言語別アーカイブ
基本操作
中国 ガザ紛争に関するG7外相声明の欺瞞性を批判
G7外相会合 東京(写真:代表撮影/ロイター/アフロ)
G7外相会合 東京(写真:代表撮影/ロイター/アフロ)

11月7日から東京で開催され8日に共同声明を発表したG7外相会合に関して、ガザ紛争に対する声明の欺瞞性とダブルスタンダードを批判する声が中国のネットに溢れている。

急降下する岸田首相の支持率の中、筆者自身、せめて上川外相の活躍をと期待したが、共同声明を出せるか否かに力を注いだだけで、あの比類なき残虐無残さでガザの民の命を奪うイスラエルの攻撃を止める役割は果たし得ない。

初日にアメリカのブリンケン国務長官との対談でハマスの急襲攻撃に対して上川外相が「あれはテロです!アメリカの見解に全面的に賛同します!」という趣旨のことを「力強く」表明した段階で、「ああ、これはダメだ」と失望した。拉致はもちろん許されないが、しかしハマスの襲撃は1948年以来のパレスチナ人に対する不当な虐待と「パレスチナの地」からパレスチナ人を追い出し、アメリカの軍事力を背景に横暴を極めてきたイスラエルへの抵抗運動だ。その根源から目をそらしアメリカにおもねる日本の姿勢に実に失望したのである。

北京に戻って大学で教えている昔の教え子が「日本が“G6と日本”という形になったとき、お、日本、やるな!また強くなるかなと、一瞬思いました」という便りを寄せてきた。

◆強引に一致点に漕ぎ着けようとしたため説得力に欠ける

11月8日の中国新聞網は<G7外相会合共同声明 「人道主義に基づく一時休戦」を支持>という見出しの記事を報道し、中国のように「即時停戦は呼びかけていない」とした上で、世界主要メディアの報道を紹介している。

●CNN(アメリカ):声明は救援物資の輸送、民間人の移動、被拘禁者の釈放を促進するための「人道的一時停止」への支持を表明したが、停戦は求めなかった。G7諸国は互いに協力して、ガザ地区の持続可能な長期的解決策を策定し、より広範な和平プロセスに戻り2国家共存解決を目指すと言ってはいるが、しかし、G7が停戦を拒否したことで、アラブ諸国などと対立する結果を招いている。

●AFP(フランス):G7外相たちは「イスラエルには国際法に基づいて自己防衛をする権利がある」と強調した。なぜならイスラエルは、10月7日のハマスによるイスラエル攻撃の再発を防ごうとしているからだという認識で一致している。

●ロイター通信:G7は「イスラエル・パレスチナ紛争の確固たる統一的解決に苦慮しているようで、重大な危機に対応する能力に欠けているのではないか」という疑問を、人々に投げかけている。G7は国連においても二分されており、10月26日の国連においてフランスは人道的停戦を求める決議案に賛成票を投じ、アメリカは反対票を投じ、他のG7加盟国は棄権した。(引用以上)

中国新聞網は中国自身の視点を書いてないが、しかしここから読み取れるのは、G7各国は本当はここまで意見が異なるのに、強引に一致点に漕ぎ着けようとしたため、説得力を失い、問題解決には何の役にも立っていないことが見えてくる。

◆G7の欺瞞とダブルスタンダード

11月10日の「実事大家談(実際のことをみんなで話そうよ)」というウェブサイトはストレートだ。<G7の欺瞞:イスラエル・パレスチナ危機に直面して「停戦」ではなく「人道主義的一時休戦」を呼びかける>という見出しで、G7外相会合の共同声明を批判している。以下、報道内容を略記する。

1.G7共同声明のおざなりな態度

この声明はイスラエル・パレスチナ紛争に多くのスペースを割いているにも拘(かか)わらず、イスラエルに対してガザでの軍事作戦に「人道主義」を考慮するようにと軽く促しているだけだ。G7は、国際社会が人道的停戦の即時を求める声を強めることを避けてきた。

2.G7のダブルスタンダード

G7グループは共同声明の中で、他国を非難する時には人道や道徳などの点で激しく相手を責めているが、しかし現実に人道的大惨事が起き、何としても国際社会の力でそれを食い止めなければならない時には躊躇する。「無辜のパレスチナ人の命の尊厳と緊急な救済」が必要な時に、「政治的打算」の方を躊躇なく選んだ。

3.米国とG7の真の動機

アメリカもG7もイスラエルに影響力を行使できないわけではなく、イスラエル・パレスチナ問題に介入する能力も持っている。しかし、彼らはガザにおけるイスラエルの軍事作戦を黙認し、あるいは容認することさえ選択している。その理由は単純で、中東における戦略的利益と同様に、イスラエルに対する影響力を失うことを恐れているからだ。

4.国際社会の対応

G7の欺瞞的な顔を前にして、国際社会は正義の側に決然と立ち、即時停戦とパレスチナ民間人の支援を果敢に推進しなければならない。同時に、G7の欺瞞を暴き、人道問題におけるダブルスタンダードをより多くの人々に認識させる必要がある。ガザ地区の人道的大惨事はエスカレートし続けており、国際社会は停戦を切望している。しかしアメリカとG7は共同声明で「停戦」という言葉を避け、イスラエルに対する「人道主義」を呼びかけるにとどまった。この問題に関して、G7の欺瞞性を国際社会に対して明らかにし、パレスチナの民間人のための人道的停戦と和平を推し進めるよう呼びかけたい。

◆G6(日本を除くG7)の共同声明に希望を見出した中国人元留学生

冒頭にも書いた昔の教え子で、今では北京の有名大学で教授として教鞭を執っている中国人元留学生が、「日本を除くG7」=G6が10月22日に「イスラエルの自衛権を認めて支持する」共同声明を発表したことに関して、「うわっ、凄い!日本、やるじゃん!アメリカの言いなりにならない日本ってカッコいい!」と思ったと便りを寄こしてきた。 

1980年代や90年代は、日本留学は中国の若者の憧れで、帰国した90年代末当時はまだ、日本留学が自慢だったようだ。しかし今では「日本留学」であることを恥ずかしく思わなければならないような状況にある。学生からバカにされるので、あまり知られないようにしているという。

先般、日本が初めてアメリカの言いなりにはならなかったことから、「もしかしたら日本はまた強くなってくれるかもしれない」と希望を抱いたそうだ。しかしそれは束の間のできごとで、G7の外相声明を知って、やはり日本に留学したことはあまり知られないようにしようと、肩身の狭い思いをしていると落胆していた。

そう言えば、10月22日以降しばらくの間、中国のSNSウェイボー(微博)でG6に関するコメントをよく見かけたように思う。やはり「日本、たまには良いことをやる」という趣旨のことが書いてあったり、「また昔のように強くなるのかな」というものもあったりした。それも瞬く間に消えて、「美国的走狗(アメリカの犬)」に戻ってしまった。

ロシアがウクライナの民に対して残虐な攻撃を加えていた時、西側諸国はこぞってロシアの非人道性を非難した。

しかし今、イスラエルがロシアの比ではない、人類としてあり得ないような残虐を極める攻撃をパレスチナの子供や赤ちゃんや老人にも続けているのを見て、それを緊急に阻止させるどころか、アメリカなどは強烈な軍事支援をしているではないか。赤ちゃんを殺すために「もっとやれ」とばかりに応援しているということになる。

胸がつぶれそうで苦しくて、そのような画面を直視することさえできない。

しかもパレスチナ人は1948年からイスラエルに「パレスチナの地」を追われて難民となり、土地を奪われ虐殺され迫害され続けてきた。ガザ地区などは高い壁に囲まれて、そこから出ることさえ許されず、食糧や電力を断たれた中であえいでいる。その状況で間断なく最強の兵器で爆撃し続けるなど、人間のやることではない。人類として許されてはならないことだ。

イスラエルの国防関係者は「あの壁の中にいるのは獣だ」と豪語したことがある。したがって「人道」を考える必要はないという流れでの発言だった。

ナチスドイツにユダヤ人が迫害された時には、中東でも温かく亡命したユダヤ人を迎えたからこそ、パレスチナの地にユダヤ人も居住できたはずだ。

アメリカの金融を支え、アメリカの大統領選を動かすユダヤ人に対して、アメリカがイスラエルの要望通りに、不平等にも、パレスチナ人の尊厳を認めないことがもたらした悲劇だ。

中立になれる、滅多にない機会を逃し、日本はアメリカの走狗になり、欺瞞とダブルスタンダードの側に立っている。無念でならない。

この論考はYahooから転載しました。

1941年中国生まれ。中国革命戦を経験し1953年に日本帰国。「中国問題グローバル研究所」所長。筑波大学名誉教授、理学博士。中国社会科学院社会学研究所客員研究員・教授などを歴任。日本文藝家協会会員。著書に『習近平が狙う「米一極から多極化へ」 台湾有事を創り出すのはCIAだ!』(ビジネス社)、『習近平三期目の狙いと新チャイナ・セブン』(PHP新書)、『もうひとつのジェノサイド 長春の惨劇「チャーズ」』(実業之日本社)、『ウクライナ戦争における中国の対ロシア戦略 世界はどう変わるのか』(PHP)、『裏切りと陰謀の中国共産党建党100年秘史 習近平 父を破滅させた鄧小平への復讐』(ビジネス社)、『ポストコロナの米中覇権とデジタル人民元』(遠藤 誉 (著), 白井 一成 (著), 中国問題グローバル研究所 (編集)、実業之日本社)、『米中貿易戦争の裏側 東アジアの地殻変動を読み解く』(毎日新聞出版)、『「中国製造2025」の衝撃 習近平はいま何を目論んでいるのか』、『毛沢東 日本軍と共謀した男』(中文版・韓国語版もあり)、『チャイナ・セブン <紅い皇帝>習近平』、『チャイナ・ナイン 中国を動かす9人の男たち』、『ネット大国中国 言論をめぐる攻防』、『中国動漫新人類 日本のアニメと漫画が中国を動かす』『中国がシリコンバレーとつながるとき』など多数。2024年6月初旬に『嗤(わら)う習近平の白い牙』(ビジネス社)を出版予定。 // Born in 1941 in China. After surviving the Chinese Revolutionary War, she moved to Japan in 1953. Director of Global Research Institute on Chinese Issues, Professor Emeritus at the University of Tsukuba, Doctor of Science. Member of the Japan Writers Association. She successively fulfilled the posts of guest researcher and professor at the Institute of Sociology, Chinese Academy of Social Sciences. Her publications include “Inside US-China Trade War” (Mainichi Shimbun Publishing), “’Chugoku Seizo 2025’ no Shogeki, Shukinpei ha Ima Nani o Mokurondeirunoka (Impact of “Made in China 2025” What is Xi Jinping aiming at Now?), “Motakuto Nihongun to Kyoboshita Otoko (Mao Zedong: The Man Who Conspired with the Japanese Army),” “Japanese Girl at the Siege of Changchun (including Chinese versions),” “Net Taikoku Chugogu, Genron o Meguru Koubou (Net Superpower China: Battle over Speech),” “Chugoku Doman Shinjinrui: Nihon no Anime to Manga ga Chugoku o Ugokasu (The New Breed of Chinese “Dongman”: Japanese Cartoons and Comics Animate China),” “Chugogu ga Shirikonbare to Tsunagarutoki (When China Gets Connected with Silicon Valley),” and many other books.

カテゴリー

最近の投稿

RSS