り消そうとしている。それは危険なほどの速さであり、以下に示すように、戦争の危険性を増大させる可能性がある。

きれいに抹消してしまう前に、バイデン氏はトランプ氏の政策が実際の問題や課題に対処していたかどうかを問うてみるべきだ。大部分は対処するものだった。もしそうなら、バイデン氏は自分の政策が実際により良いものになると確信していなければならない。

単にトランプ氏が作ったから、きっと事実上何のメリットもあり得ないと想像されるからという理由で政策を退けてしまうのは最も軽率である。

それは私に、アイゼンハワー氏を無視したケネディ政権の無知な傲慢さを思い起こさせる。アイゼンハワー氏は才能のある賢人だったが、ケネディ政権のメンバーたちは彼を、知的にも社会的にも自分たちと同列ではあり得ないとみなしていた。

この大きな誤りが、ベトナムでの成功となっていたはずのことを、外交政策史上最も血なまぐさい失敗へと変えてしまった。(もちろん、米国の外交政策史上はるかに大きな概念的誤りだったのはキッシンジャー氏と中国の組み合わせである)。

無知なる人間キッシンジャー氏は、私に「sic transit gloria(かくの如く[世界の]栄光は過ぎ去りぬ)」マクジョージ・バンディ氏を思い出させる。わずかな違いは、キッシンジャー氏が(不快な知的自信過剰においてではなく)バンディ氏の不条理な社会的傲慢さを欠いていることだ。

幸いなことに、中国はまだ不必要に血に飢えてはいない。ベトナムは完全な血の海となった。バイデン氏と彼の仲間たちについて深く考える際、素晴らしき兄弟たち(ケネディ兄弟)の恐るべき世界を想起してみるといい。

経済はおそらく最も明白なものである。景気と雇用が悪化すれば、隠すことは不可能だ。そのような展開はあり得るどころか、その可能性が高い。そうなれば、バイデン氏の頼みとする脆弱な議会での過半数は消滅することになるだろう。

しかし、私の最優先事項は戦争を回避することだ。トランプ氏は海外での戦争に軍隊を派遣しなかった。彼は強固な抑止力を構築した。私が米国の歴代国務長官の中でジョン・クインシー・アダムズ氏に次ぐと評価しているポンペオ氏は、概念的に健全で理解可能な、健全で合理的な外交政策を導入した。それは衝動的な介入主義的政策ではなかった。提携を強化し、ただ乗りを廃止し始めた。中東は様変わりした。中国は平和的に追い詰められた。核敷居国であるスウェーデンは賢明にも軍事予算を40%増やし、ヨーロッパは以前とは比較にならないほど安全となった。

バイデン氏もこれほど首尾よくやれるだろうか?率直に言って、私は疑念を抱いている。ケネディ氏は、一つの戦争を終結させ、他の戦争を防いだアイゼンハワー氏をあっさりと切り捨てた。その後、ケネディ氏の政策は瓦解し、何百万人もの命が奪われた。なぜか?根底的には、彼の政権の途方もない尊大さのためである。バイデン氏とその支持者たちも、それと比肩し得るほど尊大である。そして、トランプ氏に対する深い、非合理的な嫌悪に囚われている。

新政権は徹底的に分裂している。彼らを結束させているのは、トランプ氏に対する共通の憎悪だけだ。共通のビジョンや価値観ではない。

だから私は、安全保障政策が混乱したものになるのではないかと危惧する。我々は一貫性のある、または明確な代替物がない健全な構造をもてあそび、それによって明確性を放棄し、抑止力を損なうことになるだろう。

状況は、米国政府が欧州を自明視し、アジアを重視しなくなった1920年代および1930年代と似てくるだろう。

バイデン氏がFDRやJFKのように外交政策を夢想し、現実主義と慎重さを放棄するならば、その結果は当時と同じくらい悲惨なものとなる可能性がある。

独裁政権は解き放たれるだろう。それらの政権が侵略を検討してきた国々は、スウェーデン人たちがすでに理解したように、自分たちで自身の面倒を見ることができなければならないことを理解するだろう。

その結果誕生するのは、かつてないほどに軍備が増大し、多くの新たな核保有国が存在しつつも、賢明な米国による明白な関与のない世界である。

私は、バイデン氏が自信に満ちた素人たちを招き入れたのではないかと恐れている。彼らは、オバマ氏の惨めな失敗も、トランプ氏の歓迎されざる成功も認めない。これは憂慮すべき前兆である。

私は、こうしたことが最後に起きた時のことを個人的に覚えている。私はベトナムを知っている。私の家族はかつて、他の多くの人々、ドイツ人、ロシア人、中国人、日本人と同じように、血で代償を支払った。

すべての理性的な人々は、三度目を恐れている。当初からのバイデン政権の傲慢さに、FDRとJFKにはなかった狭量な復讐心が加わっていることが非常に憂慮される。

 

アーサー・ウォルドロン(Waldron, Arthur) ペンシルバニア大学歴史学科国際関係学教授。 ハーバード大学で学士号と博士号を取得。中国・アジア史、戦史・軍事戦略が専門で、現在は1900-1930年の期間の研究に専念している。“The Great Wall of China : From History to Myth”(万里の長城:史実から神話まで)をはじめ、著書多数。 アメリカ政府に対して頻繁に助言をしており、国防総省総合評価局、国務省などの委員を務めたほか、2001年に下院から委任された極秘のティレリー委員会のメンバーとして、CIAの極秘文書を基に中国分析を行った(分析内容は非公開)。 現在、トランプ政権の第4次 ”Committee on the Present Danger : China”の創設メンバー、アメリカ外交問題評議会のメンバーとして活動を続けている。 なお、2019年12月には日本の防衛研究所で数回にわたる講義を行う予定。 // Arthur Waldron (born Boston, 1948) is the Lauder Professor of International Relations in the Department of History at the University of Pennsylvania. He was educated at Harvard, from which he graduated at the top of his class in 1971, before returning to Harvard for his Ph.D (1980). He has two academic specialties: first, the history of China and greater Asia, and second, the history of war and military strategy. Currently he is doing path-breaking work on the history of twentieth century Chinese political institutions. Previous books have include a very well received study, The Great Wall of China from History to Myth (Cambridge: 1989). Professor Waldron has also consulted regularly for the U.S. government, notably the Office of NET Assessment and the late Andrew Marshall, the Department of State, serving on a committee in the Clinton administration. In 2001 he was a member of the Congressionally mandated top-secret Tilelli Commission, which, given full access to the CIA’s China division for several months, produced a report but never released. Professor Waldron is a member of the Council on Foreign Relations, and is a founding member of the new Committee on the Present Danger: China, in Washington, D.C. He will present a series of seminars at the National Institute of Defense Studies in Tokyo this December.