
※この論考は9月20日の<From the LDP to the KMT: Leadership Contests of Two Century-Old Parties>の翻訳です。
ほぼ同時期に行われる2つの党首選
日本では自由民主党(自民党)の総裁選が再び行われ、台湾でも国民党の主席選挙が実施される。ともに長い歴史を誇り、それぞれの政治体制の道筋を確立してきた両党が今、まったく異なる岐路に立たされている。自民党は依然として政権与党の座にあるとはいえ、支持率が急落し、直近の衆・参院選で単独過半数を確保できなかった。一方、国民党は野党だが、立法院で多数派を占め、注目を集めたリコール投票を2回とも不成立に終わらせた。この2つの政党を比較することは興味深い。一方は政権維持に苦慮する与党であり、他方は野党でありながら、復活の兆しを見せている。
自民党の野党への転落危機と国民党の復活の兆し
日本にとって、自民党総裁選は単なる党内の人事刷新以上の意味を持ち、党の統治能力に対する民意を表すことが少なくない。1955年の結党以来、自民党は日本の「一党支配体制」を体現してきた。ところが昨今では、高齢化や成長停滞、安全保障上の脅威の深刻化など、構造的課題に悩まされている。党内部に目を転じると、派閥政治の復活で、総裁選は純粋にビジョンを競う場ではなく、ライバルの領袖同士が競り合う場と化している。連立パートナーの公明党(宗教団体である創価学会を母体とする中道の少数政党)抜きでは衆参両院で過半数を維持できず、支持率も過去最低水準に落ち込み、不安定な立場にあることは疑いようもない。そのため、今回の自民党総裁選は単に個人を選ぶのではなく、自民党が日本の未来の舵取り役としてふさわしい党かどうかが問われる選挙となる。
一方、国民党はまったく異なるジレンマに直面している。与党ではなく、立法院で多数派を占める野党としての課題は、政権をいかに維持するかではなく奪い返すかである。言い換えると、自民党の総裁選は持ちこたえるための守りの闘いであるのに対して、国民党の主席選は返り咲けるかどうかの攻めの試金石である。政権維持のために闘う与党と存在価値を再び示そうとする野党を対比することで、日本の読者にわかりやすい形で両方の党首選の意義を伝えられるだろう。
国民党の候補者と世代間ギャップ
国民党の党首選には6名が立候補している。前立法委員の鄭麗文氏、現立法委員の羅智強氏、彰化県元県長の卓伯源氏、元台北市長の郝龍斌氏、元国民大会代表の蔡志弘氏、孫文学校総校長の張亜中氏である。この中で実際に「ミドル世代」の候補者といえるのは鄭氏と羅氏だけである。それ以外の4名はいずれもベテラン政治家であり、そのキャリアはひと時代前に遡る。この顔ぶれは、国民党内で世代間の分断が長く続いていることを物語っている。派閥主義でありながらトップの入れ替わりが慣行化している自民党とは異なり、国民党は若い人材の育成に苦慮してきた。党首の候補者が、未来を描くというより前時代を思わせる顔ぶれなのは、そのためである。
国民党が直面する7つの課題
詳しく見ていく前に、課題を大きく2つのグループに分けるとわかりやすい。最初の5つはメディアで広く取り上げられ、有権者の関心も高いテーマで、国民的議論の的となっている。これに対して残りの2つは、議論にはさほど上っていないが、国民党が真に新しく生まれ変われるかどうかを左右する根深い構造的問題だと私は考えている。
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世代継承という課題
国民党は「高齢者の党」と表されることが少なくない。意思決定は相変わらず年配者が牛耳り、若い党員はメディア対応やオンライン動員など補助的役割しか担わせてもらえない。こうした構造的な不均衡により、40歳未満の有権者の目には国民党が魅力的に映らない。若者の参加を声高に呼びかけてはいるが、それを真の影響力に変えるメカニズムがほとんどない。新主席が、若者が声を上げられる仕組みを制度化しないかぎり、「世代交代」は実現せずスローガンのままで終わるだろう。
- 1992年合意の捉え方
「1992年合意」は長年にわたり国民党の中台関係の試金石となってきた。高齢の支持者にとっては対話と平和の象徴であるが、若い有権者や中道派の目には政治的な負担と映り、「中国政府への譲歩」を暗に示す言葉になってきた。中国政府側は曖昧さを残さず、1992年合意は「1つの中国」という原則を受け入れたことを意味すると公然と断言している。中国のこうした強固な姿勢により、国民党が台湾内でこの概念を普及させることを一段と難しくしている。
そのため、この合意に対する主体性を取り戻すことが不可欠である。民主主義と安全保障に合致した形でこの合意を再解釈しなければ、国民党の支持者の流出が続くだろう。次期主席はこの合意を更新するか、破棄するか、擁護するかを決めなければならないが、どれを選択したとしても大きな犠牲を払うことになる。
- 2028年総統選に向けたつなぎ役
今後について言えば、党内では多くが盧秀燕台中市長を2028年総統選挙の国民党候補として最有力視している。そうなると、新主席はリーダーというよりつなぎの役割を果たし、派閥の取りまとめや内紛の抑制、盧氏の立候補に向けた地固めを担うことになる。つまり、個人的な野心ではなく、調整役としての役割が求められる。この責務に対応できなければ、党内分裂で総統選出馬をめぐり混乱が生じた2024年の二の舞になりかねない。
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藍白合作の可能性と危険性
国民党(藍)と台湾民衆党(白)の連携(藍白合作)協議が不可欠である。過半数の議席確保を考えると連携は魅力的だが、両者の間には根深い不信感がある。国民党は少数党である相手が足かせになることを心配し、民衆党は最大野党である相手に吸収されてしまうことを恐れている。価値観や長期的な戦略を共有できなければ、いかなる連携もご都合主義と思われかねない。そのうえ、連携が破綻すれば、2つの野党陣営の票が簡単に割れ、民主進歩党(民進党)が漁夫の利を得る可能性がある。主席には今後、現実主義と原則の間で微妙なバランスを取ることが求められる。
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財務・組織面の制約
国民党は資産凍結により資金難に陥っている。資金集めで民進党に大きく後れを取り、草の根レベルでの活力も損なわれてきた。資金不足が政策刷新の減速と若手政治家育成への投資の抑制を招いている。国民党が地元の派閥や従来の後援ネットワークへの依存を強めれば強めるほど、21世紀の台湾統治を担う現代的な政党というイメージを打ち出すことが難しくなる。この資金調達に伴うジレンマを解決できなければ、誰が主席になったとしても、一度に限らずその後も続く選挙サイクルで勢いを持続するには苦労するだろう。
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党文化にちらつく「権威主義の影」
こうしたおなじみの議論以外にも、日々のニュースではほとんど取り上げられない深刻な課題がある。国民党の組織文化に根強く残る権威主義的姿勢だ。見落とされがちだが最大の障壁と言えるのは、国民党の組織文化だろう。台湾の権威主義時代は何十年も前に終わったが、そのトップダウン型の意思決定モデルの名残が党に色濃く残っている。権力が幹部に集中する一方、一般党員に発言権はほとんどない。入党した若手政治家は、何世代にもわたり繰り返され定着してきた序列制度にしばしば道を阻まれる。
これとは対照的に、民進党は派閥争いがあるとはいえ、伝統的に市民団体や社会運動、若者のアクティビズムから活力を引き出してきた。それでもやはり亀裂が生じつつある。かつては強固な民進党の牙城だった高雄などで起きた最近のスキャンダルは、地方官僚や派閥、建設廃棄物の不法投棄との間の癒着疑惑を伴っており、民進党も根深い縁故主義の腐敗的影響から逃れられないことを示唆している。いずれの政党も、序列制度と派閥主義のレガシーにそれぞれの形で苦しめられ続けている。
国民党にとって、この「権威主義の影」は刷新の足かせとなるだけでなく、依存と服従という心理を育み、党の適応能力を制限している。国民党が新人を前面に打ち出したとしても、基本的な構造は変わらない。こうした文化的慣性に対処しなければ、主席の交代は真の刷新ではなく、単なるうわべだけの対応になりかねない。さらに視点を広げると、これは、社会が変化し続ける中で信頼性を維持するには、国民党だけでなく台湾の政党政治全体の構造刷新が必要なことを示している。
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国際的位置付けの曖昧さ
これまであまり検証されてこなかった国民党のもう1つの弱点は、その国際的な立場である。これはメディアで取り上げられないことが多いが、インド太平洋地域における台湾の戦略的選択において極めて重要である。米中対立が深刻化し、インド太平洋戦略がこの地域に変化をもたらす中、国際社会で台湾の果たす役割がかつてないほど注視されている。民進党は親米反中の姿勢を一貫して示し、民衆党は中道という現実路線を取ってきた。一方、国民党は「平和的な中台関係」を強調し続けるだけで、幅広い外交政策の枠組みを示していない。
こうした曖昧さは、3つのリスクをもたらす。国内的には中国を警戒する若い有権者を遠ざけ、国際的には日本や米国などパートナーの信頼を損ねる。これらパートナーは、国民党政権が安全保障上の約束を守るのか確信を持てずにいる。また地域的には、東南アジア諸国がヘッジ戦略の策定を積極的に進めている中で、インド太平洋地域の幅広い協議に台湾が参加できないまま取り残される。
説得力のある国際的ビジョンがなければ、国民党は対中政策をめぐって国内の議論に終始し、複雑な国際秩序の中での統治能力に疑いを持たれかねない。一方、民進党は問題点があるとはいえ、インド太平洋地域における台湾の位置付けを明確に示してきた。これに対して国民党の曖昧さと民衆党の沈黙は、いずれも野党政治に危険な空白領域があることを露呈している。特に、国民党は台日関係の明確なビジョンを示しておらず、最も重要なパートナーシップの1つを曖昧なまま放置している。
結論:国民党は自らの運命を書き換えることができるのか?
国民党の主席選挙は単なる政党トップを決める闘いではない。党が組織を近代化し、メッセージを刷新し、社会と再びつながることができるかどうかの試金石となる。メディアは世代間の隔たりや1992年合意、藍白合作、資金難などおなじみのテーマにスポットを当てることが多いが、より根深い問題は、同党の文化に残る権威主義的姿勢や国際的な立場の曖昧さである。
新主席がこうした制約を打ち破ることができなければ、国民党は前時代的で不満がくすぶる状態から抜け出せないままとなる可能性が高い。だが構造的な弱点に正面から向き合い、真の改革を受け入れ、国際社会における台湾の立場について確かなビジョンを明確に示せば、復活を現実のものとできるかもしれない。国民党は今、過去のしがらみから逃れられない野党になるか、未来を見据えた与党になるかの岐路に立たされている。

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