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5月の靖国神社落書き犯は2015年から監獄にいた犯罪者 PartⅡ―このままでは日本は犯罪者天国に
靖国神社の桜(写真:Rodrigo Reyes Marin/アフロ)
靖国神社の桜(写真:Rodrigo Reyes Marin/アフロ)

今年5月末に靖国神社入り口の石柱に落書きをして翌日中国に帰国した犯罪者・董(とう)光明には、2015年に刑事事件で逮捕され2017年に釈放されたという過去がある(これに関してはPartⅠで書いた)。出獄後も董光明は「鉄頭勧善懲悪」というアカウントで2023年3月からネット配信動画を通して再び詐欺まがいの事件を重ね、2024年2月には遂にすべてのアカウントが凍結された。それでもなお今年5月には他の恐喝事件により大金をせしめ、直後に日本入国している。中国のネット民に喜ばれそうな落書き場面を動画配信し、さらに金儲けをしようというのが目的だった。

その成功例を見て8月19日に、靖国神社の同じ場所に行き、日本を侮辱する落書きをする模倣犯が現れた。防犯カメラにその姿が写されていたようだが、日本政府は何もせずに、落書き犯はその日のうちにやすやすと帰国した。

驚くべきは、その事実を報道するNHK中国人外部スタッフが、原稿にはない日本を侮辱する文言を中国語と英語で報道する事件が相次いだことだ。日本はNHK中国人スタッフをすぐにも拘束できたはずなのに、言葉で遺憾の意を表明するだけで、NHKも政府も警察も実際の行動には出ず、犯罪人引渡条約が締結されていない中国に帰国させてしまったのだ。

このままでは日本は金儲けのための犯罪者が集まる犯罪者天国になり、犯行を犯してもサッサと帰国すれば難を逃れることができるというスパイ天国になってしまう。おまけに共通しているのは「日本を侮辱する」ということだ。

こんなことでいいのか?

自民党総裁選を控え、日本はどうあるべきなのかを問いたい。  

本稿PartⅡでは、董光明が「鉄頭勧善懲悪」というアカウントで何をしたのかを考察するとともに、模倣犯やNHK中国人外部スタッフを帰国させてしまう日本の手ぬるさを指摘する。

◆中国のネット配信動画「金儲けのためのからくり」

まず、中国のネット配信動画の「金儲けのためのからくり」をご紹介したい。

中国のネットでは動画を配信してアクセス数を稼ぐだけでなく、さらなる金儲けの仕組みができあがっている。

まずアクセス数(動画再生数)によって一定のお金が入ってくるが、配信者は自分が「網紅(ワンホーン)」(ネットでの人気者)になって、どこかの企業がCMをオファーしてくれるのを待っている。

オファーが来ると企業からお金が入り、やがてはその企業の製品を、ネットを通して販売することもできるようになる。ここまで行けば大成功だ。

そのために何に注目し、何をテーマとして動画を配信していけばいいかを、少なからぬユーチューバーは常に探している。

◆靖国神社落書き男のアカウント名は「鉄頭勧善懲悪」

中国のネットでは、董光明に関する情報は非常に多く、たとえば2023年8月23日時点ですでに<网红铁头,终于为自己的“黑历史”和“急功近利”付出了代价(網紅鉄頭、遂に自分の「暗い歴史」と「手っ取り早い成功への焦り」の代償を払う時が来た)>という情報が流れている。その冒頭には概ね以下のようなことが書いてある。

 ――最近、これまであまり知られていなかった網紅が突如登場し、大きな話題を呼んでいる。網紅「铁头惩恶扬善(鉄頭勧善懲悪)」(以後、鉄頭)は特定の動画プラットフォームで327万人のファンを抱えており、主なコンテンツには、「三亜海鮮市場(いちば)の重量偽造の取り締まり」、「美容院の調査」、「スーパーマーケットの宝石・金・翡翠詐欺事件」・・・などなどがある。特に今月初めの杭州新東方に関する行動により彼の人気は高まったが、まさにその事件こそが鉄頭の落ち目の始まりでもあった。(記事の冒頭紹介はここまで)

では具体的に何が起きたのか、二つの事件に関して説明したい。

 ●2023年7月4日に起きた三亜海鮮市場事件

海南省三亜市の海鮮市場において秤で重さを測る時に重さを多めに言って、その分だけ客から金を巻き上げる「商品重量偽造」を鉄頭は暴露し、市場側を脅して、販売業者に罰金を科すべきと強く主張した。市当局が調査した結果、たしかに秤に仕掛けがあったのを発見し、30万人民元(600万円)の罰金が科せられた。この動画を配信することによって鉄頭はファン数を増やすことに成功した。

 ●2023年8月4日から7日にかけて、杭州市新東方が規則に違反して塾の補習をやっていることを鉄頭は暴露し通報した動画を発表した。最終的に杭州新東方が閉鎖に追い込まれ、罰金15万円(300万円)を市当局に支払うことになったが、これが鉄頭の落ち目の始まりとなった。というのは塾に通う子供たちの保護者たちがクレームを表明し始めたからだ。共働きの親もいて、子供を預けるという目的もあって塾に通わせていたのに、その塾が無くなるのは困るとか、塾が無くなると家庭教師を雇うしかなく、かえって出費がかさむとかなど、さまざまなクレームがネットに溢れた。

一方、鉄頭は「網紅」になったので、いよいよ次の段階に入り新疆ウイグル自治区のナッツなどの製品をネットで販売することになった。すると、新東方に子供を通わせていた保護者たちが、一斉に新疆ウイグル自治区の商店に数多くの問い合わせ経由のクレームを出し、「こんなヤツ(鉄頭)と合作するなら、お前の店の物は絶対に買わないようにネットで大々的に宣伝してやる」と責めたて始めたのだ。当然ウイグル自治区の商店は鉄頭との提携を断った。

これにより鉄頭のファン数は減っていったので、人気を取り戻そうと焦って、つぎつぎときわどいテーマの動画を配信するようになり、遂には自身の猥褻な風俗歴を暴露してアクセス数を稼ごうとした。これが決定打となり、2024年2月には、あらゆるプラットフォームにおける「鉄頭勧善懲悪」のアカウントが封鎖凍結されるに至ったのである。(二つの事例は以上)

万策尽きた董光明は2024年5月に、詐欺と恐喝により、ある企業から大金を巻き上げた。その直後に日本に上陸し、靖国神社に落書きをする動画を配信することによって、次の金儲けにつなげようとした。「鉄頭勧善懲悪」のアカウントは封鎖されていたので、仲間のアカウントを使ってその動画を配信し、やすやすと中国に帰国した。

◆8月19日に現れた靖国神社落書きの模倣犯

董光明が拘束されたことが発表されたのは今年の8月27日なので、それ以前の8月19日では、まだ董光明に対する英雄視した視点があったものと推測される。

8月19日未明、10代と言われている中国人の男が、董光明が落書きしたのと全く同じ靖国神社の石柱に中国語簡体字で「厕所」(トイレ)、「狗」(犬)、「屎」(糞便)、「军国主义 去死」(軍国主義、死ね)などの落書きをしたのである。

董光明がtoilet(トイレ)と落書きしたことを考えると、トイレの中国語「厕所」という文字をまず書いたことは、完全な模倣犯であるということを物語る。

この男は数名の友人とともに(終戦記念日8月15日前後に)日本に上陸し、新宿区のホテルに泊まり、19日未明に一人で靖国神社に行き落書きをしているようで、動画撮影はしていない。まだ10代でお金を稼ぐ目的はなく、ただ自分のチャット・グループに「ほら、凄いだろ」と自慢したかったらしいことがチャット・グループにおける会話から窺い知ることができる。

落書き犯のチャットの記録と思しき画面があるので、それをスクリーンショットしたものを図表1に示す。これが信用に値するものであるならば、犯人の名前は「傳国峰」だ。傳国峰はチャットで「クソッカスの靖国神社」と書き、「人生で最も叶えたかった願望を叶えた」などと書いている。

図表1:落書き犯と思しき者のチャット・グループとの会話

 

出典:「李老师不是你老师」のX(元ツイッター)

出典:「李老师不是你老师」のX(元ツイッター)

 

またアカウント名「李老师不是你老师」は、図表2のような画像を貼り付けている。もしこれが確実な情報であるなら、図表2の左上にある人物が犯人だということになる。

図表2:靖国神社落書き犯に関するX(元ツイッター)

 

出典:「李老师不是你老师」のX(元ツイッター)

出典:「李老师不是你老师」のX(元ツイッター)

 

8月19日の落書き犯の姿は日本側の防犯カメラに収まっているとのことなので、もし日本の政府や警察などが本気になれば、すぐにも拘束できたはずだが、日本側は追跡するようなこともせず、空港との連係プレーで出国を止めることもせず、犯人はその日のうちに羽田空港からやすやすと出国してしまった。

◆そのニュースを伝えるNHK中国人スタッフが原稿にない文言を報道

さらに驚くべきは、この落書き事件を伝えた8月19日午後のNHKの短波ラジオと衛星ラジオ、ラジオ第2放送の中国語ニュースで、中国籍の40代の外部スタッフが原稿にはない発言をしたとのこと。

たとえば、中国語で「釣魚島(尖閣諸島)は中国の領土である」とか、落書きニュースで原稿にはなかった「軍国主義」、「死ね」などの言葉を加えて伝えた上、英語で「南京大虐殺」、「慰安婦問題」および「731部隊」などに関して報道したという。

非常に多くの中国や日本の情報を基にすると、本人と思われる人の名は「胡越」と称するようで、香港の鳳凰網で特約記者を担当していたらしい。図表3に示すのは、2024年1月3日羽田空港の地上衝突事故を報道する動画の画面キャプチャーである。中国のネットでは普通に公開されているものなので、その画面キャプチャーを貼り付けるのは合法だろうと思われるので図表3に示す。

図表3:NHK中国人スタッフだった人と思われる「胡越」

 

出典:鳳凰網のWeibo

出典:鳳凰網のWeibo

 

事件が起きたのは8月19日。

NHKは公共放送だ。

事件発覚後すぐに動いたならば、この中国人スタッフを何らかの形で拘束もしくは出国停止することなどはできたはずだ。たとえば「事件の解決が終わるまで、パスポートを一時預かる」ということなどは簡単にできる措置だ。しかしNHKも日本政府も警察も、このような「絶対にあってはならないこと」が起きたにもかかわらず、何もしていない!

だから「胡越」という名と思われる元NHK中国人外部スタッフは、やすやすと出国したらしく、8月26日、下記のWeiboを中国から発信している。Weiboに書かれている文章を以下に記す。

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 归零,归来,平安,勿念。(ゼロに戻った、帰ってきた、平安だ、ご放念を)

 22年,22秒。(22年間、22秒間)

 相信冥冥之中,有种力量。(どこかに力があると信じている)

 不回应,一切都已浓缩在22秒,(返答せず、全ては既に22秒間に濃縮した)

 包括所有的真实和真相,(あらゆる真実と真相を含めて)

 过去,现在,乃至未来。(過去、現在、そして未来)

 既然选择挺身而出,(前に進むことを選択した以上)

 就必定坦然面对。(冷静に向き合わねばならない)

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22年間勤務したNHKに背き、「あってはならないこと」を実行した人物を、NHKも日本政府も警察も公安も、何もしないで「犯罪人引渡条約」がない中国へと安全に送り還している。

これがわが国、日本の実態だ。

自民党総裁立候補者よ、勇ましいことを言ってはいけない。

日本を犯罪者天国、スパイ天国に創り上げているのは、あなたがたご自身ではないのか。

このようなことが進行している中、二階俊博会長(自民党元幹事長)に引率された超党派で作る日中友好議員連盟一同が訪中した。加えて中国軍機による領空侵犯がなされたというのに、毅然と訪中を中止することもなく、頭を下げに行く。

これで日本が舐められないような未来が来るはずがないだろう。

この論考はYahoo!ニュース エキスパートより転載しました。

1941年中国生まれ。中国革命戦を経験し1953年に日本帰国。「中国問題グローバル研究所」所長。筑波大学名誉教授、理学博士。中国社会科学院社会学研究所客員研究員・教授などを歴任。日本文藝家協会会員。著書に『習近平が狙う「米一極から多極化へ」 台湾有事を創り出すのはCIAだ!』(ビジネス社)、『習近平三期目の狙いと新チャイナ・セブン』(PHP新書)、『もうひとつのジェノサイド 長春の惨劇「チャーズ」』(実業之日本社)、『ウクライナ戦争における中国の対ロシア戦略 世界はどう変わるのか』(PHP)、『裏切りと陰謀の中国共産党建党100年秘史 習近平 父を破滅させた鄧小平への復讐』(ビジネス社)、『ポストコロナの米中覇権とデジタル人民元』(遠藤 誉 (著), 白井 一成 (著), 中国問題グローバル研究所 (編集)、実業之日本社)、『米中貿易戦争の裏側 東アジアの地殻変動を読み解く』(毎日新聞出版)、『「中国製造2025」の衝撃 習近平はいま何を目論んでいるのか』、『毛沢東 日本軍と共謀した男』(中文版・韓国語版もあり)、『チャイナ・セブン <紅い皇帝>習近平』、『チャイナ・ナイン 中国を動かす9人の男たち』、『ネット大国中国 言論をめぐる攻防』、『中国動漫新人類 日本のアニメと漫画が中国を動かす』『中国がシリコンバレーとつながるとき』など多数。2024年6月初旬に『嗤(わら)う習近平の白い牙』(ビジネス社)を出版予定。 // Born in 1941 in China. After surviving the Chinese Revolutionary War, she moved to Japan in 1953. Director of Global Research Institute on Chinese Issues, Professor Emeritus at the University of Tsukuba, Doctor of Science. Member of the Japan Writers Association. She successively fulfilled the posts of guest researcher and professor at the Institute of Sociology, Chinese Academy of Social Sciences. Her publications include “Inside US-China Trade War” (Mainichi Shimbun Publishing), “’Chugoku Seizo 2025’ no Shogeki, Shukinpei ha Ima Nani o Mokurondeirunoka (Impact of “Made in China 2025” What is Xi Jinping aiming at Now?), “Motakuto Nihongun to Kyoboshita Otoko (Mao Zedong: The Man Who Conspired with the Japanese Army),” “Japanese Girl at the Siege of Changchun (including Chinese versions),” “Net Taikoku Chugogu, Genron o Meguru Koubou (Net Superpower China: Battle over Speech),” “Chugoku Doman Shinjinrui: Nihon no Anime to Manga ga Chugoku o Ugokasu (The New Breed of Chinese “Dongman”: Japanese Cartoons and Comics Animate China),” “Chugogu ga Shirikonbare to Tsunagarutoki (When China Gets Connected with Silicon Valley),” and many other books.

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