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欧州などに医療支援隊を派遣する習近平の狙い:5Gなどとバーター
2020年3月15日
中国の医療支援隊とイタリアの専門家がローマの病院での記者会見
中国の医療支援隊とイタリアの専門家がローマの病院での記者会見(提供:AP/アフロ)

10日の習近平武漢入りと合わせて中国から医療支援隊を海外に派遣し「共闘」をアピール。責任追及をかわすだけでなく、なんと、一帯一路や5G協力などへの交換条件を提示している。経済復興段階に入るつもりだ。

◆中国、海外に医療支援隊を派遣

習近平国家主席が新型コロナ発生以降、初めて武漢入りしたのは3月10日だが、3月9日を含めたそれ以降の中国の動きを見ると、習近平が何をしようとしているか、狙いが見えてくる。

3月11日、中国赤十字会副会長の一人を代表とする医療支援部隊がイタリア行きのチャーター便でイタリアに向かった(イタリアに行くため上海に飛んだ)。医療支援部隊は国家疾病制御センター、四川大学華西医院、四川省疾病制御センターなどの専門家グループや医者看護士医療関係者などから成り立っており、人道救援物資なども運んでいる。

3月12日、中国共産党機関紙傘下の環球網は中国の最初の防疫対外支援専門家チームのチャーター便がイタリアにに赴いたと報道した

それによれば、9人の医療専門家と31トンの医療物資(ICU病床設備、医療用防護用品、抗ウイルス薬剤、健康人血漿と新型コロナウイルス感染回復者の血漿など)を携えて上海からローマに直行したという。

四川省は主としてイタリアを支援し、 江蘇省はパキスタンを、上海はイランを、そして広東省はイラクをというように、いくつかの省が一つの国を担当する。

 

◆「中国が世界を救うのだ!」という真逆の宣伝

 免疫学の最高権威である鍾南山院士(博士の上のアカデミックな呼称)をトップとする専門家

チームを擁する国家衛生健康委員会の提唱により、中国では2月7日から「一省包一市」という医療体制が実施されていた。

武漢市は全国の医療部隊が集中的に派遣されたが、武漢市以外の湖北省全体の各地区にお

ける医療体制が不十分なので、中国全土の19の省(直轄市・省・自治区)から医療支援部隊を湖北省の16の地区にそれぞれ派遣して医療体制を補完し構築するというやり方である。

 これもあって湖北省は医療崩壊から逃れて、新型コロナ禍を脱することができたのに、3月12日のコラム<習近平の武漢入りとWHOのパンデミック宣言>で書いたように、習近平はまるで「自分の手柄」のような「勝利宣言」をせんばかりの勢いだ。そのコラムにも書いたように中国の民衆はこの現象を「摘桃子(ズァイ・タオズ)」(他人の栄誉を横取りして自分の功績とする))と嘲笑っているが、その勢いは留まるところを知らない。

 新型コロナ患者が減衰に向かい始めると、習近平は盛んに「人類運命共同体」というこれまでのスローガンを駆使して、「中国の防疫方法は世界の模範となっている。中国が世界を救うのだ」という姿勢に立ち、中国に跪く世界の要人から中国礼賛の言葉を引きだしては中央テレビ局CCTVで繰り返し報道している。新型コロナウイルス肺炎パンデミックの真犯人は習近平であるというのに、まるで英雄気取りなのである。

中国の医療支援隊海外派遣を中国では「一省包一市」になぞらえて「一省包一国」という制度に基づき実施しようとしている。これに関して、3月14日には「一省包一国!全球疫情蔓延,中国覇気亮剣:4省専門隊出征4国」(一省包一国!全世界に疾病蔓延、中国覇気に満ちて背を向けず剣を振りかざす:4つの省の専門隊が4つの国に出征する)という見出しの報道までが現れるに至っている。

◆転んでもタダでは起きない「支援とバーター」

それどころか、「転んでもタダでは起きない」強(したた)かさを見せている。

習近平が武漢入りした前日の3月9日、王毅外相はイギリスのラープ外相と電話会談をした。それによれば、双方は新型コロナ防疫に関して話した後に、次のような会話をしている。

イギリス側は「中国が対英投資を続けることを歓迎し、他国と差別はしない。金融、貿易自由化、投資協定などに関して中国と協力を深めたいと思っている」と述べ、王毅外相は「イギリスが5Gに関して中国と協力的であることを高く評価している。これは中英経済貿易協力に有利である」と述べているのである。

こうして3月10日にイギリス議会は5Gインフラからファーウェイを排除するという議案を廃案にした。

これは即ち、「医療支援と5Gのバーター取引」を意味する。

なんと強かなことか。

イギリスを墜として終わった王毅外相は返す刀で、3月10日、イタリアのディマイオ外相と電話会談をした

このディマイオ外相こそ、「一帯一路」協力を締結へと導いた本人だ。G7先進国の一角を切り崩させたとして、世界をあっと驚かせた人物である。

そのディマイオ外相は以下のように述べた。

――イタリア政府は中国の防疫成功の経験に強い関心を持っており、中国から学びたいと思っている。イタリアはいま医療物資や設備に事欠くという困難に面しており、中国から解決の手助けを得るのは焦眉の急である。イタリアにいる華人華僑たちは防疫面において積極的な役割を果たしており、イタリア側は全力で彼らの健康と安全を守りたいと思っている。

それに対して王毅外相は以下のように答えた。

――イタリアの友人であり全面的な戦略パートナーとして、中国はイタリアが直面している困難を十分に理解しており、イタリアを全面的に支持する。疾病には国境はなく、疾病は人類共通の敵であり、国際社会が団結して対応しなければならない。中国はあくまでも人類運命共同体という理念に基づき、中国人民の健康安全を保障しなければならないと同時に、全世界の公共衛生安全事業に貢献しなければならない。目下、中国はWHOに献金し、防疫の国際協力に貢献し、疫病感染が厳しい国あるいは医療条件が脆弱な国に可能な限りの支援を行いたいと思っている。

ここで「えげつなく」ストレートに「一帯一路協力をゆめゆめ忘れるなよ」とは言ってないが、全体のトーンからして、そういう念を押したことになる。

◆中国外交部報道官:欧州と感染対応の協力を強化

3月12日、中国外交部の耿爽報道官は、中国と欧州は常に密接な交流と協力を保ってきたとして、ローマ帝国時代の哲学者で政治家だったセネカの言葉「私たちは同海之浪(同じ海原の波)であり、同樹之葉(同じ木の葉)であり、同園之花(同じ花園に咲く花)である」を引き合いに出した。

中国の国家衛生健康委員会や中国疾病制御センターは、EU委員会保健衛生・食品安全総局や欧州疾病制御センターと共に新型コロナウイルス肺炎に対応する聯合専門家チームを立ち上げたという。ハイレベル専門家チームのトップである鍾南山は既に欧州呼吸学会の責任者とテレビ会談を通して中国が新型コロナ肺炎に如何にして闘い成功を収めたか、そのノウハウを伝授したとのこと。

中央テレビ局CCTVは最後に「われわれは必ず全世界の防疫闘争に勝利を収めることができる」と締めくくった。

◆李克強が発したシグナル?

話がここでは終わらないのが、中国の中国たる所以だ。

3月13日、李克强国務院総理は「さらなる改革開放を成し遂げなければ、外貿外資は安定しない」と語ったとCCTVや中国人民政府のウェブサイトが伝えた。

李克強は13日、全国市場運営・流通発展サービスプラットフォームと貿易・外資協調メカニズムを視察したのだが、李克強は今「中央新型コロナウイルス肺炎対策工作指導グループ(組)」のグループ長(組長)である。

その李克強が「貿易と外資の安定化」を強調したということは、中国はこれを契機に経済復興へと着手することを意味し、「一省包一国」システムによって支援した国を、今後また新たな経済圏へと誘い込んでいくというシグナルを発したことを意味するのである。その詳細に関しては、今後徐々に解き明かしていくつもりだ。

遠藤 誉
1941年中国生まれ。中国革命戦を経験し1953年に日本帰国。「中国問題グローバル研究所」所長。筑波大学名誉教授、理学博士。中国社会科学院社会学研究所客員研究員・教授、北京大学アジア・アフリカ研究所特約研究員、上海交通大学客員教授などを歴任。著書に『ポストコロナの米中覇権とデジタル人民元』(遠藤 誉 (著), 白井 一成 (著), 中国問題グローバル研究所 (編集)、実業之日本社)、『激突!遠藤vs田原 日中と習近平国賓』(遠藤誉・田原総一朗 1月末出版、実業之日本社)、『米中貿易戦争の裏側 東アジアの地殻変動を読み解く』(毎日新聞出版)、『「中国製造2025」の衝撃 習近平はいま何を目論んでいるのか』、『毛沢東 日本軍と共謀した男』(中文版・韓国語版もあり)、『チャイナ・セブン <紅い皇帝>習近平』、『卡子(チャーズ) 中国建国の残火』(中文版・英文版もあり)、『チャイナ・ジャッジ 毛沢東になれなかった男』、『チャイナ・ナイン 中国を動かす9人の男たち』、『ネット大国中国 言論をめぐる攻防』、『中国動漫新人類 日本のアニメと漫画が中国を動かす』『中国がシリコンバレーとつながるとき』など多数。 // Born in 1941 in China. After surviving the Chinese Revolutionary War, she moved to Japan in 1953. Director of Chinese Issue Global Research Institute, Professor Emeritus, Doctor of Science at the University of Tsukuba. Member of the Japan Writers Association. She successively fulfilled the posts of guest researcher and professor at the Chinese Academy of Social Sciences. Her publications include “Inside US-China Trade War” (Mainichi Shimbun Publishing), “’Chugoku Seizo 2025’ no Shogeki, Shukinpei ha Ima Nani o Mokurondeirunoka (Impact of “Made in China 2025” What is Xi Jinping aiming at Now?), “Motakuto Nihongun to Kyoboshita Otoko (Mao Zedong: The Man Who Conspired with the Japanese Army),” “Chazu Chugoku Kenkoku no Zanka (Japanese Girl at the Siege of Changchun) (including Chinese and English versions),” “Net Taikoku Chugogu, Genron o Meguru Koubou (Net Superpower China: Battle over Speech),” “Chaina jajji — Motakuto ni narenakatta otoko (China Judge: The Man Who Couldn’t Become Mao Zedong),” “Chugoku Doman Shinjinrui: Nihon no Anime to Manga ga Chugoku o Ugokasu (The New Breed of Chinese “Dongman”: Japanese Cartoons and Comics Animate China),” “Chugogu ga Shirikonbare to Tsunagarutoki (When China Gets Connected with Silicon Valley),” and many other books.