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中国、コロナ感染第二波を警戒
綏芬河市で労働者たちが臨時病院にベッドを運んでいる(提供:ロイター/アフロ)
綏芬河市で労働者たちが臨時病院にベッドを運んでいる(提供:ロイター/アフロ)

中国でコロナ感染者の逆輸入が目立つ。詳細な現状のデータと、海外から帰国した中国人たちが持ち帰るウイルスによる第二波の到来を防ぐべく中国が取っている緊急対応策を考察する。

◆逆輸入コロナ感染者の最新データ

中国では今もなお、時々刻々各地のコロナ感染者数等に関するデータが更新され発表されているが、中国政府の行政機関の一つである中国衛生健康委員会は、一日に一回、その日の全国的な総数を各感染分類にわたって報道する。

4月12日の国家衛生健康委員会の発表における、「逆輸入」によるコロナ感染の最新データが注目を浴びた。

逆輸入とは、本来中国の湖北省武漢で大量発生した新型コロナウイルス肺炎患者が世界に拡散して各国でコロナ患者が大量発生しているわけだが、中国は3月10日に峠を越し、武漢を含む湖北省での感染者はほぼ毎日ゼロという状態を見せ始めた。ところが、海外における感染状況があまりに激しいものだから、今度は海外にいる中国人が逆に中国本土に戻ろうとして、その時にウイルスを運んで入国しようとする。この現象を「ウイルスの逆輸入」と中国では表現している。

以下、発表の内容をご紹介する。いずれも4月12日「1日間」のデータである。

  1. 31の省・自治区・直轄市と新疆生産建設兵団の報告によれば、4月12日(1日間)の新規感染者が108例で、その内98例が国外からの逆輸入病例で、10例が本土(中国大陸内)の病例(黒竜江省7例、広東省3例)である。
  2. 新規死亡者数は2例(湖北省2例)で、新規疑似感染者は6例(いずれも海外逆輸入で黒竜江省4例、上海2例)である。  
  3. 4月12日に退院した新規退院者数は88例、当日、医学観察が解除された濃厚接触者数は1092人、同じく当日、重症から脱した患者の数は18例である。
  4. 逆輸入感染者確定患者の現時点における総数は867例(重症患者38例)で、現時点での疑似感染者数は総計で72例である。累計では逆輸入確定患者は1378例、累計の治癒退院患者は511例。逆輸入の中の死亡例はゼロである。
  5. 4月12日時点での全国の確定患者数は1156例(そのうち重症病例121例)で、4月12日までの累積治癒退院者数は7万7663例、累積死亡者数は3341例、累積確定患者数は8万2160例、現在の疑似感染者数は72例、濃厚感染者の追跡は累計で71万9908人、今もなお隔離施設で観察中の濃厚感染者数は9655人である。
  6. 全国の新規無症状感染者数は(4月12日だけで)61例、そのうち逆輸入は12例。また当日無症状から確定患者と認定されて入院した病例は28例(全て逆輸入感染者)で、当日医学的監察を解除された無症状感染者は55例(逆輸入は9例)。未だ無症状感染者として隔離され医学的観察を継続しているのが4月12日時点で合計1064例(内、逆輸入307例)。

◆データから何が見えるか

中国の全人口が14億人いるとは言え、一日の新規患者数が108例で、その内98例が国外からの逆輸入病例であるというのは、かなり大きな要素である。91%が逆輸入だ。

ここには書いてないが、98人の内、「黒龍江省49人(全員が黒竜江省の牡丹江)、内モンゴル35人、上海11人、天津1人、山西1人,吉林1人」となっている。

圧倒的に北に多い。つまりは、ロシアと国境を接している地域が多いことになる。

上記報道の「4」で「逆輸入感染者確定患者の4月12日における総数は867例(重症患者38例)」となっている。また「累計で、逆輸入確定患者は1378例(累計の治癒退院患者は511例)」ということは、「逆輸入感染者の入国によって中国のコロナ感染第二波が来るかもしれない」と中国が警戒するのは当然のことだろう。

そこで中国は以下に述べる緊急対応策を取り、正に「緊急出動」に着手した。

本稿では黒竜江省に絞って考察する。

◆中国が黒竜江省で打った緊急対応策

4月11日付けの新華網は「外に対しては輸入を、内に対しては拡散防止を――黒竜江綏芬河(すいふんか)疫病防疫第一線」という見出しで「緊急対応第一線」の様子を伝えている。中央テレビ局CCTVでも叫ぶように激しく力を入れて報道した。

それによれば3月27日から4月9日の間に中露国境にある港町綏芬河市では、ロシアから中国側に入境した者の内、151人がコロナ確定患者で、148人が無症状感染者とのこと。

黒竜江省の綏芬河市はロシアの野菜供給地区のようになっているため、ロシアからの商人がひっきりなしに渡ってくる。そこで中国政府は綏芬河の検疫を厳重に取締り、かつ全員を先ず隔離して、PCR検査と血液検査による両方の検査に合格して初めて解放される。合格しない場合は(陽性の場合は)別の(医学的監察の厳しい)隔離施設あるいは病院に送る。入境者と接触した人は、必ず指定したホテルに宿泊し、他の人と接触しないようにする。

また綏芬河市にある人民医院は、本来コロナ患者を受け入れる病院ではないので、受け入れ設備が不十分だ。そこで、わずか「3日間」で綏芬河市人民医院を改造し、300床を準備して、先ずは逆輸入の無症状感染者を受け入れることとした。

さらに綏芬河市のホテルは隔離宿舎として指定され防疫スタッフが保衛し、体育館も隔離点に改造され警戒線が布かれた。

また冒頭の報道の「1」にあるように4月12日の1日だけで黒竜江省には7例の非逆輸入経路の感染者がいたので、これは逆輸入感染者からの二次感染であることが考えられることから、いざ爆発的に増えた場合に備えて、すぐさま方艙医院を改造建築している。

600床の受け入れ態勢で、患者のベッドは3階から11階にあり、2階と1階は医療従事者や周辺業務従事者たちの生活空間としている。

4月5日の夜には34名の医療従事者から成る牡丹江紅旗医院の第1期支援チームが綏芬河市の方艙医院に到着した。

また3月31日以来、黒竜江省の省レベルからも71人の医療関係者が綏芬河市と牡丹江市に派遣されており、牡丹江市は151人の医療関係者を中心として支援チームを綏芬河市に派遣している。

住民が外出する時には、必ず当局が健康コードをスキャンして「追跡」を続ける。猫の子一匹通さない厳しさである。

こうして第二波が押し寄せないように厳戒態勢を取っているのが中国の現状だ。

◆それに比べて日本は

冒頭に書いた報道の「6」にある「無症状感染者」に対する中国の対応は注目に値する。

日本では無症状感染者だけでなく、軽症感染者でさえ自宅待機させている地域が多い。日本政府が「国」として絶対的な方針を示さず、財政的保障を避けるために何もかも「自己責任」で、国家としての責任を取ろうとしないからだ。このような国も珍しい。

これでは感染を抑えることは出来ないのは明らかだろう。

中国でも、ごく初期の間は試行錯誤的に自宅待機者もいたが、中国の伝染病や免疫学の最高権威である鍾南山院士が、ウイルス感染している者には全て、ウイルスを他人に感染させる危険性があるので、必ず隔離しなければならないとして、全員を隔離施設に入れる方法に早期から切り替えている。

安倍内閣は「国民の命」が優先なのか、それとも「国の懐(ふところ)具合」が優先なのか。

何もかも「自粛、自粛」で国が「補償付き休業」を指示することを怖がっている。個人の人権を守るため(私権制限を回避するため)などという理屈は、この生死を分けたウイルス戦では通用しない。「人権」以前に「人命」が失われる。その自覚も覚悟も安倍内閣にはない。

追記:なお黒竜江省当局は4月13日、「もし検査を潜り抜けた不法越境者を当局に通報した場合は賞金として3000元(約4万5千円)を、本人が不法越境者を捕まえて当局に連行した場合は5000元(約7万5千円)を賞金として与える」という通達を出した。中国政府の本気度が窺える。

1941年中国生まれ。中国革命戦を経験し1953年に日本帰国。「中国問題グローバル研究所」所長。筑波大学名誉教授、理学博士。中国社会科学院社会学研究所客員研究員・教授などを歴任。日本文藝家協会会員。著書に『習近平が狙う「米一極から多極化へ」 台湾有事を創り出すのはCIAだ!』(ビジネス社)、『習近平三期目の狙いと新チャイナ・セブン』(PHP新書)、『もうひとつのジェノサイド 長春の惨劇「チャーズ」』(実業之日本社)、『ウクライナ戦争における中国の対ロシア戦略 世界はどう変わるのか』(PHP)、『裏切りと陰謀の中国共産党建党100年秘史 習近平 父を破滅させた鄧小平への復讐』(ビジネス社)、『ポストコロナの米中覇権とデジタル人民元』(遠藤 誉 (著), 白井 一成 (著), 中国問題グローバル研究所 (編集)、実業之日本社)、『米中貿易戦争の裏側 東アジアの地殻変動を読み解く』(毎日新聞出版)、『「中国製造2025」の衝撃 習近平はいま何を目論んでいるのか』、『毛沢東 日本軍と共謀した男』(中文版・韓国語版もあり)、『チャイナ・セブン <紅い皇帝>習近平』、『チャイナ・ナイン 中国を動かす9人の男たち』、『ネット大国中国 言論をめぐる攻防』、『中国動漫新人類 日本のアニメと漫画が中国を動かす』『中国がシリコンバレーとつながるとき』など多数。2024年6月初旬に『嗤(わら)う習近平の白い牙』(ビジネス社)を出版予定。 // Born in 1941 in China. After surviving the Chinese Revolutionary War, she moved to Japan in 1953. Director of Global Research Institute on Chinese Issues, Professor Emeritus at the University of Tsukuba, Doctor of Science. Member of the Japan Writers Association. She successively fulfilled the posts of guest researcher and professor at the Institute of Sociology, Chinese Academy of Social Sciences. Her publications include “Inside US-China Trade War” (Mainichi Shimbun Publishing), “’Chugoku Seizo 2025’ no Shogeki, Shukinpei ha Ima Nani o Mokurondeirunoka (Impact of “Made in China 2025” What is Xi Jinping aiming at Now?), “Motakuto Nihongun to Kyoboshita Otoko (Mao Zedong: The Man Who Conspired with the Japanese Army),” “Japanese Girl at the Siege of Changchun (including Chinese versions),” “Net Taikoku Chugogu, Genron o Meguru Koubou (Net Superpower China: Battle over Speech),” “Chugoku Doman Shinjinrui: Nihon no Anime to Manga ga Chugoku o Ugokasu (The New Breed of Chinese “Dongman”: Japanese Cartoons and Comics Animate China),” “Chugogu ga Shirikonbare to Tsunagarutoki (When China Gets Connected with Silicon Valley),” and many other books.

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