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トランプが中露に石油精製製品の増産・供給を要請した結果、習近平の「米中露戦後秩序の構図」を強化か?
握手するプーチン大統領とトランプ大統領(写真:ロイター/アフロ)

イラン戦争を起こしたために窮地に追い込まれたトランプ大統領は10月9日、プーチン大統領との電話会談でロシア産ディーゼル燃料(軽油)の世界市場への供給を拡大させることで合意した。一方、9月24日の米中首脳会談では習近平国家主席に対して石油精製製品の増産を要請している。

自分がイラン攻撃などを始めなければ、中露に頭を低くして懇願する必要もなかったはずだ。11月の中間選挙における支持率が、石油精製製品の価格高騰によって一層落ち込むだろうことを回避しようとしての切羽詰まった懇願だろうが、これで習近平の立場はさらに強くなり、10月7日の論考<習近平の「米中露戦後秩序の構図」は、日本を「新型軍国主義」と指摘することによって何を狙っているのか?>で述べた「米中露戦後秩序の構図」はますます強化されることになる。

日本は「気まぐれトランプがもたらした破壊的波及効果」を無視してはならない。

 

◆トランプがプーチンにロシア産ディーゼル燃料の世界市場への供給を要請

10月10日の3:46 AM、トランプはTruthでプーチンとの電話会談に関して以下のように書いている。

――私はロシアのウラジーミル・プーチン大統領と非常に実りある協議を終えたばかりで、ロシアが直ちに30万トン以上のディーゼル燃料をアメリカおよび世界の市場に供給し、さらに11月中に50万トン、その後すぐに100万トンを供給することで合意しました。加えて、ロシアのディーゼル精製所の状況に基づき、ロシアは短期間のうちに300万トンのディーゼル燃料を供給する予定です。ホルムズ海峡の完全支配と、ロシアのエネルギーに関するこの素晴らしい発表により、アメリカ国民、そして世界中のディーゼル燃料価格は記録的な速さで下落するでしょう!アメリカ国民、特に偉大な農家、牧場主、トラック運転手にとって価格が下がることは、私の最優先事項です。これは非常に重要で大きな発表です。さらに、イランは核兵器を保有しないということを理解しなければなりません!この件にご関心をお寄せいただき、ありがとうございます。

                       ドナルド・J・トランプ大統領

                       (Truthからの和訳転載は以上)

トランプはインタビューに対して「プーチンに感謝」とも言っている。

10月10日、トランプはさらに踏み込み、ウクライナによるロシア製油所への攻撃が米国の軽油価格高騰につながっていると批判し、ゼレンスキー大統領の交代まで求めた(AP通信:<トランプ氏、ウクライナに新大統領を選出すべきだと発言、米国のディーゼル価格高騰はゼレンスキー大統領の責任だと非難|AP通信 >)。

トランプは実は9月18日に、対露制裁強化法を成立させ、ロシア産原油・天然ガスを購入する主要国に対して、最大100%の追加関税を課す仕組みを設けている。あれから1ヵ月も経たないうちに、今度はロシア産ディーゼル燃料を米国や世界の市場に拡大供給せよという方針を決定するのだから、いくら中間選挙のためとはいえ、信頼性は失せていく一方だろう。

しかしプーチンにしてみれば、このチャンスを逃す手はない。

クレムリンはロシア政府のウェブサイトで、プーチンの言葉として以下のようなメッセージを公開している。

――10月9日のドナルド・トランプ米大統領との電話会談中、ウクライナ危機の解決の見通しにかなりの焦点が当てられた一方、イランを取り巻く状況や二国間関係の様々な側面についても触れました。世界のエネルギー市場の現状について協議した際、ロシア側は米国市場および世界市場全体への石油・石油製品の供給意欲を改めて表明しました。これは世界経済全体にプラスの影響を与えるものと確信しています。両国大統領間の個人的な接触を維持し、それぞれの政権、治安機関、および関係機関における協力を継続することで合意を再確認しました。(クレムリンの発表は以上)

 

これではまるで、習近平が狙う「米中露戦後秩序の構図」をそのまま強化することにつながるではないか。習近平にとっては、思いもよらない援護射撃と言っていいだろう。

ちなみにトランプとプーチンは、「どちらが先に電話を切るか」に迷ったほど親密だったと、中国のウェブサイト「観察者網」が<ロシア大統領補佐官:プーチンもトランプも、どちらも先に電話を切りたがらなかった>という見出しでその様子を伝えている。原文はロシアのインターファックス通信で、ウシャコフ大統領補佐官が述べたらしい。最終的に、「1、2の3!」で、同時に切ったという親密ぶりだったという。

 

◆トランプは米中首脳会談で習近平に「石油精製製品の増産」を促した

9月24日、ワシントンにおける米中首脳会談でトランプは習近平に石油製品の増産を要請している。そのことが<ファクトシート:ドナルド・J・トランプ大統領、歴史的な国賓訪問を主催し、中国との公正かつ互恵的な関係を推進 – ホワイトハウス> に書いてある。「トランプ大統領は習国家主席に対し、世界の石油供給を安定させるため、精製石油製品の増産を促した」と。

但し、「精製石油製品の増産を促した」だけで、「輸出拡大」まで要求したのか否かに関しては不明だ。会談成果に関する成果文書では、米中ともに、石油精製製品に関する記述がない。

その間隙を埋める情報として、2本のロイター電がある。ロイターの報道によると、中国が10月1日に精製燃料など石油精製製品の輸出を一時停止し、10月9日に再開予定が報じられた。根拠となる情報の一つは<中国の製油会社が10月の燃料輸出停止、と関係筋が語る|ロイター>(有料)で、もう一つは<中国、連休明けの燃料輸出を10月に再開へ|ロイター>(有料)である。

なぜ中国が10月1日に石油精製製品の輸出を一時停止し、10月9日に再開予定が報じられたかに関しては、やや複雑な事情がある。

まず、10月1日は中国の建国記念日(国慶節)なので、国慶節連休(10月1~7日)が直接関係しているが、国内在庫の減少という背景もある。中国は今年3月から国内供給確保のため石油製品の輸出を制限し、7月以降に段階的に緩和していた。

しかし、9月24日の米中首脳会談が開催された時点で、ガソリン・軽油の在庫が10年ぶり以上の低水準に落ち込み、10月の輸出制限強化が予想されていた。その後は以下のような経緯をたどっている。

  • 9月30日: 中国石油天然気(ペトロ・チャイナ)が10月出荷予定の一部契約を取り消し。
  • 10月1日: 10月分の輸出許可が出ないまま国慶節連休に入り、香港・マカオ以外への輸出を一時停止。
  • 10月8日: 国慶節連休明けに輸出再開が認められる。
  • 10月9日: 約370万トンの輸出承認と再開の見通しが報じられる。
      

この経緯から、単なる国慶節連休休業ではなく、国内在庫を優先する輸出管理と、連休を挟んだ許可手続きが重なったものと考えられる。

トランプの要請は「増産」だが、中国は「輸出管理」という措置で、その要請に応えているとみなすのが妥当だろう。

事実、中国のウェブサイト「鋼鉄網」は10月10日、<【精製油】:需給バランスが緩和され、国内精製油価格は下落している>(有料)と報道している。そこには「国有系などの主要製油所の10月のガソリン日量は9月比2.64%増、軽油は3.51%増とあるので、微量ながらトランプの要請である増産に応じていることになる。

中国の、地方の独立製油所は原油不足などから減産しているが、国有系と地方の独立製油所の両者を合わせたガソリン・軽油の週間供給量は631万トンで、9月中旬より2.1%増加している。また、10月に入って国内在庫も回復し始めている。

以上の状況から、習近平もトランプの要請と歩調を合わせているということが言える。

 

◆米露の接近で習近平の「米中露戦後秩序の構図」が強化されるのか

ここまでの考察から、「気まぐれトランプがイラン戦争を始めた結果、中露に石油精製製品の増産・供給を要請するハメになった」ということが言えるのだが、もう少しこの現象を俯瞰(ふかん)的に見るならば、習近平が狙う「米中露戦後秩序の構図」がますます強化されて、実現性を増しているということが言える。

10月7日の論考<習近平の「米中露戦後秩序の構図」は、日本を「新型軍国主義」と指摘することによって何を狙っているのか?>をお読みくださった読者の中には、「そんな途方もないことが実際に起き得るんだろうか?」と疑念を持たれた方もおられると思う。その疑念は理解できる。筆者もそう思う者の一人だ。

しかし、こんな形でトランプがプーチンに熱烈に近づき、また習近平を歴代の米大統領がめったに示さなかったほど空港まで迎えに行き熱烈歓迎している状況を鑑みると、あながち実現性が薄いとも言えないということになる可能性は否定できない。

これにより習近平の「米中露戦後秩序の構図」が狙い通りに動くのだとすれば、高市政権は台湾問題に関して、よほど覚悟しておかなければなるまい。引き続き警鐘を鳴らしたい。

 

この論考はYahoo!ニュース エキスパートより転載しました。

1941年中国生まれ。中国長春市で中共軍による食糧封鎖に遭い家族を餓死で失う。1953年日本帰国。中国問題グローバル研究所所長。筑波大学名誉教授、理学博士。内閣府総合科学技術会議専門委員(小泉政権)や中国社会科学院社会学研究所客員研究員・教授などを歴任。著書に『G2構想 勝つのは米国か中国か』(7月2日発売予定)、『台湾軍事機密文書が語る中国「抗日戦争」の真相』、『米中新産業WAR』(ビジネス社)(中国語版『2025 中国凭实力说“不”』)、『嗤(わら)う習近平の白い牙――イーロン・マスクともくろむ中国のパラダイム・チェンジ』(ビジネス社)、『習近平が狙う「米一極から多極化へ」 台湾有事を創り出すのはCIAだ!』(ビジネス社)、『習近平三期目の狙いと新チャイナ・セブン』(PHP新書)、『もうひとつのジェノサイド 長春の惨劇「チャーズ」』(実業之日本社)、『ウクライナ戦争における中国の対ロシア戦略 世界はどう変わるのか』(PHP)、『習近平 父を破滅させた鄧小平への復讐』(ビジネス社)、『ポストコロナの米中覇権とデジタル人民元』(遠藤 誉 (著), 白井 一成 (著), 中国問題グローバル研究所 (編集)、実業之日本社)、『米中貿易戦争の裏側 東アジアの地殻変動を読み解く』(毎日新聞出版)、『「中国製造2025」の衝撃 習近平はいま何を目論んでいるのか』、『毛沢東 日本軍と共謀した男』(中文版・韓国語版もあり)、『チャイナ・セブン <紅い皇帝>習近平』、『チャイナ・ナイン 中国を動かす9人の男たち』、『ネット大国中国 言論をめぐる攻防』、『中国動漫新人類 日本のアニメと漫画が中国を動かす』『中国がシリコンバレーとつながるとき』など多数。 // Born in 1941 in China. After surviving the Chinese Revolutionary War, she moved to Japan in 1953. Director of Global Research Institute on Chinese Issues, Professor Emeritus at the University of Tsukuba, Doctor of Science. Member of the Japan Writers Association. She has served as a specialist member of the Council for Science, Technology, and Innovation at the Cabinet Office (during the Koizumi administration) and as a visiting researcher and professor at the Institute of Sociology, Chinese Academy of Social Sciences. Her publications include “2025 China Restored the Power to Say 'NO!'”, “Inside US-China Trade War” (Mainichi Shimbun Publishing), “’Chugoku Seizo 2025’ no Shogeki, Shukinpei ha Ima Nani o Mokurondeirunoka (Impact of “Made in China 2025” What is Xi Jinping aiming at Now?), “Motakuto Nihongun to Kyoboshita Otoko (Mao Zedong: The Man Who Conspired with the Japanese Army),” “Japanese Girl at the Siege of Changchun (including Chinese versions),” “Net Taikoku Chugogu, Genron o Meguru Koubou (Net Superpower China: Battle over Speech),” “Chugoku Doman Shinjinrui: Nihon no Anime to Manga ga Chugoku o Ugokasu (The New Breed of Chinese “Dongman”: Japanese Cartoons and Comics Animate China),” “Chugogu ga Shirikonbare to Tsunagarutoki (When China Gets Connected with Silicon Valley),” and many other books.
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