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中国停電の真相――背景にコロナ禍を脱した中国製造業への注文殺到も
中国の電力不足(写真:ロイター/アフロ)

中国各地で停電が続いている。背景には世界的石炭価格の高騰以外に、世界に先んじてコロナ禍を脱した中国製造業への注文殺到による電力消費に対する石炭の供給不足がある。火力発電依存が高い中国が脱炭素を競う習近平のジレンマも見え隠れする。

◆「石炭価格の高騰」と「電力消費に対する石炭供給不足」

石炭価格の高騰は世界的な現象で、中国に限った話ではない。

中国において他国と異なるのは、中国の火力発電依存度が55.9%と高いため、石炭価格の高騰が発電コストの上昇に直接つながっているという点だ。

加えて、中国は今年3月1日に刑法を改正し、無許可の石炭採掘に対して1年以下の懲役刑を科すことが可能となった。詳細は中華人民共和国刑法修正案(2021年3月1日起施行)に書いてある。

石炭採掘企業は国に対して採掘量計画を事前に報告する義務があるが、中国では報告の数値を遥かに上回った量の採掘を「秘かに」行なってもさほど厳しい処罰を受けない状態が続いていた。しかし炭鉱事故が相次いだこともあり、「闇採掘」をした者を刑法で罰するという厳しい措置に出たのである。

特に中国最大の生産量を誇る内モンゴルの石炭採掘業者に対して、過去20年に遡って調査が入った。これを受けて関係業者が突然「闇採掘」を自粛し始めたので、石炭生産量が減少したという側面もある。

それでも、今年1‐8月期の全国石炭生産量は昨年同時期の生産量の4.4%増になっており、決して絶対量が減ったわけではない。

ならば、何が問題の原因になっているのかと言うと、「中国全土の電気使用量の増加が、石炭供給量の増加よりも遥かに大きいスピードで動いている」という事実だ。

今年1-8月期の全国発電量は、昨年同期の11.3%増で、石炭の供給量が発電のために必要とする量に達しておらず、激しい「石炭供給量不足」を来している。

その結果、「石炭火力発電の発電コストが、電気代より高くなってしまった」という現実が全中国を覆っている。儲けが少ないどころか、発電作業をやればやるほど損をするという状況にまで至っていた。

◆コロナで、中国製造業に全世界から注文が殺到

では、なぜ電気使用量がそこまで多くなったかというと、実はコロナ感染に関係がある。

武漢で始まり全世界に蔓延させ、現時点でコロナ感染者数は全世界で2.19億人、死者455万人に達するという大災禍をもたらしているが、肝心の中国はいち早くコロナ禍から抜け出し、ほぼ正常な生産ラインに戻っている。

そのため世界各国からの製造業に対する需要が中国に殺到し、中国の国家エネルギー局データによれば、2021年1-8月期の電力消費は昨年同期比の13.8%増となっている

非常に読み取りにくいかもしれないが、中華人民共和国海関(税関)総署の「輸出入商品総額表(人民元建て) B:月度表」によると、2021年1-8月の輸出額は昨年同期比23.2%増となっている。ドル建てに換算すれば25.6%増だ。

この「23.2」という値は、表の欄外にある「注」の「一」を読み取らないと判読できないが、煩雑なので結果だけを言うと、「右から3列目の最後の行」にある「23.2」という数値が、それに相当する。

また「2021年8月輸出入商品構成表(人民元建て)」では「2021年1-8月の工業製品の輸出」は昨年同期比23.8%増となっている。ドル建てだと34.5%増だ。

どういう品目に関して注文が殺到しているかを示すために、輸出増加率の高い上位15品目を拾い上げて以下に示してみよう。

図表1:2021年1-8月の輸出同期比増加率が高い上位15品目

出典:中華人民共和国海関(税関)総署のデータから筆者が抽出して作成

前年度同期比が130%増というのから約40%増に至るまで、全世界からの注文がどれだけ凄まじい勢いで殺到しているかが数値でお分かりいただけるだろう。こんなに「景気のいい話」は世界を探しても、そう多くはない。

世界各国からの注文を断って電気使用量を減らそうなどという戦略は考えられず、少しでも経済成長を向上させようと思うのが常識だろう。

かくして製造業を保障するために大量の電気が使用され、電気量不足に陥った。

中国の停電発生を「さあ、今度こそ中国経済は崩壊するぞ!」と勇んでいるチャイナ・ウォッチャーや報道機関は、中国経済構造の深層を知らなければならない。

◆ エネルギー効率を高めるための中国政府による通知

9月11日、国家発展改革委員会は「エネルギー消費強度と総量の双方を改善し制御する制度に関する法案」を発表した。中国語では制御あるいはコントロールを「控制」と書くので、この通知を「双控制度」と略記する。

これはエネルギー効率の低い(エネルギー消費が高いが利益率が低い)製造業を制限することによって、電気量供給の安定化を図ろうとするものである。

9月18日になると、国家発展改革委員会が「双控制度」に関する記者会見を開き、「双控制度」に関して非常に厳しい要求を突き付け、「さあ、これが目に入らぬか」とばかりに、全国各地区の上半期の実施状況に関する一覧表を公表した。

中国語なので、それを日本語に訳して作成し直した一覧表を以下に示す。

図表2:2021年上半期各地区エネルギー消費双控目標完成状況晴雨表

出典:国家発展改革委員会のデータを筆者が日本語に翻訳して作成

図表2では、

赤●は「エネルギー消費強度がむしろ増加している、非常に厳しいレベル」

黄色●は「エネルギー消費強度は減っているが、やや厳しいレベル」

緑●は「双控状況が順調であるレベル」

を示す。なおチベット自治区に関してはデータが不十分で警告判断対象地区から外してある。

こんなものを出されたらたまらない。まるで脅しのようなものだ。

中国では各地区(各地方人民政府)の取り組みの業績を提示されると、審査と評価と処罰を突き付けられたように反射的に競争心と警戒心が強く働く。

そうでなくとも3月に「闇採掘」者には刑事罰を与えるという恐ろしい法改正がなされたばかりではないか。

各地区の関係者は、あわてて目標達成に向けて突進し始めた。

◆東北三省における特殊事情

日本で連日のように報道されているのは大連とか瀋陽など、東北三省(黒竜江省、遼寧省、吉林省)における停電である。

図表2を見る限り、東北三省は緑色が多く、むしろ成績が良いではないかと思われるだろう。ところが実態は異なる。

ここに現れているのは、実は「製造業」など、加熱する業種に関する警告だ。

東北三省は改革開放の波に圧されて、建国以来の重工業は何とか保っているが、今や花盛りの、軽やかに舞うハイテク産業などに関しては取り残されたままだ。したがっていわゆる海外の需要が殺到している「製造業」に関する電気消耗が普段からない。

そのため東北三省における石炭による火力発電の電気量を、近隣の華北省や山東省などに売り、送電によって地方財政の一部を支えているような側面がある。

この送電契約は破棄するわけにはいかない。

また重工業は、電気を止めることが困難で、どこかの生産ラインを暫時止めましょうというわけにはいかない。

そこで、図表2にある一覧表が示されると、東北三省の地方政府は中央からのお咎(とが)めを避けるために、なんと、一般庶民に提供する民生用電気をカットし始めたのだ。

これが大問題になった。

一般庶民の日常生活が侵され、信号が止まって尋常ならぬ渋滞を来したりしたので、スマホなどで容易に可視化できるため、世界の耳目を集める結果に至ったのである。

たとえば南方の、深圳がある広東省などは製造業が真っ盛りの地域だ。中国のハイテク産業の生命線でもある。こういった地域は普段から「有序用電(秩序を以て電気を用いる)」という習慣がついているので、電気量が足りなくなった時には、どのラインを止めるとか昼夜逆転などの時差操業をするなど訓練ができている。

しかし東北三省には、日ごろの、そのような心構えも準備態勢もないので、慌てふためいて民生用電気に手を付けてしまったのである。

これを受けて国家エネルギー局は9月29日、記者会見を開いて、東北三省の冬季における暖房を保障することや外部送電について調整すると回答しており、また今後は必ず民生用電力を確保すると発言している。

◆脱炭素をめぐる習近平のジレンマ

それにしても習近平はなぜこのような混乱を来すような厳しい通知を出させたのだろうか?

その原因の一つは、2020年9月の国連におけるビデオ演説で「中国は2060年までに温室効果ガスの排出量をゼロにする」と宣言したことに求めることができる。

このときはまだトランプ政権だった。トランプ前大統領はパリ協定から離脱し、環境問題などフェイクニュースだとして背を向けていた。そこで習近平としては「わが中国はアメリカとは違い、国際協調を重んじている」というところを見せたかったのだろう。

ところがバイデン政権になると一転し、クリーンエネルギー重視を前面に打ち出し、アメリカもまた「2050年までにはカーボンニュートラルを実現する」と宣言した。アメリカは中国よりも遅れて宣言したにもかかわらず、バイデン政権はケリー気候変動問題担当大統領特使を何度も訪中させては中国にクリーンエネルギー実現に向けて「協力しろ」と圧力をかけている。

アメリカに言われなくとも中国はトランプ政権時代から宣言していると習近平は言いたいだろうが、バイデン政権は「中国の製造業における一人勝ちを阻止するため」にも、中国へのクリーンエネルギーに関する圧力を緩めないだろう。

一方、習近平は早くも2015年に、パリ協定の気候変動会議開催にあたり、ロイターの取材に対して「発展途上国と先進国の環境問題を一律の同じ尺度で測るのは不適切であり不公平だ」という趣旨の回答をしている。開発のニーズや能力も異なり、スタートラインも違えば、発展段階も異なるのに先進国の尺度を発展途上国に強要するのは不公平だというのが習近平の持論だ。

さりながら、世界が一斉に「カーボンニュートラル」に向かって走り始めた今、「世界市場」という視点に立った時に、中国だけが取り残されるわけにもいかない。

たとえばEVなど、やがてクリーンエネルギーによって世界の製品が出来上がっていくような状況になった時、中国だけが温室効果ガスを排出するような製品を生産していたのでは、世界市場で勝負できなくなっていく。同じクリーンエネルギー製品で競争しなければ、米中覇権競争にも勝てない。

したがってアメリカに言われなくても、中国自身がクリーンエネルギーへの転換を市場戦略の一つとしてチャレンジしているところだ。

そのチャレンジの途上での「停電」現象には、中国社会の構造的問題も潜在している。発展途上国でありながら、ハイテク産業においては世界最先端で勝負しようとする習近平の複雑に絡んだジレンマが、そこにはあるのではないだろうか。

(本論はYahooニュース個人からの転載である)

1941年中国生まれ。中国革命戦を経験し1953年に日本帰国。「中国問題グローバル研究所」所長。筑波大学名誉教授、理学博士。中国社会科学院社会学研究所客員研究員・教授などを歴任。日本文藝家協会会員。著書に『習近平が狙う「米一極から多極化へ」 台湾有事を創り出すのはCIAだ!』(ビジネス社)、『習近平三期目の狙いと新チャイナ・セブン』(PHP新書)、『もうひとつのジェノサイド 長春の惨劇「チャーズ」』(実業之日本社)、『ウクライナ戦争における中国の対ロシア戦略 世界はどう変わるのか』(PHP)、『裏切りと陰謀の中国共産党建党100年秘史 習近平 父を破滅させた鄧小平への復讐』(ビジネス社)、『ポストコロナの米中覇権とデジタル人民元』(遠藤 誉 (著), 白井 一成 (著), 中国問題グローバル研究所 (編集)、実業之日本社)、『米中貿易戦争の裏側 東アジアの地殻変動を読み解く』(毎日新聞出版)、『「中国製造2025」の衝撃 習近平はいま何を目論んでいるのか』、『毛沢東 日本軍と共謀した男』(中文版・韓国語版もあり)、『チャイナ・セブン <紅い皇帝>習近平』、『チャイナ・ナイン 中国を動かす9人の男たち』、『ネット大国中国 言論をめぐる攻防』、『中国動漫新人類 日本のアニメと漫画が中国を動かす』『中国がシリコンバレーとつながるとき』など多数。2024年6月初旬に『嗤(わら)う習近平の白い牙』(ビジネス社)を出版予定。 // Born in 1941 in China. After surviving the Chinese Revolutionary War, she moved to Japan in 1953. Director of Global Research Institute on Chinese Issues, Professor Emeritus at the University of Tsukuba, Doctor of Science. Member of the Japan Writers Association. She successively fulfilled the posts of guest researcher and professor at the Institute of Sociology, Chinese Academy of Social Sciences. Her publications include “Inside US-China Trade War” (Mainichi Shimbun Publishing), “’Chugoku Seizo 2025’ no Shogeki, Shukinpei ha Ima Nani o Mokurondeirunoka (Impact of “Made in China 2025” What is Xi Jinping aiming at Now?), “Motakuto Nihongun to Kyoboshita Otoko (Mao Zedong: The Man Who Conspired with the Japanese Army),” “Japanese Girl at the Siege of Changchun (including Chinese versions),” “Net Taikoku Chugogu, Genron o Meguru Koubou (Net Superpower China: Battle over Speech),” “Chugoku Doman Shinjinrui: Nihon no Anime to Manga ga Chugoku o Ugokasu (The New Breed of Chinese “Dongman”: Japanese Cartoons and Comics Animate China),” “Chugogu ga Shirikonbare to Tsunagarutoki (When China Gets Connected with Silicon Valley),” and many other books.

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