16日、ウクライナのクレバ外相が中国の秦剛外相と電話会談し、中国提案の「和平案」を称賛した。和平案は停戦協定案ではなく、あくまでも中国の立場を表明し交渉のテーブルに着かせるためのものだ。
◆ウクライナのクレバ外相が中国の秦剛外相と電話会談
3月16日、ウクライナのクレバ外相が中国の秦剛外相兼国務委員と電話会談した。中国外交部の報道によれば、以下のような会談がなされたそうだ。
- 秦剛は、「31年前の外交関係の確立以来、中国とウクライナの関係は発展の勢いを維持してきた」と述べた。ウクライナ側は、「相互尊重に基づいて中国との誠実な関係を確立することに尽力したい」と表明した。
- 中国側はそれを高く評価し、ウクライナ側と一つになって、長期的視点に立ち、二国間関係の持続的かつ安定した発展を共に進めたい」と述べた。中国とウクライナの実務的協力の基盤は良好で、大きな可能性を秘めており、中国式現代化プロセスを実現することは、中国とウクライナの間の互利協力のために、より広範な機会を提供するものと思う。
- クレバは、「中国はウクライナの重要なパートナーであるだけでなく、国際問題において不可欠な主要国でもある」と表明した上で、「サウジアラビアとイランの間の和解の仲介における最近の成功」を祝賀し、「ウクライナ側は、二国間関係を長期的な視点で捉え、引き続き『一つの中国の原則』を堅持し、中国の領土の一体性を尊重し、中国との様々な分野で相互信頼を高め、協力を深めることを期待する」と述べた。
- クレバは、ウクライナ危機の最新状況と和平交渉の見通しを紹介し、ウクライナに人道支援を提供してくれた中国に感謝し、「中国が『ウクライナ危機の政治的解決に関する中国の立場』という文書を発表したのは、停戦を促進し、戦争を止めることへの誠実さを反映したものである」と評価した。クレバはさらに「今後も中国とのコミュニケーションを維持したい」と述べた。
- 秦剛は習近平国家主席が提唱した「四つのあるべきこと(応該)」に重点を置いて、「中国は常にウクライナ問題に関して客観的かつ公正な立場を堅持し、和平を説得し、対話を促進することを約束し、国際社会に和平交渉の条件を作り出すよう呼びかけてきた」強調した。秦剛はさらに「中国は、危機がエスカレートし、制御不能になる可能性があることを懸念しており、すべての当事者が冷静で合理的で自制心を保ち、できるだけ早く和平交渉を再開し、政治的解決の軌道への復帰を促進することを望んでいる。ウクライナとロシアが対話と交渉への希望を持ち続け、どんなに多くの困難と挑戦を伴おうとも、政治的解決への扉を閉ざしてはならない。中国は戦火を消し戦闘を停止させ、危機の緩和、平和の回復のために建設的な役割を果たし続けたいと思っている」と述べた。(対談内容は以上)
ここで言うところの「四つのあるべきこと」とは、2022年3月8日に習近平とフランスおよびドイツの首脳とのビデオ会議における発言で、以下の四つを指す。
- 各国の主権と領土保全は尊重されなければならない。
- 国連憲章の趣旨と原則は、遵守されなければならない。
- 各国の合理的な安全と関心は全て重視されなければならない。
- 危機に対する全ての和平解決に利する努力は指示されなければならない。
◆ウクライナ戦争後の中国とウクライナの会談
ウクライナ戦争が起きた後からの中国とウクライナ両国が行ってきた会談を、時系列的にまとめると、以下のようになる。
このように、ウクライナ戦争開始以来、中国はウクライナとは頻繁に接触を重ねており、特に2022年3月14日における、中国の範先栄・駐ウクライナ大使はリヴィウで統治の高官(おそらく知事)と会議を持ち、戦後復興支援に関してまで約束していることは注目に値する(『ウクライナ戦争における中国の対ロシア戦略』p.39に写真あり)。
今年1月18日には、ダボス会議に出席したゼレンスキー大統領夫人が、「ゼレンスキーが習近平と対談したいという旨のことを書いた書信を中国側代表に渡した」と表明している。
なお、中国とウクライナは旧ソ連が崩壊した後の1992年1月に国交を締結して以来の仲良し国家だ。
◆習近平はプーチンのウクライナ侵略には反対
言葉で表現したことはないものの、習近平はプーチンがウクライナに武力侵攻したことには絶対に反対だ。なぜならプーチンが武力侵攻した理由が「ウクライナの東部ドンバス地方にいるロシア語を話す少数民族が迫害を受けているから」というものだったからだ。中国にはウイグル族やチベット族など、多くの「少数民族」がおり、彼らは以前から独立を叫んでいた。それを様々な手段で弾圧して、今はようやく「おとなしくさせている」状況だ。
だというのにドンバス地域の少数民族が「ウクライナ政府に迫害を受けている。独立したい。助けてくれ」と言ったことを理由に、プーチンはウクライナ侵攻を始めたのである。
そのようなことが許されるのなら、ウイグル族やチベット族が「私たちは中国政府に迫害されている。独立したい。助けてくれ」と叫んだら、アメリカなどの西側諸国が中国を侵略しても許されるということになってしまう。
だから、どんなことがあってもプーチンのウクライナ侵攻には反対なのである。
しかし、アメリカから制裁を受けている国同士として、プーチン政権が崩壊してしまうのは困る。だから経済的にはプーチンを支える。
筆者はそれを『ウクライナ戦争における中国の対ロシア戦略』で、【軍冷経熱】という言葉で表現した。習近平のプーチンに対するこの姿勢は今も変わっていない。
◆習近平が睨んでいるのは台湾平和統一 「和平案」は「停戦協定案」ではない
習近平が一貫して目指しているのは「台湾平和統一」で、「四つのあるべきこと」やウクライナ戦争「和平案」のいずれにも、必ず冒頭に「各国の主権と領土保全は尊重されなければならない」という文言が出て来る。
これは「台湾は中国の領土の一部だ」を主張しているのである。そこにはアメリカが内政干渉して台湾に兵器を売ったりすることへの抗議や、「台湾を戦争に駆り立てるな!」という強烈なメッセージが入っている。
詳細は2月27日のコラム<習近平のウクライナ戦争「和平論」の狙いは「台湾平和統一」 目立つドイツの不自然な動き>にも書いたが、中国のウクライナ戦争「和平案」は、あくまでも「停戦交渉のテーブルについてください」というメッセージであって、「停戦協定案」そのものではないことに注意しなければならない。すなわち、「それなら、終戦ラインはどこで引くのか」といった議論は不毛だということだ。
なお、そのコラムで予測した通り、習近平は近い内にプーチンに会いに行くようだし、ゼレンスキーともオンライン会談をするだろうという情報が流れている。その推移を慎重に考察したい。
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