言語別アーカイブ
基本操作
米中首脳会談を前に焦るトランプ――「核問題」がネック なぜイスラエルの核兵器保有は容認されるのか
イスラエル自身は核兵器を保有しながら、イラン核開発を激しく警戒するイスラエル首相(写真:ロイター/アフロ)

訪中を控えるトランプ大統領は、イランとの間で検討中の「1ページ14項目」の戦争終結合意に関して、訪中前には解決したいと焦っている。習近平国家主席としては友好国イランと停戦合意をしていない国の首脳を北京で大歓迎するわけにはいかない。トランプとしても合意未達成のままで訪中したのではディールが不利になり、訪中が中間選挙のための好材料にはなり得ない。「米国の勝利」を米選挙民に見せるために行くのだから「習近平が自分を大歓迎する状況」を作りたいし、非常に有利な条件でディールをこなしたことを米選挙民に見せたい。しかし事態はトランプが望む状況とは真逆で、5月10日にイラン側が出した回答にトランプは11日に激しい不満を露わにした。

ネックになっているのは核問題。

イスラエルは核拡散防止条約(NPT)に加盟せず、ストックホルム国際平和研究所のデータによれば少なくとも90発の核兵器を保有しているとのこと。それでもトランプはイスラエルの核兵器保有は容認し、イランが一発でも製造する可能性があるからという理由で、民族ごと国家を消滅させようとする言い続けている。

西側諸国はなぜ、イスラエルの核兵器保有を容認するのか?

なぜイスラエルの核保有を論議してはいけないような圧力が日本にはあるのか?

トランプ訪中を前に、勇気を出して米中会談の溝になっているイスラエルの核兵器保有に関して考察を深めたい。

 

◆絶え間なく揺れるトランプの意思表明

5月7日の論考<イラン・中国外相会談 習近平の存在によりトランプがイランとの合意に傾く>に書いたように、5月6日、訪中したイランのアラグチ外相と中国の王毅外相が北京で会談すると、トランプは自分のSNSであるTruthに「イランが合意するとすれば、イラン攻撃は終わりを告げ、ホルムズ海峡はイランを含むすべての人に開かれることになる」とさえ書いた。

すなわちトランプは4月13日にはホルムズ海峡を逆封鎖した上で、5月4日になると今度はアメリカが護衛した船舶だけがホルムズ海峡を通航していいとしてイランを排除し、ホルムズ海峡をアメリカが統治する行動(プロジェクト・フリーダム)に出たが、それもたった一日で否定し、護衛を暫定的に中止すると宣言した。北京でイランと中国の外相会談があったことが最大の容認となっている。

ところが、それも今度は3日間で翻し、またもやプロジェクト・フリーダムの再開を言い出した。その理由は、5月8日にはイランから合意内容に関する回答が来るはずだとトランプは言い、「イランが非常に合意したがっている」と主張していたのに、イランからの回答は来ないし、イランは少しもトランプ提案の内容に合意したいとは思っていないことが明らかになり始めたからだ。

したがってイランを再び威嚇しようという手に出たということになる。

ところが、5月11日には冒頭に書いたような結果になったので訪中前のイラン問題の進展状況は、好ましくない。

少なくともトランプが訪中して米中首脳会談を成功させたいと焦っていることだけは事実だ。その証拠にホワイトハウスはトランプが1時間にわたってひたすれ“WINNING”と言い続ける動画を公開している。聞いていて息苦しくなるし、哀れだ。読者の方々にはぜひともリンク先をクリックして、叫び続けるトランプの姿を確認していただきたい。

トランプのことだから、またどう変わるか分からないが、変わらないのは、「核開発問題に関する決定的な中国およびイランとの溝」である。

イランのアラグチ外相と中国の王毅外相との会談では核問題に関して「中国はイランが核兵器を持たないという約束を高く評価する」、「イランには原子力エネルギーを平和的に利用する正当な権利があると確信している」という中国側の見解に沿い、「イランの核開発制限」という形で認識を共有していた。

ところがトランプは一方では、5月6日のアメリカのPBS(公共放送サービス)におけるインタビューで、「濃縮ウランをアメリカに運び出すこと」を断定的に強調している。アメリカはなぜイランの核兵器保有の可能性ばかりを非難して軍事攻撃まで行うのに、イスラエルの核兵器基保有に関しては容認するのか?

 

◆問題はアメリカがイスラエルの核兵器保有を容認していること

冒頭でも書いたように、ストックホルム国際平和研究所(SIPRI)のデータによれば、2023年1月時点でイスラエルは少なくとも90発、場合によっては300発の核兵器を保有しているとのことだ。90発は下限を示すデータで、最大300発と推測している。但し、300発という数値は、2012年にTIME誌の取材を受けたジミー・カーター元大統領が語った数値である。また2016年9月、ハッキングされた元国務長官コリン・パウエルのメールによれば、イスラエルの核兵器保有数に関して「約200発」としていることがわかっている。パウエルは「テヘランの連中は、イスラエルが200発のミサイルを保有しており、すべてテヘランを標的にしていることを知っている。そしてわれわれ(アメリカ)は数千発も保有している。1発で何をするつもりだ?磨くのか?」と発言している。

わずか、その1発をイランが製造するか否かだけの状況なのに、トランプはイランを「核兵器を製造する可能性がある」というだけで、「種族を絶滅させ国家を地球上から消滅させてやる」とまで言っているわけだ。

図表1に、ストックホルム平和研究所が「90発」と推定した場合の分析データを示す。

図表1:イスラエルの核戦力(2023年1月)

ストックホルム平和研究所のデータに基づき、和訳を筆者が付加

一方、APニュースは「専門家らは、イスラエルが80発から200発の核弾頭を保有していると推定しているが、その範囲の下限値の方が可能性が高い」としていると報道している。

米国科学者連盟もイスラエルは90発の核兵器を所有していると推測している。米国科学者連盟が作成した、各国の核兵器保有数マップを図表2に示す。

図表2:2026年における世界の核弾頭保有量の推定値

米国科学者連盟のデータマップを転載の上、和訳は筆者が付加。さらにNPTで許されている核保有国の保有数に関しては、NPT非加盟国と区別しやすいように筆者が赤線で囲んだ。

今さら言うまでもなく、1970年に核拡散防止条約(この後はNPT)が成立し、核軍縮を目的に「アメリカ・フランス・イギリス・中国・ロシア」の核保有5ヵ国(=国連安保理常任理事国)以外の国の今後の核兵器保有を禁止することになった。核不拡散条約とも呼ばれるこの条約はしかし守られることなく、非加盟国であるイスラエルをはじめ、インドやパキスタンなどが核兵器を所有している(現在、非加盟国は「イスラエル、インド、パキスタン、南スーダン」の4ヵ国)。インドとパキスタンは「NPTは5ヵ国の核保有国にのみ保有の特権を認め、それ以外の国々には保有を禁止する不平等条約である」と主張し、批准を拒否している。

イスラエルは核兵器の保有を肯定も否定もせず、疑惑への指摘に沈黙を続けている。アメリカが沈黙を許しているためだが、それを良いことに「西側諸国」はイスラエルが核兵器を保有していることを「見て見ぬふり」をしている。

しかし、米国科学者連盟は、図表2に明示しているように黙ってはいない。

中国の場合は、もっと激しい。

 

◆中国はイスラエルの核兵器保有をダブル・スタンダードと非難

中国政府は早くから、「イスラエルは非核兵器保有国としてNPTに加入し、すべての核施設をIAEA(国際原子力機関)の監督下に置くべきだ」と主張してきた。2025年5月の中国政府の「中東非核兵器地帯」に関する文書でも、同じ主張が明記されている。さらに、「中国は、中東における核兵器およびその他の大量破壊兵器のない地帯の設立に向けた国際的な取り組みを支持してきた。

また、2024年5月、中国・アラブ諸国協力フォーラム第10回閣僚会議は北京宣言を発表し、核兵器およびその他の大量破壊兵器のない中東の実現に向けたあらゆる努力への支持を強調した。2024年9月、中国・アフリカ協力フォーラム北京サミットは、中国・アフリカ協力フォーラム北京行動計画(2025~2027年)を採択し、核兵器およびその他の大量破壊兵器のない中東の実現に向けた地域諸国の努力への継続的な支持を強調した。

今年2月28日に始まった米イスラエルによるイラン攻撃に対して、3月2日の中国のグローバル・タイムズ(「環球時報」の英文版)は<アメリカはいかにして数十年の間にイランの核開発計画の支援者から破壊者へと転じたのか?>という見出しで、専門家コメントを概ね以下のように報道している。

  • イランにとって核技術は生存に関わる問題であり、中東におけるイスラエルの核独占を打破するための重要な抑止的手段だ。
  • 一方、米国にとって核技術はイスラエルの核独占を維持する上で不可欠で、中東の他の反米国家が核技術を習得することを阻止することがその核心的な目的である。
  • しかしイランの核開発は、1957年に米国の支援によって始まったことを見逃してはならない。1950年代から1970年代にかけて、米国とイランは地政学的利益に基づく緊密な同盟関係を築き、「ハネムーン期」の核協力に入った。しかし、イランの政権交代と外交紛争により同盟は完全に崩壊し、その後の数十年にわたる核交渉における緊張の土台を築いた。
  • 1957年、冷戦の最盛期に、当時のアメリカ大統領アイゼンハワーの「平和のための原子力計画」のもと、米国とイランは原子力の民間利用に関する協力協定に署名した。1960年代から1970年代にかけて、アメリカの支援を受けてイランの原子力産業は急速に発展した。イランは1968年にNPTに署名した。アメリカは、イランの濃縮ウラン製造を支援したと、米国国務省歴史部は述べている。
  • 1979年、ホメイニ率いるイスラム革命が起きたためアメリカはイランとの外交関係を断絶し包括的な制裁を課した。両国は親しい同盟国から激しい敵対関係へと変わり、この変化がその後数十年にわたる対立の種をまく原因となった。すなわち、ワシントンの地政学的計算において、原子力技術の「善」か「悪」かが問題なのでなく、それを支配する政府とアメリカとの関係によって決定されるということだ。(グローバル・タイムズからの引用は以上)

これは中国にしてはかなり説得力のある解説で、日本はこの現実を見ようとしない。

5月11日、中国政府の通信社「新華網」は「トランプが5月13日から15日にかけて国賓として訪中する」と初めて公けにした。会談では関税問題やイラン問題が話し合われるだろうが、その何れにしてもトランプの立場は弱い。

習近平の狙いはただ一つ。

くり返し書いてきたように、台湾問題に関してトランプから譲歩を引き出すこと以外にない。

しかし5月11日、日本の共同通信は<米中首脳、イラン協議へ 2日間会談、台湾譲歩せず>と報道している。ここでは米財務長官ベッセント等の意向が大きく反映されている。トランプのこれまでの言動とは異なる。

さて、実際はどうなるのか、会談の結果が待たれる。

 

この論考はYahoo!ニュース エキスパートより転載しました。

1941年中国生まれ。中国革命戦を経験し1953年に日本帰国。「中国問題グローバル研究所」所長。筑波大学名誉教授、理学博士。内閣府総合科学技術会議専門委員(小泉政権時代)や中国社会科学院社会学研究所客員研究員・教授などを歴任。日本文藝家協会会員。著書に『台湾軍事機密文書が語る中国「抗日戦争」の真相』(4月17日出版予定)、『米中新産業WAR』(ビジネス社)(中国語版『2025 中国凭实力说“不”』)、『嗤(わら)う習近平の白い牙――イーロン・マスクともくろむ中国のパラダイム・チェンジ』(ビジネス社)、『習近平が狙う「米一極から多極化へ」 台湾有事を創り出すのはCIAだ!』(ビジネス社)、『習近平三期目の狙いと新チャイナ・セブン』(PHP新書)、『もうひとつのジェノサイド 長春の惨劇「チャーズ」』(実業之日本社)、『ウクライナ戦争における中国の対ロシア戦略 世界はどう変わるのか』(PHP)、『習近平 父を破滅させた鄧小平への復讐』(ビジネス社)、『ポストコロナの米中覇権とデジタル人民元』(遠藤 誉 (著), 白井 一成 (著), 中国問題グローバル研究所 (編集)、実業之日本社)、『米中貿易戦争の裏側 東アジアの地殻変動を読み解く』(毎日新聞出版)、『「中国製造2025」の衝撃 習近平はいま何を目論んでいるのか』、『毛沢東 日本軍と共謀した男』(中文版・韓国語版もあり)、『チャイナ・セブン <紅い皇帝>習近平』、『チャイナ・ナイン 中国を動かす9人の男たち』、『ネット大国中国 言論をめぐる攻防』、『中国動漫新人類 日本のアニメと漫画が中国を動かす』『中国がシリコンバレーとつながるとき』など多数。 // Born in 1941 in China. After surviving the Chinese Revolutionary War, she moved to Japan in 1953. Director of Global Research Institute on Chinese Issues, Professor Emeritus at the University of Tsukuba, Doctor of Science. Member of the Japan Writers Association. She has served as a specialist member of the Council for Science, Technology, and Innovation at the Cabinet Office (during the Koizumi administration) and as a visiting researcher and professor at the Institute of Sociology, Chinese Academy of Social Sciences. Her publications include “2025 China Restored the Power to Say 'NO!'”, “Inside US-China Trade War” (Mainichi Shimbun Publishing), “’Chugoku Seizo 2025’ no Shogeki, Shukinpei ha Ima Nani o Mokurondeirunoka (Impact of “Made in China 2025” What is Xi Jinping aiming at Now?), “Motakuto Nihongun to Kyoboshita Otoko (Mao Zedong: The Man Who Conspired with the Japanese Army),” “Japanese Girl at the Siege of Changchun (including Chinese versions),” “Net Taikoku Chugogu, Genron o Meguru Koubou (Net Superpower China: Battle over Speech),” “Chugoku Doman Shinjinrui: Nihon no Anime to Manga ga Chugoku o Ugokasu (The New Breed of Chinese “Dongman”: Japanese Cartoons and Comics Animate China),” “Chugogu ga Shirikonbare to Tsunagarutoki (When China Gets Connected with Silicon Valley),” and many other books.
台湾機密文書が語る中国「抗日戦争」の真相
『台湾機密文書が語る中国「抗日戦争」の真相』

遠藤誉著(新潮社)、4月17日出版予定
CHINA STORED THE POWER TO SAY NO!-U.S.-China New Industrial War
『CHINA STORED THE POWER TO SAY "NO!"-U.S.-China New Industrial War』

by Homare Endo(Bouden House)
Mao Zedong: The Man Who Conspired with the Japanese Army
『Mao Zedong: The Man Who Conspired with the Japanese Army』

by Homare Endo(Bouden House)
米中新産業WAR トランプは習近平に勝てるのか?
『米中新産業WAR トランプは習近平に勝てるのか?』

遠藤誉著(ビジネス社)
嗤(わら)う習近平の白い牙――イーロン・マスクともくろむ中国のパラダイム・チェンジ
嗤(わら)う習近平の白い牙――イーロン・マスクともくろむ中国のパラダイム・チェンジ

遠藤誉著(ビジネス社)
習近平が狙う「米一極から多極化へ」 台湾有事を創り出すのはCIAだ!
習近平が狙う「米一極から多極化へ」 台湾有事を創り出すのはCIAだ!

遠藤誉著(ビジネス社)
習近平三期目の狙いと新チャイナ・セブン
習近平三期目の狙いと新チャイナ・セブン

遠藤 誉 (著)、PHP新書
もうひとつのジェノサイド 長春の惨劇「チャーズ」
もうひとつのジェノサイド 長春の惨劇「チャーズ」

遠藤 誉 (著)、実業之日本社
ウクライナ戦争における中国の対ロシア戦略 世界はどう変わるのか
ウクライナ戦争における中国の対ロシア戦略 世界はどう変わるのか

遠藤 誉 (著)、PHP
ポストコロナの米中覇権とデジタル人民元
裏切りと陰謀の中国共産党建党100年秘史 習近平 父を破滅させた鄧小平への復讐

遠藤 誉 (著)、ビジネス社
ポストコロナの米中覇権とデジタル人民元
ポストコロナの米中覇権とデジタル人民元

遠藤 誉 (著), 白井 一成 (著), 中国問題グローバル研究所 (編集)
Japanese Girl at the Siege of Changchun: How I Survived China's Wartime Atrocity
Japanese Girl at the Siege of Changchun: How I Survived China's Wartime Atrocity

Homare Endo (著), Michael Brase (翻訳)
米中貿易戦争の裏側 東アジアの地殻変動を読み解く
米中貿易戦争の裏側 東アジアの地殻変動を読み解く

(遠藤誉著、毎日新聞出版)
「中国製造2025」の衝撃 習近平はいま何を目論んでいるのか 
「中国製造2025」の衝撃 習近平はいま何を目論んでいるのか 

(遠藤誉著、PHP研究所) 毛沢東 日本軍と共謀した男
『毛沢東 日本軍と共謀した男』

遠藤誉著(新潮新書)

カテゴリー

最近の投稿

RSS