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中国大手IT企業の独禁法違反処分はTPP11参加へのアピール
2020年12月15日
(写真:ロイター/アフロ)
(写真:ロイター/アフロ)

日本ではアリババなどIT大手3社の独禁法違反処分を中国政府の民間企業への介入と報道する傾向にあるが、実はこれはTPP11参加に向けて中国も国際標準に近づきつつあることへのアピールとみなすべきだろう。

◆独禁法違反で処分を受けた中国大手IT企業3社

中国政府の「国家市場監督管理総局」は12月14日、以下の中国大手IT傘下の企業に対して独占禁止法(以後、独禁法)と「経営者集中申請基準に関する国務院の規定」に違反しているとしてそれぞれ罰金50万元(約800万円)を科す決定を下した。

  1. 「アリババ投資」は2017年に小売企業「銀泰商業集団」を買収した。しかし出資比率を73.79%に引き上げる前に当局の承認を得ていない。
  2. テンセント傘下の電子書籍部門「閲文集団」は2018年に新麗傳媒を買収した。しかし事前に当局の承認を得ていない。
  3. S.F.エクスプレス(順豊)の子会社「豊巣ネットワーク(スマート宅配運営企業)」は2020年5月に中郵智公司を買収。豊巣ネットワークは中郵智の株を100%持ちながら、中郵智の株主が豊巣ケイマン株を28.68%購入しているが申告していない。

これらの処分に対して日本では「中国政府が民間企業にまで介入し始めた」という受け止め方の報道が多い傾向にあるが、中国のネットでは、まるで正反対だ。

  • いいねぇ!やっとネット業界にもメスを入れたのか!
  • 通信大手は一人でボロ儲けして、俺たちのポケットから金を奪っていくばっかりだ。もっと早く罰するべきだった。
  • 「たかだか50万元?」とも思うが、まあ、政府がようやくネット業界にも手を付けるよっていうシグナルだろうから、許してやるか。
  • もっとやれ!

・・・

といった感じの言葉に溢れているのだ。

中国では独禁法は2007年に制定され2008年から施行されているが、これまでネット業界は独禁法対象になったことがなかった。

なぜなら中国は国土が広大なので、ネット通販は中国経済を押し上げる非常に大きな業態の一つだったからだ。また民間企業を推進していることをアピールする意味でも、中国政府にとっては好ましい存在だった。

しかし世界的に見てもGAFA(Google、Amazon、Facebook、Apple)よりも多くのビッグデータを持つに至ったBAT(Baidu、Alibaba、Tencent)などの独占ぶりは横暴とも言えるほどで、庶民の不満は溜まっていた。

たとえば通信販売関連のA社、B社、C社・・・があったとしよう。

いずれも最初の内はサービスが良くて廉価。「その代りにあなたの趣味を含めた個人情報を下さいね」という感じで、「物を買うのに、なんでそんな情報まで入力しないと買えないの?」というほど、こと細かに情報提供しないと買えなかった。それでも廉価なので、情報を提供する。それは互いのメリットを享受する交換条件のようなものだったため、A社もB社もC社・・・も、競って廉価に販売してくれた。

ところが、仮にこれらA、B、C・・・が合併吸収をして、極端な場合、1社だけになったとすると、もう競争相手はいなくなるので、いきなり販売価格も送料も高く付けてくる。その負担は消費者に行く。

その傾向が中国社会内でドンドン強くなってきたので、中国政府としてはストップを掛けざるを得ないところに来たのだ。

特に10月に開催された中国共産党第19回党大会・五中全会では、「共同富裕」というのが、一つの政治目標になっている。

それは鄧小平が言い出した「先富論」を半分は否定するものと言ってもいいだろう。「先富論」は本来「先に富める者から富め。先に富んだ者は、まだ貧しい者を引っ張って共に豊かになっていこう」という性格のものだったが、現実は「先に富める者が富み、貧乏な者は取り残してしまえ」という、激しい「貧富の格差」を生む結果を招いてしまった。

そこで習近平政権は「建党百周年記念までに貧困層をゼロにする」という「貧困撲滅運動」を旗印に、その実現に向かって躍起になっている。建党百周年記念は来年2021年7月1日にやってくる。もう、待ったなしなのである。

したがって五中全会のテーマの一つは「共同富裕」であり、そのための独禁法のネット業界への適用なのである。

◆「外商投資法も独禁法もVIEスキームをカバーする」ことへのシグナル

このたびの大手ネット企業への独禁法違反処罰は、実はアメリカ市場での上場などにも関係してくるVIE(Variable Interest Entities変動持分事業体スキームを使った企業への、ある種のシグナルと受け止めることもできる。

VIEというのは、投資先を連結する際の基準の一つで、このたびの処罰の解説文には明確に「VIEスキームが監督管理の対象となった」と書いてある。

たとえばアリババを例にとるなら、2014年5月にアリババグループはニューヨーク証券取引所で上場に成功している。中国政府は「中国のインターネット産業に対して外資が参入するのを禁じている」ので、本来なら他国の証券取引所に上場することはできないはずだ。だというのに、なぜニューヨーク市場に上場できたかというと、「VIEを利用して、法人登記所在地をケイマン諸島にした」からだ。それでいて実際に稼働しているビジネスの本拠地は浙江省の杭州に残した。

こういったVIEスキーム手法に関して、中国はこれまで黙認してきて、2019年3月7日付のコラム全人代「一見」対米配慮の外商投資法で触れた「外商投資法」も、また独禁法もVIEには触れていない。

だから海外の投資者は、中国がいつVIEスキームに制限を加えるか分からず大きなリスクを抱えていたものと思う

上記の「1」にあるアリババ投資は2000年に誕生してヴァージン諸島で登録し、「2」にある閲文集団は2013年に設立してケイマン諸島で登録している。「3」にある深セン市の豊巣ネットワークは2019年に豊巣香港有限会社が100%の持ち株となって設立されているものの、「3」に書いたように「豊巣ケイマン」もある。

VIEスキームを利用したからと言って、必ずしもアメリカやイギリスなどの証券取引所に上場するかと言ったらそうではなく、豊巣は深セン取引所に上場しているし、アリババもテンセントも香港上場へとシフトしている。

それは言うならば、香港デモなどによって香港の金融が揺らぐのを防ぐためで、大陸(北京政府側)の大手企業が香港で上場していれば香港の富裕層は北京を重んじるし、となれば香港政府をより動かしやすくなるという計算も働いている。

だからこそ、なおさら、北京政府は大陸の大手IT企業に対しても、「こんなに厳しく独禁法などで監視していますよ」と国際社会に見せたいわけだ。

中国企業を米上場廃止する監査方案が可決

一方、12月2日、米下院は、アメリカの監査基準を順守しない中国企業の米上場を廃止できる法案を全会一致で可決した。同法案はすでに上院で可決されており、3年連続で米公開会社会計監視委員会(PCAOB)の監査基準を順守できなければ、米国内の証券取引所での上場が禁じられることになっている。

しかし中国では会計事務所が監査調書を中国から持ち出すことを禁じている。

したがって、ここは米中両国のせめぎ合いということになろう。

このたびの独禁法違反処罰は、こういうこととも連動している。

それもあり、独禁法や外商投資法などが、これまで言及しなかったグレーゾーンのVIEスキーム利用に関しても、今後は監視の対象とすることを表明したのが、今般の中国大手IT企業への独禁法違反処罰であるということもできるのである。

◆習近平政権、TPP11参加準備への一環

さらにこの度の独禁法違反処罰は、対外的には「中国も独禁法を守る国です」ということを国際社会にアピールすることに主眼があり、これは習近平政権のTPP11参加への準備の一環であると位置づけなければならない。

これを「中国政府が民間企業にまで介入し、コントロールを強化し始めた」などと、「よくある視点」で分析したのでは、中国の真相を見誤るのではないかと懸念する。注意を喚起したい。

遠藤 誉
1941年中国生まれ。中国革命戦を経験し1953年に日本帰国。「中国問題グローバル研究所」所長。筑波大学名誉教授、理学博士。中国社会科学院社会学研究所客員研究員・教授、北京大学アジア・アフリカ研究所特約研究員、上海交通大学客員教授などを歴任。著書に『ポストコロナの米中覇権とデジタル人民元』(遠藤 誉 (著), 白井 一成 (著), 中国問題グローバル研究所 (編集)、実業之日本社)、『激突!遠藤vs田原 日中と習近平国賓』(遠藤誉・田原総一朗 1月末出版、実業之日本社)、『米中貿易戦争の裏側 東アジアの地殻変動を読み解く』(毎日新聞出版)、『「中国製造2025」の衝撃 習近平はいま何を目論んでいるのか』、『毛沢東 日本軍と共謀した男』(中文版・韓国語版もあり)、『チャイナ・セブン <紅い皇帝>習近平』、『卡子(チャーズ) 中国建国の残火』(中文版・英文版もあり)、『チャイナ・ジャッジ 毛沢東になれなかった男』、『チャイナ・ナイン 中国を動かす9人の男たち』、『ネット大国中国 言論をめぐる攻防』、『中国動漫新人類 日本のアニメと漫画が中国を動かす』『中国がシリコンバレーとつながるとき』など多数。 // Born in 1941 in China. After surviving the Chinese Revolutionary War, she moved to Japan in 1953. Director of Chinese Issue Global Research Institute, Professor Emeritus, Doctor of Science at the University of Tsukuba. Member of the Japan Writers Association. She successively fulfilled the posts of guest researcher and professor at the Chinese Academy of Social Sciences. Her publications include “Inside US-China Trade War” (Mainichi Shimbun Publishing), “’Chugoku Seizo 2025’ no Shogeki, Shukinpei ha Ima Nani o Mokurondeirunoka (Impact of “Made in China 2025” What is Xi Jinping aiming at Now?), “Motakuto Nihongun to Kyoboshita Otoko (Mao Zedong: The Man Who Conspired with the Japanese Army),” “Chazu Chugoku Kenkoku no Zanka (Japanese Girl at the Siege of Changchun) (including Chinese and English versions),” “Net Taikoku Chugogu, Genron o Meguru Koubou (Net Superpower China: Battle over Speech),” “Chaina jajji — Motakuto ni narenakatta otoko (China Judge: The Man Who Couldn’t Become Mao Zedong),” “Chugoku Doman Shinjinrui: Nihon no Anime to Manga ga Chugoku o Ugokasu (The New Breed of Chinese “Dongman”: Japanese Cartoons and Comics Animate China),” “Chugogu ga Shirikonbare to Tsunagarutoki (When China Gets Connected with Silicon Valley),” and many other books.