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台湾有事に関するバイデン&トランプの発言と中国大陸&台湾の反応
6月4日発売の米「タイム」誌のカバー
6月4日発売の米「タイム」誌のカバー

6月4日発売の米「タイム」誌の取材でバイデン大統領は「中国がもし台湾を武力攻撃したら米軍が防衛する」と答えた。「防衛する」と言ったのは、これで5回目だ。トランプ前大統領の方は、同様の質問に対して基本的に「ノーコメント」を貫いている。

このことに対する中国大陸と台湾の反応を考察する。

◆「タイム」誌でのバイデンの回答

6月4日発売の米国の「タイム」誌で、バイデンは記者の質問に以下のように回答している。Q(記者)A(バイデン)で概要を示す。

Q:あなたは何度も米軍を使って台湾を防衛するとおっしゃいました。それはどういう意味ですか?地上部隊ですか?どのような形になるのでしょうか?

A:状況次第です。ちなみに、私は習近平に「われわれは台湾の独立を求めていない。しかし、中国が一方的に台湾の地位を変えようとしたら、台湾を防衛しないわけではない」と明確に言っています。そのため、私たちは引き続き(台湾に)能力を供給しています(武器を売り続けている?)。

Q:侵攻があった場合に、米軍を台湾に派遣する可能性は排除しないということですか?

A:米軍の軍事力を使う可能性は排除しません。もっとも、地上での展開、空軍力、海軍力などに関しては違いがありますが。

Q:ということは、フィリピンか日本の基地から攻撃することになるのでしょうか?

A:そのことについては触れません。もし話したら、あなたはもっともな理由で私を批判するでしょうから。

◆「台湾有事」に関するバイデンのこれまでの発言

これまでにもバイデンは「台湾有事の際は米国は台湾を防衛する」という趣旨のことを4回も表明しており、今般の「タイム」誌出の発言は5回目となる。ではこれまでは、いつ、どのような発言をして来たのか、ざっとおさらいをしてみよう。

1回目:2021年8月

8月19日にABCニュースが放映したインタビューで、テレビ局側はバイデンに「アフガニスタンからの混沌とした米軍撤退の情況を見て、中国は台湾に関して『これは何かあっても、ワシントンが台湾を防衛しに来るとは限らないことの証しだ。それを頼りにするな』と言っているが、あなたはどう思いますか?」と尋ねた。

するとバイデンは「われわれはこれまで、あらゆる約束を守ってきた。もし誰かが、NATO同盟国を侵略したり、何らかの行動を起こしたりした場合は、われわれは直ちに神聖なるNATO第五条に基づき決然と対応する。日本も同じ、韓国も同じ、台湾も同じだ。それ(台湾)に関しては話にならないほど比べ物にならない(重要だ=必ず防衛する!)」と回答した。

バイデンの前でその話を聞いていた政府関係者は慌てて(5分も経たずに)、火消しに追われた。

2回目:2021年10月

10月21日、バイデンはCNNのタウンホールで、「中国政府から中国の主権を受け入れるよう軍事的・政治的圧力が高まっていると不満を漏らしている台湾を、アメリカが防衛するか否か」と尋ねられた際、「はい、私たちはそうすることを約束しています」と答えた。このときもホワイトハウスは慌てて「台湾に対する政策に変更はない」と火消しに走った。

3回目:2022年5月

バイデンは5月22日、日本を訪問したが、2日目に東京で演説し、「同地域における中国の軍事活動に対する懸念が高まる中、中国が反逆者と見なしている自治島(=台湾)を守るアメリカの責任は、ロシアのウクライナ侵攻後、さらに強くなった」と述べた。

バイデンはまた、日本の岸田首相に、「日本が改革された国連安全保障理事会の常任理事国になることと、核武装した北朝鮮とますます自己主張を強める中国に対抗するため、記録的な水準の国防費で安全保障を強化するという日本の計画を支持する」と語った後、「それがわれわれの約束だ」と述べた。すなわち、岸田首相が進めている防衛力強化は、あくまでも「ワシントンからの指令によるものだ」ということを実証したに等しく、この「火消し」は日本側がしなければならない羽目に追い込まれた。

4回目:2022年9月

9月18日、CBSの60ミニッツのインタビューを受けたバイデンは、「中国が主張する自治領島(=台湾)を米軍が防衛するかどうか」との質問に対し、「もちろんだ、実際に前例のない攻撃があった場合は」と回答した。報道では、これは台湾問題に関するこれまでで最も明確な声明だと位置付けた。

◆台湾有事に関するトランプの発言

一方、トランプは在任中に何度も「NATOからの脱退」を示唆しただけでなく、駐日米軍や駐韓米軍の数を減らすという発言もしている。このまま維持してほしければ、もっと駐留経費を出せと言いたかったのだろう。

決定的だったのは、2024年1月21日、FOXニュースがトランプをインタビューしたときの対応である。

「仮にあなたが大統領選で当選し、2度目のトランプ大統領の下で、中国が台湾を武力攻撃し、中国と台湾との間で戦争が起きたとき、アメリカは台湾を中国の侵略から守るのか」という質問に対して、トランプは真正面から回答することを避けたのだ。そして話をそらすように、台湾の半導体問題を持ち出してきて、勢いよく台湾に対する不満をぶちまけたのである。

トランプの「ノーコメント」は「台湾が中国からの武力侵攻を受けた場合に(=台湾有事が起きたときに)、アメリカは台湾を助けに行かない」と示唆したものとして受け止められ、ソーシャルメディア上で数多くのX(旧ツイッター)がポストされ、激しい反応の波を引き起こした。

◆中国大陸と台湾の反応

中国大陸としてはトランプ発言を歓迎するだろう。

たとえ、当選してしまえば何をやるか分からないとしても、少なくともトランプは「アメリカ第一主義」で、バイデンのようにNED(全米民主基金)に「民主の衣」をまとわせて非親米政権を転覆させるための暗躍をそそのかしたりはしない。どんなに対中高関税をかけてきても、中国としては回避のしようはいくらでもある。高関税や輸出入規制などによる制裁は、時として、かえって中国の当該産業や技術を高める可能性さえあるくらいだ。

だから中国の「核心的利益中の核心」である「台湾問題」にノータッチなら、中国は諸手を挙げてトランプを歓迎するにちがいない。もちろん誰が大統領になろうと、「中国を潰して、アメリカがナンバー1であることを維持する」という点においては変わらないと思っているだろうが、それでもバイデンよりはトランプの方が「まだマシ」と思っているはずだ。それが6月8日のコラム<禁止令を出しながらTikTokで若者の大統領選人気を競うバイデンとトランプ>で書いたTikTok問題にも影響しているように思われる。

もっともトランプは判決が出る前後になると、<もしロシアがウクライナに侵攻したり中国が台湾に侵攻したりしたら、モスクワと北京を爆撃するだろう>と示唆し、一部の寄付者を驚かせたという情報が出ている。しかし、こういった情報には場所も時間も明示されていないので信憑性は薄いためか、中国大陸は無視しているようだ。

台湾はと言えば、もちろんバイデンの発言に大喜びしている。

たとえば今般の「タイム」誌に関するバイデン発言に関して、「中華民国」外交部は<バイデン大統領はタイム誌との独占インタビューで、中国が台湾に侵攻した場合、米国は台湾を守るための武力行使を排除しないと述べた>として、喜びを隠し切れない様子だ。

また「中華民国」国営通信社の中央社は<バイデン、タイム誌の独占インタビューで「台湾を守るための武力行使を排除せず」 これまで4回もその立場を表明してきた>と、やはり喜びに溢れている。

しかし、1月21日のトランプ発言に対する反発は激しく、たとえば2024年1月29日、台湾の「米台観測ステーション」は<トランプは台湾防衛を約束する気はない 彼が当選したら、もう終わりか?>という見出しの報道をしており、この種の報道は非常に多い。

◆台湾世論は?

バイデンの一連の発言に対して、それなら台湾の一般民衆はどう思っているかを示す世論調査結果がある。

2023年2月に台湾の財団法人「台湾民意基金会」が「いざというときにアメリカは本当に台湾を守るか否か」を調査した結果を発表している

 その図表を以下に示す。

出典: 2023年2月の「台湾民意基金会」のデータを筆者が和訳

出典: 2023年2月の「台湾民意基金会」のデータを筆者が和訳

設問は、「中共が台湾を武力攻撃した場合、アメリカは台湾を守るために米軍を派兵すると信じるか?」となっており、「信じない」が46.5%もおり、「信じる」の42.8%より多い。他の民間調査でも少なからず同様の設問を設けているが、どの場合でも「信じない」方が「信じる」より多いのだ。

台湾の民衆は、冷静に現実を見ていると感慨深くデータを受け止めた。

なお詳細は『嗤う習近平の白い牙』の【第一章 TikTokと米大統領選と台湾有事】および【第二章 台湾世論と頼清徳新政権】で考察した。

この論考はYahooから転載しました。

1941年中国生まれ。中国革命戦を経験し1953年に日本帰国。「中国問題グローバル研究所」所長。筑波大学名誉教授、理学博士。中国社会科学院社会学研究所客員研究員・教授などを歴任。日本文藝家協会会員。著書に『習近平が狙う「米一極から多極化へ」 台湾有事を創り出すのはCIAだ!』(ビジネス社)、『習近平三期目の狙いと新チャイナ・セブン』(PHP新書)、『もうひとつのジェノサイド 長春の惨劇「チャーズ」』(実業之日本社)、『ウクライナ戦争における中国の対ロシア戦略 世界はどう変わるのか』(PHP)、『裏切りと陰謀の中国共産党建党100年秘史 習近平 父を破滅させた鄧小平への復讐』(ビジネス社)、『ポストコロナの米中覇権とデジタル人民元』(遠藤 誉 (著), 白井 一成 (著), 中国問題グローバル研究所 (編集)、実業之日本社)、『米中貿易戦争の裏側 東アジアの地殻変動を読み解く』(毎日新聞出版)、『「中国製造2025」の衝撃 習近平はいま何を目論んでいるのか』、『毛沢東 日本軍と共謀した男』(中文版・韓国語版もあり)、『チャイナ・セブン <紅い皇帝>習近平』、『チャイナ・ナイン 中国を動かす9人の男たち』、『ネット大国中国 言論をめぐる攻防』、『中国動漫新人類 日本のアニメと漫画が中国を動かす』『中国がシリコンバレーとつながるとき』など多数。2024年6月初旬に『嗤(わら)う習近平の白い牙』(ビジネス社)を出版予定。 // Born in 1941 in China. After surviving the Chinese Revolutionary War, she moved to Japan in 1953. Director of Global Research Institute on Chinese Issues, Professor Emeritus at the University of Tsukuba, Doctor of Science. Member of the Japan Writers Association. She successively fulfilled the posts of guest researcher and professor at the Institute of Sociology, Chinese Academy of Social Sciences. Her publications include “Inside US-China Trade War” (Mainichi Shimbun Publishing), “’Chugoku Seizo 2025’ no Shogeki, Shukinpei ha Ima Nani o Mokurondeirunoka (Impact of “Made in China 2025” What is Xi Jinping aiming at Now?), “Motakuto Nihongun to Kyoboshita Otoko (Mao Zedong: The Man Who Conspired with the Japanese Army),” “Japanese Girl at the Siege of Changchun (including Chinese versions),” “Net Taikoku Chugogu, Genron o Meguru Koubou (Net Superpower China: Battle over Speech),” “Chugoku Doman Shinjinrui: Nihon no Anime to Manga ga Chugoku o Ugokasu (The New Breed of Chinese “Dongman”: Japanese Cartoons and Comics Animate China),” “Chugogu ga Shirikonbare to Tsunagarutoki (When China Gets Connected with Silicon Valley),” and many other books.

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