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台湾民意調査「アメリカの対中対抗のために利用されたくない」
台湾軍の軍事演習(写真:ロイター/アフロ)
台湾軍の軍事演習(写真:ロイター/アフロ)

1月12日に発表された台湾の民意調査では「大陸への駒としてアメリカに利用されたくない」や「大陸と対立するのは台湾に不利」といった回答が多かった。日米が盛んに台湾有事を叫ぶ現状と乖離している。

◆民進党や国民党への支持率

まず台湾人の(独立傾向の強い)民進党や(親中傾向の強い)国民党への支持率が現時点でどのくらいあるのかを見てみよう。以下に示すのは台湾民意基金会が2022年12月に最終調査をした政党支持率の結果である。あまりに横に長くこのコラムのページに入らないので、2019年2月からのみを日本語に訳して掲載する。

台湾民意基金会のデータの一部を筆者が和訳して作成

緑が民進党、藍が国民党で、灰色は無党派だ。

昨年11月26日に統一地方選挙で民進党が大敗したことからうかがえるように、民進党支持率が激減し、国民党支持率が激増している。

無党派層が同じ値で拮抗しているので、この状況での民意調査は中立的民意を反映している傾向にあると判断できる。

統一地方選挙は総統選と違い、「対中問題」が中心ではなく、各地方における民衆の生活に対する意思表明だったが、それでも筆者が台湾に戻っている複数の教え子たちに聞いてみたところ、「民進党の極端な対中強硬路線は台湾を幸せにしない」として、昨年8月のペロシ(元)米下院議長の訪台を挙げる者が多かった。

たしかに政党支持率では、ペロシ訪台後の9月の調査以降から、国民党の支持率が増え、民進党の支持率が落ちている。

これが来年1月の総統選に影響するか否か、誰もが気になるところだ。

そこで、当然のように、今度は「対中問題」を中心とした民意調査が行われたので、その結果を分析してみることにしよう。

◆「アメリカは台湾を、大陸を挑発する駒として利用するな」という民意

今年1月12日に、対中問題を中心とした民意調査が行われた。実施母体は民主文教基金会で、委託を受けたのはアポロ・マーケティング・リサーチだ。

本コラムのページの関係上、質問事項を4つずつに区切って、番号に合わせて回答を円グラフで示すことにする。但し、たとえば「非常に賛成」と「まあ、賛成」は「賛成」にまとめ、「絶対反対」と「まあ、反対」は「反対」としてまとめた。

では、最初の4つの質問とその回答結果を以下に示す。

1.中共は以前と同じように、九二コンセンサスを前提として両岸交流対話を再開しようとしていますが、両岸関係を正常に戻すことに、あなたは賛成しますか?(筆者注:「九二コンセンサス」とは中国語で「九二共識」と書き、1992年に達成した合意で、中華人民共和国も中華民国も「一つの中国」を堅持し、その解釈に関しては各自の解釈を認めるということを指す。)

2.執政党の民進党は、九二コンセンサスを認めず、いかなる前提も設けずに両岸交流対話をしようとしていますが、あなたはどう思いますか?

3.中共と民進党では、両岸交流対話の立場と態度が完全に異なりますが、この状態で両岸交流対話の可能性は高くなると思いますか?

4.もし両岸の衝突対立が継続し、交流対話がないとしたら、それは台湾に不利になりますか、それとも中国大陸に不利になりますか?

民主文教基金会のデータの一部を筆者が和訳して作成

つぎの4つの質問と回答結果を以下に示す。

5.中共は、民進党は様々な手段で台湾独立を進めようとしているとみなし、両岸の緊張が高まっていますが、あなたは民進党が局面を打開できると思いますか?

6.「抗中保台(中国に対抗してこそ台湾を防衛することができる)」と言う人と、「抗中保台は戦争を招き、台湾を防衛することはできない」と言う人がいます。あなたは「抗中保台」を支持しますか?

7.「和中保台(中国と良好な関係を保っていてこそ台湾を防衛することができる)」と言う人と、「和中保台などしたら逆に統一されてしまう」と言う人がいます。あなたは「和中保台」を支持しますか?

8.「抗中保台」と「和中保台」のどちらが台湾に有利ですか?

民主文教基金会のデータの一部を筆者が和訳して作成

最後の3つの質問と回答を以下に示す。

9.「アメリカは一つの中国政策を守り台湾独立を支持しないと言いながら、実際は台湾を利用して中国大陸を牽制しようとしている」と言う人たちがいますが、あなたは「アメリカは台湾を利用して中国をけん制している」と思いますか?

10.「アメリカを信頼し、親米になってこそ台湾を防衛できる」と言う人がいますが、あなたはこの主張に賛成しますか?

11.「アメリカを完全に信用してはならない。アメリカと距離を置かなければならない。そうしてこそ台湾は米中対立による衝突に巻き込まれないようにすることができる」と言う人がいますが、あなたはこの主張に賛成しますか?

民主文教基金会のデータの一部を筆者が和訳して作成

以上から、台湾人の多くは以下のように思っていることがわかる。

  • 多くの台湾人は、米中の覇権争いのために、アメリカが台湾を駒として利用していると認識している。
  • アメリカが中国大陸を牽制するために、台湾人が戦争に巻き込まれることを台湾人は嫌がっている。だからアメリカに近づかない方がいいと思っている人が多い。
  • 中国大陸と対立し続けるのは台湾に不利なので、「抗中保台」より「和中保台」を望む人が多い。

◆日米が言うところの「台湾有事」のための備えは誰のためのものか?

となると、いったい日米が進める「台湾有事」とそのための軍備増強は何のためにあるのかということになる。

拙著『ウクライナ戦争における中国の対ロシア戦略』『習近平三期目の狙いと新チャイナ・セブン』にも書いているように、中国は平和統一を望んでいる。ただし台湾が日米の支援などを受けて、中華民国政府として「独立」を叫ぶようならば、その時には武力攻撃を辞さない。そのために2005年に制定された「反国家分裂法」がある。

中国が平和統一を望む理由はいくらでもある。

  • 武力統一などしたら、統一後に中国共産党を嫌悪する台湾人を大量に生み、一党支配体制を危機に追いやる。だから武力攻撃は避けたい。
  • 中国の軍事力はまだ十分ではないので、もしかしたら負けるかもしれないような戦に中国は絶対に挑まない。

ならば、なぜ軍事演習をするかというと、アメリカが政府高官などを訪台させて、台湾の独立をそそのかしているからだ。その証拠に親中の馬英九政権の時には中国は一度も台湾周辺で軍事演習をしたことがなく、それどころか2015年11月には、習近平と馬英九は約70年ぶりの国共両党党首会談を行ったほどだ。

日本が独立国家として軍事力を強化するのは悪いことではない。

しかし、その口実に「台湾有事」を持ってきて、わざわざ戦争に巻き込まれるようなことをするのは賢明ではない。その意味では台湾人の方がずっと賢明で、事態を良く分かっている。

日本も同様の民意調査をすると、日本の認識の甘さが浮き彫りになってくるかもしれない。

戦争を起こして得をするのは誰か?

唯一、アメリカだ。

アメリカの軍事産業が潤い、さらに中国に制裁をかけることができるので、中国の経済発展を阻止させ、アメリカがいつまでも世界一でいられる。

この事実を見極め、「命を失うのは日本人なのだ」ということを直視してほしい。第二のウクライナはごめんだ。

追記:そもそも中国を強大化させる原因を作ったのは日本だ。

1989年の天安門事件後の対中経済封鎖を日本は最初に解除して中国の経済繁栄を招いた。その結果、中国は軍事大国にもなってしまった。

1992年には中国が領海法を制定して、「日本の領土である尖閣諸島」を「中国の領土領海と定めた」のに、それには全く抗議せず、それどころか天皇陛下訪中まで実現させたではないか?だから中国船がどんなに尖閣諸島周辺海域に侵入しても「遺憾である」としか言えないではないか。

遡れば1972年には日中国交正常化のために「中華民国」と喜んで断交したのは日本ではないのか?だからこそこんにちの台湾問題が生まれている。

戦略もなく前後の見境もなく、中国共産党が支配する中国大陸に貢献し続けたのは日本だ。その根本原因を直視せずに台湾有事を語る日本の曖昧性と矛盾には、危険が詰まっている。しかも日本の最大貿易相手国は中国という、動きが取れない状況を抱えながらアメリカの利害にのみ従う日本の姿勢が、日本国民をどのような結末に追い込んでいくかを、日本は考えるべきではないのか。

歴史の過ちをくり返すなと言いたい。

1941年中国生まれ。中国革命戦を経験し1953年に日本帰国。「中国問題グローバル研究所」所長。筑波大学名誉教授、理学博士。中国社会科学院社会学研究所客員研究員・教授などを歴任。日本文藝家協会会員。著書に『習近平三期目の狙いと新チャイナ・セブン』(2022年12月中旬発売。PHP新書)、『もうひとつのジェノサイド 長春の惨劇「チャーズ」』(実業之日本社)、『ウクライナ戦争における中国の対ロシア戦略 世界はどう変わるのか』(PHP)、『裏切りと陰謀の中国共産党建党100年秘史 習近平 父を破滅させた鄧小平への復讐』(ビジネス社)、『ポストコロナの米中覇権とデジタル人民元』(遠藤 誉 (著), 白井 一成 (著), 中国問題グローバル研究所 (編集)、実業之日本社)、『米中貿易戦争の裏側 東アジアの地殻変動を読み解く』(毎日新聞出版)、『「中国製造2025」の衝撃 習近平はいま何を目論んでいるのか』、『毛沢東 日本軍と共謀した男』(中文版・韓国語版もあり)、『チャイナ・セブン <紅い皇帝>習近平』、『チャイナ・ナイン 中国を動かす9人の男たち』、『ネット大国中国 言論をめぐる攻防』、『中国動漫新人類 日本のアニメと漫画が中国を動かす』『中国がシリコンバレーとつながるとき』など多数。 // Born in 1941 in China. After surviving the Chinese Revolutionary War, she moved to Japan in 1953. Director of Global Research Institute on Chinese Issues, Professor Emeritus at the University of Tsukuba, Doctor of Science. Member of the Japan Writers Association. She successively fulfilled the posts of guest researcher and professor at the Institute of Sociology, Chinese Academy of Social Sciences. Her publications include “Inside US-China Trade War” (Mainichi Shimbun Publishing), “’Chugoku Seizo 2025’ no Shogeki, Shukinpei ha Ima Nani o Mokurondeirunoka (Impact of “Made in China 2025” What is Xi Jinping aiming at Now?), “Motakuto Nihongun to Kyoboshita Otoko (Mao Zedong: The Man Who Conspired with the Japanese Army),” “Japanese Girl at the Siege of Changchun (including Chinese versions),” “Net Taikoku Chugogu, Genron o Meguru Koubou (Net Superpower China: Battle over Speech),” “Chugoku Doman Shinjinrui: Nihon no Anime to Manga ga Chugoku o Ugokasu (The New Breed of Chinese “Dongman”: Japanese Cartoons and Comics Animate China),” “Chugogu ga Shirikonbare to Tsunagarutoki (When China Gets Connected with Silicon Valley),” and many other books.

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