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日中国交正常化50年の失敗と懲(こ)りない日本
日中国交正常化50周年記念レセプション(写真:つのだよしお/アフロ)
日中国交正常化50周年記念レセプション(写真:つのだよしお/アフロ)

日中国交正常化の大失敗は台湾との断交という交換条件を呑んだことと、「鄧小平の神格化」により天安門事件後の対中制裁を解除したことだ。それにより中国の強大化を招き、日本は中国への経済依存を今も強化している。

◆毛沢東戦略「一つの中国」に屈服:「中華民国」(台湾)と断交した日米の罪

アメリカが1970年代初期に中国に近づいたのは共和党のニクソン(元)大統領が大統領の再選を狙ったからで、民主党を出し抜くために、どんなことがあっても民主党に知られないようにするためにキッシンジャーの忍者外交があった。

どのような曖昧表現で弁明しようとも、アメリカが「中華民国」(台湾)と断交したのは明らかな事実で、「一つの中国」しか認めない「毛沢東戦略」に、アメリカは屈服したのである。

遅れを取ってはならないと訪中したのが日本で、それを手柄のように報道するのが日本の主流メディアだが、中国と国交正常化したいために、「中華民国」と国交断絶することを選んだことには注目しない。それがどれほど恐ろしい「現在」を招いているかを確認するために、下記の時系列をご覧いただきたい。

出典:拙著『チャイナ・ギャップ』(2013年出版)

「中華民国」は国連から脱退し、「中華人民共和国」が「中国」を代表する唯一の国家として国連に加盟した。

第二次世界大戦は日独伊三ヵ国と戦った連合国側の勝利に終わったので、その結果設立された国連には、「大日本帝国」と戦った「中華民国」が安保理常任理事国として入っている。それなのに、図表にある通り、その「中華民国」を打倒して誕生した「中華人民共和国」を「連合国側」に入れ、安保理常任理事国にしてしまったのだから、この時点で、どれだけ歪んだ国連が出来上がっていったか、日米は猛省すべきだ。

後述するが、台湾問題の原点はここにある。

尖閣諸島に関して見るならば、拙著『チャイナ・ギャップ』に書いた通り、毛沢東は尖閣諸島を琉球のもの(沖縄県の領土)として位置づけ、アメリカに対して「早く尖閣諸島を日本に返せ」と叫んでいた。

それが時系列にある通り、国連に加盟した途端に「台湾のものは中国のもの」という論理で、突然、中国の領有権を正式に主張し始めたのである。

◆鄧小平の戦略「鄧小平神話」に嵌った日本:天安門事件後の対中経済制裁を解除

それだけでは懲りずに、1989年6月4日の天安門事件に対する西側諸国の対中経済制裁を解除させたのは日本だ。これまで何度も書いたきたが、日本は「中国を孤立させてはならない」という理由で、史上唯一、中国が民主化できたかもしれないチャンスをもぎ取り、共産中国を強大化させることに、とてつもない大きな貢献をした。

その最大の原因は「鄧小平の神格化」にある。

拙著『習近平 父を破滅させた鄧小平への復讐』で詳述したように、中国建国以来、鄧小平ほど陰謀を重ねて権力を奪取してきた人物はいない。それは毛沢東を超えるほどの悪だくみの連続で、習近平の父・習仲勲を陥れるために、ありとあらゆる手段を講じてきた。

鄧小平に軟禁された趙紫陽が、「鄧小平の声は神の声だった」と、血のにじむような思いで録音しているように、鄧小平は絶対的な権威で君臨しており、偽善的に海外に対して「自分自身の神格化」という作業においてさえ大成功を収めているくらいだ。

その「狡猾さ」、「残虐性」から目を背け、今もなお「鄧小平神話」の中で生きている日本は、「罪を重ねている」としか言いようがない。

時系列を見て頂くと、1992年2月に中国が領海法を制定して、「釣魚島(尖閣諸島)を中国の領土とし、その領海も中国の領海である」と定めているのに、日本政府は文句の一つも言わずに、江沢民が操る「天皇陛下訪中」に夢中になってしまって、尖閣諸島に対する中国の主権主張を認めてしまったのだ。

天安門事件への日本の甘さを見透かされ、これなら何でもできると中国に思わせてしまったのである。

日中国交正常化の報道をするなら、こういう重要なポイントに注目しなければならないが、どのメディアもそのようなことはスルーしている。

◆習近平の「経済で世界各国を絡め取っていく」戦略にまんまと嵌り続けている日本

9月29日、日中国交正常化50周年記念レセプションが、都内のホテルで開催され、林外相をはじめ、二階俊博元自民党幹事長(日中国交正常化50周年交流促進実行委員会最高顧問)、福田康夫元総理(同委員会最高顧問)、河野洋平・元衆院議長など、自民党の「親中勇士」たちが顔を揃えた。いずれも日中友好を讃え、「中国なくして日本の経済は成立しない」というトーンの中で祝い合った。

アメリカは中国が経済的にも軍事的にもアメリカを乗り越えるのを阻止しようと、価値観外交という新しいカードで中国にさまざまな制裁をかけているが、習近平政権は着々と世界各国との貿易を強化し、現在世界190ヵ国の中で128ヵ国が中国を最大貿易相手国としている。

日本も例外ではなく、それを当然のことと受け止める経済界と、日本の政治家はしっかり結びついて、習近平の思うままに操られているのだ。その事に気が付かない。

◆台湾問題を創り出しているのは日米

冒頭で述べたように、共産中国と国交正常化したいために、日米は率先して「中華民国」(台湾)を切り捨てた。国交を断絶して、「中華民国」を国連から追い出す結果を招いたのである。

それでいながら今頃になって「台湾重視」などと主張し、中国が台湾を武力攻撃するよう、必死になって煽っているのがアメリカだ。

中国としては武力攻撃などで台湾を統一したら、その後台湾の人々が反中反共になって、北京の言う通りになど動かなくなるので、一党支配体制維持を困難にすることが分かっているため、武力統一などしたくはない。平和統一しか考えていないのだ。

今年8月10日に中国政府が発布した「台湾白書」にも、「平和統一」を目指すことが強調されている。

しかしアメリカの政府高官などが訪台して独立を唆(そそのか)したりすれば、中国としては、「独立しようとしたら、こうなるぞ!」という威嚇のために激しい軍事演習をしたりしなければならなくなる。するとアメリカは嬉々として「ほらね、中国が武力攻撃をしてくるのだ」と国際世論を煽り立てる。

アメリカは、このままでは中国を潰すことができないので、プーチンがウクライナを武力攻撃しているように、なんとかして習近平にも台湾を武力攻撃して欲しいのだ。そうしてくれれば対露制裁と同じように激しい対中制裁を科して、中国の経済成長を阻止することができる。そうでもしなければ、中国経済がアメリカ経済を凌駕するのは時間の問題だからだ。

そのアメリカの言う通りに動いているのが日本なのだから、台湾問題を創り出しているのは日米であると言っても過言ではない。

◆「戦略的な中国」と「戦略性のない日本」

林外相は29日のレセプションで、中国に対して「言うべきことは言う」と言いながら、「日本が言えなくなる状況」を創り出すことに専念していることに気が付いているだろうか?

言ったところで、「遺憾です」くらいのことで、中国にとっては痛くもかゆくもない。中国という国家が、どれだけ戦略的に動いているか、日本は分かっているのだろうか?

『もうひとつのジェノサイド 長春の惨劇「チャーズ」』に書いたように、中国で生まれ育ち、中国共産党軍の包囲作戦によって餓死体の上で野宿させられた経験を持つ筆者の心には、中国共産党の「戦略性」は骨身に染みた恐怖として刻まれている。

その視点から見たとき、日本の戦略性の決定的な欠如と甘さには、耐えがたいものを覚えるのである。

この戦略性の欠如が中国を強くさせ、最終的には日本国民に「言論の弾圧」という見えない手段を通して不幸をもたらすことにつながっていく。

そのことに対する警鐘を鳴らし続けたい。

1941年中国生まれ。中国革命戦を経験し1953年に日本帰国。「中国問題グローバル研究所」所長。筑波大学名誉教授、理学博士。中国社会科学院社会学研究所客員研究員・教授などを歴任。日本文藝家協会会員。著書に『習近平が狙う「米一極から多極化へ」 台湾有事を創り出すのはCIAだ!』(ビジネス社)、『習近平三期目の狙いと新チャイナ・セブン』(PHP新書)、『もうひとつのジェノサイド 長春の惨劇「チャーズ」』(実業之日本社)、『ウクライナ戦争における中国の対ロシア戦略 世界はどう変わるのか』(PHP)、『裏切りと陰謀の中国共産党建党100年秘史 習近平 父を破滅させた鄧小平への復讐』(ビジネス社)、『ポストコロナの米中覇権とデジタル人民元』(遠藤 誉 (著), 白井 一成 (著), 中国問題グローバル研究所 (編集)、実業之日本社)、『米中貿易戦争の裏側 東アジアの地殻変動を読み解く』(毎日新聞出版)、『「中国製造2025」の衝撃 習近平はいま何を目論んでいるのか』、『毛沢東 日本軍と共謀した男』(中文版・韓国語版もあり)、『チャイナ・セブン <紅い皇帝>習近平』、『チャイナ・ナイン 中国を動かす9人の男たち』、『ネット大国中国 言論をめぐる攻防』、『中国動漫新人類 日本のアニメと漫画が中国を動かす』『中国がシリコンバレーとつながるとき』など多数。2024年6月初旬に『嗤(わら)う習近平の白い牙』(ビジネス社)を出版予定。 // Born in 1941 in China. After surviving the Chinese Revolutionary War, she moved to Japan in 1953. Director of Global Research Institute on Chinese Issues, Professor Emeritus at the University of Tsukuba, Doctor of Science. Member of the Japan Writers Association. She successively fulfilled the posts of guest researcher and professor at the Institute of Sociology, Chinese Academy of Social Sciences. Her publications include “Inside US-China Trade War” (Mainichi Shimbun Publishing), “’Chugoku Seizo 2025’ no Shogeki, Shukinpei ha Ima Nani o Mokurondeirunoka (Impact of “Made in China 2025” What is Xi Jinping aiming at Now?), “Motakuto Nihongun to Kyoboshita Otoko (Mao Zedong: The Man Who Conspired with the Japanese Army),” “Japanese Girl at the Siege of Changchun (including Chinese versions),” “Net Taikoku Chugogu, Genron o Meguru Koubou (Net Superpower China: Battle over Speech),” “Chugoku Doman Shinjinrui: Nihon no Anime to Manga ga Chugoku o Ugokasu (The New Breed of Chinese “Dongman”: Japanese Cartoons and Comics Animate China),” “Chugogu ga Shirikonbare to Tsunagarutoki (When China Gets Connected with Silicon Valley),” and many other books.

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