言語別アーカイブ
基本操作
米中首脳電話会談を読み解く――なぜ「とっておきの」春節大晦日に?
2021年2月12日
2013年12月、訪中したバイデン副大統領と握手する習近平国家主席(写真:代表撮影/AP/アフロ)
2013年12月、訪中したバイデン副大統領と握手する習近平国家主席(写真:代表撮影/AP/アフロ)

2月11日、バイデン大統領と習近平国家主席が電話会談した。両国の正式発表の相違にも問題があるが、あえて祝福ムード満開の春節大晦日に電話して「祝意」を示すこと自体からして対中強硬の本気度が疑われる。

◆なぜ祝福ムード満開の春節大晦日に?

日本時間の2月11日、バイデン大統領がようやく習近平国家主席と電話会談をした。1月20日に大統領に就任して以来、「カナダ、メキシコ、イギリス、フランス、ドイツ、NATO、ロシア、日本、韓国、オーストラリア、インド」に次いで12番目の国になる。

ロシアや韓国よりも後にしたのは、一見、「どれくらい自分は中国を重要視していないか」、「どれくらいトランプ政権同様に対中強硬であるか」をアメリカ国民に見せるためだったと解釈することができる。いや、そう解釈してほしいと望んだが故に、ここまで中国の順番を遅らせたのだろう。

しかし挙句の果てに、結局は中国にとっての「おめでたい春節」除夕(大晦日)の日に電話するとは何ごとか。この日は中国人なら誰もが互いに最も祝福し合う日で、この日に「ご挨拶」されたら、喜ばない人はいない。

わざわざその日を選んで「春節のお祝いを先ず言う」という、「祝福の言葉」から電話会談が始まった。

そのことからして、何とも「対中強硬の本気度」が疑われるではないか。

案の定、バイデンの最初の言葉は「中国人民に丑年の春節のお祝いを申し上げるとともに、中国人民の繁栄と発展を祝福したい」だったと中国側は報じている。

習近平はそれに対してバイデンの大統領就任を再び祝福した上で、「中米両国人民の春節をお祝いし、丑年の吉祥を祈る」と返している。

さて、それでは会談内容に関する米中両国のそれぞれの公式報道を見てみよう。

◆アメリカ側の公式発表

アメリカ時間の2月10日、ホワイトハウスのウェブサイトは、以下のように米中首脳電話会談の内容を報道している。

 1.バイデン大統領は、アメリカ国民の安全、繁栄、健康、生き方を守り、自由で開かれたインド太平洋を守ることを優先事項とすると断言した。

 2.バイデン大統領は、 北京政府の強圧的で不公正な経済慣行、香港での取り締まり、新疆ウイグル自治区での人権侵害、台湾を含む地域でのますます強まる独断的な行動について、強い懸念を抱いていると強調した。

 3.両首脳はまた、COVID-19パンデミックへの対応や、世界の健康安全保障、気候変動、兵器拡散防止といった課題についても意見交換をした。

 4.バイデン大統領は、もしそれがアメリカ国民と同盟国の利益を促進する場合には、実用的で結果を重視した取り組みを追求すると決意表明した。

以上のことが淡々と短く書いてある。

◆中国の公式発表

中国の場合は、もう尋常ではないほど華々しく報道し、それも中央テレビ局CCTVで速報を伝えた後、続けざまに人民日報や新華社あるいは再度詳細にCCTVが報道するなど、内容は中共中央と中央政府がオーソライズしてfixしたものを、一斉に流した。

最終的な形のCCTVの動画CCTVの文字版あるいは新華網などで全貌を見ることができる。その内容を以下にご紹介しよう。一部の美辞麗句は省略するが、言葉の端から発見できる真実もあるので、詳細に追ってみた。

 一、習近平は指摘した:過去半世紀以上、国際関係の中で最も重要な出来事は中米関係の回復と発展だ。その間、少なからぬ曲折や困難があったが、しかし全体的に見れば前進しており、しかも豊かな成果を収め、両国人民に幸せをもたらし、世界の平和と安定と繁栄をもたらした。中米両国は「和すれば互いに利を得、戦えば互いに傷つく」関係にあり、協力以外に選択はない。中米の対立は両国と世界に災禍をもたらす。

 二、習近平は強調した:中米関係は今まさに重要な局面に差し掛かっている。中米関係を健全で安定的に発展させることは、両国人民と国際社会の共通の期待である。あなたは「アメリカの最大の特徴は可能性だ」と言ったことがありますね(筆者注:2011年、バイデンが副大統領として訪中し習近平と会談した時に、習近平がバイデンに「アメリカを一言で定義するとどうなりますか」と聞いたことに対するバイデンの回答)。その可能性がいま、両国関係改善の方向に向いていることを希望する。米中両国は互いに衝突せず対立せず、互いに信頼し合って協力してウインウインの精神で進み、相違点をコントロールし、両国人民に真の実質的な利益をもたらすように努力したい。それがコロナウイルス肺炎を退治するためにも、また世界経済の回復と地域の平和安定を促進することにも貢献する。

 三、習近平は強調した:中米はある種の問題に関しては異なる見解を持つことはあるだろう。しかし肝要なのは互いを尊重し、平等に対応し、建設的な方法で問題解決に当たることだ。両国の外交部門は双方の広範な問題と国際的な地域間の問題に関して意思疎通を行い、両国の経済、金融、法の執行、および軍隊などの問題に関しても、もう少し多く接触を図ることができる。中米両国は各種の対話のメカニズムを通して、互いに相手の政策や意図を正確に理解することが重要で、そうすれば誤解や誤判断を避けることができる。台湾や香港あるいは新疆問題に関する話は中国の内政問題であり、中国の主権と領土保全の問題だ。アメリカは中国の核心的利益を尊重し、慎重に行動しなければならない。

 四、習近平は強調した:現在の不確定性に満ちた国際情勢に当たり、中米は国連安保理常任理事国として、特殊な国際的責任と義務を負っている。世界の平和的発展に歴史的な貢献を果たすため、双方ともに手を携えて世界の潮流に対応し、共にアジア太平洋地区の平和的安定を維持し保護していかなければならない。

 五、バイデンは表明した:中国は悠久の歴史を持つ偉大なる文明の国家であり、中国人民は偉大なる人民である。米中両国は衝突を避けなければならない。気候変動などの広範な領域においては協力することができる。アメリカは喜んで中国とともに、相互尊重の精神に基づき、率直で建設的な対話を続け、誤解や誤判断を避けるべく相互理解を深めていく。

 六、両国首脳は本日の会話が世界に対して積極的なシグナルを発信することを確認し合い、双方とも米中関係と共通の関心事に関して今後も密接な連携を保つことに同意した。

中国側の発表は以上だ。

◆両国の発表内容の差異から何が見えるか?

さて、両国の発表内容の差異から何が見えるかを読み解いてみよう。

基本的状況として、たとえば日本のメディアでは、あたかもバイデンが習近平に「香港弾圧や台湾への威嚇あるいはウイグルの人権問題で、勇猛果敢に、強硬な要求を突き付けた!」というニュアンスで報道されていることが多い。

本当にそうなのかを、きちんと「現実」を直視して確認してみよう。

(1)バイデンが主張した「香港、台湾、ウイグル」に関して習近平は内政干渉だと突っぱねたと報道しているが、それに対するアメリカ側の反論はない。

(2)「地域の安定」問題に関しても、バイデンが「中国が独断的行動を増している」と責めたのに対して、習近平は「中国の主権と領土保全の問題だ」と突っぱねたと報道しているが、それに対するアメリカ側の反論はない。

(3)何よりも大きいのは、中国側発表のに書いてあるように、バイデンが中国人民を「偉大なる人民」と讃えていることだ。そして「米中両国は衝突を避けなければならない」とバイデンが言っているということである。

(4)決定的なのは、にあるように、バイデンが「アメリカは喜んで中国とともに、相互尊重の精神に基づき、率直で建設的な対話を続け、誤解や誤判断を避けるべく相互理解を深めていく」と述べたことだ。これでは話が違うではないかと、大方の人が思うだろう。バイデン側は「いや、私はそのようなことは言ってない」とは反論していないので、「言った」と解釈するしかない。

以上、中国としては、バイデンが大統領就任当初、国際社会に戻り同盟国や友好国とともに対中強硬策を進めていくという趣旨のことを表明していたので非常に警戒していたのだが、2月8日付けコラム<バイデン政権の本音か? 米中電話会談、「一つの中国」原則に関する米中発表の食い違い>でも書いたように、「ブリンケン&楊潔チ」と「バイデン&習近平」という、「古くからのお友達ペア」の「仲良しぶり」は、バイデン政権になっても「会話の上では」消えていないようだ。

実際の行動で、「勇猛果敢」なところを、ぜひ見せて欲しいと望む。

そうでないと習近平はトランプ政権でもバイデン政権でも「おいしいところ」を頂くことになろう。警戒したい。

(本論はYahooニュース個人からの転載である)

遠藤 誉
1941年中国生まれ。中国革命戦を経験し1953年に日本帰国。「中国問題グローバル研究所」所長。筑波大学名誉教授、理学博士。中国社会科学院社会学研究所客員研究員・教授、北京大学アジア・アフリカ研究所特約研究員、上海交通大学客員教授などを歴任。著書に『ポストコロナの米中覇権とデジタル人民元』(遠藤 誉 (著), 白井 一成 (著), 中国問題グローバル研究所 (編集)、実業之日本社)、『激突!遠藤vs田原 日中と習近平国賓』(遠藤誉・田原総一朗 1月末出版、実業之日本社)、『米中貿易戦争の裏側 東アジアの地殻変動を読み解く』(毎日新聞出版)、『「中国製造2025」の衝撃 習近平はいま何を目論んでいるのか』、『毛沢東 日本軍と共謀した男』(中文版・韓国語版もあり)、『チャイナ・セブン <紅い皇帝>習近平』、『卡子(チャーズ) 中国建国の残火』(中文版・英文版もあり)、『チャイナ・ジャッジ 毛沢東になれなかった男』、『チャイナ・ナイン 中国を動かす9人の男たち』、『ネット大国中国 言論をめぐる攻防』、『中国動漫新人類 日本のアニメと漫画が中国を動かす』『中国がシリコンバレーとつながるとき』など多数。 // Born in 1941 in China. After surviving the Chinese Revolutionary War, she moved to Japan in 1953. Director of Chinese Issue Global Research Institute, Professor Emeritus, Doctor of Science at the University of Tsukuba. Member of the Japan Writers Association. She successively fulfilled the posts of guest researcher and professor at the Chinese Academy of Social Sciences. Her publications include “Inside US-China Trade War” (Mainichi Shimbun Publishing), “’Chugoku Seizo 2025’ no Shogeki, Shukinpei ha Ima Nani o Mokurondeirunoka (Impact of “Made in China 2025” What is Xi Jinping aiming at Now?), “Motakuto Nihongun to Kyoboshita Otoko (Mao Zedong: The Man Who Conspired with the Japanese Army),” “Chazu Chugoku Kenkoku no Zanka (Japanese Girl at the Siege of Changchun) (including Chinese and English versions),” “Net Taikoku Chugogu, Genron o Meguru Koubou (Net Superpower China: Battle over Speech),” “Chaina jajji — Motakuto ni narenakatta otoko (China Judge: The Man Who Couldn’t Become Mao Zedong),” “Chugoku Doman Shinjinrui: Nihon no Anime to Manga ga Chugoku o Ugokasu (The New Breed of Chinese “Dongman”: Japanese Cartoons and Comics Animate China),” “Chugogu ga Shirikonbare to Tsunagarutoki (When China Gets Connected with Silicon Valley),” and many other books.