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日本はなぜトランプ圧勝の予測を誤ったのか? 日本を誤導する者の正体
11月6日、勝利宣言をするドナルド・トランプ前大統領(写真:ロイター/アフロ)
11月6日、勝利宣言をするドナルド・トランプ前大統領(写真:ロイター/アフロ)

日本のメディアや米国問題研究者の多くは、「ハリスに有利」という米メディアの支持率ばかりを見て、「トランプ圧勝」の予測をする人は、(個別的例外を除けば)ほぼいなかった。

 なぜ日本メディアは「ハリス旋風」に目を奪われ、客観的な予測ができなかったのか。

 米メディアのほとんどは民主党寄りであるという決定的な欠陥があることに、多くの日本人が気が付いていないからだ。トランプ前大統領が第一次トランプ政権「トランプ1.0」で盛んに「フェイクニュース」と言っていたのは正しく、民主党傘下にある米メディアは「民主党に有利なこと」しか報道しない。

 中国のネットではオバマ政権が誕生する2012年辺りから、米メディアの偏向に関する考察が目立ち始めていた。主として民主党に根を張るネオコンの傘下で「第二のCIA」と呼ばれるNED(全米民主主義基金)が暗躍し、香港デモをけしかけたり、台湾独立を煽ったりしているからだろう。

 11月10日のコラム<トランプ2.0 イーロン・マスクが対中高関税の緩衝材になるか>でも触れたが、トランプはNEDが嫌いだと明言しており、トランプを支えるイーロン・マスクは「戦争屋ネオコンに反対だ」とXに投稿している。

 「西側諸国の価値観=米民主党の価値観」は「NEDがもたらす偏向情報の世界こそが世界」という根本的に誤った精神を日本に根付かせ、中国問題に関しても「日本人のための、日本人だけが喜ぶ、非現実的中国論」をはびこらせているのと全く根っこは同じだ。

 トランプ圧勝という現実は、その事実を日本に突き付けていることに、気が付いてほしい。

◆中国メディアが2012年から報道し続ける米メディアの偏向度

 中国の民間メディアが米メディアの偏向度を分析したのは、オバマ政権誕生前の2012年10月4日のことだ。<知っておくべき米メディアの“左”と“右”>という見出しで、AllSides(オールサイド)が分析した米メディア偏向図を掲載している。

 AllSidesというのは、これもまた2012年9月に一般公開されたアメリカの会社で、主としてオンラインの報道機関で書かれたコンテンツの政治的偏見をデータ化して推定する業務を行っているので、中国はAllSidesのデータ公開と同時に、その情報を伝えているということになる。それくらい、米メディアの偏向度に強い関心を持っているということにもなろう。

 その後、中国のネットでは数多くAllSidesの更新データを引用した報道が見られるようになった。いくつかの例を挙げると、たとえば以下のようなものがある。

 ●2016年7月7日の<美国媒体的政治倾向(米メディアの政治傾向)>

 ●2019年1月18日の<【分析】一张图看懂 美国各大主流媒体的立场是什么?(一枚の図表で分かる 米国各大手メディの立ち位置)>

 ●2019年11月20日の<美大众媒体仅受四成人信赖,它们为何失去了公信力?(米国のマスメディアは40%の信頼しか得ていない なぜ米メディアは信頼を失ったのか)>

 ●2022年8月24日の<分歧与偏见:美国当下媒体环境以及中国企业应对之策(意見の相違と偏見: 米国のメディア環境の現状と、中国企業の対処すべき策)>

 ●2022年10月5日の<美国主流媒体各有什么特点?(米国主流メディアのそれぞれの特徴> 

 枚挙に暇がないが、これらの考察が共通して掲載しているのが、AllSides Media Bias Chart(オールサイド メディア・バイアス・チャート)にある米メディア偏向図と、途中からは2018年に設立された同じ目的のAd Fontes Mediaが作成したMedia Bias Chartだ。後者の図に関しては、2019年1月から中国のネットで急に増えている。これも2018年にAd Fontes Mediaがデータ公開した途端に、中国メディアがすぐさま反応したというスピードだ。中国がどれだけ「米メディア偏向度」に強い関心を持っているかの、何よりの証拠だと言えるだろう。

 AllSidesが作成した最新の偏向図は2024年作成のVersion 10.0で、これは出典を示せば掲載することが許されるが、Ad Fontes Mediaが作成した最新の偏向図は「ソーシャルメディアのみ使っていい」と書いてあるので古い方の2018年のVersion4.0しか使えない。中国で転載しているのも、Ad Fontes Mediaに関しては古い方のVersion4.0だ。

 そこでまずAllSidesが作成した米メディアの偏向図を図表1に示す。

図表1:AllSidesが作成した米メディアの偏向図(2024年版)

 

出典:AllSides

出典:AllSides

 

 一番右側にある濃い赤の「R」が一番右寄りで、大手メディアで民主党の息がかかっていないのはFOXぐらいである。ほぼ唯一の共和党支持と言っていい。

 その左側にある薄い赤の「R」がやや右寄りなのだが、民主党の息がまったくかかってないわけではない。その中には大手として、THE WALL STREET JOURNAL (opinion)があるくらいだ。

 真ん中にある「C」は中立だが、それでもやや民主党色がややかかっていて、「BBC NEWS、CNBC、Fores、Newsweek、REUTERS、The Wall STREET JOURNAL (news)」などがある。Newsweekは2020年版では左端の極左に分類されていたが、2024年版ではやや中立になったようだ。

 薄いブルーの「L」は左寄りで、まさに民主党のカラーが真っ青にかかっていると言っても過言ではない。日本でおなじみの「abc NEWS、AP、Bloomberg、CBS NEWS、CNN、NBC NEWS、The New York Times(news)、POLITICO、TIME、The Washington Post、YAHOO!NEWS・・・」と花盛りだ。

 日本はこの、「民主党系のメディア」しか見ていない。

 したがって当然のことながら、「民主党に有利な情報」=「ハリス候補が優勢だという(偽の?)情報」を、「これこそが正しい米メディアの情報」=「これこそがアメリカの実情」と勘違いして「ハリスが有利だ!」と叫び、「ハリスは化けたのです!」とテレビで解説するという「権威あるとされている学者」やメディアで埋まっていったのだろう。

 最後に、左端にある濃い「L」は極左になってしまうのだが、2024年版大手ではMSNBCやThe New York Times(opinion)などが残ってる。2020年版ではCNN (opinion)やNewsweekなどが左端に分類されていたので、メディアの経営者が方針を変えたものと判断される。これは後半で考察するギャラップ社の調査で証明される。

 図表2に示すのは2018年にAd Fontes Mediaが作成した米メディアの偏向図だ。年々変化するので、ご参考までに示す。

図表2:Ad Fontes Mediaが作成した米メディアの偏向図(2018年版)

 

出典:Ad Fontes Medi

出典:Ad Fontes Media

 

 また中国では2012年10月8日の時点で<美国媒体“左”和“右”(米メディア “左”と“右”)>が公開されているが、実はこれはなんと、中央テレビ局CCTVのネット版CNTVが掲載した画像を転載したものであることがわかった。その画像を図表3として以下に示す。

図表3:CNTVが掲載した米メディア偏向図(2012年)

 

出典:CCTVのネット版CNTV

出典:CCTVのネット版CNTV

 

 もっとも、図表3の右側にあるThe Washington Times(ワシントン・タイムズ)は、旧統一教会系の日刊紙なので、これを主要メディアの中に入れるのは、いかがなものかとは思う。図表3にある「报纸」は「新聞」のことで「电视台」は「テレビ局」の意味である。

 ここまでで結論的に言えるのは、CCTVまでが報道するほど、中国は早くから、この「米メディア偏向度」に注目していたということだ。

◆アメリカ人の約70%がマスメディアを信用していない ギャラップ社

 今年10月14日、ギャラップ社は<Americans’ Trust in Media Remains at Trend Low(アメリカ人のメディアに対する信頼は低い傾向に留まる)>と題して、図表4にあるような衝撃的な調査結果を発表した。図表4はギャラップ社が描いたグラフを筆者が和訳して手を加えたものである。

図表4:アメリカ人のマスメディアに対する信頼度

 

ギャラップ社のデータを筆者が和訳して編集

ギャラップ社のデータを筆者が和訳して編集

 

 図表4からお分かりいただけるように、「非常に信頼:31%」、「あまり信頼しない:33%」、「全く信頼しない:36%」と、【「あまり信頼しない」+「全く信頼しない」】は69%で、「アメリカ人の約70%がマスメディアを信頼していない」のである。

 だからこそ、図表1の2024年版と2020版は違い、少なからぬ「濃い青のL」にあったメディアが「薄い青のL」に移動したと解釈すべきだろう。

 大雑把に言えば、FOX以外のメディアの経営者は、ほぼ「民主党支持者」あるいは「民主党員」である。アメリカの大手メディ会社を経営しているのは、たとえば、

 ●NBCはComcast (CEOは民主党派でオバマ元大統領のゴルフ仲間)

 ●CBSはパラマウント(CEOはバイデンの選挙を支持した民主党派)

 ●abcはDisney(民主党の代表的な大手出資者)

 ●CNNはワーナー・ブラザース(民主党に寄付する大手)

などとなっており、前述したように、日本はこれら民主党が支配するメディアの情報しか見ていない。「FOXニュースによれば」という、共和党寄りのメディアのニュースは基本的に報じない。トランプがFOXテレビで何かを喋った特別の映像くらいだ。

 それは日本もまた、ネオコンが支配するNEDの精神性の中で生きているからであり、トランプのように「労働者、農民、製造業のブルーカラー」たちの声を拾うことをしていないからだ。(トランプの精神性のどこかには、共産主義精神と通じるものがあり、ネオコンの精神性は共産主義輸出を主張してアメリカに亡命したソ連のトロツキーの思想があるのは非常に興味深い。これらに関しては、機会があれば別途論じる。)

 一方、民主党の支持層には知識人、メディア、ハリウッド、金融業など、エリート層が多いため、資金は集められるが、底辺層の心は集められず、トランプが言うところの「民主党に有利なフェイク」を流す傾向にある。日本はこれこそが真実であり、平和をもたらす情報だと信じている。

 11月6日、2億人ものフォロワーを持つイーロン・マスクは「今やあなたたちがメディアだ」とXに投稿し、以下のように述べている(要約)。

 ――この選挙の現実はXで明らかだったが、ほとんどの旧来のメディアは容赦なく国民に嘘をついた。今やあなた方がメディアだ。あなたの考えや意見をXに投稿すれば、真実を見つけられる場所が世界に少なくとも 1 つできる。旧来のメディアは死んだ。市民ジャーナリズム万歳!(要約は以上)

 イーロン・マスク万歳!と叫びたい。

 彼の精神性とトランプの精神性が一つになった今般の「トランプ圧勝」現象は、日本のジャーナリズムの精神性に痛烈な一撃を与えたはずだ。

 この勝利は、日本のメディアが創り上げる「日本人にのみ通じる、日本人のための中国論」が、「いかに偽物であるか」の強烈な証左となっていると筆者には見える。どうか、一人でも多くの日本人が、戦争屋ネオコンがNEDに拡散させる情報がいかに虚偽であるかに気付いてほしいと切望せずにはおられない。

 なぜなら、それは日本を戦争に導くからだ。

 この論考はYahoo!ニュース エキスパートより転載しました。

1941年中国生まれ。中国革命戦を経験し1953年に日本帰国。「中国問題グローバル研究所」所長。筑波大学名誉教授、理学博士。中国社会科学院社会学研究所客員研究員・教授などを歴任。日本文藝家協会会員。著書に『習近平が狙う「米一極から多極化へ」 台湾有事を創り出すのはCIAだ!』(ビジネス社)、『習近平三期目の狙いと新チャイナ・セブン』(PHP新書)、『もうひとつのジェノサイド 長春の惨劇「チャーズ」』(実業之日本社)、『ウクライナ戦争における中国の対ロシア戦略 世界はどう変わるのか』(PHP)、『裏切りと陰謀の中国共産党建党100年秘史 習近平 父を破滅させた鄧小平への復讐』(ビジネス社)、『ポストコロナの米中覇権とデジタル人民元』(遠藤 誉 (著), 白井 一成 (著), 中国問題グローバル研究所 (編集)、実業之日本社)、『米中貿易戦争の裏側 東アジアの地殻変動を読み解く』(毎日新聞出版)、『「中国製造2025」の衝撃 習近平はいま何を目論んでいるのか』、『毛沢東 日本軍と共謀した男』(中文版・韓国語版もあり)、『チャイナ・セブン <紅い皇帝>習近平』、『チャイナ・ナイン 中国を動かす9人の男たち』、『ネット大国中国 言論をめぐる攻防』、『中国動漫新人類 日本のアニメと漫画が中国を動かす』『中国がシリコンバレーとつながるとき』など多数。2024年6月初旬に『嗤(わら)う習近平の白い牙』(ビジネス社)を出版予定。 // Born in 1941 in China. After surviving the Chinese Revolutionary War, she moved to Japan in 1953. Director of Global Research Institute on Chinese Issues, Professor Emeritus at the University of Tsukuba, Doctor of Science. Member of the Japan Writers Association. She successively fulfilled the posts of guest researcher and professor at the Institute of Sociology, Chinese Academy of Social Sciences. Her publications include “Inside US-China Trade War” (Mainichi Shimbun Publishing), “’Chugoku Seizo 2025’ no Shogeki, Shukinpei ha Ima Nani o Mokurondeirunoka (Impact of “Made in China 2025” What is Xi Jinping aiming at Now?), “Motakuto Nihongun to Kyoboshita Otoko (Mao Zedong: The Man Who Conspired with the Japanese Army),” “Japanese Girl at the Siege of Changchun (including Chinese versions),” “Net Taikoku Chugogu, Genron o Meguru Koubou (Net Superpower China: Battle over Speech),” “Chugoku Doman Shinjinrui: Nihon no Anime to Manga ga Chugoku o Ugokasu (The New Breed of Chinese “Dongman”: Japanese Cartoons and Comics Animate China),” “Chugogu ga Shirikonbare to Tsunagarutoki (When China Gets Connected with Silicon Valley),” and many other books.

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