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胡錦涛中途退席の真相:胡錦涛は主席団代表なので全て事前に知っていた
胡錦涛は指先が震えて書類を持てないのでボディガードに渡そうとする栗戦書(写真:ロイター/アフロ)
胡錦涛は指先が震えて書類を持てないのでボディガードに渡そうとする栗戦書(写真:ロイター/アフロ)

第20回党大会最終日に胡錦涛が中途退席したことに関して様々噂が飛んでいるので北京の関係筋に確認した。胡錦涛は党大会を管理監督する主席団代表なので、党大会における討議内容に関しては全て事前に知っていたとのことだ。

では何が起きたのか?

◆胡錦涛事件に対するさまざまな憶測

10月22日、第20回党大会最終日の休憩時間に、胡錦涛前国家主席が中途退場するという事件が起きた。何と言っても全世界のカメラの前で起きた不可解な行動だけに、奇々怪々な解釈を含めたさまざまな憶測を呼んだ。

最も多かったのは「胡錦涛が習近平の進める人事に不満だったので、あえて全世界のカメラがある場面で、抗議の意思を、ああいう形で表明したのだ」というものだ。その憶測には、胡錦涛が見ようとしたのは人事に関するリストで、党幹部の人事案が胡錦涛には知らされていなかったので、それを見ようとしたが拒否され、習近平に追い出されるようにして退場していったという解説がついている。

中には中南海における「権力闘争の正体を見た」とか、「胡錦涛には人事リストが渡されてなかった」あるいは極端な場合には「胡錦涛にだけ偽のリストが渡されていた」という邪推も現れる始末。

なかなか止みそうにないし、筆者自身も少なからぬメディアからの取材を受けたので、北京の関係筋に電話して真相を突き止める努力をした。

◆胡錦涛はすべての資料を知っている「党大会の主席団代表」の一人

もう高齢になる党の元老幹部に電話して、「あのう・・・、実は胡錦涛に関して・・・」と言っただけで、彼は全ての情況を掌握し、筆者が何を聞きたいかも分かっていた。

中国では胡錦涛に関する情報が遮断されていると言われているが、そんなことはない。アメリカだろうが、日本だろうが、どのような邪推をしているかもよく知っていて、「なんで中国の事となると、こんなにまで詮索して、奇想天外な憶測を恥ずかしげもなく発表するんだろう。もう、そのことを、こちらが逆に聞きたいよ」とぼやいた。

何一つ説明する必要はなかった。

そして、やや怒りに満ちた声で、彼は話し始めた。

以下、Q&Aの形で問答を記す。Qはもちろん筆者で、Aは北京の元老幹部である。

A:そもそもですね、胡錦涛は党大会の主席団代表の一人なんですよ。だから何度も予備会議に参加して人事の内容も選挙の手順も熟知していて、「人事案を知らされてなかったから、そのリストを見ようとした」って、なんですか、あれは!

Q:たしかに、胡錦涛は今回の党大会の主席団代表の一人ですね。だから予め人事案も選挙方法も知ってるわけですよね?

A:知ってるどころか、主席団代表は党大会の運営を管理監督する側だから、「熟知」しているわけですよ。

Q:もちろん、中央委員会委員とかの投票も許されているんでしょ?

A:当り前じゃないですか!主席団代表は何回も予備会議を開催し、胡錦涛は資料の内容も熟知しているだけでなく、誰に投票するかも、全く彼の自由意思で選んでいいわけだし、実際に中共中央委員の投票を胡錦涛はすでに実行して終わっていた。

Q:投票結果に関して、党大会で習近平が「これでいいですね?ほかにご意見はありませんね?」と聞いたのが11時9分少し前で、異議を唱える人がいなかったので、「それではご異議がないものと認めて、第20回党大会の中央委員会委員および規律検査委員会委員の投票結果は以上といたします」と宣言したのが、11時9分だと、中国政府のウェブサイトにありますね。

A:その通りです。非常にスムーズに投票が終わった。胡錦涛も順調に投票行動を終えました。

Q:だというのに、なんでまた・・・?ウォールストリート・ジャーナルには、カメラが入って胡錦涛の行動をキャッチしたのが11時19分だという情報がありましたね。

A:ええ、私もそれは見てます。

Q:その間に何が起きたのでしょう?

A:あのですね・・・。人は歳をとれば誰でも多少はボケていきますよね・・・。あなただって私だって、いつそうなるかは分からない。

Q:ええ、私も長年にわたって母の認知症の介護をしていましたから、胡錦涛の表情を見ただけで、あ、認知症が進んでいるなと直感しました。

A:そうなんです。お気の毒なことだと思いますが、彼は認知症だけでなく、かなり前からパーキンソン病になっていて・・・。

Q:やっぱり、そうなんですね・・・。以前から歩行の仕方がおぼつかなかったですし、手先が震えていましたね。

A:その通りです、指先が震えて、たとえば紙一枚を指で挟むという動作ができないんです。だから、栗戦書がファイルを胡錦涛のボディガードに渡そうとしたのですが、それが海外メディアには「ファイルを取り上げた」と映ったのでしょう。哀しいことです。

Q:たしかに胡錦涛は、国家主席をやめてから、表立った場所に出る時に、ボディガードが付いてるし、手に何も持ちませんね。

A:ええ、指で持ったら落とすんです。指先が震えていて、紙が薄ければ薄いほど指で挟んで持つ動作ができません。だから落とすといけないから栗戦書がボディガードに渡そうとした。

Q:その前には、何が起きていたんでしょうか。

A:まあ、そこははっきりしませんが、少なくとも私の昔の部下の中に胡錦涛の秘書たちとか親族と付き合いのある人もいて、今回、胡錦涛には党大会に出席しないように親族の人が必死で頼んだのですが、胡錦涛が聞かなかったようです。で、彼の意思を尊重しないといけないと思って出席を許したのですが、胡錦涛のボディガードが、何かが起きるといけないので、ひな壇の裾の方でスタンバイしていたようですね。何と言っても世界中のカメラが向いている場面で、元国家主席ともあろう人が、失態を演じるわけにはいかない。そんなことがあったら胡錦涛も死ぬに死にきれないほどの恥をかきますし、家族も社会で生きにくくなりますね。だからそんなことが起きないように、出席を止めたけど、聞かなかった。そのため万一に備えて近くにいて、どうも危ない行動をしそうになったので、家族とボディガードが連絡し合って咄嗟に動いたようですね。

Q:そうでしたか。介護をしていると分かりますが、何もない時と、いきなり症状が悪くなる時と、たしかにありますよね。悪くなり始めると、どんどんその方向に傾いて行ったり・・・。

A:そいういうことはみんな知ってるし、胡錦涛の様子が正常ではないのは、誰でも一目見れば分かることで、ただ、何と言っても神聖な党大会ですから、習近平としても一糸乱れず進行させたかったわけで、できるだけ党大会としての威厳を保っていたかったので、周りはできるだけ取り乱さないように苦労したようです。胡錦涛の体調は、誰も皆わかってたので、会場がざわつかないように、気が付かないふりをしたり、いろいろな気遣いが飛び交ったわけですよ。

Q:たしかに、一糸乱れぬ行動を取るために、主席団がいて、予備会議を何度も開いているのに、一般の党員代表ではなく、主席団の代表が乱れると、党の沽券に関わるということにもなるでしょうね。

A:そうですよ。だから栗戦書(りつ・せんしょ)が立ち上がろうとしたのを、王滬寧(おう・こねい)がとめましたでしょ?あれは誰かが立つと「乱れた」という風に目立つので、みんな、できるだけ「何もなかった」という振りをしなければならなかったわけですよ。

Q:なるほど。その雰囲気が出ていましたね。

◆李克強国務院総理の任期は憲法で決められている

Q:海外メディアの中には、胡錦涛が、李克強が国務院総理から降ろされることに不満を抱いたため、あのような状況が起きたという人もいますが・・・

A:ああ、知ってます。それ、日本メディアです。中国の政治のイロハを知らないのでしょう。中華人民共和国憲法第八十七条には、「国務院総理や国務院副総理の任期は一期5年、最大二期までで、二期以上は許されない」と明記してあります。それを知らないのでしょう。もし胡錦涛がそのことに不満を抱いたというのなら、胡錦涛は憲法を知らないことになりますので、それは胡錦涛を侮辱した邪推に相当します。どうせ真実はわからないので、妄想を発揮して、何でも言っていいと思っているでしょうが、やがて社会が「事実」をもって、その人たちを裁くことになるでしょう。

Q:私はメディアから取材を受けて知ったのですが、胡錦涛の資料だけ、別に印刷して違う資料を渡していたと主張する人がいるようです。

A:ああ、それも日本メディアです。もしそんなことをしたら、それって犯罪行為ですから、すぐに発見されますね。それに胡錦涛は主席団代表で、何度も予備会議を開いて、資料に間違いがないことや、この内容で党大会を開いていいか否かなど、多岐にわたった議論に参加してきたのに、その予備会議でも、胡錦涛だけが分からなかったとすれば、それは胡錦涛の認知能力を、あまりにバカにした憶測になりませんか?

胡錦涛は家族の者が「出席してくれるな」と、何度も頼んでも、頑固に「出席するんだ」と言い張って、言うことを聞かなかった。会場から出たくなかったのは確かでしょう。「俺は大丈夫だ」と言い張ったのですから。

それに、もし李克強の事を気にかけて不満だとして行動したのなら、なぜ李克強は、あんなそっけない態度をとっていたのか、説明がつきませんね。

ともかく、胡錦涛は党大会が順調に進むように管理監督する主席団の代表であったことを忘れないでください。

だから、どんなことでも、予め知っていた。

その事さえ分かれば、誰が好き勝手な妄想を働かせて、「どうせ分からない」と思って虚言をまき散らしているかが分かるでしょう。

主席団の代表であったことを、その人たちに知らせてください。

そうすれば、もう、どんなデタラメも言えなくなるはずです。

以上が長い取材の結末である。

ご参考になれば幸いだ。

追記(10月31日)第20回党大会主席団243人の中にまちがいなく「胡錦涛」の名前があり、さらに主席団常務委員会委員46人の中にも「胡錦涛」の名前があることをリンク先をクリックして確認して欲しい。

筆者は『もうひとつのジェノサイド 長春の惨劇「チャーズ」』に書いた通り、中国共産党軍により1947~48年にかけて食糧封鎖を受け、餓死体の上で野宿させられ、恐怖のあまり記憶喪失になって経験を持つ。中国共産党軍の銃弾で負傷し身障者になり、家族を餓死で失ってもいる。中国が「チャーズ」の事実を改竄(ざん)しているので、事実歪曲と言論弾圧に強い怒りを覚えて生涯闘い続けている。

しかし主席団リストに書いてある「事実」は事実として認める客観性は、一方では保ち続けなければならない。主席団による予備会議の情景は、アナウンサーの解説で実際の音声は流れない形で、何度もCCTVで報道し、胡錦涛の姿も確認している。事実は事実として認める客観性があってこそ、真の中国批判をすることができ、そうしてこそ初めて、日本を守ることができるのだ。理論物理で鍛えてきた思考回路を捨てることはしない。

追記2(10月31日午後):中国の天津にいる著名な医者(小学校の時の同級生)に電話して確認したところ、「胡錦涛がパーキンソン病に罹っていることは広く知られた事実だが、パーキンソン病には末端の血流障害が見られることが多く、胡錦涛の手先を見ると、ほとんど蝋人形のように白くなっているので、紙などを手でつかむことは非常に困難だと思われる。だから栗戦書が書類をボディガードに渡そうとした」との回答があった。たしかに冒頭の写真を見ると、胡錦涛の手先は異様に白いのが見て取れる。

追記3(10月31日午後):筆者が取材をした高齢の元老幹部は、今は共産党員ではない。筆者が「チャーズ」の経験をしていることを知っており、共産党統治の言論統一が必ずしも良いとは思っていない。詳細に書くと彼の身に危険が及ぶので控える。筆者も中国に行けば逮捕される可能性があるので、習近平政権になってからは中国に行かないことにしている。コラムはその立場で書いている。

1941年中国生まれ。中国革命戦を経験し1953年に日本帰国。「中国問題グローバル研究所」所長。筑波大学名誉教授、理学博士。中国社会科学院社会学研究所客員研究員・教授などを歴任。日本文藝家協会会員。著書に『習近平が狙う「米一極から多極化へ」 台湾有事を創り出すのはCIAだ!』(ビジネス社)、『習近平三期目の狙いと新チャイナ・セブン』(PHP新書)、『もうひとつのジェノサイド 長春の惨劇「チャーズ」』(実業之日本社)、『ウクライナ戦争における中国の対ロシア戦略 世界はどう変わるのか』(PHP)、『裏切りと陰謀の中国共産党建党100年秘史 習近平 父を破滅させた鄧小平への復讐』(ビジネス社)、『ポストコロナの米中覇権とデジタル人民元』(遠藤 誉 (著), 白井 一成 (著), 中国問題グローバル研究所 (編集)、実業之日本社)、『米中貿易戦争の裏側 東アジアの地殻変動を読み解く』(毎日新聞出版)、『「中国製造2025」の衝撃 習近平はいま何を目論んでいるのか』、『毛沢東 日本軍と共謀した男』(中文版・韓国語版もあり)、『チャイナ・セブン <紅い皇帝>習近平』、『チャイナ・ナイン 中国を動かす9人の男たち』、『ネット大国中国 言論をめぐる攻防』、『中国動漫新人類 日本のアニメと漫画が中国を動かす』『中国がシリコンバレーとつながるとき』など多数。2024年6月初旬に『嗤(わら)う習近平の白い牙』(ビジネス社)を出版予定。 // Born in 1941 in China. After surviving the Chinese Revolutionary War, she moved to Japan in 1953. Director of Global Research Institute on Chinese Issues, Professor Emeritus at the University of Tsukuba, Doctor of Science. Member of the Japan Writers Association. She successively fulfilled the posts of guest researcher and professor at the Institute of Sociology, Chinese Academy of Social Sciences. Her publications include “Inside US-China Trade War” (Mainichi Shimbun Publishing), “’Chugoku Seizo 2025’ no Shogeki, Shukinpei ha Ima Nani o Mokurondeirunoka (Impact of “Made in China 2025” What is Xi Jinping aiming at Now?), “Motakuto Nihongun to Kyoboshita Otoko (Mao Zedong: The Man Who Conspired with the Japanese Army),” “Japanese Girl at the Siege of Changchun (including Chinese versions),” “Net Taikoku Chugogu, Genron o Meguru Koubou (Net Superpower China: Battle over Speech),” “Chugoku Doman Shinjinrui: Nihon no Anime to Manga ga Chugoku o Ugokasu (The New Breed of Chinese “Dongman”: Japanese Cartoons and Comics Animate China),” “Chugogu ga Shirikonbare to Tsunagarutoki (When China Gets Connected with Silicon Valley),” and many other books.

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