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習近平はなぜ「反日教育」強化を選んでしまったのか? その結果が突き付ける現実を直視すべき
出典:捜狐網、重慶発
出典:捜狐網、重慶発

習近平が中共中央総書記になった2012年11月、その寸前まで何があったか、覚えておられる方は多いだろう。破壊の限りを尽くして激しく暴れまくった反日デモは、中国共産党大会開催が困難かと思われるほど9月になっても収まらなかった。

一方で、その頃はまだ、「日本アニメ大好きな中国動漫新人類」がその気持ちのまま日本に憧れ、「中国共産党を精神の軸にすること」からは遥か離れた遠いところにいた。

加えて、2010年に中国のGDPが日本を追い抜くあたりから、NED(全米民主主義基金)の中国大陸における潜伏活動が激しくなり、香港を中心にして何とか中国政府転覆を謀ろうと活動を活発化させていた。

これらすべての問題を解決させ、中国共産党の一党支配体制を維持するには、習近平としては「共産党」とともに「反日」を精神の軸にして若者を引き付けておくしかなかったにちがいない。本稿では習近平が「反日教育」に舵を切らざるを得なかったプロセスと、それが招くこんにちの反日感情の現状の一端をご紹介したい。

◆2012年に燃え盛った反日暴動

2012年8月15日に、尖閣諸島に上陸した中国本土・香港・マカオの有志から成る保釣(釣魚島=尖閣諸島を守る)行動委員会の活動家らが逮捕され強制送還されたことをきっかけに反日デモが中国全土で展開された。9月10日に日本政府が尖閣諸島を民間から買い上げ国有化することを閣議決定すると、デモはいっそう激しく燃え上がった。日本製品不買運動を叫び、「小日本(日本の蔑称)を皆殺しにせよ!」、「日本など全滅させろ!」などと口々に叫んだりしながら日本企業を襲撃し破壊し放火した。

柳条湖事件である「九一八」すなわち9月18日を迎えるころにはデモの規模は日中国交正常化以来、最大となり、このままでは(第18回)党大会を開催することができないのではないかと中共中央を慌てさせた。

特に第18回党大会は習近平が総書記に選ばれることがほぼ決まっており、党大会が「反日暴動」で開催できなくなるなどということは中国建国以来あったことがない。旧ソ連の崩壊を彷彿とさせ、胡錦涛政権は強引にデモ主導者を逮捕し党大会開催へと持って行った。

◆習近平政権が「反日」と「ハイテク化」に舵を切ったわけ

このような状況で誕生した習近平政権だったので、11月に開催された第18回党大会で総書記になった習近平は、まず二つのことを実施した。

一つ目は若者の「反日感情」に迎合した政策で、「自分は反日だ」ということを若者に知らせるために、立て続けに2013年に「9月3日を抗日戦争勝利記念日」に、「12月13日を南京大虐殺受難者哀悼記念日」とすると決定し、2014年8月31日には「9月30日を(革命)烈士記念日」にすると決定した。そして「中国共産党こそが抗日戦争を戦った中心の柱だ」というスローガンを打ち出していったのである。

二つ目は2015年にハイテク国家戦略「中国製造2025」を発布したことだ(詳細は拙著『「中国製造2025」の衝撃 習近平はいま何を目論んでいるのか?』)。

なぜなら2012年の反日デモは最終的には中国政府に向かってきたのだが、その理由が「デモを呼び掛けているスマホやパソコンのパーツがほとんど全て日本製だったから」だ。日本製品ボイコットをしているのに、自分たちは日本のパーツで出来上がっているスマホやパソコンを使ってデモ集合のための連絡を取りあっていたのかと、「中華民族の屈辱」を思い切り突き付けられ、デモ隊の怒りはそのようなことを自分たちに強いた中国政府に向かっていったからだ。

「中国製造2025」から約10年の年月が経つ現在、中国はいま宇宙、太陽光、EVあるいは民間用ドローン、はたまたクリーンエネルギーによる造船に至るまで、新産業において世界のトップに立つところまで成長している。

「中国経済低迷のために、そのはけ口として日本人学校の児童を殺傷した」という論説を筆者が肯定しない理由の一つは、このためである。

日本は中国が不動産産業などからハイテク国家戦略へとパラダイム・チェンジしている事実を見ようとしない(拙著『嗤う習近平の白い牙 イーロン・マスクともくろむ中国のパラダイム・チェンジ』参照)。筆者は、中国経済が崩壊しているといった「夢」を日本人に抱かせることによって、日本の技術も経済も中国に後れを取っていく現状を見たくない。事実を無視することは日本国民の利益を損なうだけであることに気付いてほしいので、日本国民のために主張している。

◆中国動漫新人類の誕生は中国政府にとっては危険

拙著『中国動漫新人類 日本のアニメと漫画が中国を動かす』に書いたように、1980年以降に物心がついた中国人の99%は日本のアニメと漫画(動漫)を見て育った。全土にいきわたるために無限に海賊版が出回った。コスプレや動漫クラブは、中国のどの大学や専科学校などにもあり、コスプレ大会も開いて、まさに日本の動漫が中国全土を席巻していた。中国政府から見れば「精神まで毒されていた」。

そのため中国政府は中国国産の動漫制作に力を注ぎ、ゲームや抗日戦争映画や抗日戦争ドラマなどの制作に対して許可基準を緩くしていった。

これがこんにちの「反日感情」を増幅させる役割の一つを果たしている。もう何度も書いてきたが、ネット時代に入って「激しい抗日もの」の動画を配信すればアクセス数が増えて、奇想天外な抗日ストーリーが出来上がり、かえって本当に戦った人々や犠牲になった人々に屈辱を与えるという逆現象さえ起きている。

それでも「日本を侮辱した者」は英雄視されるので、自己アピールのために靖国神社に落書きしたり放尿したり、中にはネット民の恨みの対象となっている日本人学校関係者を殺傷しようと思う者まで出てくるという現象を招いている。

その事実を書いた筆者の昨日のコラムに関して少なからぬ人が反感を抱き、対中嫌悪を煽っていると憤っておられるが、その方たちは中国の実態をご存じないのかもしれない。

深圳の日本人学校の児童が殺傷された事件が起きたあと、「日本人を皆殺しにせよ!」と書いている地方政府幹部クラスの人物のSNSをご紹介しよう。

◆四川省の幹部がSNSで「われわれの規律は、まさに日本人を殺すこと」

9月23日、香港鳳凰網(フェニックス)傘下のニュースサイト「风快讯」は、四川省新竜県の黄如一副県長がSNS上で「われわれの規律は、まさに日本人を殺すこと」と書いたと報道した。そこには「(日本人の)子供を殺したのが、なんだって言うんだ?大したことじゃない」とも書かれている。

信じられない方のために、そのスクリーンショットを下に示す。

図表1:子供一人を殺したって大したことはない

出典:黄如一副県長のSNS

出典:黄如一副県長のSNS


図表2:「無辜の民を殺してない、殺したのは小日本の子供」

「われわれの規律は日本人を殺すこと」

出典:黄如一副県長のSNS

出典:黄如一副県長のSNS


図表2の一行目に書いてあるのは「われわれは無辜(むこ)の民を殺したのではない。殺したのは小日本(軽蔑すべき日本人)だ」という意味である。すなわち、「日本人なら無辜(罪のない一般人)ではないので、殺してもいい」ということを意味している。そして最後の行に「われわれの規律は、まさに、日本人を殺すことだ」と書いているのである。

四川省幹部の黄如一はごく普通の表情をした人物だ。異常ではない。この現実を読者の皆様の胸に刻み込んでいただくために彼の顔写真とプロフィールを以下に示す。

図表3:黄如一の顔写真とプロフィール

出典:フェニックス

出典:フェニックス


1983年生まれの漢民族。10歳のころから激しい反日教育の洗礼を受けている。四川大学を卒業して四川省農村エネルギー発展センターの副主任も務めている。決して中国経済が不振なので、不満を抱いて、その不満の矛先を日本に向けようとしているような立場の人間ではない。

ごく普通の地方幹部だ。収入は悪くないはずだ。それでも、このような「日本人を殺すのは罪ではない」という思想を持っているという現実を私たち日本人は直視する勇気を持たなければならない。

これが中国の現実だ。

◆四川の火鍋店に「日本人と親日文化者は立ち入り禁止」の看板

こういった「現実」は何千何万とあり、枚挙にいとまがないが、もう一つの例をご紹介しよう。

深圳での事件が起きる4ヵ月ほど前の今年5月28日に、四川の普通の火鍋店に「日本人と親日文化者は立ち入り禁止」という大きな看板があるということが報道された 

これも信じない方のために画像でお示しする。

図表4:火鍋店に「日本人と親日文化者は立ち入り禁止」の看板

出典:捜狐網、重慶発

出典:捜狐網、重慶発


図表4に赤文字で書いてある「日本人と親日文化者は立ち入り禁止」の中の「親日文化者」の「文化」は、ここでは「精神」に近い意味で、「中国動漫新人類」のように日本のアニメや漫画に魅了された「日本大好き人間」を指している。日本兵のコスプレをする若者(精神的日本人=精日)もその中に入る。いわゆる媚日派もその対象となる。

黒文字で書いてある「われわれは先輩たちに代わって(日本人を)許す資格を持っていない 歴史を忘れるな 革命烈士の先輩たちに敬礼」の意味は深刻だ。日中戦争のとき重慶は数年にわたって日本軍によって絨毯爆撃をされているので、その恨みは子々孫々にまで伝わっていくことだろう。これは消えない。

したがって、「反日教育」を強化すれば、このようなことが激しくいたるところで起きるのが中国の実態なのである。

見たくない現実だというのは理解できるが、日本がこの現実を直視しなければ日本国民の犠牲者は増えるばかりだ。日本国民を真に守るためには現実を認識することが第一歩である。自民党総裁候補者たちが「遺憾」や「毅然と」などと言っても、中国の現状を知らなければ具体的な日本の政策は打てないはずだ。その自民党議員たちに筆者としては意見を言っているつもりである。

安易に「反中だ」とか「親中だ」とかいったレッテル貼りをする前に真実を直視する勇気を持っていただきたいと願う。それ以外に日本国民を守る方法はないのだから。

この論考はYahoo!ニュース エキスパートより転載しました。

1941年中国生まれ。中国革命戦を経験し1953年に日本帰国。「中国問題グローバル研究所」所長。筑波大学名誉教授、理学博士。中国社会科学院社会学研究所客員研究員・教授などを歴任。日本文藝家協会会員。著書に『習近平が狙う「米一極から多極化へ」 台湾有事を創り出すのはCIAだ!』(ビジネス社)、『習近平三期目の狙いと新チャイナ・セブン』(PHP新書)、『もうひとつのジェノサイド 長春の惨劇「チャーズ」』(実業之日本社)、『ウクライナ戦争における中国の対ロシア戦略 世界はどう変わるのか』(PHP)、『裏切りと陰謀の中国共産党建党100年秘史 習近平 父を破滅させた鄧小平への復讐』(ビジネス社)、『ポストコロナの米中覇権とデジタル人民元』(遠藤 誉 (著), 白井 一成 (著), 中国問題グローバル研究所 (編集)、実業之日本社)、『米中貿易戦争の裏側 東アジアの地殻変動を読み解く』(毎日新聞出版)、『「中国製造2025」の衝撃 習近平はいま何を目論んでいるのか』、『毛沢東 日本軍と共謀した男』(中文版・韓国語版もあり)、『チャイナ・セブン <紅い皇帝>習近平』、『チャイナ・ナイン 中国を動かす9人の男たち』、『ネット大国中国 言論をめぐる攻防』、『中国動漫新人類 日本のアニメと漫画が中国を動かす』『中国がシリコンバレーとつながるとき』など多数。2024年6月初旬に『嗤(わら)う習近平の白い牙』(ビジネス社)を出版予定。 // Born in 1941 in China. After surviving the Chinese Revolutionary War, she moved to Japan in 1953. Director of Global Research Institute on Chinese Issues, Professor Emeritus at the University of Tsukuba, Doctor of Science. Member of the Japan Writers Association. She successively fulfilled the posts of guest researcher and professor at the Institute of Sociology, Chinese Academy of Social Sciences. Her publications include “Inside US-China Trade War” (Mainichi Shimbun Publishing), “’Chugoku Seizo 2025’ no Shogeki, Shukinpei ha Ima Nani o Mokurondeirunoka (Impact of “Made in China 2025” What is Xi Jinping aiming at Now?), “Motakuto Nihongun to Kyoboshita Otoko (Mao Zedong: The Man Who Conspired with the Japanese Army),” “Japanese Girl at the Siege of Changchun (including Chinese versions),” “Net Taikoku Chugogu, Genron o Meguru Koubou (Net Superpower China: Battle over Speech),” “Chugoku Doman Shinjinrui: Nihon no Anime to Manga ga Chugoku o Ugokasu (The New Breed of Chinese “Dongman”: Japanese Cartoons and Comics Animate China),” “Chugogu ga Shirikonbare to Tsunagarutoki (When China Gets Connected with Silicon Valley),” and many other books.

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