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ウクライナのNATO加盟に消極的な発言をしたバイデン大統領は、台湾選挙民を親中に向かわせるか?
訪米したNATO事務総長と会談するバイデン大統領
訪米したNATO事務総長と会談するバイデン大統領

7月12日に閉幕したNATO首脳会議では、ウクライナのNATO加盟に関し具体的な時期は示されず、特にバイデン大統領の躊躇が目立った。それは来年1月の台湾の総統選に対して影響をもたらし、今年7月16日に開催される野党連合の抗議デモを活気づけるのではないだろうか。

◆結局は躊躇したバイデン大統領

リトアニアで開かれていたNATO首脳会議は12日に閉幕し、ウクライナのNATO加盟に関しては結局、具体的な時期までは示せないまま終わった。ウクライナへの長期的な支援をすることでは合意し、加盟手続きに必要なプロセスが短縮されることになったものの、加盟の条件として「NATO加盟国全員が同意すること」が要求されており、果たしてその日が来るのか否かは誰にもわからない。

アメリカのバイデン大統領は7月7日のCNNの単独取材を受けて<ウクライナのNATO加盟検討には戦争終結が必要>と語っていたことが10日の報道で明らかになった。リンク先のビデオで、バイデンは以下のようにも語っている。

●私はウクライナをNATOに加えるかどうかについて、現時点で戦争のさなかに、NATO内で意見が一致しているとは思わない。

●もしウクライナがNATOに加盟した場合、NATOは加盟国の領土を隅々まで守るので、戦争が行われている場合には、NATO加盟国全てがロシアと戦争状態になる。

●ゼレンスキー(大統領)と長時間にわたって電話で話したが、彼には手続きが継続する間、アメリカやNATOはウクライナに安全保障と武器を供与し続けると伝えた。(取材の概略は以上)

一方、NATO首脳会議のあと、ストルテンベルグ事務総長は、ウクライナがNATO加盟に向けた課題などを対等な立場で話し合うことが出来る「NATOウクライナ理事会」を新設すると宣言したが、それが加盟時期を早めることが出来るか否かに関しては言及していない。従って、加盟までにどれくらいかかるのか、あるいは最終的に加盟出来るのか否かは、やはり定かではない。

◆台湾では7月16日に野党連合の抗議デモ

この結果を、ウクライナの次に強い関心を持って見守っていたのは台湾の選挙民たちではなかっただろうか。

実は台湾では7月16日に野党が連合した現政権への抗議デモが行われることになっている。

筆者が所長を務めるシンクタンク中国問題グローバル研究所の台湾代表・研究員で、淡江大学中国大陸研究所の陳建甫所長は、7月12日に<Taiwan’s Opposition Parties: A Protest March or a Carnival for Fairness and Justice?(台湾の野党:抗議デモあるいは公平と正義のためのカーニバル?)>という論考を書いている。

それによれば、現在の与党である民進党以外の全ての野党が集まって「716台北大規模デモ」を行うという。これは来年1月に行われる「中華民国」総統選に立候補する全ての野党や立候補者の支援団体や党派も含んでいるため、場合によっては「反民進党大連盟」ができ上るかもしれない。

拙著『習近平が狙う「米一極から多極化へ」 台湾有事を創り出すのはCIAだ!』の【第五章 台湾問題の真相と台湾民意】で詳述しているように、現在総統選に立候補しているのは与党・民進党で独立色の強い頼清徳(らい・せいとく)氏(民進党主席)と野党・国民党の侯友宜(こう・ゆうぎ)氏(新北市市長)と台湾民衆党の柯文哲(か・ぶんてつ)氏(台湾民衆党党首)なのだが、どの党派にも属さない郭台銘(テリー・ゴウ)氏が、単独で総統選を闘うべく支援者などを組織しているので、彼も立候補者の一人になり得る。

与党・民進党以外の、そういった政党や支援者たちが一堂に集まるので、台湾では「716台北大規模デモ」を「総統選における与党に反対する統一戦線のプラットフォーム」だという風に位置づけている。

くり返すが、与党の民進党は「台湾独立」傾向が強く、親米だ。

野党は、必ずしも「親中」とはいかないまでも、「独立」を叫ぶことはない。

独立を叫べば、中国大陸側が「反国家分裂法」により、台湾を武力攻撃する可能性が高まる。

だから、経済力で中国に勝てそうにないアメリカは、何としても習近平に台湾を武力攻撃させ、台湾を第二のウクライナへと追いやろうとしていると、野党の多くはみなしている。だから平和裏に経済的に提携していこうという人たちが多い。

ウクライナ戦争が始まって以来のアメリカの一挙手一投足を、少しでも見逃すまいと観察し続けているのだが、アメリカがアメリカ人兵士を一人たりともウクライナの戦場に送ることなく、ひたすら武器の供与(売却?)のみを続けているのを実感し、台湾が戦場になっても同じことをするだろうという「疑米論」が広がっているのだ。

◆バイデンは自ら「自分の夢を砕く」発言をしていないか?

そこに、今般のウクライナNATO加盟に関するバイデンの発言があったものだから、この「716台北大規模デモ」をプラットフォームとして、来年1月の総統選挙では、「反独立派」の大連合ができ上るかもしれないのである。

独立を叫びさえしなければ、中国大陸側は台湾を武力攻撃しては来ない。

習近平としては、国連で「一つの中国」が認められているので、独立を叫ばなければ、台湾を武力攻撃などする理由は皆無だ。そのことをテリー・ゴウが4月の時点で明言している。鴻海(ホンハイ)精密工業の創設者だけあって、長いこと大陸で仕事をしていたから、大陸のことをよく分かっている(このことは『習近平が狙う「米一極から多極化へ」 台湾有事を創り出すのはCIAだ!』のp.220に書いた)。

台湾はアメリカが積極的に中国(中華人民共和国)を国連に加盟させ、同時に「一つの中国」を承認しているために、「中華民国」として国連を脱退せざるを得ないところに追い込まれた。米中国交が正常化した日に、アメリカは「中華民国」と国交断絶もしている。したがって台湾としては、ウクライナのように「一国家として」、何かしらの「(NATOのような)集団的自衛権が確保される軍事同盟」に入る資格がそもそもない。あるのは唯一、アメリカが「中華民国」と国交断絶したときにアメリカの国内法で定めた台湾関係法だけだ。台湾関係法により、アメリカは台湾に武器を売却する権利を持っている。

しかしウクライナと同じように、アメリカ軍が一人でも台湾の戦場に来て台湾のために戦ってくれるという可能性はないだろうと、台湾の多くの人たちは考えている。戦うのは台湾人でしかない(実は日本には世界で最大のアメリカ軍基地があるので、命を捨てて戦うのは台湾人と日本人だけかもしれない)。

となれば、台湾の選挙民は「戦争にならない道」を選択するだろう。

それはすなわち、中国大陸と仲良くし、経済繁栄だけをしていく選択となる。

バイデンとしてはロシアを潰し、次に何としても中国を潰そうとしているが、果たしてその夢は叶えられるだろうか?

CNNの単独取材への回答は、自らの夢を砕く結果を招くかもしれない。

7月16日の野党大連合デモの成り行きを見守りたい。

追記:そもそもバイデンは副大統領だった2009年7月にウクライナを訪問して、「ウクライナのNATO加盟を強く支持する」と発言。誰も相手にしなかったが、2013年末から2014年初頭にかけてマイダン革命を起こさせてウクライナの親露派政権を転覆させ、新しく誕生させた親米政権に対して「NATO加盟を首相の努力義務とする」という文言をウクライナ憲法に盛り込ませた。他国への干渉という意味で国際法違反までしてウクライナ戦争勃発を誘導しておきながら、戦争が始まったら「ウクライナはNATO加盟国ではないのでアメリカは参戦しない」と言い、今度は「戦争中なのでウクライナのNATO加盟は適切でない」と主張するなど、やりたい放題だ。台湾がアメリカを信用するなどということが出来るはずがないだろう。命がかかっているのだから。日本人の命もかかっていることを忘れないでほしい。ウクライナも台湾も日本も、バイデンにとっては「駒の一つ」に過ぎない。

 

この論考はYahooから転載しました。

1941年中国生まれ。中国革命戦を経験し1953年に日本帰国。「中国問題グローバル研究所」所長。筑波大学名誉教授、理学博士。中国社会科学院社会学研究所客員研究員・教授などを歴任。日本文藝家協会会員。著書に『習近平が狙う「米一極から多極化へ」 台湾有事を創り出すのはCIAだ!』(ビジネス社)、『習近平三期目の狙いと新チャイナ・セブン』(PHP新書)、『もうひとつのジェノサイド 長春の惨劇「チャーズ」』(実業之日本社)、『ウクライナ戦争における中国の対ロシア戦略 世界はどう変わるのか』(PHP)、『裏切りと陰謀の中国共産党建党100年秘史 習近平 父を破滅させた鄧小平への復讐』(ビジネス社)、『ポストコロナの米中覇権とデジタル人民元』(遠藤 誉 (著), 白井 一成 (著), 中国問題グローバル研究所 (編集)、実業之日本社)、『米中貿易戦争の裏側 東アジアの地殻変動を読み解く』(毎日新聞出版)、『「中国製造2025」の衝撃 習近平はいま何を目論んでいるのか』、『毛沢東 日本軍と共謀した男』(中文版・韓国語版もあり)、『チャイナ・セブン <紅い皇帝>習近平』、『チャイナ・ナイン 中国を動かす9人の男たち』、『ネット大国中国 言論をめぐる攻防』、『中国動漫新人類 日本のアニメと漫画が中国を動かす』『中国がシリコンバレーとつながるとき』など多数。2024年6月初旬に『嗤(わら)う習近平の白い牙』(ビジネス社)を出版予定。 // Born in 1941 in China. After surviving the Chinese Revolutionary War, she moved to Japan in 1953. Director of Global Research Institute on Chinese Issues, Professor Emeritus at the University of Tsukuba, Doctor of Science. Member of the Japan Writers Association. She successively fulfilled the posts of guest researcher and professor at the Institute of Sociology, Chinese Academy of Social Sciences. Her publications include “Inside US-China Trade War” (Mainichi Shimbun Publishing), “’Chugoku Seizo 2025’ no Shogeki, Shukinpei ha Ima Nani o Mokurondeirunoka (Impact of “Made in China 2025” What is Xi Jinping aiming at Now?), “Motakuto Nihongun to Kyoboshita Otoko (Mao Zedong: The Man Who Conspired with the Japanese Army),” “Japanese Girl at the Siege of Changchun (including Chinese versions),” “Net Taikoku Chugogu, Genron o Meguru Koubou (Net Superpower China: Battle over Speech),” “Chugoku Doman Shinjinrui: Nihon no Anime to Manga ga Chugoku o Ugokasu (The New Breed of Chinese “Dongman”: Japanese Cartoons and Comics Animate China),” “Chugogu ga Shirikonbare to Tsunagarutoki (When China Gets Connected with Silicon Valley),” and many other books.

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